表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢の婚約者  作者: よしの
第一話 アリクレット男爵家
20/27

第十九話 武闘大会が終わって

武闘大会を終えた翌日。

俺はロイジェルク様、父上、ヴァルト兄さん達家族全員送り届けてリアネ城へ戻り、執務室へと向かった。

「エルレイ様、お帰りなさいませ」

「アドルフただいま」

「先程トリステンより、リアネ城へ侵入しようとしていた者を捕らえたとの連絡がございました」

侵入とは穏やかじゃないな・・・。

「それで何処から侵入しようとしたのか分かるか?」

「はい、城門から警備兵の制止を振り切って侵入しようとしたそうです」

「それ、侵入と言うのか?」

「トリステンからはその様に報告を受けております、それと、その者はエルレイ様に会わせろと言っている様でして・・・」

面倒だが会わないとトリステンが困るだろうな・・・。

「会いに行くとするか、アドルフも来るか?」

「はい、お供させて頂きます」

アドルフを連れ警備隊の詰め所にやって来た。

中に入るとソファーに座った綺麗な女性と、その背後に老執事と老メイドが控えていた。

「エルレイ様、ご迷惑をおかけします」

トリステンが申し訳なさそうにしていた。

「いや、構わない、それで彼女が俺に会いたいという人物なのだろうか?」

「その通りです、エルレイ様にお会いするまで帰らないと言われまして・・・」

「分かった」

俺は女性が座っている正面のソファーに腰掛け話を聞く事にした。

「初めまして、私はエルレイ・フォン・アリクレット侯爵、どの様なご用件でしょうか?」

女性は俺の事を睨みつけてから話し始めた。

「あら、昨日お会いした女性の名前も忘れてしまうのですね」

えーと、正面の女性の顔を見て、必死に昨日いた貴族達の顔を思い出してみたが、該当する女性がいないように思えた。

「・・・すみません、よろしければお名前を教えて頂けると助かるのですが」

女性はふんっと鼻を鳴らし立ち上がって腕を組み、俺の睨みつけてから自己紹介をした。

「私はアイロス王国第七王女、ホルフィーナ・フォーレ・アイロスですわ」

ホルフィーナ・・・あぁ昨日ルリアに一回戦であっさり負けた人か・・・今日はドレスを着ているから分からなかったよ。

しかし、アイロス王国王女とはどうしたものか・・・普通元王族が敵国に見つかった場合無事に済むはずないと思うが、堂々と自分の名前を名乗ったな。

俺がどう対応していいか迷っていると、ホルフィーナはソファーに座り話しかけて来た。

「エルレイだったかしら、私と勝負して、負けたらここから出て行きなさい!」

・・・返答に困るな、勝負する必要も出て行く必要も全く無いんだよな・・・。

「なぜ勝負をしないと行けないのでしょうか?」

「それはこのアイロス城が私の物だからよ!」

まぁ、今まで住んでいたのだろうから気持ちは分からなくも無いが・・・。

「今ホルフィーナさんは私に捕らえられているという事を理解していますでしょうか?」

「何故私があなたに捕らえられていると言うのよ!」

うーむ、話にならないな、どうした物か、俺が考え込んでいると後ろに控えていた老執事が一歩前に出て来て一礼をした。

「アリクレット侯爵様、発言する事をお許しください」

「ドナートは黙ってなさい!」

「しかし・・・」

「ドナートとやら、発言を許可する」

「アリクレット侯爵様、ありがとうございます、私どもの立場は理解しております、本来であれば掴まり命の保証も無きものと思っております。

しかし、そこを曲げてホルフィーナ様をどうかお助け願えませんでしょうか。

ご覧の通り私とメイドは年老いており、この先ホルフィーナ様を支えて行く事が困難にございます、アリクレット侯爵様の配下の貴族様で構いませんので、ホルフィーナ様を娶っては頂けないでしょうか?」

「ドナート!私は嫁になんて行かないわよ!」

しかしこれは困ったな、彼女を捕らえて処分すれば話は簡単なのだが、流石に俺もそんな事はしたくないし、ここにいる警備隊は元アイロス王国軍だった訳だ、俺が王女を始末したとなればいい気はしないだろう・・・。

『アドルフ、どうしたらいいと思う?』

『そうですね、始末するのが後腐れなく良いのですが、この執事の作戦なのでしょう、これだけ騒ぎになってはそれも出来ません』

『そうだな、ではどこかの貴族に押し付けるか?俺は娶らないからな!』

ルリアとヘルミーネを足したような感じでうるさそうだからな・・・。

『では、マデラン様かヴァルト様にお願いしてはいかがでしょう?』

『わかった、そうしよう』

「ドナート、ホルフィーナさんは妾でも構わないな?」

「勿論でございます」

「ドナート!どうして私が妾なのよ!」

ホルフィーナさんはドナートに抗議していたが、関わると面倒なのでさっさと連れて行こう。

マデラン兄さんとヴァルト兄さん、どちらに紹介するべきか・・・一応元王女だから伯爵家のマデラン兄さんの方が良いか。

『セシル姉さん』

『エルレイさん、どうかしたのかしら?』

『セシル姉さんには申し訳ないのですが、マデラン兄さんに女性を紹介したいと思いまして・・・』

『あらそうなのね、私は気にしませんよ、伯爵家ですから妾は多く持っていないといけませんからね』

『セシル姉さん、ありがとうございます、それでもしよろしければ今からお連れしたいのですが、よろしいでしょうか?』

『分かりました、ただ少し準備するのに時間が欲しいかしら』

『そうですね、では一時間後お伺いします』

『お待ちしていますね』

「ドナート、一つ確認しておきたい、ホルフィーナさんの他にも王族や貴族が領内にいたりするのか?別に見つけ出して処罰する訳では無いぞ、今回の様に騒がれては困るから仕事先でも見つけてやろうと思っただけだ」

「申し訳ございません、他の方の在所は存じ上げません、恐らく多くはラウニスカ王国へ行ったのだと思います」

「ホルフィーナさんはそうでは無かったのか?」

「私共は知り合いの農家に匿って頂いておりました」

ラウニスカ王国に行ったのであれば幸いだな、ラウニスカ王国にこちらを攻める道具に使われる可能性はあるが、その心配をしてもどうにもならない事だからな。

「そうか、分かった、では一時間後に伯爵家の所に連れて行くので準備をしておいてくれ」

「畏まりました、アリクレット侯爵様、ありがとうございます」

ドナートは一礼して下がった、さて今の内にトリステンと話をしておこう。

「トリステン、奥で話をしたいのだが構わないだろうか?」

「はい、ではこちらへ」

トリステンの後を着いて行きトリステンの部屋へと入る、中にニーナもいたので昨日の戦いを褒めておかないとな。

「ニーナ、昨日は素晴らしい戦いぶりでとてもよかったぞ」

「そんなことは無いさね、あたいの実力の無さが分かっただけさね・・・」

ニーナはカリナさんに負けた事で落ち込んでいる様だった。

「いや、最初ここでリゼと戦っていた頃に比べれば別人の様だったぞ」

「それはそうかも知れないけど、結局あたいは負けたのさね」

「それは今後訓練して行けばいい事だ」

「分かったさね」

「トリステン、確認するが、ホルフィーナさんは本当に王女だったのだろうか?」

「はい、間違いありません、以前城で見かけた事が御座います」

「そうだよな、捕まったら殺されるかも知れないのに、王女と名乗る馬鹿はいないよな・・・」

「そうですね」

流石にトリステンも苦笑いをしていた、あれ?俺って人を殺さないように思われている?

「アドルフ、俺は人を殺さないように思われているのだろうか?」

俺がそう聞くとアドルフは暫く考え答えを出した。

「・・・そうですね、私があの執事と同じ立場だった場合も、やはり何かしらの手段を用いてエルレイ様に助けを求めたと思います」

「それはどうしてだ?」

「エルレイ様がスラムの住人を見捨てず家と仕事を与えました、この事でエルレイ様は命を大切にし、それを活用できる領主だと判断したのではないかと思います」

「それは街の住民であって、王族や貴族とは違うと思うぞ?」

「そうですね、ですのでホルフィーナ様を武闘大会に出場させて、この街の住人に仕立てたのだと推察いたします」

「あぁ、一応本戦に出ていたから皆に顔を知られる事となり、俺に殺される心配がなくなったという事か・・・」

「はい」

なるほど、なかなか有能な執事の様だな、歳を取っていなければ俺が雇いたいのだが残念だ。

「しかし、俺の敵となる奴には容赦しないからな、特に家族を狙ってきた奴は徹底的に叩き潰す!」

「マスターはこえーな!クロームウェルと何ら変わりねーぜ!」

「うっ・・・」

グールに指摘されその通りだと思ってしまった、しかし愛する人の為にそうなるのは仕方が無いのでは無いだろうか・・・。

「エルレイ様、そうならない様私共がおりますのでご安心ください」

「そうだな・・・アドルフ、トリステンよろしく頼む」

「「はい」

「あたいもいるのさね」

「ニーナはこれから出来る家族を守って行かないといけないだろう?」

「そ、れ、は・・・」

ニーナは顔を真っ赤にして俯いてしまった、トリステンも若干顔を赤くしている。

「でも、あたいはまだ武闘大会に出ないといけないさね」

「もう出る必要無いと思うがな、ルリアはもう出場しないし、カリナさんも出ないんだろう?」

「はい、妻は出場する事はありません」

ルリアは今回の事で満足した、と言うよりカリナさんと戦えればそれでいいようで、カリナさんの出ない武闘大会には興味が無くなった様だ。

「なんでさね!」

「元々カリナさんは女性の出場人数が足りないと思われていたから出場しただけで、出場人数の確保は出来る様だからな」

「それじゃあたいも出る意味なくなったのさね・・・」

「そう言う事でニーナには新しい家族を作ってくれることを期待する、それとトリステン、流石に家が無くては困るだろう?」

「そうですね、ですが私とニーナでは家の管理が出来るのかが心配です」

確かにトリステンはずっと厩舎暮らしで食事も洗濯も全てやって貰っている様だしな、ニーナもこれまでの生活で家事など一切やった事が無いと言っていたからな、だが警備隊の厩舎で子供を育てていくと言うのもあれだしな・・・。

「エルレイ様、よろしいでしょうか?」

「アドルフなんだ?」

「私共と同じところで生活して頂ければよろしいかと、幸い部屋はいくらでも空いておりますし、家事は全てメイドが行います、そして子供の教育も出来ますのでよろしいかと思うのですが」

確かに都合が良いな、使用人用の部屋と言っても家族で住まえるよう広く作られている、と言うより使用人は城からほとんど出る事が無いから、不自由なく暮らせるようにできている。

あれ?よく考えて見ると城から出さないで一年中働かせている?かなり真っ黒な職場だな・・・。

俺は冷や汗を流しながらアドルフに聞いて見た。

「アドルフ、使用人に休みはあるのだろうか?」

「休みとは、休憩時間の事でしょうか?」

「いや、一日仕事をしない日があるのだろうかと」

「ございません」

アドルフは平然と答えた。

「トリステンも同じだろうか?」

「はい、交代で休みますが、丸一日休む事はございません」

「そうか分かった・・・」

これは早急に手を打たないといけないな、しかし今は時間が無い後で考える事にしよう。

「それでトリステン、アドルフ達と同じところに住んで貰う事はどうだろう?」

「こちらとしてはありがたいですが、よろしいのでしょうか?」

「構わないぞ、ニーナもいいだろうか?」

「あたいは食事を作って貰えるのなら構わないさね」

「ではアドルフ、手配を頼む」

「畏まりました」

「話は変わるが、今日午後から武闘大会の反省会を開くから、武闘会場を警備していた者と街を警備していた者の代表者を連れて来てくれないか?」

「分かりました」

「後は警備隊の魔法の訓練はどうなっている?」

「はい、まだ途中ではありますが、まとめた物がこちらになります」

トリステンは俺に資料を渡して来た・・・資料に軽く目を通しアドルフに渡す。

「拝見します」

思っていた通り年齢による魔力の上限と言う物がある様だな、多少個人差はあるようだがそれは当然だろう。

「トリステン、引き続き調べておいてくれ」

「畏まりました」

「ニーナも魔法が使える様になったのだろうか?」

「使える様になったさ、しかしリゼの魔法とは違うさね」

「そうだな、リゼは無詠唱を使っているから普通の魔法とは違うな」

「あたいにも無詠唱を教えて欲しいのさね」

「残念だが教えてやる事は出来ない、ニーナは身体強化を使えば強力な魔法を撃てるだろう?」

「あたいはもう二度と身体強化は使わないつもりさね」

「そうなのか、別に皆を守る分には使っても咎めることは無いぞ」

「カリナに使わなくても、無駄な動きを無くせば早く動けるのだと教えられたさね」

「そうか」

ニーナは落ち込んでいると思ったがそうでは無い様だな、目はしっかりとしている、カリナさんと言う目標が出来た事でニーナはこれから強くなっていくのだろう。

トリステンの所で時間を潰してホルフィーナの所へ戻ると、荷物を背負った執事とメイドに、先程よりおめかしをしたホルフィーナが待ち構えていた。

「遅いですわよ!」

「待たせた様ですまない、今から転移魔法を使って伯爵家の所へ行くから手を繋いでくれないか?」

「なぜ私があなたと手を繋がないと行けないのよ!ドナート!」

「アリクレット侯爵様、失礼ですが私がお繋ぎいたします」

ドナートが俺と手を繋ぎ、反対の手で老メイドと繋ぎ、老メイドがホルフィーナと繋いだ、俺はそこまで嫌われているのか・・・まぁ俺も嫌いだから構わないが。

「では転移しますので、手を離さないようお願いします」

反対の手でアドルフと繋ぎアリクレット伯爵家の館の玄関前に転移した。

「もう手を離して貰って構いません」

いきなり風景が変わった事でホルフィーナは驚きを見せていたが、すぐに落ち着きを取り戻していた。

「エルレイ様、少々お待ちください」

ドナートが待ってくれと言うので見ると、老メイドがホルフィーナの身だしなみを整えている所だった、今から結婚相手の所に行く訳だから当然の事だろうが、それよりも、態度の方が問題だと思うな・・・マデラン兄さん気に入ってくれるといいけど。

