休養
宿に戻ると、もう日が暮れていた。
マリーローズは少し体調が悪く、熱が出た。寝込むほどではないが、体が怠い。
飛行兵の診断では、「過労」であった。
飛行兵に薬を指示してもらいそれを飲んで、宿まで帰った。
「少し疲れが出たようだ。悪いが今日はもう休む。」
そう言って横になった。
無理もない。ジークフリートはそう思う。マリー様がやっていることは、自分のような屈強な鍛え上げた兵士がやる仕事だ。とても、ほんの少し前まで、城から出たこともなく、ましてや病や怪我で治療を受けていた若い娘がやることではない。
体調には気をつけているつもりだが、マリー様は限界まで一切顔に出さない。疲れた様子は全くなかった。今は本当に体調が悪いのだろう。しばらくはお休みいただこう。
そう思っていると、部屋の扉をノックする音がした。
マリーローズとジークフリートはアイコンタクトをして、ジークフリートが雷撃剣を手に取り、クローゼット脇に隠れるのを待って、マリーローズが応答する。
「はい、何でしょうか?」
「わたしは、ハサンの使いの者です。今日お店に見えられず、ハサンが心配しております。」
扉の外から、男が答える。
マリーローズは、起き上がり、ドアを少し開けると、確かに見覚えのある男が立っていた。
「すまない。御覧の通り、体調を崩して寝込んでいた。連絡する手立てもなく、無断で休んでしまった。ハサンには詫びていたと伝えてくれ。
そういうわけで今日は店には出れそうにない。体調が戻り次第、店に行く。そう伝えてくれ。」
「へい、わかりました。そのようにつたえます。お大事に。」
そういうと男は戻っていった。本当に様子を見に来ただけの様だ。
「ふぅ、ハサンの店の客に王弟以上の情報源がいるかどうか。。。」
ベッドに戻り横になって、思案していたがすぐに眠ってしまった。
ジークフリートは、そっと毛布を掛けて枕もとのランプを消した。
〜 〜 〜 〜
翌朝には、薬が効いたのか、すっかり体調は良くなっていた。
体の怠さも取れ、気分もすっきりしている。
マリーローズが起きると、ちょうどお茶を淹れていたジークフリートがカップを持ってきてくれた。
「マリー様、体調はいかがですか?顔色はずいぶん良くなられたようです。」
「うむ、心配をかけた、もう大丈夫だ。それより遺跡の事だが、
今のところ、飛行兵では遺跡の防衛ラインを突破する手段がない。
もう少し情報を探って、突破の糸口を探すしかない。
意志を持つ戦闘補助装置-人工知能-は、皇国の飛行戦力を凌駕する力を示した。
アルジェントはエウロットに版図を拡大する意思がある。「天の雷」「人口知能」は皇国にとって脅威だ。
基本方針としては、第一にこれらを奪取して本国に持ち帰る。
第二に、奪取できなければ破壊する。
第三として破壊できなければ無効化する。これはアルジェント国王を抹殺する等で実質的に使えないようにすることを意味する。
今晩もハサンの店に出る。軍幹部からもう少し情報を引き出して、大した情報が得られなければ、最終手段として王宮を襲撃、国王を拉致し、情報を引き出すしかない。」
「ただ、王宮を襲撃するにも、王の所在、王宮内の戦力、逃走ルートの確保など、かなりの情報と準備が必要になります。くれぐれも無茶な特攻はおやめ下さい、マリー様。」
ジークフリートにしては珍しく強い口調でマリーローズを見据えた。
「わかっているよ、ジークフリート。」
マリーローズは、少し微笑むと、淹れてくれたお茶を飲み、一息ついた。
きっと思いつめたそんな顔をしていたのだろう。
天の雷で皇都や皇城が焼かれ、アレクサンドラを苦しめる。そんな光景ばかり浮かんできて、少しでも早く脅威を排除しなければと、少し焦りすぎていたようだ。
「そうだな、この戦い、負けるわけにはいかない。そのためにも周到な準備が必要だ。無茶はしない。」
「はい、マリー様。」
ジークフリートは、、マリーローズの肩から力が抜けたのをみて少し安心した。
「では、今晩もいつもの様に近くで見張っておきます。お気をつけて。」
「うむ、よろしく頼む。」




