ゲートを抜けた先
「ううん、なんだか想像してたところと違う」
小鈴は窓から景色を眺めながらつぶやいた。
トラックはガード下をくぐり、大きな通りに出た。
ビルが立ち並び、明かりも結構ついている。歩道を歩く人々の姿も多く見られる。
ゲートを抜けたので小鈴はまた助手席に戻ってきていた。
守衛の声を聞いたときは綿密な検査でもされるのかと思っていたので、今はかなり拍子抜けの気分である。
「<ゾーン・B>ってもっと廃墟みたいなところだと思ってましたよ」
「そういうところもある。だがそれは一部だな。ただここらだって見た目はきれいだが全てが機能してるわけじゃない。店じまいしちまったとこだってたくさんある。それによく見ろ。車が一台も走ってないだろ」
「あ、本当だ」
「ガソリンなんかねえんだ。ここらで車走らせてるのは管理者どもと俺ぐらいなもんだ」
配達屋は通りに出てすぐにトラックを左折させ、ロータリーに入る。
「昔はここもタクシーやバスがたくさん来ていたがな、見ての通りさ」
ロータリーは広く、トラック一台だけが止めるには十分すぎるスペースだった。
ロータリーの中央は喫煙スペースになっていて、愛煙家たちが紫煙を立ち昇らせているのが窺える。
トラックはゆるやかにスピードを落とし、停車した。
「さあ降りた降りた」
配達屋に急かされるように小鈴はトラック降りた。
途端、蒸し暑さが肌にべったりとまとわりついた。風は止んでいて、空気の停滞が暑さをさらに厳しくしている。
ロータリーを挟んで南側には駅のような建物があった。
よく見ればさっきくぐったガード下はそこに繋がっている。人はあまり歩いていない。
「あれってもしかして……」
小鈴がそこを指差した。
これがもしかして昔は一本に繋がってたっていう……。
「ん……ああ、駅だよ。第一中央と第二中央が一本だった頃は使われてたんだ。活気があって、いつも人がたくさんいた」
配達屋は荷台から台車をおろし、ダンボール箱を載せていく。駅には目もくれない。
小鈴は視線を駅から反対側、ロータリーを挟んで北側に向ける。そこには大きなアーケードがずっと先まで伸びていて、たくさんの商店が並んでいる。人通りも多く、賑やかだ。
「あそこはサンザンロードだ。<ゾーン・B>にしては明るいとこだろ?」
配達屋が言った。「あそこに荷物を運ぶんだが、お前さんにそこまでさせる必要はねえな」
「え?」
小鈴は配達屋を窺う。急に小声でひそひそと話し始めた彼を怪訝に思ったのだ。
「お前、ここから適当に離れろ。オカンとオトンを探すんだろ?」
配達屋はそう言うと、パチリとウインクめいたものを寄こしてきた。両目をつむっていたので間抜けに見えたが。
周囲には人がちらほら歩いているし、喫煙所にはスモーカーたちが煙突のごとく煙をくゆらせている。
盗み聞きされないように、ということらしい。
「そうですね、色々ありがとうございました。帰りはどうすればいいんですか?」
小鈴も配達屋に倣ってこそこそとささやいた。
「おまえはいつ頃までここにいたいんだ?」
「そうですね。夏休みが終わる一週間ぐらい前までがいいですね」
「てことは今から三週間先の八月二十四日だな。じゃあその日の午後十一時半ごろにここで落ち合おう」
「わかりました」
「じゃああれだ……なんか適当に芝居打ってここから離れろ」
「はーい」
――って、芝居? おぉ?
小鈴は首をひねりつつ配達屋の荷おろしを手伝うふりをしながら、適当な芝居を考え、そして――
「親方、俺っち、トイレに行きたいですたい」
「適当にそこらへんでしろ」
「やいやいさー」
小鈴はそそくさとその場を離れる。
何歩か歩いたところで振り向き、目線で挨拶した。
(それじゃ、わたしはここで)
(下手な芝居かましやがって……)




