第十八話 武闘大会
翌日トリステンは正式にニーナとの結婚を発表した。
結婚と言っても書類を提出する訳でも貴族の様にパーティーを開く訳でも無い、身内だけでお祝いするのが慣例だ。
トリステンの両親は田舎で農家をしているそうで、結局警備隊の部下たちと飲んで騒いだだけだそうだ。
俺が参加すると遠慮して騒げないだろうから辞退し、宴会費用は負担してあげた。
それから家も用意してあげようとしたら、二人から必要無いと言われた。
「元暗殺者のあたい家の管理はむりさね」
ニーナからそう言われ、トリステンは子供が生まれたら考えるとの事だった、すぐ生まれそうな気がするけどな・・・。
家に関してはその時また贈ってやろう、貴族街の一角を崩せば幾らでも建てられるからな。
俺は執務室で作業をしながら周りにいるアドルフや部下達の事を考えていた、彼等は結婚しているのだろうかと・・・。
もし結婚していなかったら、この職場は出会いとか皆無だよな・・・城内にメイドがいるが特に親しく接している所を見たことが無い。
会話が無いわけではないが、仕事にかかわる事しか話していない様だった。
しかも全員城の敷地内で寝泊まりしているから、さらに出会いは無いよな。
「アドルフは結婚しているのだろうか?」
「はい、しておりますが、それが何か?」
してるんだ・・・アドルフの妻を紹介された事は無い、もしかして単身赴任でこっちに来ていたりするのかな?
そうだとすると俺は酷い事をしていることになるな、しかし、今アドルフにいなくなられては非常に困る、アドルフの妻をこちらに連れて来るようにしないといけないだろう。
「見た事が無いと思ってね、もしかしてロイジェルク様の領地に置いて来ているのではないのか?」
「いえ、こちらに連れてきておりますし、エルレイ様も見た事があると思います」
「えっ、そうなのか?」
「はい、私の妻はカリナと言い、メイド長を務めております」
あぁ、あのきつそうな感じのメイド長・・・挨拶されたときカリナと言う名前は聞いていたが、そうだったのか・・・。
きつそうな感じと言っては失礼だな、メイド長としてしっかりとしていないといけないから、あのような感じになるのは仕方が無い。
ゆるい感じのメイド長だと、周りの皆がまとまらないだろうからな・・・。
「妻の表情は厳しいですが、とても優しい女性ですよ」
アドルフは俺の表情を見て悟ったのか、カリナをかばってきた。
「いや、よくやってくれているなと思っただけだぞ」
「そうでしたか」
アドルフはカリナの事を褒められて嬉しかったのか笑顔でそう答えた。
「もしかして、他の使用人達も同じように結婚しているのか?」
「はい、この城に勤めている殆どの使用人は結婚しております、また未婚の者に対しては相手を見つける事も私の仕事でございます」
「そうか、ここで働いていては相手が見つからないと思ったが、その心配は要らなかったようだな」
「はい、お心遣い感謝致します」
それについては一安心だな、武闘大会の準備は着々と進められている、俺が何か手出しをする必要は今の所無くなった。
となれば剣の訓練を行いたい所、やはり俺も武闘大会には出てみたいからな・・・。
「アドルフ、少し訓練に行ってきていいだろうか?」
「勿論構いませんよ、ここの所、作業も落ち着いてきましたので・・・ただし」
「ただし?」
「エルレイ様が武闘大会に出場する事は叶いませんので、よろしくお願いします」
えぇ~、何とか理由を付けて出場する事が出来ないだろうか・・・ここは知恵の絞りどころだろう!
「大会を盛り上げる為には俺が出た方が良くないだろうか?領主と戦える機会なんて滅多に無い事だろうからさ!」
「大会期間中、エルレイ様にはお客様をもてなす大事なお仕事が御座います」
うっ、確かにロイジェルク様達の相手は俺がしないと駄目だろうが・・・こうなればアドルフに気が付かれない様、ウィルに頼んで姿形を変えて出場すればいいか。
「後、変装して出場しようとしても発見次第棄権させますので、よろしくお願いします」
むぅ、リリーの髪の色はあれ以来ずっと変えているから、ウィルの能力は皆知る事となっている・・・ちなみに効果時間は一週間ほど続く事が分かった。
「どうしてもだめなのか?」
「はい、もしエルレイ様が出場して賞金を手に入れては、他の出場者からひんしゅくを買ってしまう事になりますが?」
「確かにその通りだと思うが・・・賞金を受け取らないと言う訳にはいかないか・・・」
「はい、主催者自らルールを曲げてはいけないかと」
「だよな・・・分かった、俺は出ないことを約束しよう」
「ありがとうございます」
それならば仕事を片付けるとするか、俺は書類に手を伸ばし作業を続ける。
「エルレイ様、訓練には行かれないのでしょうか?」
「終わらせてから行く事にするよ」
「ではお願いします」
午前だとトリステンの所で訓練出来る訳だが、出場しないのであれば午後から一人で訓練すればいいと思った。
それから二週間ほど経ったある日の事、朝食の後、用事があるからとアドルフから謁見の間の椅子に座らされた。
俺の左右にはルリア、リリー、ヘルミーネ、ロレーナ、アルティナ姉さんが並んでいる。
横の壁際にはアドルフを始めとして、リゼ、ロゼ、ラウラが並んでいた。
俺王様じゃないんだから大げさすぎると思うのだが、それにしてもいったい誰がこの部屋に入って来るのだろう?
謁見室の扉が開き、そこに入って来たのは執事服とメイド服を着た子供達だった、いや、もう栄養いっぱい取ったからか急成長をして子供とは言えない体型になってる者もいる。
オスカルなんか百八十センチ位あるのでは無いだろうか、エリオットもオスカルよりは低いが十分大人と言っていい体型になった。
他の者もそれなりに大きくなっている、マリーだけ年齢が低い事もあってあまり変わっていないな。
彼等が謁見室に使用人の格好で来ているという事はそう言う事なのだろう。
俺の前に横一列に整列して片膝をつき頭を垂れた、いや、俺王様じゃないからそんな事をされても困るんだが・・・。
「面を上げよ」
アドルフの言葉と共に顔を上げた。
「「「私達はエルレイ様に忠誠を誓い、誠心誠意努める事をお約束致します」」」
皆真剣な表情で俺を見て来ている、ここは俺が何か言ってあげないといけない所かな・・・何を言ってあげればいいんだろう、目上の人に対しては言葉が何とか出て来るが・・・。
でもいつまでも待たせるのは可哀そうだな、適当でいいか。
「よろしく頼む」
・・・・・・。
「エルレイ、それだけなの?」
あまりに短かったからかルリアが我慢しきれずに突っ込んで来た。
「なんて言っていいのか分からなくてさ・・・」
「もうしょうがないわね・・・貴方達が頑張った分だけエルレイはそれに答えてくれるわ、しっかり頑張りなさい!」
「「「はい」」」
これではなんかルリアに仕える様な感じだが・・・まぁそれでもいいか。
「しかし、お前達他にやりたい仕事とかあったのでは無いのか?」
数人なら分かるが、全員使用人になるのはアドルフの意図を感じてしまうが・・・。
「いえ、これは私達が望んだ事です」
皆を代表していつもの様にエリオットが答えた。
「そうなのか?」
「「「はい」」」
皆も即答したからそうなのだろう、それならば頑張って仕事して貰うだけだな。
「そうか・・・俺は領地を手に入れて間もない、仕事は忙しく大変だろうが頑張ってくれ」
「「「はい」」」
「ちゃんと言えるじゃない」
「まぁそうだな、そう言えばトリステンから帯剣の許可は貰ったのか?」
「はい、全員頂きました」
「そうか、それなら皆に剣を買ってやらないといけないな・・・アドルフ、今から買いに行って構わないだろうか?」
「勿論構いません、剣を持っていないと執事の仕事は務まりませんからね」
そうなの?執事ってそう言う物だろうか・・・いや、ヴァイスさん達の戦闘を見た後だからそうなのかもしれない・・・。
「では行くとするか」
「エルレイ、勿論私達も行っていいのよね!」
ルリアは俺を睨んでそう言って来た、疑問形では無く命令形だ・・・。
駄目だと言ったら間違いなく殴られるに違いない、俺はゆっくりとアドルフの方を見ると彼は頷いてくれた、どうやら殴られずに済む様だ。
「勿論皆で行こう、ただし剣を買ったら帰るからな、この前の様に一日中出歩かないぞ!」
「分かっているわよ、ただ美味しい食べ物は約束していたから買ってくれるわよね?」
確かに以前約束していたような気がするな、まぁ俺も食べたいから勿論買ってやろう。
「分かった、アドルフ、トリステンに警備をお願いしてくれないか?」
「承知しました」
俺達は皆で城の玄関に移動した、そこにはすでにトリステン達十名の警備兵が待機していた。
俺達がアドルフを含めて十八人、総勢二十八人での買い物となった・・・。
通行の邪魔にならなければいいが。
「エルレイ様、お待ちしておりました」
「トリステン、また迷惑をかけるがよろしく頼む」
「しかし、人数が多いですね、警護の人数をもう少し増やした方がよろしいでしょうかね?」
「いや、これ以上増やすとかえって混乱するぞ!」
「そうですね、では今回も徒歩で行かれるのでしょうか?」
「そうする、この人数で馬車だと更に動きが取り辛くなるだろう」
「承知しました」
トリステンは部下に指示を出し、前後左右に二人ずつ配置させ、トリステンとニーナは俺の警護となり歩き始めた。
「ところでニーナ、兜は付ていない様だが恥ずかしくなくなったのだろうか?」
以前は恥ずかしいからと兜にバイザーも下げていたのだが、今日は何もかぶっていない。
「エルレイ様、トリステンがこっちの方がいいと言ったのさね」
ニーナは顔を真っ赤にして俯きながらそう言った、あれか、ごちそうさまと言う奴だな・・・。
トリステンも少し顔が赤くなっている。
「そうだな、俺もそっちの方がいいと思うぞ」
ニーナの素顔は確かに綺麗だ、俺がそれを言うと色々不味い事になりそうだから黙っておく、トリステンもニーナを取ったりしないから睨まないでくれ・・・。
さてトリステンに嫉妬されない内に誰かと手を繋ぐことにするか、やはりヘルミーネを捕まえておくべきか・・・でもロレーナも手を繋いでおかないと、初めての街でこの前の様に怖がるかもしれないな。
前回街に行った時は八人で二人ずつ別れられたのだが・・・そうか!
