<ゾーン・B>内部へ
「ところで配達屋さん」
「あ?」
「もう<ゾーン・B>もすぐそこ、でっかい壁もてっぺんが見えなくなっちゃってるぐらい接近しているのですが」
「そうだな」
「どうやって入るんですか?」
「どうやってって、ゲートからに決まってんだろ」
「わたしも一緒で大丈夫なんですか?」
「ああ、なんとかなる」
配達屋はそう言うと、トラックを一旦路肩に停めた。
「降りて荷台のダンボールとダンボールの間にでも隠れてろ。見つからねえように縮こまってるんだぞ」
「それはいいんですけど、そんなんで見つかっちゃいませんか。こう赤外線センサーとかに引っかかってビビーなんて警報が鳴ったりとか」
「安心しろ。それはない。センサーはあるが<外>から来た人間が引っかかるわけがねえんだ」
「ほえ? それはどういう――」
「さあ早く隠れた隠れた。到着予定時刻っつうのがあんだよ。もう十分近くは遅れちまってるんだぞ」
質問をさえぎられた小鈴は渋々ながら配達屋の言われたとおりに、荷台に這い登る。何を積んでいるのかは知らないが、ダンボール箱がひしめき合っていた。見ればちょうど荷台の中央あたりに隙間があり、頑張ればどうにか入れなくもない。
「うにゅにゅにゅ…………」
小鈴はその隙間に体を横にしてわが身を隠した。周囲にはダンボールタワーがそびえているから、よほど詳しく点検でもしない限りバレはしない。
「オッケーでーす」
「よし。……ふむ、見えないな。じゃあ出発だ」
車がまたごとごとと走り出す。今度は体全体に振動が伝わる。「あばばばば……」
まだ尻だけ揺れるほうがマシだと小鈴は思った。
*
十分後、トラックは<ゾーン・B>のゲートにさしかかる。
密閉された鉄の蓋のような門が観音開きでオープンし、トラックは徐行しながらそこをくぐる。
ゲートを過ぎてすぐのところに小さなプレハブ小屋が立ててある。
警備室だ。
小窓から守衛が顔を出し「許可証を」と無愛想に訊ねてくる。
「へい」
配達屋は守衛の指示通り、許可証を見せる。
守衛は提示された許可証を一瞥し、それから小さく頷く。チェックオーケーということらしい。
「今日の荷物はなんだ?」
「今日は食料品のみです。サンザンロードの店舗向けのがほとんどです」
守衛の質問に、配達屋は簡潔に答える。
「わかった。くれぐれも夜明けまでには仕事を終わらせるようにな」
守衛は無表情に言う。
「わかってまさぁ、へへへ」
「よし、行け」
配達屋はトラックをゆっくりと前進させ、ゲートを通過し短いトンネルを通って<ゾーン・B>内部へと入っていった。