駄目だったらヴァルト兄さんの所へ行って、それでも駄目ならどこかの男爵に押し付けよう。

そうしていると玄関からジアールが出て来た。

「エルレイ坊ちゃま、お待ちしておりました」

「ジアール久しぶり、ジアールにも武闘大会を見せてあげたかったが残念だ」

「エルレイ坊ちゃま、私はこの家を守るのが仕事です、旦那様から武闘大会は素晴らしかったとお聞きいたしました、それだけで十分でございます」

「そうか、こちらが今日マデラン兄さんに紹介するホルフィーナさんだ、案内をお願いする」

「畏まりました、こちらでございます」

ジアールに案内され館に入り応接室へと案内された。

「少々お待ちください」

俺とホルフィーナさんはソファーへ座りマデラン兄さんを待つ。

「ホルフィーナさん、マデラン兄さんは優しい人ですので、きつく当たらないようお願いします」

「分かっておりますわ」

ホルフィーナさんはやや緊張気味にそう答えた、挑発的な態度を取らなければいいのだが・・・こうして大人しくしている姿は美しく綺麗だと思うのだが、あの態度はマデラン兄さんあまり好きでは無いように思える・・・。

暫くして父上とマデラン兄さん、それにセシル姉さんが部屋に入って来た。

「父上、マデラン兄さん、急な話で申し訳ありません」

「構わない、それでそちらのお嬢さんがマデランのお相手なのかね?」

「はい、彼女の名前はホルフィーナ・フォーレ・アイロス、旧アイロス王国の王女です」

父上とマデラン兄さんはアイロス王国の王女と聞いて驚きの表情を見せていた。

「エルレイ様、訂正させて頂きたく思います、私は今、ただのホルフィーナ、アイロス王国とは関係御座いません」

えっ?俺に言った時は王女だと堂々と言っていたのに、自分でそれを否定するとはどういうことだ?

確かに俺には王女と名乗らないと相手にしなかったと思うが・・・。

「分かりました、ホルフィーナさん、私はゼリクイム・フォン・アリクレット伯爵、こちらが長男のマデランとその妻のセシル」

「マデランです、よろしくお願いします」

「セシルです、よろしくお願いしますね」

「ホルフィーナです、ゼリクイム様、マデラン様、セシル様よろしくお願いします」

ホルフィーナさんは俺の時と態度が全く違い、お淑やかに挨拶をした。

これから嫁ぐ所だから丁寧な態度を取るのは分かるが、変わり過ぎじゃないだろうか・・・。

「エルレイ、後は三人で話をして貰おう」

「分かりました」

俺と父上は席を立ち部屋を出て行き、そして父上の執務室へ向かった。

「エルレイ、アイロス王国の王女とはどういうことなのだ?」

父上が真剣な表情で俺に問いただして来た、そうだよな、いきなり元敵国の王女を連れて来れば何かあるのだと思うだろう。

「彼女も言っていた通りアイロス王国とは一切関係がありません、実は今日いきなりリアネ城へ押しかけて来て王女だと名乗ったのです。

本来であれば私が処分しなくてはいけないのですが、彼女は武闘大会の本戦へ出ておりましてその様な訳にもいかず、ここに連れて来た次第です」

「なるほど、話は分かった、しかしマデランの正式な嫁にする訳には行かないぞ」

「はい、妾で構わないと確認を取っております、それとマデラン兄さんやセシル姉さんが気に入らないようでしたら他に話を持って行きますので、その時は遠慮なく言ってください」

「うむ、それならばこちらで一旦引き受けよう」

「ありがとうございます」

父上は納得してくれたようで一安心だな、後はマデラン兄さんとセシル姉さん次第だが、これはどうする事も出来ないから見守る事にしよう。

「話は変わるが、武闘大会は非常に良かったぞ」

「ありがとうございます、父上から見て何か問題点は無かったのでしょうか?」

父上達の席は俺の所と離れていたため、武闘大会中ほとんど話す機会が無かった。

俺とロイジェルク様達がいた席をもう少し広く作って置けばよかったのだが、アドルフに渡された設計図のまま何も考えず作った結果、父上達まで入れなかったわけだ、今後の反省点だな。

「ふむ、そうだな、周りの貴族達も特に不満を言っている様には見えなかったが一つだけある、お酒を飲めないのを不満に思っているものはいた様だ」

「やはりそうでしたか、かなり悩んだのですが、お酒を飲んで暴れられても困ると思って用意しなかったのです、父上はあった方が良いとお考えでしょうか?」

「そうだな、良い戦いを見て興奮したからな、その上お酒まで入っていては大変な事になていたかもしれんな、多少不満は出るかも知れんが出さない方が賢明であろう」

「分かりました」

「それと、男性の方で流血沙汰が多かったのが気になったな、私は気にならないが、女性や子供には刺激が強すぎるのではないかと思ったぞ」

「そうですね、もう少し早めに勝負を止められないか検討したいと思います」

「そうした方が良いだろう」

父上と話をしているとマデラン兄さんが戻って来た、やけに早く戻って来たが、ホルフィーナさんが気に入らなかったのだろうか・・・。

「マデラン兄さん、ホルフィーナさんはどうだったのでしょう?」

俺は恐る恐る訪ねてみた。

「彼女は優しそうな性格で気に入ったよ、今セシルと共にロルフを見に行ったよ」

「そうでしたか、それは良かったです」

しかし優しそうな性格?俺と会った時はきつそうな感じだったが演技だったのか?どちらにせよマデラン兄さんが気に入ったのであれば深く追求する事は止めておこう。

「マデラン兄さん、ホルフィーナさんとは別にロイジェルク様のパーティには参加してくださいね」

「分かっている、俺としてはセシルだけで十分なのだが、そう言う訳には行かないのだろう?」

「はい、子供はいくらいても困りませんのでお願いします」

「そうだな、セシルばかりに苦労させる訳にも行かないからな」

「その時は迎えに来ますのでお願いします」

「こちらこそ頼むよ」

「では、父上、マデラン兄さん、これで失礼しますね」

「ふむ、昼食でも食べて行ってはどうだ?」

「そうしたいのですが、午後から武闘大会の反省会を開く予定でして、午前もその準備をする予定でしたので申し訳ありません」

「それならば仕方無いな、またゆっくり遊びに来るといい」

「はい」

アドルフを連れてリアネ城へ戻り、昼食後武闘大会の反省会となった。

執務室では人が入れないので、会議室を使う事となった。

参加者はルリア、リリー、ヘルミーネ、アルティナ姉さん、ロレーナ、リゼ、ロゼ、ラウラの家族全員。

執事からはアドルフとエリオット達。

メイドからはカリナさん、エレン、アンナ、マリーと言った武闘会場内で働いて貰っていた人達。

警備隊からはトリステン、ニーナ、街の警備隊の代表者、会場警備隊の代表者。

以上の参加者によって行われた。

「皆の努力によって武闘大会は問題無く終える事が出来た、ありがとう」

まず皆に感謝を伝えた、思い付きで始めた事だが、ここまで大変な事だとは当初思っていなかった・・・。

ここにいる全員、いや、俺に仕えてくれているすべての人達が支えてくれた事で出来たのだろう。

「そして武闘大会で優勝したカリナさんとラルフ、あらためておめでとう」

「エルレイ様、ありがとうございます」

「エルレイ様、ありがとうございます、しかし私が優勝してよかったのでしょうか?」

ラルフは自信なさげに尋ねて来た。

「ラルフの実力は優勝に値する物だと思うぞ、ただそれが防御力に偏り過ぎていただけだな、今後剣の扱いが上手くなれば自信をもって優勝したと言えるようになるだろう」

「はい、頑張ります」

「他の参加者たちも見事な戦いぶりだったぞ」

俺は大会に参加してくれた者たちを一人ずつ見て行った、皆自信に満ちた表情をしていて満足している様だった。

「さて武闘大会はこれからも定期的に開催していく、そこで今回足りなかった所や改善した方がいい所があれば遠慮なく意見を言って貰いたい、アドルフ」

「はい、では私が進行をさせて頂きます、まずは各部署での報告をお願いします、まず警備隊、トリステンお願いします」

「はい、まず闘技場内部から、初日人数が多かったため多少混乱致しましたが、概ね組み分けは順調に行えました、ただ怪我人が多く、重症者以外は後日に回し対応しました、ただこれは男性部門の事で女性部門に関してはメイドからの報告待ちとなります、チェスター」

「はい、リ、リアネの街を警備しておりましたチェスターです、ほ、報告をさせて頂きます」

トリステンに指名されたチェスターは緊張した面持ちで報告を始めた。

「リアネの街は定期的に巡回を行い、初日数軒の窃盗犯を捕らえましたが、その後は特に大きな犯罪はありませんでした」

「グスタフ」

「はい、闘技場警備を担当しておりましたグスタフです、報告させて頂きます、当初予想されていた窃盗は確認されませんでした、しかし武闘大会を見て興奮した観客の一部が外で喧嘩を起こし、これを鎮圧致しました、以上です」

やはり喧嘩は起こったか、賭け事も絡んでくるしある程度は仕方が無いのだろう。

「グスタフ、警備隊の被害は無かったのか?」

「はい、エルレイ様のおかげで全員障壁を張れるようになり、こちらの被害はありません」

「それならよかった」

喧嘩をしていた当人たちの事はどうでもいいだろう、多少痛い目を見ないとまたやるだろうからな・・・。

「アドルフ、続けてくれ」

「はい、次はカリナ、お願いします」

「はい、私は武闘大会に参加していたためエレンとアンナに報告させます、まずエレンから」

「はい、私は貴族様のお世話を担当させて頂きました、おおむね順調にお世話できたのですが、いくつか貴族様からご要望が御座いました。

一つ目はお酒が飲めないかと言うご要望が多く、二つ目は休憩できる場所は無いか、三つ目は一戦目で予想を外された方から新に券を購入できないか、と言う事でした」

なるほど、一つ目は予想していたが、二つ目は考えていなかったな、貴族席には屋根が付いていて直射日光を受けることは無いが横になれる場所があった方がいいな。

「お酒に関しては皆の意見を聞いて見たい、外の警備をしていたグスタフはどう思う?」

「はい、外の飲食店でもお酒は提供されていなかったため騒動が少なかったのだと思います、ただ私個人としましてはお祭りでは飲みたいと思います」

「まぁそうだろうな、お酒を提供した方が盛り上がるのは間違いないだろうし、店の利益にもなるだろう、その代わり警備隊の仕事が大変になるが、それは構わないのか?」

「確かにそうですが、警備隊で押さえてみせますよ」

グスタフは自信満々に言ったが、俺が懸念しているのは他のお客さんに被害が出ないかという事なのだが・・・。

「トリステンはどう思う?」

「そうですね、グスタフはこう言っておりますが、警備隊全体としては面倒ごとはお断りしたい所ですね」

「そうか、俺も他の観客に迷惑が掛かるようなことは避けたい、だがお酒を出す所や座る席を分ければ他の観客に迷惑が掛からないかも知れないな、今後検討して見る事にしよう」

「よろしくお願いします」

「そして二つ目の休憩する所だが、早急に対策する必要があるな、アドルフ、貴族席の後ろに増設できないか考えて見てくれ」

「承知しました」

「三つ目だが、それは今度から一戦ごとの券を購入出来る様にする手はずになっているから問題は無いはずだ、ただ一般席の方へ券を売る場所の増設を行わないと、混雑して購入できない人が出るだろう、アドルフ、これもお願いする」

「はい」

「エレン、他に何かあるだろうか?」

「いえ、ございません」

「ではアンナ、お願いします」

「はい、私は女性部門の控室で救護を担当しておりました、女性で回復魔法を使えるのが私だけでしたので、初日と二日目は魔力が切れそうになり大変でした、三日目は怪我人がおりませんでしたので大丈夫でした」

