無力の嘆き
カタンッ
「!」
手術中のランプが赤から緑に変わる
扉が開き、医者が出てくる
「どうでなんですか!?一斑は!!」
「…」
「…まさか」
「遺族の方に…、連絡を」
「残念ですが…」
「…っ」
どさりとイスに倒れ込む響
「そんな…」
「傷が深く…、最善を尽くしたのですが…」
「もう持って…、3時間かと…」
「…ざけんなや」
「ふざけんなや!!!」
「…」
「ちゃんとやったんかや!?」
「お前!手ェ抜いたんちゃうんか!!!」
「落ち着け!響!!」
「お前…!お前…!!」
「何で一斑がッ…!!!」
「響…」
「…申し訳ありません」
「残念ですが…」
「くそぉ…!!」
「くそぉっ…!!!」
響はダン!ダン!!とイスを叩きつける
無念をぶつけるように
休憩室
「…」
「(心配)」
「大丈夫だよ…、リンデルちゃん…」
「(俯)」
「…」
何をやってるんだ、俺は…
目の前で…、一斑が…
敵の攻撃を防いでくれたのに…
俺は何も出来ずに…!!
ガチャッ
「…蒼空君」
「火星さん…」
「一斑君の手術が終わったよ…」
「ど、どうでしたか!?」
「…」
静かに首を左右に振る火星
それが意味するのは波斗にも即座に解った
「…!!」
病室
ピ-、ピ-、ピ-
「…」
呆然と一斑を見つめる波斗
「どうして…」
「…腹、貫かれたんや」
「脊髄とかもアカンらしい」
「…俺のせいで」
「そうや」
「お前のせいや」
「…ッ」
「ほなけどな、思い詰めんな」
「軍っつ-世界に入った以上、この事は本人も確認できとったはずや」
「だけど…」
「ウジウジ言うなや」
「キレるで」
「…はい」
「響、彼の親族の連絡先を教えてくれ」
「葬儀の準備を…」
「居らん」
「え…?」
「孤児院で育ったんや、コイツ」
「親も親族もクソも無いねん」
「…そうか」
「葬儀はワイ等だけで行うで」
「軍やったら明日にでも出来るやろ」
「…解った」
「軍に連絡しておくよ」
「頼むわ」
「ワイも、コイツの遺品とか持って来なアカンな」
「…あぁ」
バタンッ
部屋から出て行く響と火星
「…一斑」
波斗は一斑の手をそっと握り、見つめる
「俺が…、無力だからか…」
「俺が…!!」
「…ないよ」
「そんな事、ないよ」
「リンデル…、ちゃん?」
「喋っ…」
「一斑お兄ちゃん…、楽しそうだった…」
「蒼空お兄ちゃんと会ってから、ずっと…」
「楽しそうだったから…」
「…でも」
「悔やむのが…、謝る代わりになるんじゃないよ…」
「泣くのが…、一斑お兄ちゃんの為だよ…」
「…俺は」
無力だ
俺は…
ポタポタと流れる涙
一斑の頬に流れたそれは、波斗に無念の叫び声を流させた
列車内
ガタン、ガタン…
殆ど人のいない列車内
ス-ツを着こなした青年が黒いゴミ袋の隣に座っている
「ホホホホ!漸くこの田舎くさい街から帰れますょ」
その青年の前に現る男
30代程度の男は真っ黒な歯を覗かせる
紫の目と緑の髪
そして、曲がった背筋
背中に黒い布を羽織り、青年の前に座り込む
「…分裂体は回収し終わったのか?アロン」
「勿論ですょ」
「いやはや、まさか[鬼]が居るとは思いませんでしたょ」
「確かに予想外だ」
「貴様が居て助かったよ」
「ホホホホホ!お礼など、らしくないですねぇ」
「しかし…、[鬼]は死んだとばかり思ってましたがぁ」
「戦場を素手で渡り歩く、能力者殺しの[鬼]がそう簡単に死ぬと思うか?」
「ホホホホホ!確かにそうですねぇ」
「まぁ…、今回は良い材料が取れた」
橋唐の隣でうごめくゴミ袋
「ほぅ、興味深ぃ」
「私の強化材料にしても良いですかなぁ?」
「駄目に決まっているだろう」
「貴様の[分裂]はそれ以上、強化する必要がないように思うがな」
「ホホホホ!まさかぁ!!」
「科学者とは常に進化を求めるもですのでぇ」
「…そうか」
万屋
「…そう、一斑が」
『あぁ、もう限界だと思う…』
「…解ったわ」
「軍と昕霧には私から連絡しておくから、アンタと響は葬式の手取りを取りなさい」
『すまない…』
「別に構わないわよ」
「それより…、波斗は?」
『かなり思い詰めてるみたいだ』
『無理もないけど…』
「必要な経験よ」
「無駄じゃないわ」
『…そうかも知れないが』
「話す内容は以上ね?」
「私も暇や無いから切るわよ」
『…あぁ』
ガチャンッ
「…彩愛、鉄珠」
「何ですか」
「お?」
「橋唐 兎氏、及びアロンという人物の情報を洗いざらい調べなさい」
「彩愛は軍のデ-タバンクにハッキングしても構わないわ」
「解りました」
「鉄珠もやれるだけ調べなさい」
「了解」
「…後は、貴方次第よ」
「波斗」
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