俺はヘルミーネの手を右手で掴み、左手でロレーナの手を取った、多少動きにくいがこうしておけばいいだろう。
「エル、私は街で暴れたりしないぞ?」
「それは勿論わかっているが、ヘルミーネは手を繋ぎたく無かったか?」
「そうは言ってないぞ、勿論手を繋ぐのは嬉しいに決まっている」
「それならいいじゃないか、ロレーナもいいよな?」
「勿論じゃとも!」
ロレーナはにこにこと楽しそうにしていた、他の皆もこの前と同じように分かれてくれていた。
貴族街を抜け商店街へとやって来た。
「トリステン、武器屋はこの前の所でいいのか?」
「あのお店で問題ありません」
「分かった」
「エル、あの食べ物を買ってくれ!」
ヘルミーネが露店で売っているこの前食べたお菓子を指さしていた。
「ヘルミーネ、先に剣を買ってからだ、それにあれはこの前食べただろう?」
「そうだが食べたいのだ!」
「分かった、後で買ってやるよ」
「うむ、約束だぞ!」
ヘルミーネをなだめてようやく武器屋の前に来た、しかし、この人数で入る訳には行かないな。
「エリオット、お前達だけ中に入って好きな剣を選んできてくれ」
「承知しました」
エリオット達は慌てず、しかし表情はとても嬉しそうにしながら武器屋へ入って行った
「トリステン、付いて行って選ぶのを手伝ってやってくれ」
「分かりました、予算はどのくらいに致しましょうか?」
「気にしないでいいぞ、あいつらが気に入った剣を選んでやってくれ」
「はい、ニーナここは任せた」
「任されたさね」
トリステンも武器屋の中に入って行った、さて今の内に先程ヘルミーネが食べたがっていた物を買って来るか、とは言え両手に二人と手を繋いでいる俺では行けないな。
「アドルフ、すまないが先程のお菓子を人数分買って来ては貰えないだろうか?」
「承知しました、ですが一人では持てないのでメイドを連れて行って構いませんでしょうか?」
「勿論構わない、エレン、アンナ、マリー、手伝ってやってくれ」
「「「承知しました」」」
今のうちにこの後の予定を決めておくか、剣を買ったら帰ると言ったが、エリオット達に変わったスラムを見せておきたかった。
「この後、エリオット達にスラム街がどうなったか見せてやりたいと思うのだがどうだろう?」
「そうね、自分たちが住んでいた場所が変わってしまってあの子達がどう思うかは分からないけど、現状は教えておくべきね」
「エルレイさん、良いと思いますよ、綺麗な場所になっていて喜ぶと思います」
ルリアとリリーは賛成してくれたが、アルティナ姉さんが難しい顔をしている。
「アルティナ姉さんは反対でしょうか?」
「あの子達がエルレイに保護されなければ、他の人たちと同じように家と楽な仕事を貰えたのかと思わないかと思ってね」
あぁ、それは確かにあるかも知れないな・・・読み書きを覚えなくても十分生活出来る様にしたから、エリオット達にしてみれば不公平に感じるかも知れない。
となると連れて行かないほうが良いか?でも城内で仕事そしていればいずれ分かってしまう事だよな。
「あの執事とメイドは、この前壊したスラム街の住人じゃったのか?」
ロレーナが首を傾げて聞いて来た、そう言えばロレーナは知らなかったな。
「ちょうどロレーナに合う前にスラム街で保護した子供達で、城内で読み書きを教えていたんだよ。
その時からスラム街をどうにかしたいと思っていて、この前実行したと言う訳だ」
「そうじゃったのか、それなら見せるべきじゃな、エルレイはこの前ロゼに泣かれたばかりじゃろ、隠しておくとまた不要な問題を抱える事になるのじゃ」
うっ、ロゼに嘘をついたときは本当に困った、ロレーナの言う通り隠しておいた事がばれた時問題が起きるのは間違いないな。
「エルレイ様、よろしいでしょうか?」
ラウラが部屋の中以外で意見を言ってくるとは珍しい、外ではメイドと言う立場を守り余ほどの事が無い限り意見を言う事は無いからな、あの子達の教育係だったから思う所があるのだろう。
「ラウラ、何だろうか?」
「はい、あの子達は現状を知った所でそれを不満に思う事はございません、むしろ感謝する事でしょう」
ラウラは確信しているのか言い切ったな・・・一番あの子達の事を分かっているラウラが言うのだから間違いなのかも知れないな。
「うむ、あの子達の事は心配する事無いぞ、それよりスラム街に行くなら市場を通るよな!もちろんそこでも美味しい物を買ってくれるよな!」
ヘルミーネはお菓子の方が重要の様だ・・・。
「買ってやるが、少しはあの子達の気持ちも考えてやってくれ」
「エルは心配し過ぎだぞ、エルが思っている以上にあの子達は強いぞ!」
「そうね、お姉ちゃんの心配し過ぎかもね」
「それならいいが・・・」
そうしていると剣が決まったのか、店の中からトリステンが出て来た。
「エルレイ様、剣を選び終えたのでお願いします」
「分かった、この二人を頼む」
「承知しました」
ヘルミーネとロレーナをトリステンに預けて店の中に入った、それぞれ剣を握りしめ満足した表情でお互い見せ合っていた。
「エリオットはロングソードか」
「はい、これが一番体に合って使いやすいです」
ロングソードは攻守に優れていて非常に使いやすく欠点が少ないからな、俺も体型が大きくなればロングソードを選ぶだろう。
「ラルフのもロングソードの様だが、やたらと格好いいな!」
「エルレイ様もそう思いますか、一目見てこれだ!と思ったんですよ」
ラルフは剣を翳してポーズを取っていた、絵になるな。
ラルフが選んだ剣は鍔の部分が燃え盛る炎の様なデザインで見た目が格好いい、ただ使う時に少し邪魔な感じはするが、それでもやはり格好いいのを選びたくなるのは分かるぞ。
「オスカルのはツーハンドソードか?」
「はい、私の体型だとロングソードでは少し短いのです」
「確かにそうだな、でも振り回されない様気を付けた方が良いぞ」
「トリステン様にも言われました、これから筋力をつけたいと思います」
ツーハンドソードいわゆる両手剣と言う奴だな、俺も勇者の時は格好つけて持った時には、剣の重さに振り回されて使いこなせなかった、頑張って筋力をつけたのを思い出した。
「フリストのはシミターか?」
「エルレイ様、その通りです」
ロングソードの様な真っすぐな刀身では無く、湾曲した刀身を持つシミターは斬る事に特化している。
「その剣では突く事が出来ないが大丈夫か?」
「私の体型で突いた所で相手に届きませんからね・・・」
「今はそうだが、まだ大きくなるだろう」
「そうですが、私の戦い方にはこの剣があっています」
「フリストがそれでいいなら問題ない」
「はい」
最後はトーマだが腰に二本のショートソードを下げていた。
「トーマは二刀流か?」
「はい、二本は駄目だったでしょうか?」
「いや、構わないぞ、二刀流は使いこなせれば強いからな」
「はい、頑張ります」
「エルレイ様、トーマはまだ二本使いこなせていないんですよ」
「フリスト、お前黙っていろって言っただろ!」
トーマは二刀流使いこなせていない事をばらされて慌てていた、トリステンから剣を習い始めて間もないのに使いこなせるわけがないからな。
「別に使いこなせていなくて構わないぞ、剣に限らず何でもそうだが、努力し続ける事が重要だ、トーマはこれから努力していくのだろう?」
「勿論です!」
「フリストも二本にするか?」
「いえ、結構です、一本でも大変なのに二本は無理です」
全員問題無いようなのでお金を店主に支払い店を出る事とした。
「全員剣は鞘に入れておけよ、新しい剣を抜きたいのは分かるが、街中で不用意に剣を抜くと警備隊に掴まるからな」
「「「はい」」」
「まぁ心配しなくても毎日その剣を嫌と言うほど振らされるだろうからな・・・」
店の外に出るとアドルフが戻って来ていて、エレン、アンナ、マリーがお菓子を抱えていた。
どうやら待っていた様でヘルミーネが目の前のお菓子を食べられなくて怒っている様だった。
「皆先に食べていて良かったのだが?」
「そう言う訳には行かないでしょ、でもエルレイが来たから貴方たち配って頂戴」
「「「承知しました」」」
ルリアがそう言うと三人のメイド達がお菓子を配り始めた。
「エルレイ様、これは食べてもよろしいのでしょうか?」
ヘルミーネ達は受け取るとすぐさま食べていたが、エリオット達は受け取ったお菓子を見つめたまま固まっていた。
「勿論食べていいぞ、その為に買ったのだからな、それにアドルフも食べているだろ?」
アドルフも自分が食べないと他の使用人が食べられないと思い、率先して食べていた、俺もかぶりつく・・・美味い!
それを見てエリオット達も食べ始めた。
「「「うぅぅぅぅ」」」
見るとエリオット達は涙を流して喜んでいた、それはエレン、アンナ、マリーも同じだった。
「それより美味しい物を城で食べたと思うのだが?」
「そうですけど・・・」
「これはずっと食べたかった・・・」
「美味しい・・・」
そうか、この子達はわずか銅貨数枚の食べ物を買って食べる事も出来なかったのか・・・。
「もう泣くな、これからはいくらでも買って食べる事が出来るし、お前達と同じような子供が出来ない様にもする」
「・・・それは本当ですか?」
「言葉では伝わらないと思うから実際に見てもらおう、アドルフ予定変更するが構わないよな?」
「勿論構いません、エルレイ様は最初からその予定だったのでは?」
「そうだな・・・トリステン、そう言う訳だからもうしばらく付き合ってくれ」
「畏まりました」
元スラム街に行く途中市場でお菓子を買い与えた、こうしておかないと皆の機嫌が悪くなるからな・・・。
皆がお菓子に夢中になっている間に市場を抜け、元スラム街の入り口までやって来た。
「えっ!」
「これは・・・」
「どうして・・・」
「場所は間違ってないよね・・・」
皆は驚きのあまり言葉を失っていた、あの汚れた廃墟が立ち並ぶ場所では無くなっているからな。
道は綺麗に舗装され、整然と立ち並ぶ家は皆同じだが、とてもスラムだとは思えないだろう。
「ここがお前達が以前住んでいた場所だ」
「・・・エルレイ様がこれを?」
「そうだ、お前達を保護した後この場所をどうにか変えたいと思っていて、この間ようやくきれいにする事が出来た」
「ここに住んでいた人はあの家に?」
「そうだ、それと仕事も与えているから誰も食べる事に困ってはいないぞ」
「えっ、どの様な仕事を?私達もそうでしたがまともに働ける様な人はいないのでは無いのかと・・・」
「それに怪我や病気の人も大勢いたし・・・」
「街や街道の清掃を行って貰っている、勿論病気や怪我も治療したぞ、それはアンナやマリーもそうだったろう?」
「そうでした・・・」
「はい」
「あの時エリオットを捕まえる事が出来なかったら俺はこの場所を知らなかったし、綺麗にも出来なかっただろう、エリオットに感謝だな」
「感謝だなんてそんな、私は盗みを働いただけですから・・・」
「エリオット、あの時盗みを働いた事は悪い事だと思っていたか?」
「・・・はい」
「正直に話していいぞ、別にお前を罰するつもりは無いからな」
「分かりました、あの頃食べ物を盗む事は生きる為に必要な事で、悪い事だとは一度も思っておりませんでした、そしてそれはスラムの住人なら誰しも同じだったかと思います」
「そうか、今市場を通って来たが盗みたいと思ったか?」
「いえ、そんな事は思いません、もう二度と盗みを働かないとエルレイ様に誓います!」
「エルレイ、その聞き方は酷いんじゃない?」
「うむ、そうだな弱い者いじめは良くないぞ!」
「ルリア、別にいじめている訳では無いのだが、まぁ確かに酷い言い方だった、エリオットすまない」
俺はエリオットに頭を下げた、今どう思っているのか知りたかっただけなのだが、エリオットからしてみれば俺が脅しているように感じた事だろうな。
「エルレイ様、頭を上げてください、あの時盗みをした私が悪いのですから!」
「そうか、それとここにいた悪党達も排除したからな」
「えっ、私達を狙っていた人もですか!」
やはり狙われていたのか、捕まえられる前に助けられてよかった。
「そうだぞ、そこのお姉ちゃんが退治してくれたからな」
俺はニーナを指さした。
「えっ、あたい?」
「「「お姉ちゃんありがとう」」」
ニーナはエリオット達に囲まれ感謝を言われ、視線が集中した事で顔を赤くし困惑していた。
「トリステン、助けて欲しいのさね!」
「ニーナが倒したのは間違いないが、妻を助けるのは夫の役目だな、済まないが解放してやってくれ」
トリステンがそう言うと、エリオット達はニーナから離れて行った。
「トリステン、ありがとうさね」
ニーナはトリステンに抱き付き安堵の表情を浮かべ、トリステンもニーナを優しく抱きしめていた。
「さて、俺達は帰るとするか」
「そうね、邪魔しちゃ悪いだろうし」
俺達が歩き出すとトリステンとニーナは慌てて離れ駆け寄って来た。
「エルレイ様、護衛の私を置いて行かないで下さい」
「護衛は他にもいるから気にする必要は無かったのだが?」
周りの警備兵達を見回すと皆頷いていた。
「ほら、部下たちもそう思っているぞ」
「・・・すみません、気を許してしまいました」
「いや、新婚なんだし気にしていないぞ」
「それで帰りも徒歩でしょうか?」
トリステンは恥ずかしかったのか話題を変えて来た。
「もう一か所見ておきたい場所があるからな、アドルフ案内を頼めるか?」
「畏まりました」
アドルフは俺が何も言わなくても分かってくれたようだ、この流れでアドルフに頼んで行く場所は一か所しか無いからな。
「エル、何処に向かっているのだ?」
「貴族街だな、その後はリアネ城に戻って昼食だからもう何も買ってやらないぞ?」
「むっ、エルはケチだな」
ヘルミーネにしてみれば滅多に来られる場所では無いから少しでも多く食べたいのだろうが、食べ過ぎて昼食を食べない様では作って貰っている人たちに申し訳ない。
それにこの子達が見ている前でその様な事はさせられないだろう、食べ物を残している姿を見ていい気がしないだろうからな。
アドルフの案内の下貴族街の一角にやって来た。
「左の建物が生活するための施設で、右の建物が教育のための施設となっております」
左の建物の中に人影はいないが、右の方には十数人の子供達が席に座っている姿が窓から見えた。
「アドルフ、あの子供達は全て孤児か?」
「いえ、街の子供達が来ているようです」
「それは良かった」
「エルレイが言ってた施設がこれなのね」
「あぁそうだ、まだ人数は少ない様だが、この街に住む子供全員が読み書きを覚えて貰う事が理想だな」
「エルレイ様、ここにいる子供達も私達と同じようになるのでしょうか?」
エリオットが不思議そうな顔で俺に聞いて来た。
「使用人になるという事なら答えは否だ、エリオット達を保護した時このような施設が無かったから城で受け入れ、教育する者もいなかったからヘルミーネ、アルティナ、ラウラの三人に教えてもらった訳だ]
「そうなのですね・・・」
「しかし、エリオット達は運が悪かったな、俺に捕まってしまったからこれからの仕事は大変だぞ」
「いえ、私達は運が良かったのです」
「そうか、それなら俺は運が良かったと思い続けられるよう頑張らないといけないな」
それから城に戻り、エリオット達男性陣はアドルフに連れられ、エレン達女性陣はメイド長のカリナさんに連れられてそれぞれの仕事へ向かった。
しばらく失敗しながら仕事を覚えて行き、使い物になるのは半年以降だろうとアドルフは言っていた。
武闘大会へ向け忙しく準備が進み、ようやく開催一週間前となった、この頃になるとソートマス王国各地から参加者や観戦者が徐々に集まってきており、街は賑やかになっていた。
この日から参加者の受付も開始された、受付は警備隊によって行われ、参加費は銀貨一枚。
参加者には素泊まりの宿屋が無料で提供され、怪我の治療まで無料で行う事になっているから、銀貨一枚は破格の安さだ。
アドルフにはもっと金額を上げた方が良いと言われたが、出来るだけ参加者を多く呼び込みたかったから俺が押し切った。
そのおかげで受付の方は忙しいとトリステンからの報告もあった。
参加者が予想を大きく上回りそうだという事で、俺はロゼを連れて急遽宿屋の増設を行う羽目となり、寝泊まりするだけの物だから、簡単な建物を建てて行くだけの楽な物だった。
そして大会三日前、俺は執務室でルリアとアドルフに囲まれていた。
「私も武闘大会に参加してもいいわよね!」