「そうか、アンナすまなかった、俺が行って手伝えばよかったな」

「エルレイ、教えてくれればお姉ちゃんが行ってあげたのに」

「そうです、私も治療に行きましたよ」

「貴族達が大勢いる中、リリーとアルティナ姉さんを行かせる訳には行かなかったんだよ」

「そんなの気にする事無いでしょうに」

「そうですよ、エルレイさんいつも他の貴族なんて気にする必要無いって言ってるじゃないですか」

リリーの言う通りその様な事は言ってるけど、ロイジェルク様もいたからな、娘をそんな所にやったとなってはただでは済まない気がする・・・。

「いえ、エルレイの判断は間違っていないわよ、それに女性の控室であっても皆殺気立っていて危険だったのよ」

ルリアが二人の反論を抑えてくれて助かった、しかし殺気立っていたのか、怖いな・・・。

「今度からアンナ一人にならない様何とかする、アドルフ、それとカリナさん、使用人全員魔法を覚えて貰えないだろうか?」

「「承知しました」」

アドルフとカリナさんは夫婦だからだろう息がぴったりと合っていた。

「しかし、次回にまでは間に合いそうにないから、俺が女性部門に行くしか無いか」

「そこはお姉ちゃんが行くわよ、ロゼに着いて来てもらえば大丈夫でしょ?」

「俺が行くよりいいか、アルティナ姉さんお願いするよ」

「お姉ちゃんに任せておきなさい」

やはり十一歳とは言え、男の俺が治療するのはいい気がしないだろうからな・・・護衛にロゼが付いていれば問題は起きないだろう。

「アンナ、他に何か気が付いた事はあるだろうか?」

「はい、お水が無かったので皆汗を流すのに困っておりました」

なるほど、飲み物や食べ物は控室に用意させたが、そこは考えつかなかったな。

「ルリアもそうだったのか?」

「そうよ、気が利かないエルレイが作ったのだからこんな物だろうと思っていたわ」

確かに女性に気が利かないのかもしれないが、直接言われると心に傷を受けるな・・・。

「カリナさんやニーナもか?」

「いえ、私は汗をかいておりませんので」

「あたいもさね」

この二人は確かにそうかも知れないな、ほとんど一瞬で試合終わってたしな・・・。

「汗を流す事が出来る様何とかしてみよう、ルリア後で一緒に考えてくれ」

「分かったわ」

「ラルフはそう言うのは無かったのか?」

「そうですね、確かに汗臭かったですが気にしておりませんでした、特にその様な事を言っている者もいませんでした」

「まぁ男なんてそんなものだよな、でも一応用意しておくか、アンナ、他に何かあるだろうか?」

「いえ、ございません」

「そうか、何か思い出したりしたらいつでもいいから言ってくれ」

「はい」

「では最後に私から、毎日街道が混雑しましたので道幅を広げる必要が御座います、それと闘技場の外に設置された飲食店の数が足りなく、昼食時に混雑致しましたので更に数を増やす必要があります、収支に関しましては後日連絡いたします」

「それは俺が対応しないといけないだろう、当分また土木作業だな・・・」

「ふむ、仕方が無い私が手伝ってやろう」

ヘルミーネも出来る様になったからな、誰か護衛に着いて来てもらえれば大丈夫だろう。

「ヘルミーネ、お願いするよ」

「任せておくがよい」

「エルレイ様、ヘルミーネ様、よろしくお願いします、これで報告は以上となります」

「そうか、俺からと言うか父上から言われた事だが、流血する試合は女性や子供には刺激が強すぎるのでは無いのかと言われてな、トリステン、ゆっくりで構わないから警備隊の方で何かいい方法が無いか考えて見てくれないだろうか?」

「畏まりました」

流血する試合と聞いてラルフが顔をしかめていたが、これはラルフの試合に限った事では無いからな・・・。

「他に何かあるだろうか?」

俺がそう言うとラルフが恐る恐る聞いて来た。

「私はまた武闘大会に出ないと行けないのでしょうか?」

「そうだな、ラルフは人気者だから出て貰いたいが嫌なら出なくても構わないぞ」

「出来れば遠慮したいです」

やはり狂人と呼ばれるのは嫌なのだろうな、俺もそう呼ばれていい気はしないからな・・・。

「分かった、ラルフが嫌だと言うのなら出なくて構わない、無理強いはしたくないからな」

「ありがとうございます」

「それで、他の者はどうなのだ?」

「私はまた出たいです!」

「私も出たいです!」

「私も出ます!」

オスカル、トーマ、フリストの三人は出たい様だな、しかしエリオットは反応が無かったな。

「エリオットは出たく無いのか?」

「そうですね、私は仲間を傷つける事が出来ないので辞退させて頂きます」

「エリオットらしいな、あの試合トーマと正面から戦っていても負けていたと思うのか?」

「多分そうだったのでしょう、自分の不甲斐なさを嘆くばかりです」

「いや、俺はそう思わないぞ、エリオットが仲間思いだから皆付いて来たのだろうからな、その気持ちを大切にするんだな」

「はい、ありがとうございます」

「このくらいだろうか、後で思いついた事があったらいつでもいいので知らせて欲しい、皆でいい武闘大会にしていこう」

「「「はい」」」

この後アドルフと詳細を打合せしてその日を終えた。


翌日、ヘルミーネとロゼとラウラを連れて街道の拡張にやって来た。

ラウラは護衛と言うよりヘルミーネのお世話係だな、勿論魔法だけに関して言えばラウラも普通の魔法使いより十分すぎるほど強いのだが、実践となると経験が無いラウラでは厳しいだろう。

そこは俺とロゼで守って行けばいい話だ。

ヘルミーネは久しぶりに外出が出来て楽しそうにしていた、遊びでは無いのだが城の外に出られることが嬉しいのだろう。

「ヘルミーネ、まずロゼに教えて貰って道の下地を作っていてくれ、俺は上に敷く石畳を作って来るよ」

「うむ、分かったのだ」

俺が飛び立とうとしているとラウラに止められてしまった。

「エルレイ様、お待ちください」

「ラウラ、どうかしたのだろうか?」

「はい、エルレイ様をお一人にする訳には行きませんので私が着いてまいります」

「そうか、ロゼ構わないだろうか?」

「はい、ラウラをお連れ下さい、ヘルミーネ様は私がお守りします」

「では任せた」

ラウラも空を飛ぶ事は出来るが、やはり抱いて行くのが正解だろう、と言うかここで抱いて行かなかったらロゼの時みたいに泣かれては困る、俺は学習したのだ・・・。

「ラウラ、抱いて行くからな」

「はい、お願いします」

ラウラを抱きかかえて飛び立つ、やはりラウラはとても柔らかく気持ちが良い、ずっとこうしていたい気分だ。

ラウラはしっかりと首に腕を回していて、俺に体を預けて来ている、表情はいつもと変わらないがな。

「エルレイ様、何処まで行かれるのでしょう?」

「あの山までだからすぐ着くよ」

「そうですか」

ラウラさんはそう言うと腕に力を入れてしがみついて来た。

少し怖かったのだろうか?確かに俺が誰かに運ばれると考えたら怖いと思うな・・・これだからルリアに気が利かないと言われるのだろう。

しかもラウラは自分で飛べるから尚更だ、俺は飛ぶ速度を落とし降りる時も出来るだけゆっくりと降りた。

山の土を使いいくつもの石畳を量産していき戻って、ヘルミーナとロゼが整地した所へ並べて行く。

そして昼食はいつもの様に外で摂る事にした、ヘルミーネがいるから一度戻ろうかと考えたが、出掛ける際ロゼとラウラがお弁当を用意していたから戻って食べるとは言えなかった。

まぁ誰か近寄ってきたら排除すればいい話だしな、実際俺が山に行っている間に男が見物がてら寄って来た様だがロゼが強制排除した様だしな。

街を出てすぐの所だったから人通りも多く、さらに武闘大会が終わったばかりで帰路に着く者が多かったからな・・・。

街道より少し離れた所にテーブルと椅子を作り、ロゼとラウラが昼食の準備をしてくれて完成だ。

昼食を食べながらヘルミーネに話を聞いて見る事にした。

「ヘルミーネ、作業はつまらなかったのでは無いのか?」

「そんなことは無い、楽しかったぞ」

「それならいいんだが、単純な作業でヘルミーネが飽きているのでは無いのかと思ってな」

「エル、これは人々の為になる大切な作業なのだろ、たとえ飽きたとしても私が止めることは無いぞ」

「そうか、ヘルミーネすまなかった」

「うむ、だが訓練とは違い外での作業は楽しいからな、これからは必ず私も連れて行くのだぞ」

「約束するよ、ラウラは俺といて退屈では無いのか?」

「エルレイ様との会話と訓練をしておりますので退屈しておりません」

ラウラとは午前中ずっと一緒にいて話をしながら作業をしていた、話と言っても俺が一方的に話しているだけだが・・・。

それと何もしていないと退屈だろうし時間無駄だろうと思い、俺の隣で魔法の訓練をして貰っていた。

ラウラがそう言うのなら構わないのだろう。

「道路の拡張は今日で終わりそうだ、明日からは闘技場の方になるからな」

「うむ、わかったのだ」

数日間ヘルミーネ、ロゼ、ラウラを連れての土木作業となった。


闘技場の改修作業が終わり、数日間は通常通り事務作業と訓練を続けていた、ある日アドルフから緊急の連絡を受けたと報告された。

「エルレイ様、アヒム・ヴァン・リンデンベルガー男爵から救援要請が御座いました」

「救援要請?」

「はい、アヒム男爵領はラウニスカ王国と隣接しておりまして、ラウニスカ王国側から多くの難民が押し寄せて来たとの事です」

そう言えばラウニスカ王国は戦争しているのだったな、難民が来たという事は負けたのだろうか?

今はそれよりも難民対策を考えないといけないな。

「それで、アヒム男爵はどの様に言って来たのだ?」

「取り合えず食料を送って欲しいとの事です」

「分かったすぐ送るよう手配してくれ、それと難民の数はどれくらいか把握出来ているのだろうか?」

「今現在三千人ほどで、今後も増加すると予想されます」

「まぁそうだろうな、食料は送ればいいとして、難民をどうするかだよな」

「はい、下手に刺激すると暴徒となりかねません」

「俺が行って話しをした方が早そうだな」

「エルレイ様危険ですのでお止め下さい、男爵にこちらから指示を出せばすむ話でございます」

「確かに危険だな、だからこそ俺が行った方が被害を少なく出来るだろう」

ラウニスカ王国と言えば身体強化を使う者がいる、男爵に任せて殺されては後悔するだろうからな・・・。

「エルレイ様が出て行けば確かに被害は少なくすむでしょう、しかし領主が出て行かなくていい様に他の貴族がいるのです、どうかお考え直しては頂けないでしょうか?」

「アドルフ、俺が考え直すとでも思っているのか?」

「無理だとは思っておりますが・・・仕方がありません、私も付いてまいります」

「アドルフ、すまないな、俺とアドルフだけでは舐められるかもしれないから、オスカルも着いて来てくれ」

「私がでしょうか?」

「そうだ、オスカルは体格が良いから後ろに立っているだけでいいからな」

「分かりました」

オスカルと他の四人も最近執務室での作業を勉強していたから丁度良かった、後はリゼを連れて行けばいいな。

『リゼ、出掛けるから至急執務室へ来てくれ』

『承知しました』

「アドルフ、先にリゼと行って男爵の家を確認してから戻って来る、場所が分かる地図を見せてくれないか?」

「はい、こちらになります」

大まかな場所は街道を作った時に行っているから分かるが、男爵が住んでいる家までは知らないからな。

リゼを連れ男爵家を確認後、アドルフとオスカルを連れて男爵家を訪れた。

「アリクレット侯爵様、お待ちしておりました、中にお入りください」

玄関に着くと執事が出て来て中の応接室へと案内してくれ、応接室にはすでに男爵が待ち構えていた。

「アリクレット侯爵様、お忙しい所お越しいただき誠にありがとうございます」

アヒム男爵は俺に頭を下げたまま固まってしまった、名前を聞いた時は分からなかったがパーティの時に見た顔だな、あの時は名前なんて全く覚えなかったからな・・・。

「アヒム男爵、頭を上げてくれ、それと俺の事はエルレイと呼んでくれ、アリクレットだと父と兄も同じだからな」

「はっ、畏まりました、それでは私の事はアヒムと呼び捨てでお願いします」

まぁ男爵だから呼び捨ての方が正しいのだろうが、俺より年上だしな・・・しかし貴族の位に年齢は関係無いか。

「それで、難民は今何処にいるのだろうか?」

「はい、現在村の外の空き地にまとめて警備隊に見張らせております」

「分かった、ではそこに案内してくれ」

「えっ、エルレイ様自ら向かわずとも私が対応いたしますが・・・」

「アヒムの仕事を取る様で悪いが、俺が行った方が早いだろうと思ってな、すまないが案内してくれ」

「承知しました、馬車をご用意しますので少々お待ちください」

そう言ってアヒムは部屋を出て行った。

「やはり、俺が来たのは不味かっただろうか?」

「そうですね、アヒム男爵の立場からすると仕事を取られた訳ですからね、エルレイ様も部下を信じて見た方がよろしいのではないでしょうか?」

この前アドルフに言った事を返されてしまった・・・確かに男爵からするとこの領地を任せられている訳だからな、俺が手だししてはいけなかったか。

そうだな、交渉は男爵に任せて見るとするか?

「分かった、難民との交渉は男爵に任せる事にするよ」

「それがよろしいかと」

それから暫くして男爵が部屋に入って来た。

「エルレイ様、お待たせしました、馬車の用意が整いました」

何気に男爵が俺を呼びに来たが、こう言うのって執事が呼びに来るものでは無いのかな?

