夜襲
そして、一週間後の未明、予想通りの午前三時に襲撃はあった。
ジークフリートが見張りをしている晩だった。
「きたな。」
気配を殺して囲んでいるつもりだろうが、ジークフリートからすれば、大声でおしゃべりしながら近づいてきているに等しい、お粗末な手合いだった。
「なんだよ、素人か? とりあえず皆をおこすか。」
そういうと、鳴子を鳴らし襲撃を各寝室に伝える。
すぐに、ラインハルトとシャルロッテが武装してやってくる。ラインハルトはいつもの愛刀を腰に差し、手には槍を握っている。シャルロッテも腰に刀、背には矢籠、手に弓を持っている。シャルロッテの弓技は師のカイをも超える、神弓ともいわれる名手である。
「お前たちのその出で立ち、久しぶりだな。」
そういうジークフリートは棒手裏剣をぐるりと一周差したベルトを腰に巻いた。ジークフリートは棒手裏剣、投げナイフの名手だ。同時に4本の手裏剣を体の違う部位に必中させる。
弟弟子たちも、それぞれ真剣を腰に佩いて、少し緊張した面持ちで集まってきた。
「いいか、お前達。打ち合わせ通り3人一組で戦え。決して一人になるなよ。相手の動きを止めればいい。第一班はシャルロッテ、第二はラインハルト、第三班は俺と行動を共にする。」
「はい!」
緊張はしているようだが、怖れてはいない。大丈夫そうだ。
「ファティマは俺から離れないように。」
「大丈夫ですわ、ラインハルト兄様は私がお守りいたします。」
ちびっこもやる気満々であった。
それぞれの班は持ち場に散った。
シャルロッテの第一班は弓が得意な者で固めて、屋根上から狙撃する。特に火を放たれると厄介なので、火矢の射手を優先的に狙う。屋根上には予め防護壁を準備して下からの狙撃に対応できるようにしている。
ラインハルト班は、ファティマは別として年長者が中心の斬り込み担当だ。ジークフリート班は機転のきく者を集めた遊撃隊だ。臨機応変な対応が期待される。
敵はハシゴを南側外壁にかけて越えようとしている。
「まだよ、壁を越えたら賊とみなしていいわ。なるべく誘い込んで狙うのよ。」
シャルロッテは逸る弟子たちを抑える。
一人目が越えた。二人目、三人目と越える。四人目が越えたところでシャルロッテが合図する。
「いまよ。」
屋根上から一斉に矢が放たれ、壁を越えた四人が斃れる。
五人目以降は立ち往生しているところに、ラインハルト班が斬りこんできた。ラインハルトは槍を回転させながら突進し、ハシゴに登っている一人を背後から突く。
ハシゴ周囲の残り6人については、弟弟子達が相手にしている。
ファティマが走りながら小太刀を抜いた。すばしっこく一人の足元に潜り込み、膝裏の筋を斬る。相手はもんどり打て倒れて脚を抱えて呻いている。子供たちには止めを刺す必要はないと言っておいたので、ファティマは次の相手に突進する。その相手も上から柳葉刀と斬り下ろしてくるが、ファティマはそれも難なく躱し、後ろに廻りこむと、同じように膝裏をぶった切って敵を転がした。
ラインハルトは3人斃し、ファティマは2人を戦闘不能にし、残り2人は弟弟子3人で戦闘不能に追い込んだ。
「ピピッ」
屋根上で短い笛の音が聞こえた。反対の北側の見張りに当たらせていた弟子から侵入者ありの知らせだ。
全員が笛を持っていて、吹き方の組み合わせである程度の情報伝達ができるように打ち合わせしている。
「北側に廻りましょう。ラインハルトに合図して!合図したらこのままここで見張りよ。」
シャルロッテが指示すると弟子の1人が短く笛を吹き、ラインハルトに移動を知らせる。
「よし、みんなこのまま外壁伝いに北側に回るぞ。」