ルリアは腕を組み俺とアドルフを睨んでいる、いや、威嚇している・・・。
「ルリア様、それは流石に許可する事は出来ません」
アドルフはルリアの威嚇に負けず平然とそれを拒否した。
「俺もルリアが傷付く姿は見たく無いなぁと・・・」
「エルレイ、私が負けると思っているのかしら?」
ルリアの声は低く明らかに怒っている・・・しかしロイジェルク様も見に来るわけだから許可する訳には行かない。
「ルリアが負けるとは思っていないよ、しかし王国中から集まって来るから、万が一ルリアより強い人がいるかも知れないからね」
「それこそ望む所だわ、強い人と戦ってこその武闘大会でしょう?」
「そうだけど・・・」
俺にルリアの説得は無理だ、アドルフに助けを求める事にした。
「ルリア様、今回ロイジェルク様にアベルティア様もお見えになります、エルレイ様が出場を許可されたとあってはお叱りを受ける事となるしょう」
流石アドルフその理由ならルリアも納得してくれるだろう、そう思いルリアを見るとにやりと笑っていた・・・。
「そうね、ではエルレイ、お父様に許可を貰いに行きましょう」
ルリアはそう言うと俺の手を握り、早く転移しなさいよと言わんばかりに詰め寄って来た、俺はルリアに逆らう事は出来ず・・・。
「アドルフ、すまないがちょっと行って来るよ」
「承知しました」
アドルフも流石にロイジェルク様の許可を貰いに行く事を止める事は出来ない様だ、ロイジェルク様がルリアを止めてくれる事を期待しよう・・・・いや、無理かなぁ~。
『ヴァイスさん、ロイジェルク様はご在宅でしょうか?』
『エルレイ様、ロイジェルク様はご在宅です、急用でしょうか?』
『急用と言えば急用かな、今から伺っても構わないでしょうか?』
『構いません、お待ちしております』
ルリアを連れロイジェルク様の館へ転移してきた、ベルを鳴らし暫くするとヴァイスさんがやってきて扉を開けてくれた。
「エルレイ様、ルリア様お待たせいたしました」
「ヴァイスさん、急に押しかけてすみません」
「いえ、ではご案内いたします」
ヴァイスさんに連れられいつもの応接室へとやって来た、ソファーに座り少し待っているとロイジェルク様が部屋に入ってきた。
「ロイジェルク様、急に押しかけて申し訳ありません」
「いや、構わない、今日は珍しくルリアも一緒なのだな」
「はい、要件があるのはルリアお嬢様でして・・・」
「ふむ、ルリアどうしたのかな?」
ロイジェルク様はルリアからの用事とあって、嬉しそうにルリアを見ていた。
「お父様、今日は武闘大会の出場許可を貰いに来たわ」
ロイジェルク様は目を見開いて驚き、ゆっくり俺の方を見て来た、俺は申し訳なく頷いた。
「いくらルリアの願いでもそれを許可する事は出来ん!」
ロイジェルク様は力強くそう言い切った、流石父親だ、俺はルリアが怖くてとてもそう言う態度をとる事は出来ない。
ルリアの方は黙ってロイジェルク様を睨みつけている・・・あれが怖いんだよな。
「ルリア・・・公爵令嬢と言う立場でその様な大会に出るのはだな・・・」
ロイジェルク様の勢いがどんどん弱まって行っている・・・。
「それなら心配無用よ、エルレイの魔法で姿形を変えて、名前も変えれば誰も公爵令嬢とは思わないわ」
「その話は聞いて知っているが・・・しかしやはり危険だ!許可出来ん!」
「・・・分かったわ、お母様から許可を頂いて来るわ」
そう言うとルリアは立ち上がり部屋を出て行こうとした。
「ルリア、待ちなさい、分かった許可する、許可するからアベルティアの所には行かないでくれ!」
ロイジェルク様はアベルティア様には弱い様だな、最初戦争に行く時も許可をくれたのはアベルティア様だったな。
「お父様、ありがとう」
ルリアはにっこりと笑ってソファーに座った。
「えーと、ロイジェルク様すみません・・・」
「エルレイ君、いいんだ、私が許可した事だからな、それでエルレイ君も出場するのかね?」
「いえ、私が出場すると色々問題が起こりますので・・・」
「うむ、賢明な判断だ」
「あら、エルレイは出ないのね」
「出たかったのだがアドルフに全力で止めらた・・・」
「ご愁傷様」
「エルレイ君、話は変わるがトラウゴットの件片が付いたから報告しておく」
「ありがとうございます、それでどの様になったのでしょうか?」
「うむ、陛下にあらゆる情報を渡し判断を仰いだのだが、公爵家を潰す訳には行かず、トラウゴットは隠居させ息子のディエゴに代替わりさせた、それと今回私とエルレイ君を襲った者を直接雇った子爵家を潰し、領地は私が管理する事となった」
なるほど、俺としてはポメラニア公爵家を潰して欲しかったが流石に公爵家は難しかったのか、残念だ。
「そうでしたか」
「それと、エルレイ君には申し訳ないと思ったが、ルフトル王国との境界の領地と今回手に入れた領地はルノフェノに管理させる事にした」
「ルノフェノ様の事はもう気にしておりません、それにロイジェルク様の決定に異を唱えるつもりもございません」
「ありがとう、それに伴いルノフェノは男爵となった、領地の規模からすれば侯爵か伯爵にと言ったのだ、が本人が頑なにこれを拒否してな、エルレイ君に出来たのだから自分で伸上って見せると言って聞かなかったのだよ」
ロイジェルク様は嬉しそうにそう述べた、俺は別に貴族になりたかった訳でも侯爵になりたかった訳でも無いんだがな・・・。
「しかし、それは戦争をすると言う事でしょうか?」
「それは違う、元々ルノフェノは戦争を回避して領地を発展させようとしていたからな、戦争に仕向けたのは私とネレイトの方だ」
ルノフェノ様は戦争と言う不安要素を排除して現実的に発展させようとし、それに比べてロイジェルク様は俺と言う不確定な駒を使って戦争と言うギャンブルをしたのか・・・。
「それってルノフェノ兄様がラノフェリア家を継いでいたら、アイロス王国には攻め込んで無かったのかしら?」
「そうなるな、もしそうなっていたのならルリアはエルレイ君と婚約していなかった事になる」
戦争に参加したく無かったが、ルリアと婚約して無いとは今となっては考えられない事だな、複雑な心境だ・・・。
それはルリアも同じなのか腕を組み考え込んでいた。
「・・・今の状況に私は満足しているから、お父様の判断は正しかったという事ね」
「私も今の状況に満足しております」
「そうかね、私としても嬉しいよ」
ロイジェルク様は笑みを浮かべ満足そうにしていた、用件は済んだからそろそろ失礼するか、長居してはロイジェルク様の仕事の邪魔になるだろう。
「そろそろ失礼しますね、二日後またお迎えに上がります」
「うむ、よろしく頼む」
ロイジェルク様達は予選が始まる前日に来て貰う予定だ、予選が始まってからでは時間が無いのと、ロイジェルク様も予選から見たいとの事だった。
ルリアを連れリアネ城へ戻り二人で執務室へ向かった。
「アドルフ、ルリアの大会出場の許可が得られた」
「承知しました、それでルリア様、お名前はどう致しましょう?」
ロイジェルク様の所に行った時点でこうなる事が予想されていただろうから、アドルフは動揺することは無かった。
「そうねぇ、エレンにしようかしら」
エレンと言えば今はメイドとして働いている、どうしてその名前を選んだのだろう・・・。
「なぜエレンなんだ?」
「姿を変えるのにちょうどいいと思ったのよ」
なるほど、エレンならルリアと身長は同じ位だから違和感は無いという事か。
「分かった、エレンで登録しておいてくれ」
「畏まりました」
こうして無事?ルリアの武闘大会出場が決まった。
「アドルフ、女性部門の方は人数はどのくらい集まっているのだろうか?」
「はい、昨日の段階で二十七名参加登録されております、ちなみに男性部門の方は三百五十二名となっており、最終的に五百名を超えるのではないかと思われます」
「女性部門の方は問題なさそうだ、男性部門の方は予定通り数人程度でバトルロイヤル形式で数を減らしていく形になりそうだな」
「はい、その予定で進めております」
「女性部門はどうなるのかしら?」
「予選で三回戦ってもらって、本選に出場する上位八名を選出する形になるだろう」
「三回勝てばいいのね」
「そうだな、一回でも負けると本戦出場は厳しいだろう」
「分かったわ」
ルリアは自信満々の様だ、俺もルリアが早々負けるとは思わないが、どんな強い人が参加しているか分からないからな。
「アドルフ、他に何か問題が起きたりしていないだろうか?」
「初めての事ですので全く問題が無い訳ではありませんが、比較的順調です」
「大きな問題が無ければそれでいい、最初からすべて上手く行く事など無いのだからな、それとトリステンには武闘大会が始まったらこの街の警備を強化するよう言っておいてくれ」
「武闘大会の会場では無くこの街をでしょうか?」
「そうだ、人が武闘会場に集まるから必然的にこの街の人が減り、盗みなどの犯罪が容易になる」
「なるほど、承知しました」
小さな問題はいくつか生じたが無事前日を迎える事が出来た。
俺はラノフェリア家、父上のアリクレット伯爵家、ヴァルト兄さんのアリクレット子爵家をルリア城へ転移で連れて来て、他にも領内の貴族は馬車でリアネ城へとやって来ていた。
その日の夕食はリアネ城でのパーティとなった。
俺はこの領内の頭として面倒だが挨拶をしなければいけないとアドルフに言われ、今まさにパーティ会場に集まった貴族達の視線を集めている所だ。
俺は深呼吸をして落ち着かせ、挨拶をする事となった。
「本日は皆さん集まって頂きありがとう、こうして顔を見るのは初めてだが、私は皆の事を家族だと思っている。
これからこの領内を大きく発展させて行く為には皆の協力が必要だ、それと同時に私も皆に出来る限り協力しよう。
そして、その第一歩として明日から開催される武闘大会となる、皆も大いに楽しんで行ってくれ」
「「「パチパチパチパチ」」」
挨拶が終わると大きな拍手が巻き起こりパーティの開始となった。
俺は自分のテーブルに行き食事をと思ったが、どうやらそう言う訳には行かなかった・・・。
「アリクレット侯爵様、私はヴィルマーテル・フォン・ドライス男爵、本日はお招き頂きありがとうございます、こちらは妻のエディトです」
「アリクレット侯爵様、妻のエディトです、よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
それから次々と挨拶攻勢が始まった・・・。
「アリクレット侯爵様、私はパルド・カール・フォン・ベッカー男爵、本日はお招き頂きありがとうございます、こちらは妻のビアンカです」
「アリクレット侯爵様、妻のビアンカです、以後お見知りおきを」
俺の領地の貴族は父上とヴァルト兄さんを除いて、ロイジェルク様が連れて来た男爵ばかり、しかも皆若くて結婚している様だ。
それは俺の為に若くて子供を沢山作れる人ばかりという事で、今後子供の結婚を通じて結束を高めて行く事になるのだろう。
このパーティ、俺は必要無いとアドルフに言ったのだが、本来この様なパーティは定期的に開催しなければならないらしく、貴族同士の結束を高めると共に、お見合いの場でもあると言う事の様だ。
俺にはこれ以上必要無いが、マデラン兄さんとヴァルト兄さんには一人しか妻がいないため必要な事らしい。
とは言えこの場には若い独身女性は皆無だ、それで今度ロイジェルク様の所で行われるパーティーに、マデラン兄さんとヴァルト兄さんを連れて行かなくてはならなくなった。
それはまた後の話だな、今はまだ続いている挨拶を聞き流さなければならなかった。
全員の名前とか覚えられる訳ないからな、ただでさえ長い名前の上に、この人数では一人でも覚えようとは思わなかった。
必要な時にはアドルフに教えて貰えばいい・・・。
まだ挨拶は続いていたが、音楽が鳴りだしダンスを始める者も出始めた。
ダンスと言えばここ一ヶ月、寝る前にラウラから厳しい指導を受けていた・・・。
そのお陰で以前ダンスした時の様な無様な姿をさらす事は無くなったと思うが、今日は踊らなくて済む様で助かったな。
まだ何も食べていない上にダンスを踊っては疲れ果ててしまうだろう。
ようやく最後の一人と挨拶が終わり、俺は皆がいる所へ行った。
「エルレイ、お疲れ様」
「エルレイさん、お飲み物をどうぞ」
「リリー、ありがとう」
リリーからグラスを受け取り一気に飲み干す、お酒じゃないのが残念だが、さっぱりとしたジュースで乾いた喉が潤い一息付けた。
食事に手を伸ばそうとすると、アルティナ姉さんに腕をガッチリと掴まれてしまった。
「エルレイ、お姉ちゃんと踊りましょう」
アルティナ姉さんはにっこりと微笑んでいるが俺は食事を優先したかった・・・。
「アルティナ姉さん、何か先に食べさせて貰えると助かるんですが・・・」
「しょうがないわね、じゃこれね、はい、あーんして」
アルティナ姉さんはスプーンに乗せてある物を取り俺の口の前に持って来た、俺は口を開けてそれを食べた、何だろう普段食べなれている物なのに美味しく感じるのはアルティナ姉さんの手から食べたからだろうか?
そんな事を感じながら味わっていると、食事は終わったといった感じで、アルティナ姉さんは俺の手を引っ張り皆が躍っている所まで連れられてきてしまった。
ここまでくれば皆に視線を受け、踊らない訳には行かなくなった。
「アルティナ姉さん踊って頂けますか?」
「エルレイ、お願いね!」
アルティナ姉さんの手を取り踊り始めた、アルティナ姉さん、リリー、ヘルミーネとは練習の時に散々踊ったのだが、まだ踊りたいのか・・・。
ルリアとロレーナは練習させられていたから俺とはあまり踊っていない。
リゼ、ロゼ、ラウラとも練習時に踊った、三人とはこの様な場所では踊る事が出来ないからな。
結局その後全員と踊り、また食事はパーティが終わった後、部屋でリゼ、ロゼ、ラウラと共に食べる事となった。
翌日、いよいよ武闘大会が開催される事となった。
初日と二日目は予選が行われ、三日目が本戦で男女八名ずつのトーナメント戦が行われる事となる。
俺は貴族達を会場へ送る作業に追われる事となった、当初の予定では馬車で行って貰う事になっていたのだが、予想以上に人が多く、街道が混雑していて馬車などとても通られないとの事だった。
最後にロイジェルク様、父上、ヴァルト兄さん達の家族全員を送り届けた。
「これは見事な武闘会場だな」
ロイジェルク様が武闘会場を見渡し関していた、貴族席は一般とは分けて作っており、ロイジェルク様や俺達がいる席はさらに周りから敵が侵入して来られないよう囲ってあり、特別な作りとなっている。
「エルレイ、行って来るわね」
「ルリア、頑張って来てくれ」
「ルリア、気を付けてね」
「うむ、応援しているからな」
「ルリア、エルレイが心配するから怪我はしないようにね」
「頑張るのじゃ」
「今からエレンよ!」
「ロゼ、ルリアを頼んだ」
「畏まりました」
ルリアはロゼと共に奥の扉を抜けて行った、それをアベルティア様達は元気に見送っていたが、ロイジェルク様は心配そうに見ていた。
ロゼの役割は女性達の控え室のお世話係という事になっている、当然ロゼの他にも城のメイド達が従事しているので心配は無いのだが、万が一という事もある、と言うかロイジェルク様に強く言われた。
男性の控室の方は警備隊で管理している、荒くれ者ばかり集まっているから当然の事だ。
さて、そろそろお客さんも入りきり、開始はまだかと待機している状態だ、あまり待たせると暴走しかねないので始める事にしよう。
『トリステン、始めてくれ』
『承知しました』
司会進行役は、以前リアネの街で昼食を食べた所で給仕をしていたエルゼさんとトリステンの二人だ。
こう言うのは巨乳の可愛い女の子にやって貰うのが良いので、事前にトリステンに頼んで雇って貰ったのだ。
エルゼさんは最初渋っていた様だが、給与を聞いた途端快く引き受けてくれたとの事だ。
司会の席は丁度貴族と一般の間の最前列に設置されている。
「みなさーん、お静かにお願いしますー!!」
エルゼさんが大きな声で観客に静かにして貰うとしているが、拡声器も何もないので声が届かず、中々静かになってくれない。
エルゼさんが困っているとトリステンがスッと立ち上がり、大きく息を吸って怒鳴った。
「静まれぇぇぇぇぇ!!!」
トリステンの迫力がある声に観客は一気に静まりかえった。
「皆さん!これより武闘大会を始めたいと思います!司会進行役は私エルゼとトリステン警備隊長の二人です!