いや、そう言えば父上が男爵の時には執事はジアール一人だった、多分馬車の御者を務めるのも執事だから男爵が呼びに来たのは間違いでは無いな・・・。

俺も相当貴族の贅沢な暮らしに毒されてしまった様だ。

馬車に乗り難民の所へ向かった、馬車には俺、アドルフ、リゼ、それとアヒムの四人が乗っており、御者台にオスカルと執事が座っていた。

「アヒム、俺は後ろで見学しているから難民との交渉は任せる、別にアヒムの仕事を見に来た訳では無いのだが、執事に仕事を取るなと怒られてな・・・」

「はい、ありがとうございます、頑張らせて貰います」

それを聞いて先程まで落ち込んでいたアヒムの表情は明るくなった、やはり俺に仕事を取られて困ったのだろうな、申し訳ない・・・。

「交渉の方針だが、難民はこの地で受け入れる様にしてくれ、勿論支援は全面的にこちらで負担する、それと受け入れる条件だが、ラウニスカ王国の戦争が終わっても帰らない者だけに限定しよう、帰る者に支援しても無駄だからな」

「承知しました、しかし私の領内に受け入れる土地が御座いません」

「土地が空いていればそこを切り開くから問題無いぞ」

「田舎ですから空き地はいくらでもございますが・・・」

「なら問題無いな」

アヒムは納得がいかない様な表情をしていたが、俺に反論できるはずも無くそのまま考え込んでしまった。

そして馬車は難民がいる所へ到着をした。

俺達は馬車を降り、アヒムは警備隊に難民の代表者を連れてくるよう命令していた。

難民たちはここまで逃げて来て疲れ果てた表情をしていた。

『リゼ、障壁を張って警戒しておいてくれ』

『承知しました、エルレイ様もお気をつけて』

『難民とは言えラウニスカ王国だからな、気を付けておくよ』

『はい』

難民の中に身体強化を使える者がいるかも知れないから用心しておかないとな、アドルフ、オスカル、アヒムにも俺が障壁を張っておこう。

やがて警備兵が身なりのいい男性を連れてやって来た。

「私はマテュー・ボア・ゲーリケ、ラウニスカ王国では子爵位を授けられておりました、しかし今は難民の代表と言うだけですのでお気になさらず」

マテューと名乗る男性はそう言って頭を下げた。

「私はアヒム・ヴァン・リンデンベルガー男爵、この地の領主だ、マテューとやら、そちらの目的を聞こう」

アヒムは相手が子爵でも下手に出ず堂々としているな、子爵と言ってもそれはラウニスカ王国での話で此方には関係ないから当然の対応だな。

「はい、私達は戦火を避け逃げ延びてまいりました、可能であればこちらで生活する事をお許し願えませんでしょうか?」

「戦火と言うと、キュロクバーラ王国はかなり攻め込んでいるという事だな?」

「はい、お恥ずかしながら我が王国は攻め込まれております、そして王国は防御を王都に集中させ私の領地を守ってはくれませんでした」

ふむ、ラウニスカ王国は相当不味い様だな、しかし王都に防御を集中させれば身体強化を持つ者がいるから守りは堅そうだな・・・。

キュロクバーラ王国がどの様な国かは知らないが、俺個人としてはラウニスカ王国には滅びて欲しい、と言うか滅ぼしたいと思っている。

リリーやリゼ、ロゼ、それにニーナの事もあるからな、今から俺が王城を破壊して来ればいいのではとも思ったりする、中に住んでいる人全員悪い訳では無いからやらないけど・・・。

「そうか、領内で受け入れる事は可能だ、但し条件がある!」

「条件とはどのような物でしょうか?」

「ラウニスカ王国が今後どのようになるのか知らないが、二度とラウニスカ王国に戻らない事が条件だ!」

それを聞いてマテューは困惑の表情を見せた。

「条件は承知致しました、ただ私の一存で決める事が出来ませんので、お時間を頂けないでしょうか?」

「分かった、では明朝聞きに来ることにする、それと数日分の食料を後から届けさせる」

「アヒム様、ありがとうございます」

マテューはそう言って難民がいる所へ戻って行った。

「エルレイ様、いかがでしたでしょうか?」

アヒムが恐る恐る俺に尋ねて来た、アヒムは俺に見られて緊張していたのだろうな、なんか授業参観に来ている親のような気分になった・・・まぁ生前結婚した事も子供がいた事も無かったから知らないけどな。

「アヒム、見事だったぞ、そしてすまなかった、俺が来る必要全く無かったな」

「いえ、エルレイ様が後ろにいてくれたから自信を持って交渉する事が出来ました」

「そうか、では明日結果が分かったら知らせてくれ、それと他の難民からもラウニスカ王国の事を聞き出して貰えないだろうか?」

「はい、分かりました」

「アドルフ、こちらに送った食料は何時頃届くのだ?」

「明後日には届くと思います」

「と言う事だから、それまでアヒムの所で食料を融通しておいてくれ」

「はい、ありがとうございます」

その後馬車でアヒムの家まで送って貰い、そこから転移でリアネ城へと戻って来た、その場での転移はわざわざ情報を自ら渡すことは無いとアドルフに止められたからな。

執務室へ戻って来てアドルフに謝った。

「アドルフ、今回は俺が悪かった、申し訳ない」

「いえ、何事も経験ですからね、良かったのではないかと私は思います」

「まぁそうだな、アヒムがしっかりしていて助かったよ」

「はい、ロイジェルク様が配置なさいましたから、ゼリクイム様がそうであったように、国境に置く貴族はロイジェルク様が特に責任感が強い者を選んでおります」

「なるほど、そうだったのか、確かに父上は真面目で責任感が強かった・・・」

「ですが、今回エルレイ様が行った事は無駄では無かったようです、アヒム様はまだお若いですので、背後にエルレイ様がいた事で安心なさっていましたから」

「まぁ俺の勉強にもなったしな」

俺とアドルフは笑い合い、明日の事を話し合ってその日を終えた。


翌日アヒムより連絡があり難民の七割が残り、三割はラウニスカ王国に戻ると言う事だった。

「ではアドルフ、俺は難民の家と農地を作りに行って来るよ」

「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ」

俺が執務室を出て行こうとするとオスカルが声を掛けて来た。

「エルレイ様、私も着いて行ってはいけないでしょうか?」

「構わないが、アドルフ良いだろうか?」

「そうですね、それでしたら、エリオット、ラルフ、トーマ、フリストも連れて行ってください、住民の確認や登録に人手が必要でしょうから」

「分かった、お前たち行くぞ」

「「「はい」」」

五人は喜んで着いて来た、執務室で一日作業をするのはとても疲れるからな、だが今回の作業は執務室より大変になるだろう。

でもそれはこいつらのいい勉強にもなるだろうしな。

オスカルたちを連れて自分の部屋へと戻る、今日出掛ける事は分かっていたのでヘルミーネ、ロゼ、ラウラには待機して貰っていたからな。

部屋に入ると何故か全員揃っていた・・・。

「エルレイ、私達も着いて行っていいわよね!」

ルリアがまたしても疑問形では無く命令形で言って来た。

着いて来る分には構わないが暇だと思うのだが・・・。

「今日は難民の為に土地を開拓し家と農地を用意するから、皆暇になると思うのだが?」

「それでもたまには外に出たいのよ」

「分かった、ただし勝手な行動はするなよ!今から行く場所はラウニスカ王国との国境が近い、くれぐれも注意してくれ」

「分かっているわよ」

外に出たい気持ちは分かる、出来れば自由に出してあげたいが立場上そう言う訳には行かないからな。

「エルレイ様、私達も付いて行って構わないのでしょうか?」

エレンが俺に聞いて来た、エレン、アンナ、マリーの三人は最近ルリア達のお世話を担当している。

将来的には俺達の子供の世話を任せる事になるのだろう、以前ラウラが言っていた信用できるメイドとは彼女達の事だった訳だ。

俺も信用しているし、適任だったわけだな。

「勿論構わないぞ、ロゼ、全員分の昼食は用意できているのだろうか?」

「はい、すでに整っております」

最初から全員で来る気満々だったわけだな・・・しかし約二千人強の人数の家と農地を用意する訳で数日かかる、まさか毎日来たりしないよな?

「ルリア、今日だけだよな?」

「えぇ今日だけよ、毎日行ったら流石に迷惑でしょうからね」

迷惑だという事は分かっている訳だな、今日だけなら大目に見よう。

皆を連れてアヒム男爵の家の前に転移してきた。

「エルレイ様、お待ちしておりました」

執事が出てきて対応してくれたが、こちらの人数を見て戸惑っている様だった。

「すまないが、アヒムを呼んできてくれないか?この人数では中に入れないからな」

「承知しました」

執事は慌ててアヒムを呼びに家の中に入って行った。

「エルレイ様、お待たせしました」

「アヒム、急がせたようですまない」

「いえ、お嬢様方はこちらでお預かりした方がよろしいのでしょうか?」

アヒムがルリア達を見てどう対応していいのか困っている様だった、当然だな、これから土地を切り開くのに場違いな人達にしか見えない・・・。

「気にしなくていい、今日は見学に来ただけだからな、それより執事を五人連れて来たので住民の登録作業等に使ってくれ」

「それは助かります、それでエルレイ様この辺りの土地を切り開いて頂けますでしょうか?」

アヒムは地図を俺に渡して来た。

「分かった、日数は数日かかる、家の方を優先して作るから、登録が終わった住民をそちらで割り振って住まわせてくれ」

「分かりました」

アヒムとの打ち合わせが終わり、ルリア達の所に戻った、さて、どうやってこの人数を運べばいいだろうか、先に現場に行って転移で戻ってくるのが速いかな。

「ルリア、現場を確認して戻って来るから待っていてくれ」

俺がそう言うとルリアがにやりと笑った。

「エルレイは先行して頂戴、私達は飛んで付いて行くから」

「ルリアは飛べるだろうけど、飛べない者の方が多いだろう?」

「心配しなくても大丈夫よ、リゼを抱えて先に行ってちょうだい」

よく分からないがルリアがそう言うのだから着いてくるのだろう、もしかして複数人運べるよう練習していた飛行魔法が出来るようになった?

俺もあれからずっと練習しているが、交互に飛ばす事は出来ても同時にとなると未だに上手く出来ないでいた。

それが出来たとなると凄い事だが果たしてどうなのだろう?

疑問に思いながらリゼを抱えて飛び立った。

「リゼ、ルリアが何を考えているのか知っているか?」

「はい、口止めされておりますがすぐに分かる事でしょう」

「まぁそうだな」

振り返ってみると、アルティナ姉さん、ロゼ、ラウラと言った飛べる者以外をルリアが全員纏めて空を飛んでいた!

「えっ!」

俺はあまりの光景に驚いてしまった。

「あれはルリアが全員飛ばせているのか?」

「はい、エルレイ様に隠れて練習しておりましたから」

何と言う事だ・・・俺まだ二人同時に飛ばすのも出来ないんだけど・・・すごい敗北感が押し寄せて来る。

「もしかして、俺以外全員出来たりするのだろうか?」

「はい、アルティナ様、ロゼ、ラウラも出来るようですよ」

「なんと言う事だ、いやそれ自体は嬉しい事だが俺まだ出来ないんだけど・・・」

「ちなみに、一番最初に出来るようになったのはラウラです」

「えっ、ラウラが?」

「そうです」

半年前まで無詠唱できなかったラウラが・・・ラウラの上達速度が速かったという事だな、喜ばしい事だ。

俺が出来なかったことをラウラが出来たという事に衝撃を覚えながら目的地へとたどり着くと、俺の横にルリアがニヤニヤしながら近寄って来た。

むぅ、素直に褒めてやるのは悔しいので、ルリアを素通りしてラウラの頭・・・には手が届かないので抱き付いた。

「なんでラウラに抱き付いているのよ!」

ルリアが怒っているが気にせずラウラを褒めよう。

「リゼに聞いたぞ、ラウラが複数人同時に飛ばせるようになったんだってな、凄い事だぞ」

「え、あ、は、はい」

ラウラはルリアを見て戸惑いながらも答えてくれた。

「確かにラウラが考えた事だけど、実際に飛んだのは私よ!」

これ以上ルリアを怒らせるのは得策では無いな・・・非常に残念だがラウラから離れルリアに抱き付いた。

「なんで抱き付いて来るのよ」

「違ったのか?しかし大勢を一度に運べるとは凄いな!」

「凄いでしょう、でも実際やって見ると簡単な事だったのよ」

「そうなのか、後で教えてくれ、今は家を作る事が先決だ」

「そうね」

ルリアから離れ周りを見渡す、木や草に岩などありまずはこれの排除からだな。

「ルリアとロレーナでこの辺りを焼き払ってくれ」

「分かったわ」

「分かったのじゃ、ソル出番じゃ!」

「「了解だワン」」

「ウィル」

「はい、ご主人様」

「ソルに着いて行ってやってくれ」

「はーい」

ウィルは同じ妖精のソルととても仲が良くなっていた、部屋ではいつも二人で遊んでいるからな、今日は外で知らない人もいるかも知れないがソルと一緒なら大丈夫だろう。

「リリーは二人に付いて行って周りに人がいないか確認してくれ」

「エルレイさん、分かりました」

「リゼはリリーの護衛を頼む」

「はい、私も燃やして構いませんか?」

「構わないが、リリーを優先するんだぞ」

「それは勿論です!」

リゼは張り切ってリリーと共にルリアとロレーナの所へ向かった、若干不安はあるがルリアもいるし大丈夫だろう。

「さてヘルミーネ、家を作る事が出来るだろうか?」

「うむ、任せるのだ」

「では、ロゼこの前と同じ家を頼む」

「承知しました」

「ヘルミーネはロゼが作ったのと同じように作るんだぞ、決して格好良く作ったり大きく作ったりしてはいけないからな!」

「何故駄目なんだ?大きく作った方が喜ばれるのではないのか?」

ヘルミーネは不満そうな表情をしていた。

「そうだな、例えばルリアのベッドだけ豪華で大きかったらヘルミーネはどう思う?」

「むっ・・・それは嫌だな、私のも同じベッドにして欲しいぞ」

「そう言う事だ、家が一つだけ大きかったり格好良かったりすると、皆その家に住みたいと思う訳だ、だから出来るだけ同じ家にしないといけない」

「ふむ、分かった」

「それと家には番号も順番に振って行ってくれ、俺は整地に集中するよ」

「分かったのだ」

「承知しました」

「アルティナ姉さんとラウラ、それにエレン、アンナ、マリーは残念だが仕事が無い、ヘルミーネの所で見学していてくれ」

「仕事が無いのは最初から分かっていた事だから問題無いわよ」

「「「承知しました」」」

俺で全員の配置が終わったな、俺はルリアとロレーナが焼き払った所を整地して行くだけだな。

・・・そして昼食時いつもの様に準備をする、外での作業は昼食が一番の楽しみだからな。

今日はエレン、アンナ、マリーの三人が準備を進めていて、リゼ、ロゼ、ラウラは三人に任せて見学している。

今後は彼女達に任せて行くのだろう、しかし俺世話だけは譲らないとリゼはマリーと言い合いをしていたな・・・俺としてはどちらでも構わないのだが結婚するまではリゼの好きなようにさせておこう。

「ヘルミーネ、家は上手く作れたのだろうか?」

食事をしながらヘルミーネに聞いて見た、俺は整地に忙しく見ていなかったからな。

「うむ、ロゼのように素早く作れないが、何とか出来たぞ」

「そうだろうな、ロゼはこれまで何件も家を作って来たからな、焦らず確実に作ってくれればそれでいいよ」

「分かった」

家は複雑な作りだから、ヘルミーネには難しいかと思っていたのだが作れたようで良かった。

「ルリアとロレーナの所はどうなった?」

「大方焼き払ったわよ」

「終わったのじゃ」

「そうかありがとう、午後はゆっくりしていてくれ」

「えぇ、分かったわ」

「分かったのじゃ」

ふと足元を見るとソルが来ていて尻尾を振っていた、頑張ったから褒めて欲しいのだろうか?

