約束
戦場が静寂で包まれている。
先ほどまで鳴り響いていた魔法の轟音も、剣から発生する金属音も、それに伴う悲鳴、怒号、断末魔さえも、出番が終わったかのように鳴りを潜めている。すべての視線が、意識が、感情が、戦場の中心の二人の男女に向けられていたからだった。
血の海に倒れ、今にも心臓の鼓動が止まりそうな女性。そして、その手を握る傷跡が目を引く男。
ここは戦場、一瞬の油断で命を落とす場所。だが誰も動かない、目を離さない、声を出さない。戦場において異常であるはずの静寂が、最適と判断されたのだ。
「頼む……死なないでくれ……たのむよ……なぁ」
男は願う事しか出来なかった。目の前の愛する人が死なないように、普段信じている訳でも無い神に祈る事しか出来なかった。
だがいくら泣こうとも声を出そうとも、腹に空いた穴が塞がることは無く、無慈悲にも血が流れるだけだった。
「泣かないで……アナタには……まだ……やることが…………あるでしょ?」
全身を支配されたような脱力感、死が近いことを知らせてくる。
最期の力を振り絞り、血の気が引いた青白い手を男の顔に添え笑う。
出来ることなら抱きしめたかった、出来ることなら笑い合いたかった。でも、これだけで良い。これだけが良い。
これ以上は、望みすぎだ。
「わたし、あなたがこの世界に来た理由が分かったの…………」
最期の言葉。男のこれからの人生を決める言葉。
言いたいことは沢山あった。感謝、愛情、喜び、ちょっとした文句。どれでもいいが、どれも違う。最期なのだから、願いを託すことにしよう。
男が道に迷わないように、
「あなたは……この世界を救いに来たの……だから……救って……この世界を」
「ああ、わかった。救うよ……なんだって……誰だって……救ってやる」
意識が遠のき、残りの時間を悟ってしまう。
二人の別れに涙は似合わないから、最期に笑って言ってあげよう。
「……愛してる」