まず初めにリアネの街の領主、エルレイ・フォン・アリクレット侯爵様のご挨拶からです!」
エルゼさんに紹介され俺は立ち上がり、観客に向け軽く手を振った、俺もエルゼさんに負けないよう声を張って行かなければいけないな。
「私がエルレイ・フォン・アリクレット侯爵!これより武闘大会を開催する!選手の皆は正々堂々悔いの残らないよう全力で戦ってくれ!」
俺は短い挨拶を終え再び手を振ると歓声が巻き起こった。
「「「うおおおおおおおおおお」」」
これには少し驚いたが笑顔で答え席に座った。
「まず最初に男性によるバトルロイヤルです!」
エルゼさんの声と共に男達が入場してきた、それに伴い会場も盛り上がって来た。
バトルロイヤルは制限時間二十分、八名から九名のグループに分かれて、最後の一人が次の戦いに進める事となる。
闘技場は四区画に分かれており、四か所同時進行で行われていき、これにより参加人数五百名強の人数を六十四名へと絞り込む。
「エルレイ君、男性の出場者で知り合いは出ているのかね?」
俺の隣に座っているロイジェルク様が訪ねて来た。
「そうですね、若い執事が五名と、警備隊からも五名出ているだけですね」
エリオット達はアドルフの命令で出場させられていた、まぁ本人たちも出られて喜んでいたが、不甲斐ない成績を残せばアドルフにしごかれる事は間違いないだろう。
警備隊の五名は、警備隊内で選抜して選ばれた者だから十分な実力を持っている、なぜこの様になったかと言うのは、警備隊の皆も出場希望者が多くいて、全員出られると警備に支障が出るので五名だけとなった、次開催される時はまた別の五名となる予定だ。
「ほう、それは勝ち上がれそうなのかね?」
「警備隊の方は勝ち上がれそうですが、執事の方は期待薄でしょうか」
「それはどう言う事だ?アドルフの部下なら簡単に負ける筈は無かろう?」
「その五名の執事は私が新しく雇った者でして、これから鍛えて行く所なのです」
「なるほどな」
「エル、ちょうど今、手前にオスカルが来ておるぞ」
ヘルミーネに言われて闘技場を見て見ると、大きな両手剣を持ったオスカルが他の七名と共に闘技場へ上り、好きな場所へ位置取りをしている所だった。
バトルロイヤルでは最初の位置取りが勝敗を分けると言っても過言では無い。
有利な場所と言えば中央寄りの場所だろう、線で区切られていてそこから出ると失格なのだが、反対側の様に段差が無く落ちる心配が無いので安心して戦えるはずだ。
オスカルは逆に逃げ道が無い角の位置を取っていた。
「ふむ、あの場所では少しでも押されたら落ちて負けてしまうのではないか?」
「そうですね、しかし、あえてあの場所を取ったからには押し出されない自信があるのでしょう」
「そうだな、ではじっくり見て見るとしよう」
「はい」
ロイジェルク様と話しているうちにオスカルがいる組の試合が開始された。
皆周りの相手の出方を見て様子を伺っている、バトルロイヤルでは最後に立ってればいい訳であって、途中何人倒しても意味が無いのだ。
ただし時間切れの場合は倒した人数で勝敗が決まる。
オスカルも角の位置で腰を落として武器を構えている、やはり角の位置で狙いやすいと思った一人がオスカル目掛けて剣を振り上げた・・・。
≪オスカル視点≫
「四の組、二百五十六番!」
闘技場の外で皆と一緒に待機していると、俺の番号が早くも呼ばれた。
闘技場の中に選手の控室があるのだが、この人数全員入れる訳が無いので、外で自分の番号を呼ばれるのを待っているのだ。
「行って来る!」
「「「「頑張れよ」」」」
エリオット、ラルフ、トーマ、フリストに見送られ闘技場へと入って行った。
闘技場に入ると既に他の組の戦いは始められており、熱狂に包まれていた。
そんな中舞台へ上り観客席の方を見る、エルレイ様達は一番目立つ席にいて見つけやすかった、それに俺がこれから戦う場所も目の前でがぜんやる気が出て来た。
エルレイ様の前で無様な姿を見せる訳には行かない!
試合はバトルロイヤルで俺以外に七名の敵がいる、全員倒せればいい訳だが、そんな事が出来ないのはこれまでの訓練で分かっている。
トリステン様に勝てないのは仕方が無いとしても、朝と夜の訓練において同僚の執事にも全く歯が立たなかった。
先ずは位置取りだ、俺は両手剣で他の七名は普通のロングソードに盾だ、剣の長さは俺に分がある。
俺は意を決して角の位置を取った、後ろには下がれないが、ここだと相手の剣より先に攻撃を与える事が出来る。
「試合開始!!」
審判の合図と共に戦いが開始された、皆様子を伺っている。
俺は撃ち込まれても下がらないよう腰を低くし、足元を固める。
俺の左側にいた男と目が合った、次の瞬間男が大きく剣を振りかぶって俺に斬りかかって来た!
俺は剣が振り下ろされるより早く、男が左手に構えている盾に向け剣を振り切った。
「ガン!!」
金属同士が当たる鈍い音が響き、男はその衝撃で場外に落ちて行った、まずは一人、そう安堵した瞬間右側より斬りかかって来る男の姿が見えた。
俺は剣を力一杯戻し、それを受け止めた。
「ギンッ!!」
俺は力一杯相手の剣を押し戻す、エルレイ様に剣を買って貰ってから、俺は腕力を付ける訓練を毎日こなして来た。
男は片手で剣を振っているが俺は両手だ!一気に押し返し、相手が怯んだところに蹴りを食らわし場外へと落とした。
「ふぅ~」
俺は呼吸を落ち着かせ周りを確認する、反対側で一人が倒されており残り四人となっていた。
ここで待ち構えていれば安全に勝ち残れるだろう、しかし、それではエルレイ様に俺の成長を見て貰う事が出来ない!
俺は気合を入れ右側の方で一人様子を伺っている男に向かって突進し、上段から剣を振り下ろした。
男は盾を前面に出し受け止める様な姿勢を見せていた、以前の俺なら盾ごと吹き飛ばしてやろうと考えていた。
あの構えは警備隊の皆様もよくやっている物で、剣が盾に当たる直前に軽く角度を変え受け流すのだ。
そうなると俺の体は流れて隙が出来打ち込まれてしまう。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
俺は受け流されないよう剣の軌道を力任せに変えた!
「ガーン!」
その甲斐あって俺の剣は受け流されず盾にめり込むような感じで当たった。
男はその衝撃で少し下がり、男の剣が俺に届く範囲外となった。
その時俺の背後から足音が聞こえ、俺は振り向きながら回転を付け、剣を横なぎに振り切った!
「ぐぁぁぁぁ!!」
後ろから俺に斬りかかって来ていた男は胴体に俺の剣を受け、場外へと吹き飛んで行った。
あれは多分骨を折っただろう、いくら刃を潰されているとはいえ鉄の塊で殴られたのだ、無事ではすむまい。
今は他人の心配をしている時では無いな、敵を吹き飛ばした勢いのまま振り返り男を確認すると、まだ盾を構えたまま先程の位置で俺を待ち構えていた。
背後から斬りかかって来てくれれば先程の様に勢いを付けた剣を撃ち込めたのだが、余程守りに自信があるのか、それとも剣の長さで素直に斬りかかって来れないのか・・・。
俺は横目で二人残っている方を確認する、どうやら向こうでも戦いが続けられている様だな。
俺は目の前の盾を構えた男に集中し、今度は左から横なぎに剣を振るった。
男はこれを待っていたのか、剣と盾を横に構え俺の剣を受け止めた後、全力で突進してきた。
俺はそれを予想済みだ!横から払われた剣は受け流す事が難しく、相手からすると剣を持った右手からの攻撃受け止める事は出来ても反撃までつなぐ事が出来ない。
それならば受け止めた後、突進し自分の間合いに入るしかない。
俺は予定どおり男に足払いをして転倒させ、そのまま剣を相手に突き立てようとした。
「まっ、参った!」
転ばされた男が降参し、俺はすぐさま残りの二人の方を見た、どうやら決着が付いていた様で残り一人。
最後の一人は剣のみで盾を持っていなかった、俺からすると盾を持っていた相手の方がやりやすいのだが、そうも言ってられない。
「す~は~」
呼吸を整え相手との距離を縮めて行く、相手も同じ様にこちらに近寄って来て中央付近で対峙する事となった。
「「・・・・・」」
お互い睨み合い隙を伺う、俺は気合を入れ上段から一気に男目掛けて剣を振り下ろした!
男は待ってましたとばかりそれを剣で受け流し間合いを詰めて来て、その勢いのまま剣を俺に振りぬいて来る。
俺は体を斜めにしてそれをぎりぎりで躱し、振りぬいていた剣を下から上に力任せに振りぬいた。
男はそれを後ろに飛んで避け一回転転がって起き上がった。
「ふぅ」
簡単に倒れてくれはしないか・・・それは相手もそう思っているだろうが、ここで負ける訳には行かない!
大振りでは捕らえられないならこれならどうだ!
間合いを一気に詰め連続で相手を突いた、一回なら避けられて間合いを詰められるが、連続で突き続ければそれは出来ないはずだ!
男は剣で俺の突きを受け流しながら徐々に下がって行く、もう少しで場外に出る所まで追い詰めたが、そこで男は横に飛び去り次の瞬間一気に俺目がけて突進して逆に剣で突いてきた!
ある程度そう来ることは分かっていたが、今突き出した腕が伸び切っている状態で剣を戻す事が出来ない。
俺は剣から手を離し全力で横に飛び去り突きを躱す!
攻撃は避けられたが、剣は男の近くにあり俺は何も持っていない。
男は兜の中でにやりと勝ち誇ったように笑い、俺に剣を振って来た!
俺はそれを躱し振り抜かれた手を掴んで、その勢いのまま男を投げ飛ばし背中から地面に叩きつけた。
「ぐっ!!」
俺は倒した男の首を踏みつけ力を入れる、本来であればここで首の骨を折るほど力を入れるのだが、今は押さえるだけにとどめている。
「そこまで!!」
審判の声を受け男の首から足を上げた・・・勝った!!
剣を失った時の戦い方はトリステン様からみっちりと鍛えさせられた。
戦場では剣と剣でぶつかり合うから、剣が折れるのは当たり前だと教えられ、剣が無くとも生き抜くために絶対必要だと、毎日剣相手にやらされていた。
それが今役に立った事を嬉しく思う、俺は剣を拾い上げエルレイ様の方を向きお辞儀をした。
≪エルレイ視点≫
「ヒヤリとしたが、オスカル、見事だったぞ」
ヘルミーネが自分の事の様に喜んでいる、教え子が勝ったのだから当然だな。
「お姉ちゃん怖くて見ていられなかったわ」
アルティナ姉さんはオスカルが剣を失った所で顔を覆っていたからな。
「うむ、なかなか見事な戦いぶりであった」
ロイジェルク様はオスカルの戦いぶりに満足されたようだな、俺も剣を失った時負けたと思ったのだが、あのような技は何時覚えたのだろうか?
最近トリステンの所での訓練には全く行って無かったからな・・・。
「エルレイ様、お飲み物です」
リゼが俺に飲み物を持って来てくれた、ロイジェルク様や他の皆にもメイド達が飲み物やお菓子と言った物を渡していた。
ここ貴族席の裏には調理場があり、貴族用の食事や飲み物が提供されるようになっている。
警備的な意味で、貴族がここから出て外で飲食する訳には行かないからな。
お酒は用意していない、一般用の所でもお酒は提供しないよう厳しくいい聞かせていた、ただでさえ興奮するこの場所でお酒を飲めば暴れ出す者が出るのは確実だからな。
「エル、向こうにエリオットとトーマが出てきておるぞ」
ヘルミーネの言葉を受け目を向けると、エリオットとトーマが同じ組で今から始める所の様だった。
なんて運が無い二人だろう、バトルロイヤルの組み合わせは六十四組作られるようになっているはずだ、その中で同じ組に配置されるとは。
「同じ組の様だな・・・」
「運が無い二人ね、どちらを応援しようかしら?」
「アルティナ姉さん、どちらも応援すればいいと思うよ」
「それもそうね、二人とも頑張りなさい」
≪エリオット視点≫
なんて運が無いんだ、トーマと同じ組になるとはな、しかし負けてはいられない、トーマには悪いがここは勝たせて貰うぞ!
