5 最大の危機に瀕する原生生物がKawaii
店前に設置しているごみ箱に寄り掛かるように倒れている生物の様子を確認する。
その特徴でそれが何かを理解した瞬間、私の興味は途端に薄れてしまう。
「今日は制服じゃないのか?」
このまま放っておくわけにもいかないので、なぜか体中傷だらけで倒れている私が良く知る外星人にそう声を掛けた。
「……今日は……非番だからな。……というか、今かけるべきは、その言葉じゃ、ねぇ」
途切れ途切れながら天敵はそう答えた。
「ああ、そうだな。店の前で倒れるのは迷惑だから、どいてくれ」
「……お前という……奴は」
正当な要求をしているだけだが、何故か睨まれる。いつもなら掴みかかってくるような勢いがあるが微動だにしない。
恐らく動けないのだろう。天敵に手を貸すのは非常に遺憾だが仕方ない。天敵の構成要素を分析し、治癒機能の超活性化を行う。みるみるうちに天敵の傷が治っていく。
「さぁ、これで動けるだろう。どいてくれ」
「まず訳を聞け、訳を!!」
立ち上がった途端、天敵は喚きたてる。私は原生生物ではないので、催促する気はないが傷を治した礼がないのはどうなのだろうか。
「貴様の行動に興味はない。私が興味があるのは原生生物だけだ」
「その原生生物に大いに関係あることだよ」
「……端的に話してくれ。業務中で忙しい」
「ははは、俺の話を聞いたらコンビニなんてやってられなくなるだろうな」
「聞こえなかったのか? 端的に話せと言ったんだが」
やはり、天敵は天敵だ。私の気分を害する天才である。
「すまん。確かにそんな場合じゃない。この星を侵略しようとする凶悪な外星人がすぐそこまで迫っている。私が止めに行ったが、返り討ちにあった」
なるほど、だから傷だらけだったのか。本当に使えないケーサツである。
「そうか。あとどれくらいで到着するんだ?」
「ひどく冷静だな。もっと狼狽えるかと思ったぞ」
「狼狽える? なぜだ。それより質問に答えろ」
「はぁ……お前はそういう奴だよな」
天敵は何故か失望している。何を期待していたのかは分からないが、一方的に期待して一方的に失望する。完全に原生生物の習性をトレースしている。自分の種の誇りはないだろうか。
「もう一度だけ言う。質問に答えろ」
「……早くてあと30分だ」
「なるほど、それでは原生生物は準備のしようがないな」
「人間の文明レベルでは準備してもどうこうできる相手じゃない。あと300年くらいあれば、あるいはなんとかなるかもな」
天敵は何故か笑っている。何が面白いのだろうか。
しかし、今後の身の振り方を考えなければならない。この星がどうなった所で私の生存は危ぶまれることはないだろう。しかし、原生生物の観察ができなくなるのは非常に寂しい。
……かといって、好戦的外星人と敵対関係になってまで維持すべきものだとは思えない。所詮は娯楽だ。
「応援は呼んだが、恐らく間に合わない。だから、しぶしぶお前の所に来た。頼む、一緒に時間稼ぎをしてくれ」
天敵は頭を下げるが、私の結論は変わりはしない。
「我々は他生物との競争に勝利するのとは別の切り口で、生存確率をあげてきた種だ。だから、直接的な争いには向いていない。そもそも、死のリスクを負ってまでここで争う理由が無い」
「あるだろう!? この星が滅茶苦茶にされるんだぞ?」
やはり天敵はこの星に肩入れし過ぎであろう。まぁそれがこの種の習性なのかもしれないが。
この問題はこの星の原生生物の生存競争であって、我々のではない。
「話はそれだけか? なら私は業務に戻って、一部始終を観察するだけだ」
「おい、待てよ!」
天敵が呼び止めるが無視して店に戻った。Kawaiiがもうすぐ終わるというなら、最後の時を存分に楽しまなければならない。天敵に構っている暇はない。
店内に戻ると、レジ前で西湖が念動力を発揮するポーズをしていた。
アキが心配そうに声をかけてくる。
