決着
リューは、連撃をことごとく躱され、最後は斬られかかったにも関わらず余裕で構えなおした。
「ふん、想定していたよりもやるな。しかし、何を考えているのかは知らんが、舐めていると命取りになるぞ。」
リューはそう呟くと、両手の刀の柄頭を合わせ捩じり、二本の刀の刃が互い違いの一本の双刃刀にした。
それを頭上に掲げ回転させながら、跳躍し一気に間合いを詰め、袈裟に斬りかかる。
ラインハルトが右にステップして躱すと、リューは逆側の刃で切り上げる。双刀での連撃より速い。
これをかろうじて後ろにステップして躱したラインハルトの顔面にリューの後ろ回し蹴りが飛ぶ。
これを刀の柄で受けるが蹴りの威力で体制を崩した。
そのとき、リューの右手が霞むとのほぼ同時にラインハルトの右大腿に針が突き刺さる。
さらに双刃刀を回転させながら右に左に連撃を放っていく。
リューの連撃の速度がどんどん加速する。立会人のほとんどはリューの腕の動きが見えていないはずだ。
ラインハルトは足さばきだけでは躱しきれず、鎬で受ける回数が増えてきた。
いや、足さばき自体が徐々に重くなってきているようだ。
「ラインハルトの動きが変だな。何かを試しているというような動きじゃないぞ。」
ジークフリートは、というより立会人の天幕からは先程の投げ針は死角で見えていない。
ラインハルトは、右足が痺れてほとんど動かなくなってきていた。恐らく針に何かしらの毒物が塗られていたのだろう。リューはその連撃で、ラインハルトが針を抜く暇も与えない。
そして、双刃刀から双刀に分割して両手での攻撃、次は連結して双刃刀の攻撃、かと思えば蹴り技を繰り出すなど、多彩な技で反撃の的を絞らせない。
ラインハルトは「一つの太刀」を試す余裕などないはずだが、それでも彼は待っていた。さらに追い込まれるのを。ここまで追い込まれることは普段はない。師や、シャルロッテ相手では生死を掛けた戦いで追い込まれていることにはならない。相手が投げ針で脚を止めてくれたのは好都合だった。これで「瞬脚」は殺された。「俯瞰視」は個人戦ではあまり意味を持たない。もう自分が勝つ術は限られている。
連撃はさらに加速していく。リューの刃がラインハルトの肩、上腕、脇を抉る。
ラインハルトはほとんど反射のみで躱し続けていた。
そして、ラインハルトがよろめいた瞬間、
<もらったぞ、小僧!>
リューが右渾身の一撃を繰り出した。全力の一撃だ、タイミングも申し分ない。
<・・・・・・・・。>
しかし、ラインハルトはそれをゆっくりとした動きに感じた。
あぁそうだ・・・。このまま、ただ真っ直ぐに斬ればいい。
自分の声か、誰かの声か、はっきりとしないが、これがそうだと教えてくれた。
ラインハルトはゆっくり振りかぶり、真っ直ぐ正中線を斬り下ろす。
振り始めも、振る速度もリューのほうが速い。
それでも、、、、
血しぶきを上げて、頭頂から胸までを切り裂かれて倒れたのはリューだった。
ラインハルトは振り抜いた姿勢のまま立っている。
「勝者、ラインハルト・シュタイナー!」
立会人の騎士が勝者を告げる。
ラインハルトは立ったままだ。まだ、スローモーションの世界にいた。
リューエダオの門弟たちが抜刀し、何かを叫びながらこちらに走り寄ってきている。
ラインハルトはそちらに向き直って、正眼に構える。立会人天幕からは、それに気付いたジークフリートとシャルロッテも抜刀し、こちらに駈け出したが、リューエダオの方が近かった。
一人目が斬ってきた、ラインハルトはゆっくりと真っ直ぐに斬り下ろす。相手は両断されて転がる。二人目が斬ってくる。ラインハルトは真っ直ぐに斬り下ろす。三人目、四人目、ラインハルトはただ斬り下ろすだけで、相手は両断されて転がる。
そこにジークフリートとシャルロッテが到着し、二人で残り六人を斬って捨てる。
「ラインハルト!」
残りの門人を斃したシャルロッテ達がラインハルトに駆け寄ってくる。
「あぁ、シャルロッテ。そういうことなんだね。」
ラインハルトは「一の太刀」のことを言っているようだ。
「まったく、あなたは。。」
シャルロッテは呆れていた。
「ラインハルト、お前、その脚!」
ラインハルトの脚に針が突き刺さっているのにジークフリートが気付いた。
「あぁ、毒が塗っているようだ。脚が動かない。悪いが肩を貸してくれ。」
ラインハルトは、ジークフリートの肩を借りて、立会人天幕まで戻った。
天幕に到着し、事情を説明した後、待機していた騎士団付きの医師が脚を診てくれた。
幸い、塗られていたのはしびれ薬のようで大事には至らないとの事だった。