とは言え出来るだけ戦わない様にしよう、トーマとは反対の位置に着く。
「試合開始!」
考える間もなく試合が始まった、それと同時に反対側にいるトーマに二人の男が襲い掛かっていた。
トーマは周りの男達に比べて背が低く狙われやすい、別に反対側に位置取らなくても、最初はトーマと協力して倒して行けばよかったのだと後悔した。
とは言えもう始まった事だからどうにもならない、私は気を切り替え自分の周りを確認する。
まだ始まったばかりで皆様子を見ていて、トーマの周囲以外は動きが無い、私はトーマにこれ以上敵が行かない様に中央へと移動した。
四人から一斉に攻撃される可能性は高いが仕方あるまい、それに一対多の戦いはトリステン様に教えて貰っている。
出来るだけ周りを囲まれないようにしろと言われたが、どうしようもない場合もある、その時の為の戦い方だ。
私は剣を軽く握りどこからでも対処できるよう力を抜いた。
まず一人目が俺に斬りかかって来た、私は剣で受け流しながら襲ってきた男と位置を入れ替わる。
これで私が真ん中だという事が無くなった訳だ、男は振り返り俺に再び斬り付けて来るが残念・・・。
「どすっ!」
男は背中から他の男に斬り付けられて倒れてしまった、これで残り三人・・・。
さらに斬り付けて倒していた男に別の男が斬り付け、男は避け切れず倒された、と同時に私はその男の横から斬り付け倒した。
これで後一人、私達が潰し合うのを見ていたが、私だけになると斬りかかって来た、丁度私が倒した時だったので剣を戻している暇は無い、体をひねり横に飛んで転げながらなんとか躱し、立ち上がって剣を構えなおす。
「ふっ!」
私は間髪入れず間合いを詰め連撃を放つ。
「ギンギンギンギン!」
男はそれを全て剣で受け止め間合いを取るため後ろに飛び下がった、私はそのまま男との間合いを詰める為に走り込むと、男は待ってましたとばかりに剣を俺に振り落として来た。
待ってたのは私も同じで、振り下ろされてきた剣を下から力一杯振り開けた。
男の剣は俺の剣で上に持ち上げられ、俺は男の空いた胴体へ振り上げた剣を撃ち込んだ!
「ごふっ!!」
まともに剣を受けた男は前のめりに倒れ込んだ。
よし!トーマはどうなっているだろうか、私はトーマの方を振り向くと、未だにトーマは二人を相手に戦っていた。
トーマ、今から助けに行くからな!私は全力で片方の男へ走り込み剣を振り下ろした。
男は私の接近に気が付いたが、トーマが上手く邪魔をしてくれて、私の剣は見事に当たり男は倒れてしまった。
もう一人!トーマは二本の剣を上手く使い男の剣を挟み込んでいた、私は剣を動かせない男の胴を薙ぎ払い倒す事に成功した。
よし終わった!私は男達をすべて排除し安堵した。
≪トーマ視点≫
エリオットと同じ組とはついて無いな・・・いや、エリオットと同じ組だという事は敵が一人少ないという事だな!
そう考え辺りを見渡す、エリオットは反対側に移動したか、俺の周りは背が低い俺を見てニヤニヤしている者ばかりだ。
「試合開始!」
いきなり俺に二人の敵が襲い掛かって来た、まぁ当然だな、俺は剣を両手に構え二人の剣を受け流して行く。
二刀での戦いはまだまだ不慣れだが、守る事に関してはかなり上達して来ていた。
要は大振りさえしなければ剣に振り回されることは無い。
だがそれゆえ決定打を打つ事が出来ない訳だ。
二対一と不利な状況だが、この二人に囲まれている間はこれ以上の追撃は無いという事だ。
そんな中エリオットが中央へと移動していた、なるほど、俺の状況を見てエリオットなりに考えてくれたという事だろう。
それならばエリオットが他の敵を排除してくれるまで持ちこたえていればいい事だ。
バトルロイヤルでは最後に立っていた者の勝ちだ、無理に敵を倒す必要は無い。
俺は次々と斬り付けられてくる剣を二本の剣で受け流し、防御に徹する事にした。
俺に斬り付けて来ている二人の敵はどうやら仲間のようで、うまく連携して来る。
しかし俺はそれをすべて受け流し続けた。
最初は二刀を使う事は全く考えていなかったが、エルレイ様から剣を買って貰う時にショートソードにするかロングソードにするか迷っていたら、トリステン様からショートソードを二本持てばいいと助言を受けた。
俺には優れた動体視力があるから、二本を使いこなせるようになるだろうとの事だった、最初は戸惑ったものの、直ぐに二本を使いこなせるようになった。
以前は皆と同じように一本の剣で訓練していたが、体が小さい事もあり、力で押し負け勝つ事が出来ずにいた。
しかし二刀にする事によって手数が増え、徐々に訓練で勝てる様になって行った。
ショートソードだから当然長さの違いがあり、相手の懐に踏み込まないと勝ち目がない。
目の前の敵二人は、簡単にそうさせてはくれそうにない様だ、しかし攻撃は皆と訓練でやっているほど力強くも鋭くも無い。
暫くするとエリオットが敵を倒してしまった様で、俺の方の敵に斬りかかって来た。
俺はここぞとばかりにエリオットが斬りかかっている敵を攻め立て、エリオットはその敵を打倒した。
残る敵は一人、俺は敵が振りかぶって来た剣を二本の剣を交差させるようにして挟み込み動かなくした。
エリオットはその隙を逃すはずも無く、敵を打倒してくれた。
エリオットは俺に背中を向け安堵している様だ、だが勝負はまだ終わってはいない!
俺は全力でエリオットの背中に体当たりをし、場外へと押し出した!
「試合終了!」
「エリオット、勝負だから悪く思うなよ」
場外へ押し出されたエリオットは呆然と立ち尽くしていた。
≪エルレイ視点≫
エリオットが良い試合をしていたのに、最後に棒立ちしていたのをトーマによって場外へ押し出された事で、皆呆然としていた。
「・・・エリオットは馬鹿なのか!」
ヘルミーネが試合の結果に納得できなかったのか憤慨していた。
「そうね、でも仲間思いのエリオットらしいのでは無いかしら?」
アルティナ姉さんは笑いながらそう言っていた、確かにエリオットは皆のリーダー的存在だ、だからと言って試合中に気を抜くのはどうかと思うな。
「トーマの作戦勝ちという事だな」
俺から見てトーマは二人の攻撃をしのいでいたが、反撃できる好機はいくらでもあったように思える、それをしないでエリオットを待っていたと言う事なら、この結果に納得できるな。
「これより女性部門の予選を開始いたします!!」
エルゼさんの声が会場内の響き渡ると同時に、客席から声援が巻き起こる。
「エルレイ君、どうやら女性の勝負が始まる様だぞ」
「その様ですね、ルリアはまだ見えませんが、怪我をしない事を願うばかりです」
「そうだな」
俺もとロイジェルク様は期待と不安でいっぱいだった。
女性部門の試合が始まると会場は盛り上がりを見せていた。
男性部門のバトルロイヤルもまだ続いているのだが、皆の視線はそちらに向いてはいない。
勿論俺も女性部門の試合を見ていた。
一対一という事もあって、なかなか白熱した試合内容となっていて、選手の剣技も素晴らしく見ていて面白い。
そんな中ニーナの姿が見えた、どうやら次の試合に出る様だな、相手は剣に盾を持っている、ニーナはナイフを両手に持っている様だ。
「リゼ、ニーナは次出番の様だぞ」
俺は後ろを振り返り、待機しているリゼに声を掛けた。
「無様な負け方をしなければいいのですが・・・」
リゼはそう言っているが心配そうな目でニーナの事を見ていた。
「エルレイ君、ニーナと言うのは以前君を襲ってきた者だな?」
ロイジェルク様は厳しい表情でニーナの事を見ていた。
「はい、ですが今は警備隊で働いて貰っています」
「そうか、私には真似できない事だな・・・」
「そうですね、しかし彼女は有能ですし、使われていただけで彼女自身に私への敵意はありませんからね」
「そう言えばエルレイ君には相手の敵意が分かる魔剣があったな、とても羨ましいよ」
ロイジェルク様の表情は笑顔に戻り、試合を楽しむ事にした様だ。
≪ニーナ視点≫
あたいの試合がもうすぐ始まるのさね。
大勢の前で戦う事なんて初めてで緊張して来たさね。
「す~、は~」
少し落ち着こうと深呼吸をしてみたけど、まるっきり効果が無かったさね。
そんな中、ふとトリステンと目が合い、彼の口元が動いた。
(がんばれ)
トリステンの声は聞こえないけど、あたいにはそう思えたさね。
それと同時にあたいの心は落ち着きを取り戻し、目の前に敵に集中する事が出来たさね。
「試合開始!」
あたいは両手のナイフを構え、相手の出方を待つ事にしたさね。
今日までトリステンと毎日訓練をしてきた成果を見せつけてやるさね。
あたいは身体強化があるから無駄な動きが多いとトリステンに指摘され、今日までそれを無くすため頑張って来たのさね
「やぁ!」
相手が剣を振りかぶり、あたいに斬り付けてきたさね。
あたいはそれを軽く躱し、盾を構えている方向に間合いを一気に詰めたさね、相手は盾を突き出しあたいを近寄らせない様にして来たけど、それがあたいの狙いさね。
スッと身を沈め相手の視界から逃れて、右足を軸にくるっと回転して相手の背後を取ったさね。
後は首筋にナイフを当てて終わりさね。
「そこまで!」
ルール上、首や心臓と言った急所に武器を当てれば勝負は決まるから楽さね。
あたいはトリステンに向け軽く手を上げて振ると、トリステンも手を振り返してくれたさね。
あたいは気分よく戻って行ったさね。
≪エルレイ視点≫
「ふむ、あっという間だったな」
「そうですね、相手が弱かった訳では無いでしょうが、ニーナがそれ以上に強かった様ですね」
「その様だな」
後ろを振り返るとリゼは安堵の表情を浮かべていた。
「エル、どうして今ので勝負が決まったのだ?」
ヘルミーネは相手が倒れていない状態で勝負が決まった事に、納得がいっていない様だった。
「これは殺し合いじゃないからな、ナイフの刃が潰されていなかったら相手はあの場で死んでいた事になる」
「そうなか、それならなぜ他の者はあのように首に剣を突きつけないのだ?」
「ニーナは簡単にやったように見えたが、実際にやるのはかなり難しい事だぞ、俺にナイフを持ってあれをやれと言われても出来ないからな」
「ふむ、という事はニーナは優勝候補という事になるのか?」
「まぁそうだが、ルリアは簡単にやられないから分からないぞ」
ヘルミーネはどうやら本戦での優勝予想をもう始めている様だな、賭け事は本選での優勝者を選ぶだけにしている。
予選中にある程度実力を把握出来れば、当たる確率も上がるだろう。
「エルレイ、奥の方でフリストの戦いが始まりそうよ」
アルティナ姉さんに言われて見ると、フリストが闘技場へ上っている所だった。
フリストもトーマと同じく背が低いから、皆から狙われるだろうな・・・。
≪フリスト視点≫
やべー、すげぇ緊張してきた。
闘技場へ上り端の方で位置を何とか確保できたが、心臓の音がバクバクとなっているのが良く分かる。
オスカルとトーマが勝ち抜けて来たから、俺も負ける訳にはいかねー。
「試合開始!」
心の準備が整う間もなく試合が始まってしまった、周囲を確認すると、どうやら俺が狙われているよーだ。
三人の男が俺をじりじりと囲い込み、同時に斬りかかって来た!
俺は全力で一人の男に向かって突っ込み、頭から滑り込むようにして相手の股の間をすり抜けた。
俺は子供の頃から生きる為に食べ物を盗んで来た、その間一度も掴まった事が無いのが俺の自慢だ。
逃げる事に関しては他の皆より優れていると思っている。
俺は急いで立ち上がり三人の男から逃げ延びた。
ふぅ~、危なかったぜ、三人に囲まれて戦えるのなんて、エリオットやオスカルくらいだろう。
俺には荷が重すぎるぜ、ふと前を見ると別の男が俺に斬りかかって来ていた。
それを横に飛び転がりながら避けて、立ち上がり間合いを取る。
ふと気が付くと俺は中央に立っていた、やべー、周りの皆は俺に向けて間合いを詰めよって来ていた。
何で俺ばかり狙うんだよ!!こいつら皆仲間なのか?
いくら嘆いても状況は変わる事無く、周りの全員が俺に斬りかかって来た。
先程と同じ事は通じないだろうから、俺は飛び上がり、目の前の男を踏み台にして包囲網から逃れる事に成功した。
俺は振り返りながら距離を離し様子を伺う、男達は顔を見合わせ頷き合うと、等間隔に離れて俺を端へ追い詰めて来た。
フリストは知らない事だが、エリオット、ラルフ、オスカル、トーマは同じ兜と防具を見に付けていて、さらに勝ち残ったオスカルとフリストと話をしている所を見られていて、他の者から警戒されていた。
その事で先に潰してしまおうと結託されていた訳だ。
気が付くと場外に落ちる位置まで下がっていた、どうするよ、一対七なんて勝ち目無いだろ!!
しかも今はショートソードを手にしている、エルレイ様からシミターを買って貰った訳だが、それの刃を潰す訳にもいかず練習用のショートソードを持って来た訳だ。
使い慣れていない武器に囲まれている状況、どうにか打開しなくてはいけないが、三度目は逃がしてくれないだろう。
しかしどーするよ、周囲の男達を見る・・・やはり端から抜けるのが無難だろう。
斬りかかれる前に、一番端の男に向かって突っ込む!
