001:夏休みの課題
今日からいよいよ夏休み。
カンカン照りの夏休み初日、朝九時にはすでに気温が軽く三十度を超えている。
今日の天気予報によれば、これから徐々に気温は上がっていき、ピーク時には四十度を超えるんじゃないかと発表されていた。
そんな暑い中なのに、親友の深山かえでちゃんが夏休みの課題を進めるんだとかで、わたしの家にまで来てくれた。
わたしの家は旧家で無駄に広いので、学校の友達とかが集まるときは、何かとわたしの家が使われる。今日もわが家が集合場所だ。
まあ、わたしが外に出なくて済むのは助かるんだけど、到着したかえでちゃんはというと……。
デニムのショートパンツにTシャツという、いかにも夏らしいアクティブな格好。
しかも、かえでちゃんは中二とは思えないほど体格がよく、古武術の道場を開いている祖父に弟子入りしているだけあって、精悍な顔つきで姿勢もいい。典型的な和風美人!
いったいどれだけ属性を盛ってくるのよって感じ。
そして、この暑い中を走ってきたらしく、到着したときには汗だく。
「あ、朝練? おつ??」
「軽く流そうと思ったんだけどね。メグっちに早く会いたくて、若干ガチ目で走ってきちゃったー」
「!!!」
このぉ。わたしをキュン死させる気かー。
わたしは思わず赤面。まっかちん。
でもさぁ、真夏にダッシュをかますとか、ちょっとだけ……いやぁ、相当脳が筋肉に汚染されている残念さんだよね。
たった今、脳筋属性も追加になりましたぁ。
そんなこんなで、今現在わたしの部屋のエアコンの設定温度二十二度。轟音を立てて絶賛フル回転中。
到着時には綺麗に束ねていたロングの黒髪をほどいたかえでちゃんは、額や鼻の頭に浮かんだ汗が引くまで小休止。
その間わたしは、かえでちゃんの膝に頭を乗せて、仲良しタイムを満喫するのだ。
そうよ、いわゆる膝枕。
暑いからくっつくな! なんて意見は聞きません。
わたしに早く会えた分、汗が引くまでの間は、わたし成分を強制的に堪能してもらうんだからぁ。
わたしの部屋は畳張りなので、横になって畳に接触した部分はヒンヤリして気持ちがいいんだよね。
エアコンをかけていると、畳の表面も常に冷やされている。
だから、体温で畳が温くなったらヒンヤリしている場所を探して、かえでちゃんの膝に乗せた頭を起点に、つま先立ちでお尻を上げて身体の位置をずらしていく。
「あははは、メグっちの動き、虫みたいー。いたっ!」
膝の上でグルグル動いていたら、頭がぐりっとなっちゃった。
「ご、ごめんー」
「メグっち、そろそろ終わろうか。だいぶ汗が引いた分、膝が暑くなってきたよ」
「もう少しー」
そう言いながら、顔をかえでちゃんの身体の方へと向け、そのままかえでちゃんの腰に手を回してがっちりホールド。
まだ逃がさないアピールをしながら、かえでちゃんのいい香りを堪能する。
くんくんっ。
「メグミ、入るわよー」
声が聞こえたと同時に、部屋の襖がスッと開けられる。
いやいや、わたしの返事は?
甘えた状態のところへ、お母さん降臨。
「かえでちゃん、いらっしゃいー。あらあら、まとわりつかれて暑かったでしょ? はい、麦茶とお菓子をどうぞ」
「メグっちママ、ありがとうございまーす!」
「相変わらず元気ね」
お母さんは元気がいいって言ってたけど、かえでちゃんは武道を嗜んでいるため、声がやたらと大きい。
多分、お腹から声を出しているから。
ある意味、元気いっぱいなのかな?
「えへへ、元気だけが取り柄です」
てへぺろみたいな感じで受け答えをするかえでちゃん。
そんなかえでちゃんとは対照的に、わたしのお母さんは、膝枕で寝転がっているわたしを見て、ため息をつく。
「そうしてるあなたたちを見てると、仲がいいホントの姉妹みたいね。メグミは二歳下くらいかしら」
「母さんひどいー」
「あはは……お姉ちゃんと呼びなさいー」
わたしとかえでちゃんは同じ年齢だっていうのに。
どうせわたしは小さいわよ。
中学二年になったばかりのときに行った身体測定で測った身長は、ぴったり一三〇センチ。
そのときから今のところ、あまり伸びた気がしていない。
それに引き換え、かえでちゃんは当時から一六〇センチオーバー。
しかも古武術を続けているだけあって、運動神経も抜群!
これが古武術の成果なのか?
