偽善
徳島
「…」
「どうしたんだい?蒼空君」
「案外、活気に満ちてますね」
「徳島を何だと思ってたの!?」
「まぁ、ジョ-クは置いときまして」
「その廃病院って遠いんですか?」
「そうでもないで」
「ここから車で数十分やな」
「自転車が良かったんやけどなぁ…」
「何処まで引きずってんだよ、響」
「車はどうするんだ?」
「タクシ-で良いだろ…」
(落ち込みようがハンパじゃない…)
廃病院
「…うわぁ」
波斗達の目前に広がる廃病院
言うまでもなくボロボロで、カラスの鳴く声が響き渡る
「…いつでしたっけ」
「計画開始時間」
「今から」
「チャリで来るより遅れたし」
「自転車で来るのが列車より速い計算だったんですか!?」
「当たり前や!!」
「何という計算…」
「だけど、もう夜だぜ?」
「夜は危険じゃ…」
「幽霊が出るワケでもないし、大丈夫や」
「ほれに、今んトコは[残骸]が密集しとうだけらしいしな」
「とっとと始末してとっとと帰ろうや」
「蒼空と一斑は東病棟に行きぃや」
「ワイと火星は西病棟に行くけぇな」
「「はい!」」
「解った」
東病棟
「ちょい待ってな-」
一斑はペタペタと壁に札を貼り付けていく
「良し、っと」
手を合わせ、唱える
「壁、避、人」
ピィイイィ------…ン
「っと…」
「大丈夫かいな?蒼空」
「超音波みたいな音出るやろ」
「ちょっと耳に来たけど大丈夫だよ」
「ほうか」
「ほな、行こ-や」
「おう」
東病棟1階
「…ここまでベタとは」
「ボロボロやな…」
「落書きとかも有るで」
「割とマジで怖い…」
「こんなんが、か?」
「怖いって!!」
「テレビから女の人が出てきたらどうしよう…」
「んな事、有らへんで」
「フィクションや!フィクション!!」
「いや、でもな…」
「苦手なんだよぉ~…」
「情けないなぁ」
「リンデルでもホラ-は耐えれるで」
「え!?意外だな…」
「興味なさ過ぎて、すぐ布団に潜るんや」
(それは違う気がする…)
「…って、[残骸]の処理って具体的に何をすれば良いんだ?」
「簡単やで、簡単」
「[残骸]に処理専用の札を貼り付ければ良いんや」
「なるほど」
「何処にその[残骸]が有るか解る?」
「解らんけどなぁ…」
「まぁ、歩こうや」
「うん、解った」
医員室
「机とかシャ-ペンとかが散乱してるし…」
「汚いのぅ」
ガタンッ
「!!」
「にゃぁ-」
「ね、猫か…」
「離れろ!蒼空!!」
「え?」
ボッ!
「うわぁ!?」
突然、発火する蒼空の足下
「なっ、ななななな!?」
「感染した猫や!!」
「能力を使うで!!」
「なるほど…!!」
かりっ
「何で指を噛み切っとんや!?」
「発動条件!」
バチィイイインッッ!!
波斗は壁を生成し、猫を覆う
「…良し!」
「な、何や…、コレ」
「あ、まだ言ってなかったな」
「俺の能力なんだ」
「凄いなぁ…」
「壁を造るんか?」
「いや、壁だけじゃない」
「色んな物の形を変化させるんだよ」
「ほぉ!特殊系やな」
「面白いやないか」
「フッフッフ!凄いだろ!」
「凄いな!」
ガラッ…
崩れる壁
「フシュウウウウウウ!!」
その間から毛を逆立て、燃えさかる猫が出てくる
「えぇ!?」
「壁が脆かったみたいやな…」
「ほなけど、俺も負けとれへんで!!」
一斑は札を取り出し、猫へ向かって走り出す
「ばっ!?危ないぞ!!」
「行けるて!!」
パチンッ
猫に札を貼り付け、叫ぶ
「封ッッッ!!!」
「ニャァアアアアアアアアアアアッッ!!」
叫び、悶え苦しみ、転がり廻る猫
「…ッ」
「ニャッ…」
ばたりと倒れ、動かなくなる
「…死んだ、のか」
「そうやな」
一斑は猫を持ち上げる
「…いや、死んどったんや」
「もう、既に」
「え…?」
「[残骸]は死体に感染するんや」
「コイツは死んでもなお…、動き続けなアカンかった…」
「…殺すしかないのか」
「仕方ないやろ」
「何か…、嫌だな…」
「死んでるとしても…、殺さなきゃならないなんて…」
「…勘違いしたらアカンで、蒼空」
「勘違い…?」
「俺等がやっとるんは[殺し]や」
「[救い]や、そんな綺麗なモンやない」
「封じる事に戸惑ったらアカン」
「俺等がやっとる事はお天道様に背を向ける行為や」
「正義を気取るな」
「俺等は悪や」
「最悪や」
「コイツ等を殺しとうないなんて、偽善やで」
「…偽善」
一斑はここで[残骸]処理を続けてきたんだよな…
って事は、今までもこの猫みたいに色んな動物を封じ続けてきた…
死を、目の当たりにし続けてきた…
「行くで、蒼空」
一斑は猫を目立たない場所にそっと起き、一撫でして立ち上がる
「…なぁ、一斑」
「何や」
「俺が偽善なら…、[残骸]を処理してるお前は何なんだ?」
「…俺か」
手を眺め、握る一斑
「[偽善者]や」
「俺は自分の立ち位置に否定せんし、肯定もせん」
「ただ、今やっとる事が間違いやとは思わん」
「間違いと思うたら、すぐに止める」
「自分にだけは[偽善者]で居りとぅないけぇな」
「…そうか」
「行こう、一斑」
「おぅ」
読んでいただきありがとうございました