俺はソルを抱きかかえて頭を撫でてやると、先程より早く尻尾が降られてとても喜んでいた。

「エルレイさん」

俺がソルを可愛がっていると隣でリリーが羨ましそうにこちらを見ていた、そっとソルをリリーに渡してやるとリリーはソルを抱きしめて可愛がっていた。

「リリー、次は私に寄こしなさい」

ルリアもリリーからソルを受け取ると嬉しそうに可愛がっていた。

「いいなぁ」

その光景を見てウィルが羨ましがっている様だ。

「ウィルちゃんおいで」

「わーい」

リリーが呼ぶとウィルは喜んでリリーの懐へと抱かれていった、ウィルは最近ようやく家族に触れられても怖がらない様になってくれていた。

それはとても喜ばしい事だがウィルが使える魔法は増えていない、ウィルに他の魔法を使えないのか聞いた所、女王様に使っちゃいけないと言われたそうだ・・・。

最初はなぜと疑問に思ったが、女王様なりの配慮なのだろう。

光魔法と言えば勇者時代にも使っていたが、周りを照らしたり敵を光線で貫いたり色々な強力な魔法があった。

その中で姿を変える魔法は上級に値する魔法だ、精霊だからこんな物なのだろうと思っていたが、女王様に止められていたとはね。

そもそも俺は女神の加護により全ての属性が使える、その上に精霊まで契約したから俺がこれ以上強くなり過ぎない様にと女王様が考えたのだろうな。

とは言え姿を変えるだけでも十分すぎるほど強力だから気にはしない。

午後からは整地に加え道も整備していく、家には徐々に難民が入居している様だった、しかし今日中にすべての住居を整える事は無理だな。

そしてすべての家を作り終えたのはそれから三日後の事だった。

「エル、終わったのだ」

「ヘルミーネ、よくやったぞ」

ヘルミーネの頭を撫でてやると目を細めて喜んでくれていた。

家はと言うと百件くらいを一つの集落としてこれは複数作って対応した、一か所に全部まとめてしまうと畑との距離が離れてしまうからな。

まだ畑は作っていないのでこれからだ。

家を作り終えて休憩しているとそこに、アヒムが馬に乗ってやって来た。

「エルレイ様、ありがとうございます、家はもう十分足りております」

「そうか、それは良かった、念のため多めに作ったがこれは難民がまた来た時の為に取っておこう」

「はい、そう致します」

「難民への必要な物資はアドルフに連絡してくれれば直ぐ送らせる様にしているからな」

「はい、すでに日用品を送って頂いております」

「そうか、アヒムが無理に負担することは無いからな、必要な物は遠慮なく言ってくれ」

「はい、ありがとうございます」

「それと俺の予想だが、今までいた住民から不満が出るかも知れないから、それも纏めてアドルフに連絡してくれ」

「よろしいのでしょうか?」

「本来であれば、要望に応じていては次から次に言われるからやらないのだが、今回は家と畑を難民に提供したからな、今まで住んでいた者からすると羨ましく思うだろう?」

「そうですね・・・それを抑えるのが私の仕事だと思うのですが・・・」

「そうだな、だが住民から畑を提供してくれと言われても答えられないだろう?」

「・・・申し訳ありません」

アヒムは本当に申し訳なさそうにしていた、俺が家や畑を作らなかった方が良かったのだろうか?しかしその場合難民たちを何処に送るかが問題になるな。

ここにとどめて置いても何も解決しないし、暴徒となって畑や村人を襲わないとは限らない。

かと言ってリアネの街に難民が押し寄せられても困るしな、リアネの街の周りには兵士達の為に作った畑で一杯だ。

今後も増える可能性がある難民はここにとどめておくしかない。

「いや、アヒムが謝る事では無い、普通こんなこと出来る者などいないからな、という事でその様な要望があったら俺が対応する」

「ありがとうございます」

「ところで、連れて来た五人の執事は役に立ったのだろうか?」

エリオット達は連日ここに連れて来て手伝わせていた。

「はい、難民への対応もきちんとこなしてくれて、彼らには助けられました」

「そうか、それは良かった」

自分の事では無いのに嬉しい物だな、頑張った彼らには何かしてあげないといけないな。

「ではこれから畑を作る作業に移る、畑と言っても土を掘り返すだけだから、肥料や植える植物はアヒムの方で考えてくれ」

「はい、承知しました」

アヒムは一礼して馬に跨り戻って行った。

「ヘルミーネ、ロゼ、畑を作るぞ」

「うむ、わかったのだ」

「はい」

水路と畑を作る作業はそこまで難しく無いが、広いので家を作るより大変だ。

移動はラウラがヘルミーネと一緒に飛んでいる、俺はまだ教えて貰っていない。

ルリアからこの作業がすべて終わったら教えて貰えることになっている、俺は我慢できなくてラウラに聞いて見たが、ルリア様に叱られますと言われそれ以上追及できなかった。

仕方なくルリアに教わる事にしよう、しかし畑作りは単調で、否応なしにどうやったら複数人を運べるかを考えてしまう。

例えば全員に飛行魔法を掛け、周りを障壁で囲ってしまえば行けないかと思った、しかしその方法だと障壁の中で人達がぶつかり合って危険だ。

部分的につなげばいいのかとも思ったが、これも上手く行きそうにない。

ルリアは精霊の森でソフィアさんがミルを使って飛んでいた様に違和感なく飛んでいたからな・・・。

悔しいがどれだけ考えても分からなかった。

俺は早く知りたくて、水路と畑を作る作業を急いで終わらせる事にした。

それから四日後ようやく作り終える事が出来た。

「ヘルミーネ、ロゼ、ラウラ、ありがとう」

「うむ、結構楽しかったぞ」

「「エルレイ様、お疲れさまでした」」

畑を作り終えた俺達は、アヒムにその事を告げてリアネ城へ戻って来た。

俺は執務室へ向かわず、ルリアがいる訓練場へ来ていた。

「あら、エルレイお帰りなさい」

「ルリアただいま、早速だが教えてくれ」

「エルレイ、アドルフに報告してきたのかしら?」

「いや、直接ここに来たぞ」

「呆れたわ、でもエルレイらしいわね、しょうがないから教えてあげるわ」

呆れた表情のルリアは俺の隣に来て飛行魔法を俺にもかけたのだろう、ゆっくりとルリアと一緒に浮かび上がった。

「分かったかしら?」

ルリアにそう言われたが全く分からなかった。

「いや、分からなかった」

「マスター、俺様分かったぜ!!」

グールは魔力が見えるからだろう、ルリアがどうやったか分かった様だ。

「グール、教えちゃだめよ!」

「勿論わかってるぜ!タダでは教えられないって事だろ!」

「その通りよ!」

くそー人の足元見やがって・・・しかしここは折れるしか無いな。

「ルリア、何が望みだ?」

「そうね、エルレイ、これは貸しにしておくわ」

貸しだと!一番怖い要求だな・・・貸しにされるとルリアの都合がいい時に要求されてしまう。

しかし今の俺には貸しを飲むしかない。

「分かった、要求を飲もう」

「ありがとう」

ルリアはそう言って笑顔を浮かべていた。

そうして俺は大きな貸しを代償にルリアから教えて貰った、なるほどラウラが使えたのが理解できた・・・。

その後アドルフに報告に行き、難民問題はひとまず解決した。


難民問題が解決した翌日、ロイジェルク様から陛下がお呼びだという連絡を受けた。

今日は昨日教えて貰った飛行魔法の訓練をしたかったのだが、急ぎの要件という事ですぐロイジェルク様の館へと向かい、そのまま王都へロイジェルク様と転移し王城へと向かった。

馬車の中でロイジェルク様に話を聞く事にした。

「ロイジェルク様、今回の陛下からの要件は何かご存知でしょうか?」

「うむ、急いで来て貰ったのはラウニスカ王国の件でな」

「ラウニスカ王国!」

俺は思わず叫んでしまった、昨日までそのラウニスカ王国からの難民の対処に当たっていたからな。

「エルレイ君の所に難民が来たのは聞いている、その話にもつながるのでな」

「そうですか、それでラウニスカ王国が滅びたのでしょうか?」

「いや、そうでは無い、陛下とはその話になる訳だ」

「つまり、ラウニスカ王国を滅ぼせと?」

「簡単に言ってしまえばそう言う事だな、ただ、こちらから軍を出すつもりは無い」

ラウニスカ王国を滅ぼす事には賛成だ、陛下が命じてくれれば喜んで行って来よう。

しかしロイジェルク様の表情を見ると、ただ滅ぼすだけでは無いように思える。

「私だけで行って来いという事でしょうか?」

「そうだな、私は反対したのだがエルレイ君はどう思う?」

「私一人で行けというなら、リリーの事もありますし喜んで行きます」

「君ならそう言うと思っていたがね、出来る事なら今回の件はあまりにも危険だから行って欲しくは無いのだが・・・」

「ロイジェルク様、ご心配ありがとうございます、やはり私はラウニスカ王国とは決着をつけておきたい、そう思うのです」

「分かった、ならばこれ以上は止めない、そして最大限君に協力しよう」

「ありがとうございます」

馬車は王城へと着き、陛下の執務室へと案内された。

室内には陛下、ロイジェルク様、俺の三人しかいない、つまりこの前のルフトル王国の件と同じで他の貴族には話せない内容だという事だろう。

「エルレイ、急がせてすまなかった」

「いえ、構いません、それで要件と言うのはどの様な物なのでしょう?」

「うむ、今キュロクバーラ王国から使者がキュロクバーラ王の親書を携えてやってきておってな、それがこれだ」

陛下は親書をロイジェルク様の前に置いた。

「拝見いたします」

ロイジェルク様は親書を受け取り読み始め、読み終わった所で俺に渡して来た。

「拝見させていただきます」

こういうのって読んでいいのかと思ったが、陛下が渡してくれたのだからいいのだろう・・・。

相変わらず堅っ苦しい文章で読むのに苦労する、意訳するとこんな感じだ。

(ソートマス王元気~?俺は超元気~元気過ぎてラウニスカ王国に攻め込んじゃった~。

ところがちょーっと苦戦してるんだよね~、そ・こ・で!アイロス王国を攻め滅ぼした魔法使いを貸して欲しいんだ~。

もちろんタダとは言わないよ~、とは言え魔法使い一人貸して貰うだけだから、そっちも欲張らないよね~?

本当は別に貸して貰わなくてもいいんだけどさ~、終わった後の事を考えるとそっちも都合が良いと思うんだけどな~。

俺の兵士たちが元気過ぎて思わずそっちにまで行ったら困るだろうと思ってね~。

俺って超親切だよね~、という事でいい返事を期待してる~。

追伸、今そっちに行ってる部下に何かあったら分かってるよね~)

と言う物だった、意訳はちょっとやり過ぎた感があるが、俺を貸せと言うだけの事だな。

親書を読み終え陛下の前に差し出した。

「エルレイ、行ってくれるか?」

「はい、陛下のご命令とあらば喜んで参りましょう」

「そうか、助かる」

俺がそう言うと陛下は笑顔を見せていた。

「陛下、条件はいかがなさいますのでしょうか?」

ロイジェルク様が俺を貸し出した際の条件を陛下に問いただした、つまりラウニスカ王国の土地をどれくらい貰うかという事だろう。

「そうだな、三分の一は欲張り過ぎだろうか?」

「流石にそれは厳しいかと・・・」

陛下とロイジェルク様はしばし考え込んでしまった。

「あの、よろしいでしょうか?」

「エルレイ、何かいい案があるのか?」

「はい、土地を貰わず不可侵条約だけ結んではいかがでしょうか?その場合土地を貰わなかった分はキュロクバーラ王国への貸となります」

「ふむ・・・ロイジェルクどう思う?」

「その方がよろしいかと、恒久的には無理でも一時的に我が王国を攻める相手がいなくなります、その間に国力を上げ戦力を蓄えて置ければ我が王国は安泰かと思われます」

ロイジェルク様が俺の意見に捕捉をしてくれ、陛下は暫く考え込んでいた。

「・・・分かった、その案で行くとしよう、使者への返事は明日行う事となっている、エルレイ、出立の準備を整え明日王城へ来てくれ」

「承知しました」

王城を出て帰りの馬車に乗っていた。

「ロイジェルク様、今回の件、ルリアに説明したいと思いますがよろしいでしょうか?」

俺がそう言うとロイジェルク様は厳しい表情を見せた、出来れば俺もルリアには黙って行きたいのだが、そういう訳にはいかない。

「エルレイ君、ルリアには秘密にしてもらいたいのだが・・・」

「申し訳ございません、とある事情により俺の行動が家族に筒抜けなのです・・・」

俺はロイジェルク様にヘルミーナが持っている魔道具について説明をした。

「なるほど、それは仕方が無いな・・・」

「はい、説明しないで行った場合、ルリアがラウニスカ王国へ飛んでくる可能性があります」

「そうだな、ただし今回はルリアを戦場に連れて行く事は避けてくれ」

「はい、私もそう決めております」

「よろしく頼む」

ルリアへの説得は苦労しそうだが連れて行く訳には行かない、ルリアが着いて来た場合リリーも来る事になるだろう、それだけは絶対避けなければならない。

「話は変わりますが、ロイジェルク様は魔法を使えるようになったのでしょうか?」

「うむ、ユーティアに支払う代償は大きかったが使える様になった、ただ魔力はあまり増えなかったがな」

ロイジェルク様はそれは嬉しそうな表情を見せていた、ユーティア様に支払った代償は気になるが教えてはくれないだろうな・・・。

「魔力に関してですが、警備隊を使って調べた結果、個人差はありますが年齢と共に魔力値に限界がある事が分かりました」

「そうか、残念だが仕方あるまい、しかし念話が使える様になり便利になった、エルレイ君ありがとう」

「いえ、お礼はユーティア様へお願いします」

「そうだな・・・それで以前言っていたパーティだが、エルレイ君が戻ってきたら開催する事にする」

「分かりました」

その後ロイジェルク様を送り届けてリアネ城へ戻って来た、そのまま執務室へ向かいアドルフに報告をする。

「エルレイ様、お帰りなさいませ」

「アドルフただいま」

「それで、陛下からのご要件はいかがでしたのでしょう?