姿勢もいいし、スタイルも抜群。誰が見ても、同じ年齢だなんて思わないわよね。
それに引き換え、わたしはというと……。
つるぺたどーんで童顔狸顔って……。
ぷんぷんっ。
「じゃあ、ごゆっくり」
そう言いながら、部屋の隅のちゃぶ台の上に、持ってきた麦茶とお菓子をお盆ごと乗せ、母さんはそそくさと部屋から出ていった。
早速かえでちゃんは麦茶を飲み干し、グラスをお盆に戻すと……。
「はうー、生き返るー」
汗だくだったもんね。
一息ついたかえでちゃんは、正座していた足を崩して女の子座りになると、わたしの頭が少しだけ沈み込む。
「ねえメグっち、夏休みの課題をどうするか、そろそろ考えよか。なんかいい案は浮かんだ?」
わたしの頭を撫でながら聞いてくる。
夏休みの課題とは、いわゆる自由研究。
複数人での実施も可能なので、せっかくだから今年は二人でやろうということで、今日はこれから作戦会議。
「う、うーん、そだねぇ……」
とりあえず生返事。
かえでちゃんの膝を満喫してたので、課題のことなんてさっぱり考えてなかったわ。
思考を巡らせるフリをしながら、かえでちゃんの長いまつ毛を見上げていると、かえでちゃんが何か思いついたようで考えを口にする。
「老人施設のお手伝い体験とかはどうかな。中学生が少し背伸びをした感を狙った感じ?」
うーん。
かえでちゃんなら、体格的にも老人のフォローをうまくできそうだね。
だけど……。
「わたしは小っちゃいから、大人の介護は体格的に厳しいかも。補助しようとしても、お年寄りの体重で押しつぶされちゃうかも……」
小学生くらいの体格のわたしだと、お茶入れくらいしかできないような気がする。
そう思い、今度はわたしが別の案を出す。
「風邪の研究なんてどう? ウイルスの増殖経過を、湿った環境、カラッとした環境とか、環境ごとに調べるのって面白そうじゃない?」
「いやいや、それってメグっちの趣味でしかないよね? 内容的には、レベル四級の事案だからね。却下!」
ばれてーら。
なんて思ってたら、かえでちゃんからの別案。
「じゃ、工場見学とか」
「この辺は農村地帯だから、工場っていっても、なずなちゃんの家くらい? たしかネジ一筋で、なずなちゃんパパがほぼ一人でやっている職人技ってやつだよね。技術的にはすごいかもだけど、なんか絵面的には……」
わたし案。
「じゃ、アサガオの観察日記!」
「小学一年生か! 却下」
今度はかえでちゃんが、怒涛の案を羅列する。
「ボランティア……町おこし……ゴミ拾い……遺跡の研究……」
その案の中の一つに、わたしはピンときた。
「あっ、かえでちゃん、ボランティアってよくない? 海辺に流れ着いたゴミをこれだけ拾いましたーって感じで数日続けて、ごみが減る経過を表にして、これだけ効果がありましたー、みたいな感じで」
少し考え込むかえでちゃん。
頭の中でシミュレーションしてるのかな?
「うーん、いいかもだけど、絵面的には遺跡研究がいいかなぁ……」
「そうか……あっ! じゃあ遺跡の研究にふさわしいか、見学に行ってみる?」
「はい? この辺に遺跡なんてないじゃない」
「えっ、あるよ。わたしん家の裏にある双子山。何十年か前には古い剣が出てきて、古墳じゃないかって噂されたこともあったよ」
かえでちゃんの目が真ん丸になって、わたしのことを見つめている。
何かを考えてる?
数秒間のフリーズが解除され、疑問を投げかけてくる。
「でも、そういうのって調査完了まで保護されるんじゃぁ……」
「うん、大丈夫。だってあの山は、うちが管理している土地だもん!」
「ガチ? はじめて旧家恐るべしって思った! じゃあ早速潜ろう!!」
潜るって、かえでちゃん、そこはダンジョンじゃないからね。
「さすがに今すぐは無茶っしょ。おへそ虫に食われるよ!」
「じ、じゃあ、入口に様子を見に行くだけでも……」
「今日は、ちょっとだけだよ」
それでも、さすがに真夏の山へ、そんな格好のまま連れ出すわけにはいかない。
お母さんに頼んで、つなぎの作業着を用意してもらい、着替えることにした。
つなぎを着ても、かえでちゃんはかっこいいなー。
わたしはブカブカなので、着た後に腕を二回りほどめくって、滑り止め付き軍手を装着。
準備完了。
入口のカギをポケットに収め、キャンプ用のランタンを持ち、双子山へといよいよ出発だ。
入口周辺だけなら、これだけで十分だよね?