男は慌てて剣を振って来るが、俺はをれを剣で受け止めそのまま体当たりをして男を倒し、転がりながらその場を離れた。
別の男が剣を振り下ろし見事に倒れた男へ当たっていた、ふぅ、逃げ遅れていたらヤバかったぜ。
一人減っただけで状況は変わっていない、急いで起き上がり剣を振り下ろしていた男に向け突っ込む。
男は振り下ろしていた剣を横なぎに払って来たが、飛んで躱し、そのまま男を蹴り飛ばした。
男は倒れたが、直ぐ起き上がって来て怒りに任せて俺に剣を振って来た、それを躱して男の腕を掴み、相手の勢いのまま場外へ落した。
「はぁ、はぁ」
後五人か・・・俺が二人倒した事で警戒して攻めて来なくなった。
よし、それならば俺から攻めてやるぜ、男達は場外に落とされない様少し中央寄りに移動していた。
中央にいるやつに斬りかかっていく、こいつら一人一人はたいして強くなさそうだな。
しかし相変わらず俺を囲むように次々と剣を振りおろされていく、俺は飛んだり転がったりしながら必死にそれを避け、斬り付けて行くが決定打にはならない。
逃げながら振るう剣では、どうしても相手に致命傷を与える事は出来ない・・・。
そうして暫く逃げながら攻撃をしていると、審判から試合終了の合図が掛かった。
「そこまで!」
そう言えば制限時間があったな・・・制限時間過ぎて決着が付かなかった場合は、残っている者で倒した人数が多い者が勝ちとなる事になっていた。
「二百六十番の勝利!」
俺の番号が呼ばれて勝ちが決まった、あまり嬉しく無いが勝ったのには変わり無いな。
俺は一息ついて舞台を降りて行った。
≪エルレイ視点≫
「何なのだあれは!!」
ヘルミーネがお怒りです、いや、ここにいる皆が怒っているな。
「どうしてフリストだけ狙われたのでしょうね?」
「しかし勝ったのじゃ」
「狙われた理由はよく分からないが、勝ち残ったからいいのでは無いだろうか?」
「まぁそうよね」
フリストが勝っていたからよかったものの、負けていたら皆の気持ちは収まらなかっただろう。
しかしルールで特に組んではいけないと縛っている訳では無い、そもそも組み合わせは直前に選手に知らされるから、事前に打ち合わせをする事は難しいと思っていた、しかし、こう言う事が起こっては何かしら考えた方が良いのだろうか、今後の反省点だな。
それから暫く知り合いが出る事も無く観戦していた。
「エルレイ様、昼食の準備が整いました」
リゼがそう言って俺の前のテーブルに食事を並べ始めた。
当然ロイジェルク様の方にも別のメイドが食事の用意をしている。
こういったお祭りでは外で色々な物を買って食べるのが楽しみなのだが、そう言う訳には行かないからな。
昼食を終え暫く観戦していると、ついにルリアが登場してきた、今はエレンの姿をしているので普段と違って見えるが仕方が無い。
「ロイジェルク様、ルリアが出てきました」
「うむ、堂々としておるな」
ルリアはここに来る前、リアネ城で姿を変えロイジェルク様達にも見せていたので間違えることは無かった。
「どんな戦いを見せてくれるか楽しみね」
ロイジェルク様の隣に座っているアベルティア様も楽しそうに見ていた。
「ルリアの出番がやって来たのですか?」
リリーがルリアが出たのを聞いて奥からやって来た、リリーは目立ちたく無いと言って、少し奥の席に座っていたのだった。
髪の色を変えているから、そこまで心配する必要は無いと言ったのだが、リリーは皆に迷惑を掛けたくないからと奥の席に座っていた。
「そうだ、ここでしっかり見てやってくれ」
「はい」
リゼが椅子を俺の隣に持って来てくれて、リリーはそこに座って見る事となった。
≪エレン(ルリア)視点≫
「三十七番エレンさん、エレンさんはいらっしゃいませんか?」
私の名前が呼ばれた、エレン、エレン、間違えない様にしないと。
「はい」
立ち上がり控室を出て行き、闘技場に入り私の対戦相手と並んで歩いて行くわ。
特に緊張などはしていない、お父様に良くお城へ連れていかれていたから人に見られるのには慣れているわ。
舞台へ上がり観客席を見る、エルレイ、リリー、ヘルミーネ、アルティナ、ロレーナ、リゼ、ラウラ、それにお父様にお母様沢山の人が私を見ているのが分かったわ。
無様な戦いを見せる訳には行かないわね。
私は剣を抜き対戦相手を見る、剣を両手で構えこちらを見据えている・・・。
「試合開始!」
私は合図と同時に勢い良く踏み込み、正面に構えている相手の剣を叩き落し、剣を真っすぐ相手に突き出した、これで終わりね。
「まっ、参りました」
「そこまで!」
私は剣を戻し、エルレイ達へ軽く手を振って控え室へと戻って行きました。
≪エルレイ視点≫
「ルリア凄い」
「一瞬だったわね」
「うむ、見事だ」
「ルリアはもう少し手加減してあげればいいのにね」
皆今の試合、ルリアの強さを目の当たりにして喜んでいたが、アベルティア様だけあまりにも早くルリアがいなくなったことで寂しそうにしていた。
「アベルティア様、今後も多分ルリアの試合は似たようなものになると思います」
「そうなのね」
「はい、ルリアは警備隊の所で剣の訓練をしていましたから、余程強い相手出ないと苦戦しないと思います」
「ルリアが見られないのは残念ですが、負けるよりはいいのかしら・・・」
「はい、そう思います」
ここまで見てきた感じ、ルリアの敵になりそうな相手はニーナくらいだろうか、ニーナの動きは以前見た時より数段優れたものになっていたから、相当訓練したのだろう。
ふと闘技場の方を見て見ると、アンジェリカの姿が見えた、彼女は俺と言うかアリクレット家の教育係で、剣の指導をして貰っていた。
彼女の試合もあっさりと片が付いた、相変わらず綺麗な剣捌きで、相手の剣をいなして喉元に剣を突き立てて終わりだ。
アンジェリカならルリアともいい勝負を見られる事だろう。
アンジェリカの後に出て来たのがメイド服を着た女性だった・・・あれはカリナさん?
『アドルフ、女性部門にカリナさんが出場しているのか?』
『はい、エルレイ様がメイドを出場させよとおっしゃいましたので』
そんなこと言っただろうか・・・確か参加人数が少ない様だったらメイドを出場させればいいみたいなことは言った気がするが・・・。
『そうか、それでカリナさんだけなのだろうか?』
『はい、その通りです、当初十名ほど予定していたのですが、参加人数が多かったためカリナのみとなりました』
『分かった、今からカリナさんの試合だから終わったら結果を知らせる』
『はい、よろしくお願いします』
アドルフは執務室で状況の整理をし全体へ指示を出して貰っている。
カリナさんの試合を見せてあげられないのは残念だが、しっかりと結果を報告する事としよう。
≪カリナ視点≫
私はリアネ城のメイド長を務めさせて頂いているカリナです。
今回エルレイ様の命により武闘大会に参加する運びとなりました。
本来であればこのような表舞台に立つような事は控えねばなりませんが、主の命とあっては仕方がありません。
であるならばエルレイ様に恥をかかせない様、全力を持って相手を打倒さなければなりません。
ただ気になるのは、エルレイ様の奥様になられるルリア様が出場なさっている事です。
私がルリア様に勝利する事は許されませんが、手を抜く事もまた許されないでしょう。
夫のアドルフに聞いた所、全力でお相手する様にと言われました。
またエルレイ様もルリア様も手を抜いては許してくれないと、そして私が勝っても気にすることは無いと言われました。
エルレイ様もルリア様も使用人に対して対等に接してくれますから、私も同じ様に思います。
ルリア様に対しては全力を持って正々堂々戦わねばなりませんね。
さて、今は目の前のお相手に集中いたしましょう。
見た感じでは大した実力は無いように思えます。
私はお辞儀をしてナイフを構えます。
「試合開始!」
相手は剣を振り上げ斬りかかって来ました、しかし遅いですね。
剣を躱し懐に潜り込み、ナイフと相手の眼先に突き出します。
「参りました・・・」
「そこまで!」
ついいつもの癖で眼を狙ってしまいました、首か心臓でも良かったのでしたね。
そのせいでお相手の女性は恐怖のあまり座り込んでしまいました。
でもここは勝負の場所ですからね、私は再度お辞儀をして舞台を降りる事に致しました。
≪エルレイ視点≫
「カリナの試合も早かったわね」
「うむ、しかしなぜメイド服なのだ?」
「防具に関しては鎧を絶対着用しなければいけないとはなっていない、しかし、長いスカートのメイド服でよくあんなに速く動けるものだな」
「エルレイ様、メイド服は動きやすいよう作られているのですよ」
俺が疑問に思っているとリゼがそう教えてくれた、確かに家事を行うから動きやすく無いと不便だろうが、それと戦闘とは違うと思うのだがな・・・。
取り合えずアドルフに報告しておこう。
『アドルフ、カリナさんは問題なく勝ち進んだぞ』
『そうでしたか、ルリア様と当たらなくてほっとしております』
『でもいずれ当たる事になるだろう、その時手を抜かない様カリナさんに言っておいてくれ、手を抜いた事がルリアにばれるとすごく怒るだろうからな』
『承知しました』
さて、そろそろ今日の予選は終わるころ合いでは無いだろうか・・・。
そう思っていると最後の方でラルフの番が回って来たようで、闘技場へ上がって来ていた。
「ラルフが出て来た様だな」
「うむ、きっと勝ち上がってくれるだろう」
「また狙われなければいいけれど・・・」
アルティナ姉さんが心配している様だが、あのような事にはならないだろう。
≪ラルフ視点≫
フリストが勝利したと喜んで戻って来たが、その後全員に狙われたと俺にこっそり教えてくれた。
何故狙われたのかは分からないが、注意しておいた方が良いとの事だった。
そしてようやく番号が呼ばれて、会場内に体をほぐしながら入って行く。
なるほど、なぜだか分からないが俺に皆の視線が向けられているな。
それならばやられる前にやるだけだ!
右手に剣、左手に盾を構え適当に空いている場所に立つ。
「試合開始!」
開始の掛け声と共に俺は近くにいる敵に向け、盾を前面に構えて突進し、相手が振るってきた剣を盾で払いのけ、怯んだ敵を斬り付け倒した。
フリストが言ってたように、俺は狙われている様だな。
一人倒した俺に、次々と襲い掛かって来ていた。
俺は盾で剣を受け止め、右手の剣で敵を払う。
これで敵との距離が取れたので、先程と同じように盾を構えて突進し敵を打ち払って行く。
フリストと比べて、俺は体格に恵まれているからこのような事が出来る。
二人倒した所で見回すと、五人全員一斉に俺に向け斬りかかって来ていた。
流石に俺はこれを受け止める事は出来ないので、横に飛んでこれを避け、すぐさま一番端のやつに盾をぶち当てた。
男は横に倒れ込み、五人纏まっていたため纏めて倒れてくれた、俺はすかさず倒れている男達へ剣を何度も振りおろして叩きのめして行った。
「そこまで!!」
何度振りおろしたか分からないが、審判に止められて男達を見て見ると、無残にも血だらけで倒れていた・・・。
やり過ぎた様だな、不味いな、死人がいれば失格となる。
「すみません、早く治療をお願いします」
俺は審判にそう言うと、審判も慌てて連絡を取っている様だった。
「ラルフ、やり過ぎだ・・・」
目の前にエルレイ様が降りて来て怒られてしまった。
「申し訳ありません」
「今は治療が先だ」
エルレイ様はそう言うと倒れている男達に治療を施して行った。
エルレイ様の治療が終わると、男達は無事立ち上がり、俺から慌てて離れて行った。
俺はと言うと誰も死んでいなかったので勝ち抜けたことになったが、他の選手たちから恐怖の目で見られるようになってしまった・・・。
そして俺は「狂人ラルフ」と呼ばれるようになった・・・。
≪エルレイ視点≫
「やはりラルフは全員から狙われているぞ!」
ヘルミーネの怒ったような声が響き渡る。
「でも、うまくあしらっているわね」
「そうだな、おお!全員倒したぞ!」
ラルフが上手い事全員床に倒し、その上から剣で叩きつけていた。
「エル、ラルフが止まらないぞ・・・」
「そうだな、行って来る」
俺は飛び上がり急いでラルフを止めようと向かったが、先に審判が止めた様だった。
しかしラルフに打ちのめされた男達は悲惨な状況だな。
俺は急いで治療を開始し、無事全員傷を治す事が出来た、出血は多かったが体の内臓までは破壊されていなかったから良かった。
まぁラルフの相手も一人を狙った非はあるからな、こっそり何故狙ったのか聞いて見た。
どうやら同じ装備をしているオスカル、トーマ、フリストが勝ち抜けているから皆で先に叩こうという事になっていた様だ。
なるほど、それならフリストとラルフが狙われた事は理解できる、これは俺の責任だな防具をそろえてやったのも俺だしな・・・。
俺は再び飛び上がり自分の席へと戻った。
「エル、お帰り」
「エルレイ、お帰りなさい」
「ただいま、なぜ狙われていたのか分かったよ、どうやら先に勝ち抜けたオスカル、トーマと装備が同じだったから警戒されていた様だ」
「そんな事で狙われていたのか」
「でも、バトルロイヤルだから強い者から倒したくなるのは分かるわね」
「そうだな、同じ装備を与えた俺の失態だ・・・」
「でも全員無事に勝ち抜けて良かったじゃない」
「うむ、一名落ちたのがいたがな」
「ヘルミーネ、皆から言われているだろうから本人には言うなよ」
「それくらい分かっている」
エリオットは運が無かったのと、仲間思いだったという事でいいのではないかと思う、アドルフがどう判断するかは別だがな。
「今日の予選はこれにて終了です!!また明日も予選がありますので、皆さん見に来てくださいね~!!」
エルゼさんの大きな声が会場へ響き今日の終了を告げた。
ルリアとロゼもこちらに来ていた様で、奥でリリーと話をしていた。
俺はこれから遺族たちの輸送作業だ、まずはロイジェルク様達からだな。
輸送作業を終えリアネ城に戻り夕食だ、今日はパーティでは無く各部屋に用意させて貰った。
毎日パーティだと飽きるし、何より俺が飯を食えない。
夕食の後、俺は執務室でアドルフと今日の事についての話し合いだ。
「エルレイ様、お疲れさまでした」
「アドルフもここで留守をさせてすまなかったな」
「いえ、状況は逐一入って来ておりましたので私なりに楽しんでおりました」
「それで、何か問題は起きたのだろうか?」
「そうですね、少々闘技場の外での食料が足りず、急遽街から配送させました」
「そうか、予想より人が多かった訳か」
「はい、しかし明日からはさらに余裕をもって準備いたします」
「よろしく頼む」
「それと、エルレイ様の予想通り街での盗みが二件発生いたしましたが、犯人はすでに捕まえております」
「そうか、警備隊には武闘大会が終わった後何か褒美を与えないといけないな」
「承知しました、トリステンと話し合って決めたいと思います、それで出場した執事達は勝ったのでしょうか?」
「エリオット以外は勝ち上がった、しかしエリオットを攻めないでやってくれ、トーマと同じ組になって最後トーマに押し出されたのだからな」
「承知しました、それと試合は予定通り消化されております」
「分かった、試合全体の内容は見ていて特に問題は無かった、ただ俺がエリオット達の装備を同じにしていたため、オスカルとトーマが勝ち上がった後、フリストとラルフが他の者全員に狙われていた」
「それは致し方ありませんね、ルール的に強い者を先に倒したくなるのは必定です、それを乗り越えられるよう厳しく鍛えなければなりませんね」
アドルフは笑顔でそう答えた、今でも十分勝ち上がったからこれ以上強くする必要は無いと思うのだが、強くなるのは彼らの為でもあるのか?