呻いている連中はそのままに、ラインハルトはファティマを抱き走りだし、弟弟子達もそれに続く。
北側から侵入してきた者は、全部で8人、うち2人は、シャルロッテ達が到着する前に、屋上で見張っていた弟子が、2人は到着したシャルロッテ達が斃した。
邸内に侵入した敵は4人。これらはジークフリート班が迎え撃った。
ラインハルト班5人は、北外壁壁外に集まっている9人に突進した。
シャルロッテの屋根上からの援護射撃も有り、それらはすぐに片付いた。
「全部で28人か、ほぼ想定通りだったな。うち12人死亡で16人重症。もうすぐ夜明けだ。明るくなるのを待って、警備騎士団に連絡して連行してもらおう。その前に、、、。」
ジークフリートは、生き残っている1人に向き直ると、
「おい、貴様!死にたいんだな!!」
と、いきなり大声で脈絡のないことを言い出す。相手は見るからに下っ端で無理やり連れて来られた風の若造だ。とはいえジークフリート達よりは年上だが。
「?」
ラインハルトも、彼に抱っこされているファティマも、シャルロッテも、弟弟子たちも、きっとなにか考えがあるのだろうと静観している。
「い、いえ死にたくありません!た、助けてください。だから嫌だったんだ、他国にまで押しかけて闇討ちにするなんて。」
「いや、おまえらはこれから粛清する。 打首、磔、火炙りのどれがいいかは選ばせてやる。」
「い、いやだ。おねがいします何でもするので命は助けてください。」
「でも、お前らは俺達を殺す気できたんだろう?その罰は受けなければならんな。」
「こ、殺す気はなかった。男は半殺しにして二度と剣を持てなくして、女は攫って楽しむつもりだったんだ。」
「おまえは火炙りだ。」
ジークフリートはそう言って、松明を近づける。
「ひぃー、や、やめてください。」
男は縛られてミノムシみたいな状態で体をくねらせて逃げようとする。
「では、聞くが、お前らはリューエダオの一門で間違いないな?」
「はい、そうです」
「今回の襲撃は誰が考えた?」
「師範です。」
「先日、仕合で負けた奴は師範代だったよな?」
「師範は、その兄君です。」
「門弟はあと何人いる?」
「う、内弟子は、今日、ここに来た者を除けば高弟の3人だけで、あとは通いの弟子です。仕合の日に内弟子10人が斬られたので。」
「通いというのは、キーフ国の騎士か?何人くらいだ?」
「騎士はいません。王妃様の口利きで指南役に推挙されたんですが、騎士団に拒否されたと聞いています。」
「だろうな。で、騎士でなければ裕福な商人の子弟とかか?」
「大体そうです。わたしも実家にいえばお金はあります。いくらでも準備しますので命は助けてください。」
「今日失敗したら、どうするつもりだった?」
「師範は、傭兵を雇ってでも復讐をやり遂げるつもりみたいです。」
「ふーん。じゃあ、その師範を黙らせない限りは襲撃は続くってわけだ。師範ってのはどこにいる?」
「いつもは、道場と同じ敷地にある御館におられます。」
「王妃とリューエダオの関係は?」
「師範が、王妃様の愛人だというのがもっぱらの噂です。師範はかなりの美形なので。城であった武術大会で王妃が師範を見初めたのが事の始まりだって話です。」
「ふーん、なるほど。よくわかった。」
「で、では!助けてもらえるんですね?」
「いや、打首で苦しまずに逝かせてやるよ。」
「ひぃー、そ、そんな。」
騒ぐとうるさいので、ジークフリートに首筋を手刀でトンとやられて気を失った。
「行くかラインハルト。」
ジークフリートはラインハルトに向き直り問いかける。
「あぁ、行って黙らせるしかあるまい。」
2人は、キーフ国に乗り込む気まんまんだった。