「あっ店長、大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ない。ところで何しているんだ?」
「問題なくないだろ!……ってなんだこんな時に」
天敵は店内までしつこく追いかけてきたが、携帯端末にコールがかかってきたようだ。この星の端末に似せてあるが、あれは外宇宙とも交信が可能な天敵の母星のものだろう。
天敵は少し離れた所でコールに応答した。
「なに!?なんでこのタイミングで?……そうか、わかった」
天敵は念話を送ってきた。
(例の外星人の動きが止まったらしい)
(そうか)
「はぁーっ」
西湖がそのタイミングでポーズを解いた。あの時と同じように肩で息をしている。
「はぁはぁ……なんか手持ち無沙汰だったので、私のサイコキネキスを実演していたんですよ。どうです? 皆さん。動きましたよね?」
「うーん、動いたと言われれば動いたか?」
レジテーブルの上に置かれた商品の大福を見つめて信太はそう言った。ちょっとした甘味はレジ横に置いておくとついでに買う顧客が多いとサオリから教わっていたため、手近にあった大福を実験台に使ったのだろう。
あとで西湖に代金を請求しなければ。この星が侵略されるとしても業務は全うしなければならない。
「じゃあ、特別にもう1回やりますからね。疲れるんですから、しっかり見ててくださいよ」
そこへ、また端末のコールが鳴って、天敵は慌てて出る。
「なんだと!?また動き出しただと?」
天敵は大きな声で叫んでいるが、皆の注目はテーブルの上の大福だ。
西湖がポーズを取って力を籠める。
「はぁ? また止まったぁ? 一体どうなってる!?」
天敵は通信相手の言葉に困惑している。
大福が数ミリ動く。西湖がポーズを解いた。
「……やっぱり動いた? 一体何の陽動なんだ……」
天敵は完全に混乱していたが、私にはある仮説が思い浮かぶ。
俄かには信じがたいがそういうことなのだろう。
西湖の力は今この星を侵略しようとしている外星人にとって避けるべきものなのだ。眼前のものを少し動かすというのは、副産物的なもので本来の機能はそちらなのかもしれない。この星の防衛機能が原生生物に力を与えたとも考えられる。
どういう原理かは分からないがこの宇宙には、私の理解の範疇を超えることはまだまだ存在しているということだ。非常に興味深い。
(その外星人を追い払うことができそうだぞ)
(なに!?本当か?)
(貴様は本当に察しが悪いな。暴力しか能がないのは考えものだぞ)
私は天敵にそう念話を送ってから、かなり苦しそうに呼吸を整えている西湖に声をかけ背中に触れる。
「私が力を貸すから、全力でもう1回やってみてくれ」
「し、師匠! いいんですか! お願いします」
「その前にひとつアドバイスがある。空、かなり上空……いや宇宙をイメージするんだ」
西湖の力に直接的に影響を与えることはできないが、彼の力は彼の身体能力に依存しているのは間違いない。私の機能で心肺機能などを一時的に高めれば西湖の力は比較的に上昇するだろう。
念には念を入れて確実に外星人に届かせるためのアドバイスもした。
「いいですね、それ! なんかサイコパワーっぽいです」
西湖は何故か満面の笑みだ。自分がこの星を救うことになるとは全く知らないのに。Kawaii。
そして、力を行使する。ブーストされた力は副作用も大きい。大福は数秒間宙に浮いた。
「す、すごい! 本当に超能力が使えるんですね!」
「何!?完全に撤退した?……何しに来たんだ、意味がわからん」
アキは手を叩いて喜び、信太は言葉を失っている。天敵は相変わらずうるさい。
力を限界まで出し切った西湖は気を失ってしまった。特別手当を出さねばなるまい。
ともあれ、まだしばらく私の余暇は続きそうだ。
(第2話 完)
次話更新までは少し期間が空くかもしれません。マイペースでやっていきますのでよろしければお付き合いください。




