観測者はただ見ているだけ
神殿の中、ひんやりとしていただろうその空間は今や熱気を帯びているように見える。
『ああああああああああ!!!』
絶叫とも、悲鳴とも取れる声を上げ、自分の身の丈程もある剣を手に振りまわす男と、それを触れもせずにはじく、全身を高価そうなローブで覆われた者。周りには剣を振り回す男の仲間と思われる魔法使いが2人、そのうちの1人が倒れている頑丈そうな鎧をズタズタにされ、四肢がまともに動かせなくなっているように見える男に治療を行っている。
誰の目にも分かる劣勢。
この後どうなるかは誰にだって分かる、そう思えてしまうほどの圧倒的実力の差。それでも剣をふるう少年は、もう既に意識が朦朧としているようだ。
剣の速度が遅くなり、足が鈍り、剣の重さに振り回されている様は、まるで剣に弄ばれているように見える。
それでも剣をふるえるのは後方で支援している魔法使いの女のお陰なのだろう。だが、女も疲労が限界を超えているのか、最早詠唱を唱えることすら辛そうだ。
ローブの男の声がふと、耳に入ってくる。
「まだ動くのか」
その声には驚きが含まれていた。そこには驚くことが出来るだけの余裕も見て取れる。それを理解しているからか、剣を振るう男は、次第に手が上がらなくなり、足が動かなくなり、とうとう膝をついた。剣を持っている手からは血が滲み、地についた手は力を入れすぎて地面が抉れてしまっている。それを見下ろすローブを被った男。永遠とも思える時間の中、ふとポツリとローブを被った男が呟いた。
「時間切れ、だ。」
と、同時にローブの男を中心に、男を包み込みながら膨大な量の魔力を使った巨大な魔法陣が現れた。剣の男は叫ぶ。それが終末を迎えるための鍵だと知っているから。止めなければどうなるか知っているから。剣の男が手を伸ばした。目の前にある巨大な魔法陣を壊そうとしてだろうか。だが、その手も、思いも届かなかった。その巨大な魔法陣は青から紫、赤、そして黄色になり、そして――
――――――世界は終わりを告げた――――――
―――――ここまでが彼らの物語。俺はつまらないと思う。普通なら彼女を倒し、魔王を倒し、世界中から英雄と讃えられ、そしてハッピーエンド。これが俺が思う冒険者のストーリーだ。だがふと疑問に思う。
どうして魔王は倒される立場に置かれてしまうのか。
そもそも魔王が統治した方が世界が上手くまわる可能性だってあるはずだ。そもそも―――――
「やあやあ少年。記録はしっかり取れたかい?」
考え事に勤しんでいると、声をかけられた。
そこにいたのは高価そうなローブを付けている羽を生やした少女。
「お疲れ様です、グラシアさん。」
彼女の名前はグラシア=ランロール。俺の上司であり、俺に魔法を教えてくれた唯一の先生だ。ちなみに俺よりもかなり幼い外見だが俺よりも知識が豊富で、経験も豊かな事から俺より年上だと思うこともよくある。
「記録はいつも通り提出しておきました。」
俺の仕事は上司である彼女の仕事を記録することだ。この仕事をする者のことを''観測者''という。
「そうかそうか。」
満足そうに頷いている姿は、幼い子供が褒められた時のように見えて、とても可愛らしい。そんなことを思っていると、彼女の表情が意地悪をする子供のような顔になっていることに気付いた。まずい、仕事を押し付けられる。
「では私は仕事が残っているのでこれで―――――」
逃げようとしたのに気付いたグラシアさんは魔法で俺の体を拘束して動けなくすると、目の前にどっさりと書類を置き、可愛らしくこう告げると飛んでいってしまった。
「始末書ヨロシク♪」
…子供というのはどうしてこんなにも残酷なのだろう。神よりも、化物よりも怖いものはやはり上司だと思う。
「神話の英雄たちよりもタチの悪い子供とか…っ」
後半魔法の締めが強くなったのは気の所為じゃないだろうとおもう。あの地獄耳め。英雄の方がまだましだぞ。
連載ってしてますが、しょーーじき!!投稿日時は決めてません。なので、期待しないで待っててね♪2週間くらいでがんばってみます。はい。




