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ガバガバな結界と、ナッツ泥棒

第12話


「ふくちゃん、あっちに何か見えるの……?」


 メグミがハーブティーのカップを置き、ふくちゃんが見つめる先を凝視した。遠くの荒野の地平線に、ゆらゆらと陽炎のような影が動いている。


「……ハルを探してる村の人だったらどうしよう。……せっかくここ、居心地よくなったのに」


 ハルが怯えたようにメグミの裾をギュッと握りしめる。ふくちゃ……ふくちゃま、じゃなくてふくちゃ……ふくちゃんも、冠羽をピーンと立てて「ピョイッ!」と短く警戒の声を上げた。


「大丈夫よ聖女様! 私たち妖精と、フク様の『お粉』を合わせれば、最強の結界が作れるわ!」


 妖精たちが一斉に飛び回り、ふくちゃんの羽からこぼれる黄金の脂粉を風に乗せて、ロッジの周囲に薄い桃色の霧を展開した。


「これでよし! 悪意を持つ者や、穢れた魔力を持つ者は、この霧の中で永遠に足踏みして、元の場所に戻っちゃうわ。外からはただの荒野にしか見えないはずよ!」


「すごい……! さすが妖精さん。……え、でも『悪意』がなければ入れるの?」


「ええ、純粋な生き物ならスルーしちゃうわね。でも、こんな死の荒野にそんな子、いるわけないじゃない!」


 妖精がケラケラと笑った、その時。

 カサカサッ……と、菜園のひまわりの影で何かが動いた。


「ピョイイッ!?」


 ふくちゃんがいち早く反応し、トコトコと駆け寄って、クチバシでひまわりの葉をペリッとめくった。

 そこにいたのは、村の追手でも恐ろしい魔物でもなかった。


「……モモンガ?」


 丸っこい体に、大きな黒目。背中には小さな飛膜がある、手のひらサイズのモモンガ(のような生き物)が、ハルが植えたばかりのひまわりの種を両手で大事そうに抱えて、固まっていた。


「わあぁ……! ちっちゃい! かわいい!」


 ハルが目を輝かせて近寄ると、モモンガは「ムギュッ」と種を抱きしめたまま、プルプルと震えている。どうやら、あまりのナッツの香ばしさに釣られて、最強(?)の結界を「あ、いい匂い~」くらいの感覚ですり抜けてしまったらしい。


「結界、仕事してないじゃん!!」


 メグミがツッコミを入れると、妖精たちは「だ、だってこの子、邪気がゼロなんですもの!」と真っ赤になって言い訳した。


「……ねえ、おねえちゃん。このこ、おなかすいてるみたい。……ぼくといっしょだ」


 ハルが優しく手を差し出すと、モモンガはクンクンと匂いを嗅ぎ、安心したのかハルの手のひらに「ぽてっ」と乗った。そして、そのまま夢中でタネをかじり始める。


「……ふふ。そっか。ふくちゃんが作った場所だもん、お腹を空かせた子が集まってきちゃうのは仕方ないよね」


 ふくちゃんも、自分より小さな生き物に興味津々なのか、寄り目になりながらモモンガを観察している。

 結局、最強の結界は「迷い込んだ小動物」たちの休憩所になってしまったようだ。


「(……ま、いっか。賑やかな方が楽しいし。……でも、次はもっと大きい子が来たりして?)」



メグミは、ハルの手の上で種を頬張るモモンガを眺めながら、この「ガバガバな楽園」がこれからどうなっていくのか、楽しみと少しの不安を抱きつつ笑うのだった。


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