その後は、侯爵の御前で勝利報告をした。
「見事な勝利であった、ラインハルト。オノ一門の代表として、ふさわしい仕合であったぞ。
しかし、投げ針に毒まで仕込んでいた上に、勝負の結果に不満をいだき勝者に多勢で斬りかかるとは、リューエダオは我が騎士団の指南役にはふさわしくない。今後は出入り禁止とする。」
トゥーマン侯爵は、ラインハルトの労をねぎらい、リューエダオへの不快感を顕にした。
「ラインハルト、解けたようだな。」
カイがラインハルトに声を掛ける。
「はい、先生。しかし、いつでもあの状態で技をだせるように、まだまだ精進が必要です。ですが、あるべき姿を感じることはできました。」
「ラインハルト、もういいから、早く帰って休みましょう。脚が心配だわ。」
シャルロッテは、試合終了後からずっとラインハルトに寄り添っている。
「大丈夫だよ、もう痺れもかなり収まってきた。」
「いいえ、だめよ。馬車を手配しているから、それで帰ります。それにまだリューエダオの連中が襲ってくるかもしれないでしょう?お父様は、まだ侯爵様とお話があるみたいなので先に帰りましょう。ジークフリートも護衛お願いね?」
「あぁ、任せてくれ。」
そんなこんなで、3人が道場に戻れたのは夕方近くになってからであった。
~ ~ ~ ~
「そ、そんな卑怯な手を使うなんて、武道家の風上にもおけませんわ!!」
夕食後、仕合の様子を聞いたファティマが顔を真っ赤にして地団駄を踏みながら憤慨している。
「ファティマ、そんなに怒ると、かわいい顔が台無しだ。少し落ち着きなよ。」
壁を背に寄りかかって腕を組んでいるジークフリートがいつもの調子でからかう。(再)
「ジーク兄様! ラインハルト兄様がこんな目にあわされてるというのに、何をそんなにのんきなことを。悔しくはないのですか!」
「ファティマ、当の本人はラインハルトに真っ二つにされてもういないし、その他大勢も俺とシャルロッテで成敗したからもういないよ。」
「私も、ラインハルト兄様の仇を取りたかったのに。。。」
「ファティマ、仇って、、、、俺は死んでいないし、何箇所かかすり傷を負っただけだから大丈夫だよ。」
「でも、次は私も立会人として参加しますわ、絶対に!」
「そのためには、もっと腕をあげないとシャルロッテに連れて行ってもらえないよ。さぁ、夜の稽古の時間だろう?道場に行っておいで。」
「わかりましたわ、ラインハルト兄様。しっかりお稽古しますから、次は必ず連れて行ってくださいませ。」
そういうと、ファティマは道場に向かっていった。
「やれやれ、あの調子だと、現場にいたら本当に大暴れしそうだな。
でも、連中がこれで引き下がるとは思えないね。必ず報復してくるだろうな。もう奴らはなりふり構う必要がなくなったからね。」
ジークフリートは出て行くファティマを目で追いながらいつになく深刻そうだ。
「うちの門弟はほとんどが騎士だ。騎士団の報復を恐れて直接は騎士に手出しはしないだろう。となると、狙われるのはこの道場と内弟子たちだろうな。先生の御不在が多いのは少し調べればすぐわかる。
しばらくは、俺も塾を休んで道場にいることにするよ。恐らく夜襲でくるだろう。夜襲に適した時間帯は。。。」
「夜明け前、3時から4時か。」
ラインハルトが応える。
「ああ、当面は俺とラインハルトで交代で見張ろう。こちらが油断するのを待っているとすると、一か月くらいは覚悟したほうがいいかもしれんぞ。」
「わたしも、」
シャルロッテが交代要員に立候補しようとするが、
「シャルロッテは、弟子たちの世話があるし、通いの門下生の稽古もつけないとならないだろう?見張りくらいは俺達でできるよ。」
ラインハルトに止められる。
「わかったわ。二人共、見張りなら他の門下生の力を借りてもいいし、無理はしないで。」
「下の連中はどうする?当面実家から通わせるか?」
ジークフリートは弟弟子たちの事を気遣っている。
「あの子たちには、きちんと事情を説明して、どうするかはあの子たちに決めさせるわ。ただ、ここで実家に帰るようなら内弟子としては失格だけれど。」
幼くとも、内弟子とは流派を継承する覚悟をもって修行に励む者の事だ。命を懸けることができないものは不要だ。シャルロッテはそう思っている。
「あぁ、わかった。それはお願いするよ。」
その後、シャルロッテが全員を食堂に集め、これまでの経緯と今後の報復の予想について説明した。
結局内弟子で逃げだすものは一人もおらず、それどころか逆に、賊は一人も生かしては帰さないなどと言いだす始末だった。特にファティマのやる気が最高潮に達していたのは言うまでもない。