「明日も引き続き頼む、それとカリナさんには良い戦いだったと、そして明日も頑張ってくれと伝えてくれ」
「ありがとうございます、妻も喜ぶ事でしょう」
アドルフとの話し合いも終わり部屋に戻り就寝した。
翌朝貴族達と共に闘技場へとやって来た、街道は今日も混んでおり、次に向け街道整備も必要な事だとアドルフとは話し合っていた。
「それでは二日目の予選を始めます~!!」
エルゼさんの声と共に選手たちも入場してきて、それぞれ戦いを開始していた。
男性の方はバトルロイヤルは昨日で終え、今日から一対一で二回勝てば明日の本戦出場となる。
女性の方も今日一人二試合行われ、勝ち抜いた人が明日の本戦出場となる。
まず最初に現れたのはルリアで、昨日と同じくあっさりと勝って、こちらに手を振ってから控室へ下がって行った。
次に現れたのがラルフだったが、ラルフが闘技場へと上がると、客席から歓声や怒号が巻き起こっていた。
「狂人ラルフだ!!」
「今日も敵を血塗れにするのか!!」
「ラルフ様頑張って!!」
ラルフはそれを聞き恥ずかしそうにしていた。
試合は開始され、ラルフは昨日と同じ様に盾を構えて相手に突進し体制を崩して剣を振るっていた。
しかし相手はバトルロイヤルを勝ち上がって来た強者だ、そう簡単には倒れてくれず、ラルフも反撃を受けていた。
幾度かにわたる攻防の末、時間切れかと思われた時、相手は崩れるよう倒れ込み試合終了となった。
「流石狂人ラルフ!!今日も血塗れだぜ!!」
「狂人ラルフ!、狂人ラルフ!」
「ラルフ様格好いい!!」
観客から様々なヤジが飛び、ラルフは照れながら控室へ下がって行った、倒れた相手は血は流れている物の、ほとんどが打ち身ですぐさま駆け寄った警備隊に回復魔法を掛けて貰い、歩いて控室へ下がって行った。
ラルフ自身も血を流していたのだが、控室でもすぐ治療を受けられるからな、次の試合には支障が無いだろう。
その後トーマ、ニーナ、オスカルと順調に勝ち残って行ったが、フリストの相手が強敵の様だった。
どこかで見た事ある感じだったが思い出せない、フリストはその相手にずっと押されっぱなしだ。
やがてフリストは強烈な一撃を受け、場外へ吹き飛ばされて負けてしまった。
≪フリスト視点≫
フリストは目の前の敵の攻撃を受け流し続けていた。
やべーって、何だよこのおっさん、攻撃が止まらない上に一撃一撃が重たすぎるぜ!
普通こんな重い一撃を放つ奴は、たいてい足を止めている物だろう、なのにこのおっさんは俺を逃がさないよう必要に追いかけながら連続で斬り付けて来る。
剣を避けられれば相手の体力が先に尽きる筈だが、受けさせられていてこっちの体力が先に尽きてしまうぜ。
こうなれば一か八か、おっさんの懐に潜り込むしかない!
俺は覚悟を決めおっさんの剣を全力で受け止め懐に潜り込もうとした。
「あまいわ!!!」
おっさんはそう叫ぶと受け止めたと思った剣の軌道が変わり、俺は横なぎに払われ場外へと吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ!」
剣を撃ち込まれたわき腹が激しい痛みを訴えて来る、しかしすぐ回復魔法を掛けて貰い痛みは引いた。
しかし、こんな無様に負けたとなってはアドルフ様に叱られるぜ。
俺はとぼとぼと控室へと戻って行った・・・。
≪エルレイ視点≫
「フリストは残念だったが、相手がかなり強かった様だな」
「エルレイは対戦相手を知っているのかしら?」
「どこかで見た事あると思うんだが、思い出せない・・・」
「ふむ、フリストは残念だったが、次メイド長のカリナが出て来たぞ」
女性部門の所を見るとカリナさんが相手にお辞儀をしている所だった。
今日も相変わらずメイド服だな、兜はルール上装着しないといけないから見た目が非常に変だ・・・。
試合はと言うと、あっさり敵の懐に入りナイフを突き立てて終わりだ。
ナイフで戦うのは圧倒的に不利だと思うのだが、それを感じさせない動きだな、ルリアは簡単に懐に潜り込ませてくれないだろうから対戦した時が楽しみだな。
昼食後、午後も激しい戦いが続きラルフ、オスカル、トーマは無事勝ち抜き本戦出場が決まった。
ラルフの試合は相変わらず流血沙汰だったが、盾で突進していく戦い方ではどうしてもお互い無傷ではいられないからな。
俺がラルフと対戦するなら、盾の死角に潜り込みながら戦って行こうお思うが、当然ラルフはそれをさせてくれないだろう。
中々戦いにくい相手であることは間違いないな、訓練の時にでもラルフとは一度戦って見た方が良いだろうか?
女性部門も終わった様で無事、ルリア、ニーナ、カリナ、それとアンジェリカも明日の本戦出場が決まっていた。
「予選がすべて終了しました~!これより明日の本戦出場する選手の皆さんを発表します~!」
エルゼさんの声が会場に響き渡り、本戦出場が決まった選手が控室より闘技場へと現れた。
「まず男性部門から!一枠目、剣と盾で激しい戦いを見せてくれたラルフさん!!」
ラルフの名前が呼ばれると会場から歓声が沸き起こった、激しい戦いは見ていて興奮するから人気が出た様だ。
「二枠目、旧アイロス王国軍所属!ジャンさん!!」
旧アイロス王国軍という事で、ラルフの時より大きな声援が送られていた。
「三枠目、オスカルさん!!」
オスカルの名前が呼ばれてると会場は静まりかえっていた、まぁ戦いはすぐ終わっていたし、特に目立った事をしていなかったからこんな物だろう。
「四枠目、リアネ警備隊所属!ルーカスさん!!」
ルーカスの名前が呼ばれると静まりかえっていた観客から歓声が起こった、警備隊は人気の様だな。
「五枠目、旧アイロス王国軍第一軍団長!カールハインツさん!!」
会場が声援で溢れかえった、そうか思い出した、フリストを倒したのはカールハインツだ、どうりで見た事があると思った・・・。
名前は覚えていたが顔は一回会っただけだったしな・・・。
会場はカールハインツコールが起こっていた、凄い人気だ。
「六枠目、トーマさん!!」
カールハインツの熱が冷め止まないまま呼ばれたトーマは、バツが悪そうにしていたが意外と声援を受けていた。
ただ、ちびっこ頑張れとか、カールハインツの相手で可哀そうとかそう言うのだった。
今呼ばれている順番は明日の対戦順位でもあるから、カールハインツとトーマの戦いになる、トーマに勝って欲しいが厳しい戦いになりそうだな。
「七枠目、リアネ警備隊所属!アシュレイさん!!」
やはりアシュレイの時も大きな声援が送られていた。
「八枠目、旧アイロス王国軍!ダニーさん!!」
これで男性の方は全員呼ばれた訳だが、第一試合がラルフ対ジャン、第二試合がオスカル対ルーカス、第三試合がカールハインツ対トーマ、第四試合がアシュレイ対ダニーとなる。
本戦は八名によるトーナメント戦だから、ラルフとオスカルが勝ち上がると次で当たるのか、トーマはカールハインツに勝てれば決勝までいける可能性が出て来るな。
カールハインツに勝つのが難しそうだけどな。
「続いて女性部門です!一枠目、エレンさん!!」
いきなりエレン(ルリア)が呼ばれたな、女性部門という事があって歓声が凄い!
「二枠目、ホルフィーナさん!!」
ホルフィーナさんはとても美しく一部会場から熱狂的な声援が送られていた。
「三枠目、アンジェリカさん!!」
アンジェリカは三枠目か、次でルリアと当たるな、これは楽しみだ。
「四枠目、キャシーさん!!」
男性の時の様に肩書は無い物の、声援はとても大きかった。
「五枠目、ニーナさん!!」
あれ?リアネ警備隊所属ってのは入って無かったな、まぁニーナは表だって警備隊として仕事している訳では無いからな、公表しない方が都合がいいのだろう。
「六枠目、オデットさん!!」
オデットさんは胸がとても大きく会場の声援も最高潮に達していた、戦う時あの胸は邪魔そうだが、見ている分には楽しめそうだな。
「七枠目、カリナさん!!」
昨日今日とメイド姿で戦うのは見ているから、会場からメイドさん頑張ってと声援が多く送られていた。
「八枠目、メルタさん!!」
これで女性の方も全員出そろった、ニーナの方は勝ち上がるとカリナさんとの戦いだな、暗殺者対メイド、どちらに軍配が上がるのだろう、俺の立場からするとカリナさんに勝って貰わないと不味いが、ニーナにも勝って貰いたいな。
「これより男女共、優勝予想の受付を開始します!!締め切りは明日の九時までとなっております!!」
エルゼさんの声と共に皆それぞれ誰が優勝するか話し始めた。
「エルは誰が勝つと思うのだ?」
「難しいな、正直分からないよ」
「あら、そこはルリアが勝つと言ってあげないと」
「そうですよ、ルリアが勝ちます」
「いや、俺が思っていたのは男性の方で、女性の方は勿論ルリアに決まっている」
そう言ったけど女性の方も分からないんだよな、気持ち的にはルリアに勝って貰いたいが、ニーナとカリナさんも侮れない。
ニーナは以前見た時よりずいぶん強くなっている感じがしたし、カリナさんは殆ど実力を見せないで勝っているから、どれくらい強いのか分からない。
「うむ、エルレイ君、私はルリアに賭けたいのだがどうすればいいのかね?」
「ロイジェルク様達の分は明日係りの者が聞きに来ますので、その時に言って貰えれば出来ます」
「分かった、では明日ルリアに金貨百枚賭けるとしよう!」
金貨百枚ってロイジェルク様、いくらルリアが可愛いからと言ってそんな無駄遣いは困ります!!
「ロイジェルク様、貴族の方々からは銀貨一枚のみ受け付けております、遊びで浪費していては領地経営に支障が出ますので」
「ふむ、確かにそうだな」
「それと皆様の分は私の方でお出しします」
「エルレイ君、お金は自分で支払う、折角の賭けが面白くなくなるからな」
「確かにそうですね、失礼しました」
ロイジェルク様はにこやかに笑っていた。
俺は貴族の皆をリアネ城へ送り届けアドルフの下へやって来ていた。
「エルレイ様、お帰りなさいませ」
「アドルフただいま」
「エルレイ様、本日は特に問題はございませんでした」
「それは良かった、こちらの方も無事予選を終え明日の本戦待ちだな」
「承知しました」
「明日はアドルフも闘技場に連れて行くからな」
「エルレイ様、私はここでの仕事がございます」
「そんなものは部下に任せておけばいい、それともアドルフの部下は一日も任せておけない者ばかりなのか?」
俺は真剣な表情でアドルフを睨みつけた。
「そうですね、分かりました明日一日部下に任せます」
「アドルフは明日仕事の事は考えなくていいから、カリナさんを応援してやってくれ、俺も応援してやりたいがルリアの方を応援しないといけないからな」
「はい、ありがとうございます」
「そう言う事で、お前達はアドルフに心配かけない様頑張ってくれ」
「「「はい、お任せください」」」
部下たちは声をそろえて返事をしてくれた、皆優秀な者ばかりだから持ちこたえてくれると信じている。
翌朝、闘技場は熱気に包まれていた、予選とは違い、賭け事が出来る本戦は雰囲気が全く別の物になっていた。
そんな中俺達も誰が優勝するかで盛り上がっていた。
「エルレイは誰に賭けるのかしら?」
「俺はルリアとトーマにするよ」
「ルリアは分かるけど、なぜトーマなの?」
「それは勿論勝って貰いたいという期待だな!」
別に俺は賭けで儲ける必要無いから、カールハインツに勝って貰いたいと願いを込めてトーマにした。
「そうなのね。私はどうしようかしら?」
「うむ、ずばり勝つのはオスカルだな」
ヘルミーネはオスカルに賭けた様だ。
「それなら私はラルフにしておくわ」
「皆身内に甘いのじゃ、勝つのはカールハインツじゃな」
アルティナ姉さんはラルフに賭け、ロレーナはカールハインツに賭けた、私情を抜けばカールハインツに賭けるのは悪くない選択だ。
しかし、ヘルミーネやアルティナ姉さんは先生として教えていた手前、身内以外に賭ける訳には行かないよな。
「私もエルレイさんと同じ、ルリアとトーマさんにします」
「リリーは自分が勝つと思った人に賭けていいんだぞ?」
「はい、ですからルリアとトーマさんです」
「そうか、分かった」
「リゼ、すまないが買って来て貰えないだろうか?」
「承知しました」
「それとリゼとラウラも買っていいからな」
「はい!」
俺はリゼにお金を渡し、リゼは嬉しそうにラウラを連れて券を買いに行っていた。
貴族用は席の後ろに券を買う場所が用意されていて、ロイジェルク様達にはそんな事はさせられないので、特別に係りの者が来ていた。
「ロイジェルク様は男性は誰をお選びになりましたか?」
「カールハインツだな、予選を見ていた限りあの者は隙が無かった」
さすがロイジェルク様、俺達とは違い冷静に判断して決めた様だ。
「私もカールハインツですわね」
アベルティア様も同じ様だな。
「ただ・・・女性の方はカリナに賭けたわ」
アベルティア様はルリアに賭けなかったのか、ロイジェルク様が驚いているじゃないですか。
「アベルティア、ルリアが負けると言うのか?」
「それは分かりません、予選でルリアもカリナも実力を出していませんでしたからね、私の感です、気にしないで下さい」
そう言ってアベルティア様は笑ってごまかした、確かに二人とも実力を出していなかった、と言うより出す相手がいなかったのだが・・・。
実の娘に賭けないアベルティア様、賭け事には強いのかもしれない・・・。
「エルレイ様、お待たせしました」
「リゼ、ありがとう」
リゼが券を買って来てくれた、俺の手にはルリアとトーマの枠の番号、女性一枠、男性七枠と書かれた二枚の紙があった。
俺の思惑通り勝ってくれるといいけどな。
「もうすぐ、予想の受付を終了します~!!」
エルゼさんが予想の受付の終了を告げていた、もうすぐ本戦が始まる。
試合は女性の第一試合、男性の第一試合と交互に行われる、つまり、いきなりルリアの試合からだ。
俺の方がドキドキしてきた・・・。
「エル、ルリアの試合からだったな?」
「そうだ、緊張してきた」
「うむ、ドキドキしてきたな」
「そうね、ルリア緊張していなければいいけど・・・」
アルティナ姉さんは心配そうな表情をしていた、まぁ隣のロイジェルク様の方がもっと心配している様だけどな・・・。
「皆さんお待たせしました~!!これより武闘大会本選を開始します~!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~」」」
会場が一気に盛り上がっていた。
「女性部門第一試合!エレンさん対ホルフィーナさん!!」
エルゼさんの声と共に二人が入場してきた、闘技場は予選の時の区分けを取り払っていてかなり広く感じる。
二人が闘技場へ上り向き合った剣を構える、二人の緊張が伝わったのか会場が静まりかえっていた。
「試合開始!」
審判の合図と共にエレン(ルリア)が一気に攻め込んだ・・・。
≪エレン(ルリア)視点≫
いよいよ本戦ね!