「明日から俺はキュロクバーラ王国に行く事になった」

「左様でございますか」

アドルフはそれを聞いても平然としていた、驚くと思っていたが意外だ・・・。

「アドルフは驚かないのだな?」

「はい、陛下に呼ばれた時点である程度予想しておりました、キュロクバーラ王国とラウニスカ王国との戦争が膠着状態の陥っていると伺っておりましたから、ただラウニスカ王国からの要請だと思っていましたが、外れたようですね」

「ラウニスカ王国からの要請だと俺は蹴っていたがな」

「そうですね、その点は良かったのかも知れませんね」

「ルリア達は置いて行くから、後の事は頼んだぞ」

「承知しました、エルレイ様はルリア様に黙って行かれるおつもりですか?」

「いや、きちんと説明してから行く」

「その方がよろしいかと」

アドルフへの報告を終え、夕食後部屋でルリア達に説明する事となった。

「皆聞いてくれ、俺は明日からキュロクバーラ王国へ行く事となった、それで皆には留守を頼む!」

皆は俺の話を聞いてしばらく沈黙していたが、ルリアが声を発した。

「エルレイ、私はついて行くわよ」

「ルリアにはリアネ城を守っていて欲しいんだよ、難民の件もある、俺の代わりに皆を纏めてはくれないだろうか?」

ルリアは暫く考えて答えを出してくれた。

「・・・分かったわよ、ただしちゃんと帰って来るのよ!」

「勿論だよ、リリーはルリアを手伝ってやってくれ」

「エルレイさん、分かりました」

「うむ、難民の家と農地は私に任せておけ」

「ヘルミーネ、頼んだよ」

「お姉ちゃんはついて行きたいけど、これで我慢しておくわ」

アルティナ姉さんは俺をぎゅっと抱きしめて来た・・・。

「必ず帰って来るのよ!」

アルティナ姉さんは小さな声でそう言った。

「約束するよ」

俺がそう答えるとアルティナ姉さんは笑顔を見せ離れて行った。

「ロレーナ、お姉さんとして皆を支えてやってくれ」

俺がお姉さんを強調して言うとロレーナは笑顔になり胸を張っていた。

「エルレイ、安心するのじゃ、お姉さんが皆の事をしっかり守っておくのじゃ」

ロレーナはニコニコして皆を見ていた、他の皆はそんなロレーナを優しい目で見つめていた、お姉さんと言ったがどちらかと言うと皆の可愛い妹だと思っているが暗黙の了解で皆黙っている。

「ロゼ、ラウラ、皆を守ってやってくれ、頼んだぞ」

「「承知しました」」

さて残る一人だが、期待の眼差しでこちらを見つめている。

「リゼは辛い役目だが俺に着いて来てもらう」

「はい」

リゼは待ってましたとばかり元気な声で返事をした。

皆もリゼが着いて来る事には反対はしない、と言うより俺が誰も連れて行かなかったらまたルリアが着いて来ると言い出しそうだしな。

最初はリゼでは無く飛行魔法が使えるロゼを連れて行こうかと考えたが、ロゼは常に冷静に判断して皆を守ってくれるからな、そちらの方が大事なのでリゼを連れて行く事にした。

もちろんリゼにそんな事は言わない、ただリゼだと攻撃の面では優れているからな、訓練により魔法の精度も上がっている事だしリゼでよかったと思う。

「何日かかるか分からないが、毎日連絡するよ」

「約束よ」

その後明日の準備をしてから就寝した、


翌日ロイジェルク様を連れて王城へと着いた。

今日は謁見室へ案内されたが、いつもの場所では無く横に立たされた。

キュロクバーラの使者がお客だからこの位置なのだろう、とても新鮮な気分だ、ここだと面倒な受け答えもしなくて済むのでいいな。

暫くすると陛下が入って来て椅子に座った、その後に扉が開かれキュロクバーラの使者と思われる人物が入場してきた。

なるほど、こんな感じになっていたんだな、俺は使者が膝を突き頭を下げる様子を見学していた。

「面を上げよ」

使者が顔を上げた、なかなかいい男だな、鍛えられた身体つきと精悍な顔立ちをしている。

「マティアス、キュロクバーラ王の要請を受ける事にした」

「はっ、ありがとうございます」

あの人はマティアスさんと言うのか、名前も格好いいな・・・そんな事を考えていたら陛下から名前を呼ばれた。

「エルレイ、こちらへ」

「はい」

俺は何もしなくていいと思って油断していた、陛下に言われた通り使者の前に立った。

「彼が我が王国最強の魔法使いだ、丁重に扱ってくれよ」

マティアスさんは俺が子供だったことに驚いている様子だったがすぐに気を取り戻していた、しかし最強の魔法使いって陛下もキュロクバーラ王国に貸しを作る気満々だな。

「大切にします事をお約束致します」

「うむ、それとキュロクバーラ王にこれを渡してくれ」

陛下がそう言うと親書と思われる物を持った貴族がマティアスさんへと渡した。

「お預かりいたします」

親書の内容は聞いていないが、長い文章で貸しにしておいてやる!って書いてあるんだろうな。

「エルレイ、頼んだぞ」

「はい、必ずや使命を果たしてまいります」

「うむ」

そうしてマティアスさんと俺は謁見室を後にした、部屋を出ると外で待機していたリゼが俺の後ろから着いて来る。

マティアスさんは執事に案内されそのまま城を出る事となった、当然俺も一緒に着いて行き馬車へと乗り込んだ。

馬車にはマティアスさん、俺、リゼの三人、非常に気まずい・・・そうしているとマティアスさんが口を開いた。

「エルレイ、だったか?」

「はい」

「連れて行くのは一人のはずだが、そのメイドも連れて行くのか?」

「そうですが、何か不都合が?」

「残念だがメイドを連れて行くのは諦めてくれ」

「それはどうしてでしょう?」

「エルレイは我が王国の事を知らないのか?」

「名前は知っておりますが、詳しい事は何も知りません」

「そうか、我が王国はグリフォンを手懐けて乗り物としている、そして俺もグリフォンに乗ってここまでやって来た、グリフォンは二人までしか運べず、メイドを連れて行く事は出来ないという事だ」

なるほど、グリフォンの事は聞いていたが二人乗りか、グリフォンに乗れないのは残念だが飛んで行く事にしよう。

「分かりました、でしたら私達は飛んで行きますので気にしないで下さい」

「キュロクバーラ王国までどれだけ距離があると思っているのだ!」

マティアスさんは怒り出したが、そんな事も出来ない魔法使いを借りたのでしょうかと言いたくなるな。

「マティアスさん、私は王国最強の魔法使いですよ、そんなの簡単に決まっているじゃないですか、そうですね、グリフォンと競争しても構いませんよ」

自分で最強と言うのは恥ずかしいが、陛下が言った事だからな、それを否定する事は陛下の顔に泥を塗る事になるしな。

「分かった、その言葉忘れるなよ!」

「はい」

馬車は王都を出て郊外の空地へとやって来た、そこには三匹のグリフォンとキュロクバーラ兵がマティアスさんを待ち構えていた。

「マティアス様、お帰りなさいませ」

「うむ、グリフォンは無事だな?」

「はい、万全な状態で何時でも飛び立てます、それで魔法使いと言うのは・・・」

「うむ、この子供が最強の魔法使いだと・・・」

俺を見て周りの兵士達が驚いていた。

「では準備が出来次第帰るぞ!」

「はっ、しかし人数が一人多い気が致しますが・・・」

「魔法使いは自分で飛んで行くから構わないそうだ」

「はぁ、そうですか・・・」

兵士は首を傾げてこちらを見ていた。

やがてグリフォンに皆乗り込み、俺はリゼを抱えて飛び立った。

「全力で飛ばすぞ!!」

マティアスさんは部下に指示を出し、グリフォンが大きく翼をはためかせて速度を上げた。

俺も難なく着いて行く事が出来た、グリフォンの速度はルフトル王国のマルギットさんより遅く、リゼは遅い速度に退屈していた。

多分グリフォンも誰も乗せないとそれなりに早いのだろうが、二人乗っているからな。

マティアスさんのグリフォンだけ一人だから少し早い、グリフォンは魔法では無く普通に風を受けて飛んでいるからこれが普通なのだろう。

しかし風で飛んでいる分、上空の気流をうまくつかみ飛んでいるから、休憩する事も無くキュロクバーラ王国へと到着した・・・。


≪ホルフィーナ視点≫

私はアイロス王国第七王女、ホルフィーナ・フォーレ・アイロス、でした・・・。

毎日王城で優雅に暮らし、許嫁も決まってもうすぐ結婚、と言う所で私の人生は地に落ちました。

その日はいつも通り自室でお茶を楽しんでおりました、そうしていると父上が敵の魔法使いの手によって崩御され、王国軍が降伏したとの知らせが王城にもたらされました。

私は突然の事で呆然としてしまいました。

廊下からは人が走り回る音が聞こえ、やがて私の部屋へとメイドのナタリアが慌てて入って来ました。

「ホルフィーナお嬢様、逃げますので準備を致しましょう」

ナタリアはそう言って私の服を鞄に詰め込んでおりましたが、私は逃げる気力はありませんでした。

「ナタリア、貴方だけお逃げなさい」

「ホルフィーナお嬢様、どうか私とお逃げ下さい」

「逃げてどうなるのよ、私は王城の外では生きてゆけないわ」

これは本心でした、生まれた時から何不自由なく生活してきた私が、逃げた先でどうやって生きて行けるのでしょう。

「ホルフィーナお嬢様、私が全力でお守り致しますのでどうがお逃げ下さい!」

ナタリアはそう言ってくれたけど、六十を超えたナタリアに苦労を掛けるのは忍びないですからね。

「いえ、私はここで死ぬことにするわ、ナタリア、今までありがとう」

ナタリアは私が生まれた時からお世話をしてくれました、私の母上と同じ存在と言っていいでしょう。

ですからナタリアにこれ以上迷惑を掛けられません、潔く死ぬことに致しましょう。

私は立ち上がり、ナタリアがいつも果物の皮を剥いてくれるナイフを部屋の隅にある食器棚へ取りに向かいました。

「ホルフィーナお嬢様、どちらへ?」

「ナイフを取りに行くだけよ」

「ホルフィーナお嬢様、どうかお止め下さい」

ナタリアが必死に私を止めに来たけど、ナタリアに力で負ける事はありません。

私は幼い頃より剣術を習っておりました、アイロス王家では剣術を修める事は義務でしたからね。

父上はさぼっていた様ですが、今となってはどうでもいい事ですね。

ナタリアを押しのけ食器棚の前に辿り着いた時、私の部屋にナタリアの夫であるドナートが入って来ました。

「ドナート!ホルフィーナお嬢様を止めてください!」

ナタリアの悲鳴のような声を聞き、ドナートが私の腕を掴み止められてしまいました。

「ドナート、離しなさい!」

「いえ、ホルフィーナお嬢様離しません、それでナタリア準備は整いましたか?」

ドナートは私の手を握ったままナタリアに聞いていた。

「いえ、ホルフィーナお嬢様が逃げようとしてくれないのです」

「ホルフィーナお嬢様、どうか私とナタリアを信じて逃げてはくれませんか?」

ドナートは私の手を離し真剣な表情で聞いてきました。

「ドナート気持ちは嬉しいけど、私は外で生活していく自信は無いわ、だからここで死なせて頂戴」

ドナートは私の訴えを聞いてしばらく沈黙していました。

「・・・承知しました、ではホルフィーナお嬢様、ここで死んで頂きます」

「ドナート!あなた何を言っているの!」

ナタリアが悲鳴を上げドナートを止めようとしがみついていたけど、ドナートはそれを気にせず懐よりナイフを取り出し私に突きつけました。

私は目をつむりその時を待ちます・・・しかしいくら待とうとその時は訪れませんでした。

私はゆっくりと目を開けると、微笑んだ表情のドナートがいました。

「アイロス王国第七王女、ホルフィーナ・フォーレ・アイロスはここで死にました・・・」

私はドナートの言っている意味が分かりませんでした。

「これからは私とナタリアの娘、ホルフィーナとして生きてください」

ドナートは私の手を取りそう言ってくれました。

私は涙が止まりませんでした、今までもずっと実の両親以上にドナートとナタリアの事は思っておりましたから・・・。

「・・・こんな私でも娘だと言ってくれるのですね」

「はい、大事な娘を最後まで守って行きます」

「ホルフィーナお嬢様、私も最後まで付いて行きますからね」

「ナタリア、娘になったのだからお嬢様は止めて頂戴」

「はい、ホルフィーナ・・・」

ナタリアも涙を流し喜んでいた。

それから三人で準備をして王城を後にしました。

実の母や他の兄弟達の行方は分かりません、私達が出た頃にはすでに王城にはいなかったそうです。

ドナートは執事どうし王城のお金を分けたそうで、お金を沢山持っておりました。

ドナートに金額を教えられましたが、それがどれくらいの価値があるのか私には分かりません、お金の数は分かります、ただそれでその様な物が買えるのかが分からないのです。

ドナートはそのお金で馬車を雇い、ドナートの親戚の所へ三日かけてやって来ました。

馬車の旅は大変でお尻が痛くなり、何度もナタリアに撫でて貰いました。

今までも馬車には乗った事はありますが、板の上にそのまま座るのは初めての経験でしたからね。

私は辿り着いた時にはまともに歩く事が出来ませんでした。

ドナートの親戚の家は農家で家も小さく、三人で一部屋に住む事になりました。

その事に関しては覚悟しておりましたし文句もありません。

ただその家にいても私は何の役にも立たず、ただ一日部屋に籠る日々が続きました。

これではいけないと、私は農業の手伝いを申し出て見た物の、ドナートやナタリアの邪魔をするばかりでやはり役には立ちません。

体を動かす事は剣術をやっていたため出来るのですが、鍬を持ったことも、畑に植わっている野菜を見た事も無いのですから。

雑草を取ってくださいと言われ、まだ育っていない野菜を取って見たり、畑から出て来る奇妙な虫を見て驚いて尻餅をついて野菜を潰してしまったり、兎に角私がいては迷惑をかけるばかりなのです。

ドナートとナタリアはそんな私を怒るような事は無く、丁寧に教えてくれました。

そんな月日は流れ、私も少しは役に立つようになった頃、ドナートから王都に戻ると告げられました。

王都と言っても、今はソートマス王国から来た貴族の領地になっていて、リアネの街と言うのだそうです。

そんな所に戻って見つかっては殺されてしまうのでは?と思ったのですが、ドナートが心配ないという事でしたので信じて付いて行きます。

また馬車の旅だと聞きお尻が痛くなることを覚悟したのですが、三日かかった所を一日でリアネの街に着いてしまったのです。

多少お尻は痛くなりましたが、以前の様にでこぼこした道では無く、綺麗な石畳の道でしたのでそこまで痛くならすにすみました。

ドナートに聞いた所、その領主が道を魔法で作ったとの事でした。

魔法でその様な事が出来るのか信じられませんでしたが、現に道があるのですからそうなのでしょう。

リアネの街の様子は私には分かりません、王城から眺める事はあっても実際に歩いた事など無いのですから、通った時も馬車でしたからね。

ドナートが言うには以前より活気にあふれており、街も綺麗になっているとの事でした。

ドナートに連れられて街を歩き、警備隊の所に連れて来られました、私は思わず顔を隠そうとしたのですが、ナタリアがそれを止めました。

ドナートは武闘大会があるから私にそれに出て欲しいという事で、その選手登録が警備隊で行っているという事でした。

なるほど、ドナートは私に気分転換をさせたかったのでしょう、私は喜んで選手登録を行いました。

名前はホルフィーナ、変えた方が良いのではと思ったのですが、ドナートにその名前でお願いしますと言われ、そのまま記入しました。

参加料金は銀貨一枚ですか、意外とお高いですね・・・。

ふふっ、私も農民生活でお金の価値を分かる様になったのですよ。

お野菜が一個銅貨二枚から五枚程度ですから、一番安いお野菜で五十個も買えてしまいます。

もっと安くならないのかと文句を言おうとしたら、ドナートに止められてしまいました。

せっかく覚えた値引き、と言う奴をやってみたかったのですが残念です・・・。

ドナートが言うには参加料の銀貨一枚はとてもお安いという事でした、何でも選手には無料で宿が提供され、大会期間中は食事と怪我の治療も無料で行ってくれるという事でした。

確かにそう言われると安いのかも知れません、いえ、ちょっと見栄を張りました、宿の料金、食事の料金、怪我の治療代、いくらか分かりません。

私は選手登録書を受け取り、ドナートに連れられてまた街を歩きます。

ドナートに連れられてやってきたところは防具屋でした、そうですね、大会に出るのですから防具は必要です。

お店の中に入ると大勢の人が防具を求めていました、皆さんも武闘大会に出るのでしょう。

ドナートが私の為の防具をお店の人に頼むと、すぐに用意してくれました。

しかしそれは皮の鎧で、とても剣術で装備する物だとは思えませんでした。

今まで剣術の訓練の際着ていた鎧は金属製で、とても丈夫でしかも軽い物でした。

皮の鎧だと剣ですぐ斬られてしまいます、腕なんかは斬り落とされるでしょう。

ドナートにこれでは駄目だと言うと、武闘大会のルールで皮の鎧しか着てはいけないという事だそうで、そして剣は刃を潰してあるものが提供されるので、皮の鎧でも十分守れるとの事でした。

そうなのですね、刃を潰してある剣と言うのは使った事ありませんが、斬れないという事だけで使う分には同じ物なのでしょう。

皮の鎧と頭を守る兜を購入して、店の外に出ました。

兜だけは金属製なのですね、武闘大会のルールとして相手を殺してはいけない様なので、頭は金属製を着用しないといけないそうです。

それならば全身金属製でよろしいのでは?と思ったのですが、一試合の制限時間が設けられており、金属製だと決着が付かないからなのだそうです。

確かにそうですね、剣術の訓練時に鎧に当たっても痛くも痒くもありませんでしたからね。

この日は街の宿に泊まる事になりました、私は選手用に用意された所に泊まれるのですが、一人では危険だという事で大会終了までこの宿に泊まるそうです。

武闘大会は明日からという事なので早めに休ませて貰いました。

翌日、朝早くから起き、武闘大会が開催される会場へと向かいました、そこはリアネの街から歩いて三十分ほどの所にありました。

以前この様な建物は無かったと記憶しております、ドナートに聞いてみると、またもや領主が魔法で作ったのだと言うのです。

道はなんとなくわかりますが、流石に私を馬鹿にしすぎでしょう、いくら私が魔法が使えないからと言っても、このような大きな建物を魔法で作るなど出来るはずがありません。

ドナートを怒ると、私に対して嘘は申しませんと言われては、信じるほかありませんね・・・。

ドナートとナタリアは私に対して嘘をついたことは今までありませんでしたからね、私が気付いていないだけで嘘をついていたのかもしれませんが、分からない以上嘘をついていないという事です。

これだけの物を作れる魔法使い、お父様が負けたのは必然だったのかも知れませんね。

警備員に選手登録書を見せると選手の控室の方に案内されました、ここでドナートとナタリアとはお別れですね、選手以外は入れないという事でしたから。

ドナートとナタリアは観客席で応援しているという事でしたので、恥ずかしい試合を見せるわけにはいきません。

私は気合を入れて控室へと入って行きました。

そこは女性ばかりで男性の姿を見かける事はありませんでした、近くにいるメイドに聞いてみると女性部門の控室で男性が入って来る事は無いとの事でした。

今まで知らなかったのですが、私は女性部門に出場するようですね。

てっきり男性とも戦うのだと思っておりましたから、少し気が楽になりました。

開いてる席は・・・あの少女が座ってる隣が良いですね、しかしこのような少女が戦えるのでしょうか?

少し目つきがきつい子ですが話を聞いてみる事にしましょう、何せルールもよく分かっていませんからね。

「少しよろしいかしら?」

「何かしら?」

「ルールを教えていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「貴方、そんな事も知らないでよく出場しようと思ったわね」

この少女言い方はきついですが、礼儀作法はしっかりしているようですね。

どこかの貴族のご令嬢かしら?

「えぇ、昨日旅の途中でこの街に寄ったら偶然見かけて参加登録したのよ」

「ふーん、良いわ教えてあげる」

少女は私の事を怪しそうに見ていたけど親切丁寧に教えてくださいました。

「ありがとうございました」

少女にお礼を言い、忘れないうちに再確認いたしましょう。

女性部門の場合、予選二日間で三試合が行われ、三戦全勝すれば三日目の本選に出られるとの事でした。

一敗しても敗者復活戦に勝ち残れば出られるようですが、私は全勝めざしましょう。

暫くすると私の番号と名前が呼ばれました、剣は壁にかかっている物を自由に使えるようですね。

長さはどれも同じようでしたので、手前にある剣を選び闘技場へと出て行きました。

そこはすさまじい熱狂に包まれており、私は気圧されてしまいました。

そのせいで一試合目は旨く戦えず、相手からの攻撃を体に当てられてしまいました。

凄く痛いです・・・以前の私ならここで負けを認めていたいでしょう、しかし農作業で鍛えられた私はこのくらいの痛みはなんという事はありません。

そこで周りが気にならない様になり、目の前の相手に集中する事が出来て何とか勝利する事が出来ました。

痛みをこらえて控室に戻ると、メイドの子が近寄って来てくれて魔法で治療してくれました。

瞬く間に痛みは消えてしまいました、魔法は素晴らしいものですね、私も魔法が使えたらドナートやナタリアに苦労を掛けずにすむのかしら?

どうやっても魔法が使えるようにはならないのですから、考えるだけ無駄ですね。

私は治療してくれたメイドの子にお礼を言って席に座りました。

そうすると他のメイドが料理を持って来てくださいました、それよりも今は汗を拭いたいのでお水は無いのかと聞いたのですが無いとの事でした。

戦って汗をかくのですから、汗を流す場所を用意するのが当然の事でしょうに・・・怒ってもどうにもならないのでメイドにお願いして布だけ貸してもらいました。

以前の私なら体を拭くのもナタリアに任せっきりでしたが、農作業をするようになった私は自分で体を拭く事も難なくできます。

鎧を外し体を拭いていると、先程の少女が私の事をじっと見つめていました。

「何か変かしら?」

私は体の拭き方が変なのか尋ねてみました、何せ今までやってきて来なかったのですから、他の人から見ればおかしなところがあったのかもしれません。

「いえ、特に何もないわ、ただあまりにもあなたの体が綺麗だと思っただけよ」

少女の言っている意味がよく分かりませんが、とにかく褒められたのですからね、お礼を言っておきましょう。

「ありがとうございます」

「ふんっ!」

何か気に入らない事があったのでしょうか、少女は顔を横に向けてしまいました。

よく分かりませんが、体を拭き終えたので食事を頂く事にしましょう。

食事は城にいた頃に比べて少々辛いですが、悪くはありませんね。

農家にいた頃は野菜中心の食事で意外とおいしかったです、食べ物に関しては外の頂く物も美味しく食べられますから、その点に関しては良かったと思います。

午後にもう一試合あり、そちらはあっさりと勝つ事が出来ました。

二日目、もう一戦勝てば本戦へと進出する事が出来ますね。

控室は緊迫した雰囲気に包まれておりました、二勝の人、一敗した人は負けられませんからね、すでに二敗した人も試合はあります。

二敗した人は本戦出場の機会は無いのですが、何とか一勝しようと気合を入れているようでした。

当然私も負けられません、気を引き締めて試合に臨みました。

苦戦はしたものの何とか勝ち上がる事が出来、本戦出場の権利を得ました。

そこで余裕が出来たので他の人の試合も見る事にしました、明日本選で当たる人がいるかも知れませんからね。

まず目についたのはメイドでした、メイドがナイフを片手に持ち一瞬で勝負を決めていたのには驚きました。

お城にいた頃、確かにメイドは護身術としてナイフを常に所持しているのだと、ナタリアに見せて貰ったことがあります。

ただそれはあくまでも護身の為であって、実際にナタリアがナイフで戦うことは出来ないと言っていましたからね。

しかし目の前でメイドが戦っているのを見ると、実はナタリアもあのような事が出来るのではないかと思ってしまいました。

ナタリアはお年を召していますから無理かもしれませんが、他の若いメイドであればあのように戦えたのでしょうか?

そしてあのメイドも本戦出場を決めたようですね、あの動きからすると私では勝てそうにありません、出来る事なら当たらない事を祈りましょう。

次に目についたのもナイフを今度は両手に持っている人でした。

彼女も一瞬で勝負を決めていました。

少女にルールを教えてもらった時、確かに急所に剣を当てると勝負が決まると言っていましたね。

相手を殺さないと言うルールでしたから当然の処置でしょうが、少々ずるい気も致しますね。

ただあのように首に剣を当てる事は私には出来ませんね、ナイフを持っても同じことでしょう。

そもそもナイフで剣と戦う事がどれだけ不利なのかという事です、私にあのような芸当は出来ませんね。

そう思うとずるくないのかも知れません、願わくば二人と当たらない事を願うばかりです。

その他には気になるような方はいらっしゃいませんでした。

組み合わせ次第ではいい所まで行けそうですね。

予選のすべての試合が終わり、明日の本戦出場のくじ引きが行われました。

私が引いた番号は二番、一番を引いた方と戦う事になる訳ですね、私が番号札を眺めていると、以前ルールを教えて頂いた少女が近寄ってきました。

「あなたと戦うようね、よろしく」

そう言って少女は自分の番号札を私に見せてくれました、一番、なるほど、少女も本戦出場を果たしたようですね。

「よろしくお願いしますね」

私は余裕を見せる様に微笑んで返事を致しました。

彼女もここまで勝ち進んできたのですから油断しない方がよろしいでしょう。

全員のくじ引きが終わりトーナメント表が控室に張り出されました。

どうやらメイドともう一人のナイフ使いは決勝まで当たらない様ですね。

本戦は賞金が出る様ですから、一つでも多く勝ってドナートとナタリアの負担を減らせるよう頑張りましょう。

宿屋に戻ると、ドナートとナタリアは本戦出場できたことをとても喜んでくれました。

ドナートの説明によると、これで私がここの領主に捕まっても殺される心配は無くなったと言うのです。

私は王女ホルフィーナでは無く、剣士ホルフィーナになったのだと言うのです。

私としてはすでに王女のつもりはありませんが、世間はそうは思ってくれません、しかし今回の事で事実上王女では無くなったという事なのです。

私も嬉しくなり、ナタリアと抱き合って泣いてしまいました。

この喜びのまま明日は優勝を目指しましょう!

翌日私は第一試合ですから、いきなり試合です。

目の前に向かい合った少女は私より一回りも小さく、全てにおいて私が勝っていると思いました。

しかし試合が始まると、少女とは思えないほど力強いうち込みで私は攻撃を受けるので精一杯です。

しかも徐々に打ち込まれてくる速度が上がって来ます。

少女の剣を受け続けている私の腕は痺れて来て、剣を握っているのも辛くなってきました。

もう駄目です、そう思った時少女が目の前から消え、次の瞬間私は倒れて空を見上げていました。

少女はあろうことか卑怯にも足払いをして来たのです。

剣術の試合で足を使うなど貴族として許されない事です、私は怒りのままに少女に文句を言いましたが、逆に言い返されてしまい何も言う事が出来ませんでした。

そうでした、これは貴族の試合では無く武闘大会でした・・・。

足払いを食らわずともいずれ負けていたのは明白ですからね、悔しいですが素直に負けを認めましょう。

少女は強く決勝戦まで行きました、お相手は例のメイドですね。

勝負はメイドの勝利でしたが、少女も素晴らしい試合をしていて最後までどちらが勝っても不思議ではありませんでした。

表彰の折、領主から直接賞金を渡されました、しかし本当にこの子供が道を作りこの会場も作ったのでしょうか?

ドナートの言う事を疑う訳ではありませんが、にわかには信じられません。

しかし子供であっても父上の仇ではありますから憎しみがわいてきます、ここで仇を討ちたい所ですが討ったところで領主が変わるだけで何も変わりませんからね。

それにドナートとナタリアが悲しみますので、睨むだけにとどめておきましょう。

貰ったお金は少ないですが、参加費と防具代以上にはなりましたので良しと致しましょう、それに武闘大会は今後定期的に行われるとの事ですから、少しでも稼いでドナートとナタリアを喜ばせてあげましょう。

宿屋に戻り、貰った賞金をドナートに渡そうとしたのですが受け取っては貰えませんでした。

「それはホルフィーナが初めて稼いだお金ですから、大事に取っておいてください」

「私はドナートとナタリアの為に戦って稼いだのですから受け取って頂戴」

ドナートは暫く考えていましたが納得してくれました。

「分かりました、ではそのお金で夕食を頂きましょう」

そして三人でささやかな夕食を頂きました、そして残りのお金はやはり私に戻されましたが、またこのお金でドナートとナタリアに何か出来る事があればやってあげようと思い受け取りました。

翌日帰るための準備をするのかと思いきや、ナタリアにドレスを着せられました。

「ナタリア、これはどういう事なのかしら?」

「はい、今日からまたお嬢様に戻って頂きます」

「どうしてなのよ、私はドナートとナタリアの娘で構わないわ、それに今更お嬢様に戻ったとしても何処で生活すると言うのよ」

私がナタリアに文句を言っていると、着替え終わったのを確認してドナートが部屋に入って来ました。

「ホルフィーナお嬢様、私からご説明いたします」

「どうせ私が畑仕事で迷惑ばかりかけるからでしょう」

「いえ違います、今日までホルフィーナお嬢様を娘として見守って来ましたが、その間迷惑だとは一度も思った事はございません、それはナタリアも同じです、そしてとても楽しゅうございました」

「だったら何で急にそんな事を言うのよ!」

「ですが、楽しい時間もずっと続く訳ではありません、私とナタリアは何時お迎えが来ても不思議ではありません、それでは娘であるホルフィーナお嬢様を守って行く事が出来ないのです、ですので守って頂ける方の所にお嫁に行って頂きます」

「嫁にですって、もしかしてあの領主の所とは言わないわよね?」

私とあの領主では歳が離れています、離れていると言っても私が十六ですから、そこまで大きく離れている訳では無いでしょう。

ですが女性の方が年上と言うのは貴族の間では遠慮される物なのです、逆に女性の年下はいくら離れていても問題にはされません、理不尽ですが若い方がより多く子供を産めますから仕方の無い事なのでしょう。

それに父上の仇の所へはお嫁に行きたくはありませんからね。

「それは勿論違います、ただその傘下の貴族という事になるでしょう」

それならば仕方が無いかも知れませんね、確かにこのまま農作業を続けて行ったとしても、ドナートとナタリアが働けなくなった時私一人で二人を養えるかと言ったら無理だという事は分かっています。

そうですね、私が嫁に行き二人に楽をさせてあげるのが一番でしょう。

「分かりました、それで私はどうすればいいのかしら?」

「はい、これからホルフィーナお嬢様にはお城へ向かって頂きます」

「そんな事をすれば警備兵に捕まってしまうわ」

いくら私が世間知らずと言っても、そんな事をすれば捕まえられて牢屋に入れられる事くらい知っています。

「はい、ですから警備兵に捕まえて頂きます」

ドナートの言っている意味がよく分かりません、そんな事をしてどうしてお嫁に行けると言うのでしょうか?

分からないですけど、今はドナートの言う通りやるしか無いのでしょう。

「分かったわ、捕まった後はどうすればいいのかしら?」

「領主を呼んでいただきます、幸い警備兵は元王国軍の兵士です、それに隊長はトリステンの様ですから捕まっても悪い様には扱われないでしょう」

トリステン、その名前には憶えがあります、またの名を逃げのトリステン、貴族の間でそう呼ばれておりました。

トリステンは戦場で真っ先に逃げ帰ってきます、ですので貴族の間では役立たずと罵られておりました。

ですが父上はそんな逃げのトリステンを高く買っておりました、私も父上から教えて頂けなければトリステンの事をさげすんで見ていたでしょう。

トリステンはどんな過酷な所に送っても必ず部下の犠牲を最低限に抑えて帰って来るのです、それは一見役立たずの様に見えますが、部下を大切にする良い上司だと父上は言うのです。

確かに他の指揮官や貴族達は戦闘で成果を上げますが、味方の被害も大きく継続して戦闘する事が出来ないのです。

その点トリステンは逃げ帰ってくる際必ず敵の情報を持って帰ってきます、そして次同じ相手に向かう時は勝利するのです。

トリステンは部下を大切にしますから、部下からも慕われており、その為トリステンの部隊は結束力が高く、トリステンは非道な事を嫌いますので、彼の部下も同じく非道な行いを致しません。

それは戦場での略奪や無抵抗な人々への殺害などです。

ですから今トリステンが警備隊長という事でしたら、私が捕まっても決して悪いようにはされないとドナートは思ったのでしょう。

私もそう思います、ですので思いっ切り暴れて見る事に致しましょう。

ドナートは私に領主に嫌われるよう横柄な態度をとる様にと指示をされました。

交渉はドナートがしてくれるそうで、私はそれを反対すればいいという事です、ドナートがこう言うのですから素直に従っておけば間違いは無いのでしょう。

殺される事になってもそれはドナートとナタリアと一緒でしょうから、その方が良いのかも知れませんね。

宿を後にし、街を抜け貴族街へと入りました。

貴族街に入る際、警備兵がいましたが特に止められる事無く中に入る事が出来ました。

以前は貴族街に平民が入らない様にしていたと記憶しているのですが、どういうことなのでしょう?

中に入り歩いていると子供達がどこかに向かって歩いていました。

「ドナート、あの子供達は何処に向かっているのかしら?」

どう見ても平民の子供の様です、そもそもこの貴族街も今は誰も住んでいない様でひっそりと静まり返っています。

そんな所を平民の子供が歩いているのが不思議でたまりません。

「はい、街で聞いた所、子供達に無料で読み書きを教えている場所があるそうです、それがあるため貴族街の入り口は昼間は解放されているとの事でした」

なるほど、すんなり入れた訳はこれだったのですね、しかし読み書きを教えるとは何か意味があるのでしょうか?

貴族は当然読み書きは必要ですから子供の頃教えられます、しかし平民は読み書きが必要無いように思えます。

農作業を最近まで行って来た間読み書きが必要な事は一切ありませんでした、強いて言えば武闘大会に出場登録をしたときに名前を書いたくらいですね。

それも名前を言えば担当の者が書いてくれている様でしたから無くても困らない程度でしょう、よく分かりませんね。

無人の貴族街を歩き、城門までやって来る事が出来ました。

そこから見上げるお城の姿は以前と全く変わっておらず、思わず涙が零れそうになりました。

しかし泣いてはいられません、頑張って演技しなければならないのです。

私が騒ぎを起こすと、すぐさま警備隊長のトリステンがやって来て警備隊の詰め所へと連れて来られました。

トリステンは私を捕らえる事無く、着いて来て下さいとお願いして来ました。

どうやら私の顔は覚えていてくれたようですね、強引に連れて行かれる事を覚悟しておりましたが安心致しました。

ソファーに座らせて貰い、それから暫くして子供の領主がやって来ました。

ここからが勝負ですね、ドナート頼みましたよ。

私の演技とドナートの交渉は上手く行き、私に結婚相手を紹介して頂ける事になりました。

ここから演技は不要ですね、私の魅力を持ってお相手となる貴族といい関係を築けるよう努力いたしましょう。

一時間ほど待たされ、その間ナタリアに髪をとかして貰い、お化粧もしなおしました、見た目に落ち度は無いでしょう。

子供の領主は転移魔法を使うらしく手を繋いでくれと言われました、父上の仇の手を取る事は私には出来ません。

ドナートが気を利かせてくれて、私はナタリアと手を繋ぎました。

そもそも転移魔法と言うのが良く分かりません、そう思っていると今までいた警備隊の詰め所から一瞬で景色が変わり館の前に立っていました。

これが転移魔法と言う物ですか、凄いですねこの場所がどこかは分かりませんが、リアネの街では無い事は分かります。

転移魔法で私が驚いてしまったため御髪が乱れてしまいました、これから結婚相手に会う重要な時にこれではいけません。

ナタリアに急いで整えて貰い、館の中へと入って行きました。

装飾は派手では無く清楚な感じが致しますね、非常にいい感じです。

貴族の中にはとにかく派手であればいいと、眩いほど飾っている方もいらっしゃいましたが私の好みではありません。

その点この館の主は私と趣味が合いそうですね。

応接室へ案内され、お相手の方がお見えになるのを待ちます。

ドキドキしますね、変な方がお相手でなければよろしいのですが・・・。

部屋に入って来た方は、お優しそうな方で好感が持てました。

子供の領主が私の事を紹介してくださいましたが、訂正しておかなければなりませんね。

私はお城を出た時から王女では無いのですから。

紹介が終わるとすぐさまこの家の当主と子供領主は出て行き、三人となりました、いえ、私の後ろにはドナートとナタリアが見守ってくれています、気を引き締めてマデラン様とセシル様に気に入られるよう努力しなければなりません。

マデラン様とセシル様は笑顔で私に優しく語りかけてくれています、しかしここで油断してはいけません。

マデラン様はともかく、セシル様は笑顔でも目が笑ってはおりません。

私の事を見極めているのでしょう、私が逆の立場でもそう致します。

私はセシル様と仲良くなれる様にしないといけません、勿論マデラン様ともそうですが、それ以上に第一夫人とは仲良くならなくてはならないのです。

マデラン様には私の事は気に入って頂けたようでひとまずは安心です。

これからはセシル様に私が敵では無く味方だと言う事を知って頂かねばなりません。

何とかセシル様にひとまずは安心して頂けたようで、お二人のお子様を紹介して頂ける事となりました。

ロルフ君と言うのですね、非常に可愛らしく私も心を緩めてしまいそうになります、しかしここで気を抜いてはいけません。

奥様であるマイリス様がいらっしゃったのですから、勿論奥様にも嫌われない様にしないといけません。

この館で生活して行く為には重要な事ですからね。

マイリス様とセシル様と仲良く出来れば、将来出来る私の子供も安泰です。

その事は私の母上より教えられました、いずれ家庭を持つ時は旦那様は勿論の事、妻たちの間で仲違いをしては決していけませんと、何度も言われました。

そして、その事は間違いではありませんでした、実際に私の兄弟でも母親たちの仲が悪いとその子供達も同じ様に仲が悪くなりましたからね。

今日の所はマイリス様にもセシル様にも認めて貰い、私はここでの生活を許されました。

私の立場は妾という事でこの先辛い生活が待っているかも知れません、しかし農作業をしていた頃に比べれば大したことでは無いでしょう。

ドナートとナタリアもまだ私を支えてくれるようですし、頑張って行きたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