控室にいると他の人の緊張が伝わって来る、私の相手はどこかのお嬢様だと思うけど見た事無いわね。
歩き方や仕草を見ていると平民には見えなかった、今はその様な事関係無いわね。
名前を呼ばれ闘技場へと向かう、いよいよね。
私は剣を構え相手を見る、相手も剣のみで盾は持っていない、貴族で鍛錬の為教育を受ける時は盾など使わないわね。
「試合開始!」
一気にけりを付ける!
私は相手との間合いを詰め力を込めて斬りかかる。
「ギン!」
私の剣は軽く受け流されそのまま反撃を仕掛けられ、それをぎりぎりでなんとか躱したわ。
「チッ!」
今までの様に力で抑え込めないわね。
ここまで男性相手に鍛えて来た私の剣を受け流せるものはいなかったから油断したわ。
体制を整え再び剣を振るう、しかし今度は連続よ!
「ギンギンギンギン!」
すべて受け流されたけど、反撃は出来なかった様ね。
だけど受け流すのは上手いわね、まるでエルレイの様だわ。
エルレイは受け流しながら相手の隙を突いて来るのが上手く、いやらしいのだけど、彼女は受け流すだけで隙を突く上手さは無いのかしら?
それならもう一度今度は速度を上げて行くわよ。
「ギンギンギンギン!」
思った通り受け流す事は出来ても反撃は出来ない様ね。
それならこれで終わりよ!
「ギンギンギンギンギンギン!」
今度は六連撃で、最後に足払いよ!
「どすっ!」
見事に足払いが決まり彼女は後ろに倒れ込んだ、そこに剣を突き立てて終わりよ!
「そこまで!」
私もそうだったけど、貴族の剣技にこういった卑怯な手段はないわ、エルレイに散々やられていた事が役に立ったわね。
勝負が決まり私が帰ろうとしていると相手から声がかかったわ。
「今のは卑怯よ!」
思わず笑いが込み上げて来たわ、以前私も同じことをエルレイに言ったわね。
「戦いの場にそんな言葉は無いわよ」
エルレイに言われた言葉をそのまま彼女に返して控室に戻ったわ。
≪エルレイ視点≫
一方的な展開だったが、最後のあれば俺が最初の頃ルリアにやった手だな・・・。
「ふむ、見事な足払いだったが、ルリアはいつの間にあのような手段を得たのだ?」
ロイジェルク様が首を傾げていた、貴族としてあのような手段はやはりお気に召さない者があったのだろうか・・・俺がやったとは言えないな。
「最近警備隊の所で訓練していた様ですから、その時に覚えたのではないでしょうか・・・」
「なるほど、しかし見事な勝利だった」
試合内容はどうであれ、ルリアが勝ってロイジェルク様はご機嫌だった。
「続きまして、男性部門第一試合!ラルフさん対ジャンさん!!」
エルゼさんに呼ばれて、ラルフとジャンさんが闘技場へ姿を現した。
「狂人ラルフ!!」
「ジャン頑張れ!」
声援は半々と言った所だろうか、狂人ラルフの人気は凄い物だな、今後の武闘大会にラルフだけは出さないといけないな。
「試合開始!」
審判の掛け声でラルフとジャンさんの試合が始まった。
≪ラルフ視点≫
「狂人ラルフ!!」
どうしてそう言う呼び名になったのか、出来れば止めて貰いたい・・・。
俺が闘技場に入ると次々とそう呼ばれた。
確かに俺の戦い方だと俺も相手も血が出てしまうが、狂ってはいないぞ!
「試合開始!」
さてどうするか、相手は元軍人で俺と同じく剣と盾を装備している、軍ではこれが普通だとトリステン様に教えられたからな。
他の皆は盾を嫌って持たなかったが、俺には合っていた、トリステン様に教えられたとおり、盾に体重をかけ相手を押し、体制を崩してから剣で斬り付ける。
今までは良かったが、今回の相手は多分俺と同じだろう、しかし悩んでも他の方法を俺はまだ知らない。
トリステン様に教えられた通りやるだけだ!俺は気合を入れ盾を構えて相手へと突進した!
相手も待っていた様で俺と同様盾を構えて突進してきて衝突した!
「バーーーン!!」
盾どおしが激しくぶつかり合い、ここからは力勝負だ。
二人とも力任せに盾を押し出す、剣は近すぎて振っても大した攻撃にはならない、突きも盾があるため無理だ。
暫く押し続けていたが限界が来て、二人共はじけ飛ぶように離れた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、やるじゃねーか」
「・・・そっちこそ」
二人は呼吸を整え再びぶつかり合った・・・。
しかし結果は同じで、剣を苦し紛れに振ってみたが傷を与える事は出来なかった、それは相手も同じで再び距離を取った。
「ぜーはー、ぜーはー」
「ぜーはー、なぁ・・・提案があるんだが?」
「ぜーな、なんだ?」
「・・・盾を捨てないか?」
「・・・そうだな、このままでは決着が付かないな」
この時点で二人共かなり体力を消耗していた、お互い盾を捨て剣を構える。
「はぁ、はぁ」
呼吸を整え剣を構えなおす。
「行くぜ!」
相手が突っ込んで来て剣を振るって来た、俺はそれを避けず相手目がけて力一杯剣を振るった!
「「めきっ!」」
お互いの体に剣を受け、骨が折れる音が聞こえて来る、それに伴い激痛が体を走るが、そんなこと気にしていては負けてしまう。
歯を食いしばり、再び剣を相手目がけて振るい続ける、俺は皆の様に剣が得意では無い、それで悩んでいた所トリステン様から今のような盾を使った戦法を教えられた、だから技術も何もなく、ただただ剣を振るい続けるしか無かった。
気が付いた時俺は地面に倒れ込んでいた・・・遠くで声が聞こえてくるような気がするが、そのまま意識を失ってしまった。
≪エルレイ視点≫
剣と盾同士の戦いは壮絶を極める物だった・・・。
最初はお互い力比べをしていた様だが、お互い盾を捨て斬り付け始めてからは、見ているこちらが痛くてたまらない感じだ。
ジャンさんが先に倒れ、続くようにラルフも倒れた。
「ラルフ!!」
後ろで本物のエレンの悲鳴が聞こえたが、俺はすぐさま飛んで二人の下へ駆けつけ治療を行った。
あちこち骨が折れ内出血が酷かったが、命の心配は無かった、あれだけお互い叩き合えばこうなるのは仕方が無いな。
審判がトリステンの所にどうするか聞きに行っていた、二人共倒れて気絶しているからな。
観客もどちらが勝ったのか固唾を飲んで見守っている。
「勝者ラルフ!」
審判が戻って来て勝者を告げると、観客から歓声と悲鳴が上がる。
警備隊が数人来て、気絶している二人を控室へ運んで行った。
「二人共命の心配は無い、怪我も治療したからすぐ元気になるだろう!!」
俺はそう言って自分の席へと戻り、後ろにいるエレンの所に移動した、ラウラからエレンとラルフは恋仲だと聞いていたから安心させてやりたい。
「エレン、ラルフは無事だ、怪我も全て治療したからすぐ起き上がるだろう」
「エルレイ様、ありがとうございます」
エレンとマリーは、他のメイドと共にここで貴族達への飲み物や食べ物の提供を行っていた。
アンナは回復魔法が使えるので、女性の控室の方に行っている。
エレンの安心した表情を見て俺は自分の席へと戻った。
「女性部門第二試合!アンジェリカさん対キャシーさん!!」
前の戦いの興奮が冷め止まぬまま、次の選手が闘技場へ入場してきた。
アンジェリカは俺に教えていた頃と同じ剣を両手に構えていて、キャシーさんは女性に珍しく剣と盾を装備していた。
「試合開始!」
先に攻め込んだのはキャシーさんだった、アンジェリカはキャシーさんの攻めを軽く受け流し、盾を持っている左側に回り込むように移動して、キャシーさんの右側を斬り付けていた。
アンジェリカは基本の正しい剣術を使う、俺の様な我流では無いから見ていて美しい。
アンジェリカは円を描くよう移動しながらキャシーさんの右側、盾を持った方を必要に斬り付けて行っていた。
そうする事で、盾に受け流されるがキャシーさんの剣はアンジェリカに届かない。
それはキャシーさんも分かっている事で、キャシーさんは先読みして一気に体を回してアンジェリカに剣を撃ち込む。
しかしそれはアンジェリカの罠で、斬り付けてきた剣を受け流しそのまま滑らせるようにキャシーさんの体に剣を突き立てた。
「どす!」
見事にアンジェリカの剣はキャシーさんの心臓部分へと突き刺さる。
「そこまで!」
アンジェリカの勝利となった、前の勝負からするとあっさり終わったように思えるが、こういうきれいな勝負の方が見ていて楽しく思う。
これでルリアとアンジェリカの試合が決まった訳で楽しみだ。
「男性部門第二試合!オスカルさん対ルーカスさん!!」
「オスカルの出番が回って来たぞ!」
オスカルに賭けたヘルミーネが興奮していた。
「しかし、相手は警備隊のルーカスさんだ、オスカルが勝つとは限らないぞ」
「エルはオスカルが負けると思っているのか?」
「いや、ただ俺としてはどちらも応援しないといけないからな」
「ふん、まぁいい、オスカル勝つのだぞ!」
≪オスカル視点≫
いよいよ本選だ、緊張はしているが体はほぐれている。
闘技場に上がりながら腕を回し体を確認する、良し行ける!
しかし相手はルーカスさんだ、訓練の時何度か相手をして貰っていて戦い方はお互い知っているだろう。
今までの結果からすると、普通に戦っていてはまず勝てない、気合を入れなおしルーカスさんを見据える。
ルーカスさんも剣と盾を構えこちらを見ていた、真剣な表情で俺が相手で油断してくれている訳では無さそうだ。
「試合開始!」
「うぉぉぉぉ!」
俺は間合いを詰め全力で斬りかかって行った。
ルーカスさんも同じくこちらに合わせて剣を振って来る。
「ギン!ガン!ギンギン!ガン!」
俺の剣は全て防がれているが、構わず続けて撃ち込み続ける、俺が両手剣で攻撃している間はルーカスさんの反撃は無いはず。
そう思っていたら、ルーカスさんは剣で俺の剣を受け止め踏み込んできて盾で俺を吹き飛ばした!
まずい、そう思って吹き飛ばされた所で自分から後ろに飛び二、三回転がってから立ち上がった。
目の前には既にルーカスさんの剣が迫っていた、体をひねってかわそうとしたが避けきれず左腕に当たり、俺は右手で剣を振るい盾で防がれてしまったが、間合いを開けることは出来た。
「はぁ、はぁ、オスカル降参したらどうだ?」
ルーカスさんが俺の状態を見てそう言ってきた、俺の左腕はだらんと下がり使い物にならない、完全に折れていて激しい痛みが襲ってくる。
「ぐっ!そうしたいですが、まだ右手が使えますからね・・・」
「そうでなくてはな!」
ルーカスさんは容赦なく剣を振って来た、俺は右手一本で両手剣を持ち、ルーカスさんの剣を受け流す。
流石に片手で両手剣を振り回す腕力は無い・・・後ろに下がりながら剣を受け流し続ける。
しかしこのままでは勝つことは出来ない、降参の二文字が頭をよぎる・・・その時控室の入り口からこちらの様子を心配そうに見ているアンナの姿が見えた。
そうだな、好きな女性の前で降参する訳にはいかないな、負けるとしても最後まで戦って負けるとしよう!
俺は一気に後ろへ飛び間合いを取った、そして剣を真っ直ぐ構えた。
「行きます!」
「来い!」
ルーカスさんは盾を構え待ち構えている、俺にはもう突く事しか攻撃手段が無い、勢いをつけルーカスさんに剣を突き出した。
突きだされた剣は盾によって防がれる、それは織り込み済みだ、素早く剣を引きもう一度剣を突き出した。
俺の剣がルーカスさんの胴体に当たると思った瞬間、ルーカスさんの体がくるっと回り俺の剣を避け、回転の勢いのままルーカスさんの剣が俺に当たり倒された。
「そこまで!」
激しい痛みはあるが意識はしっかりとしている、俺はゆっくり立ち上がった。
「最後の攻撃良かったぜ、ただ片手で振るには腕力が足りてねぇな!」
「そうですね、鍛えなおします」
「おう、いつでも相手をしてやるぜ」
ルーカスさんはにやりと笑い、俺に肩を貸してくれた。
≪エルレイ視点≫
「あぁ惜しかったのだ!」
ヘルミーネが悔しそうにしていた。
「確かに惜しかったな、最後の攻撃当たったと思ったのだが、ルーカスさんの方が一枚上手だったな」
「オスカルは残念だったけど、いい勝負だったわね」
「面白かったのじゃ」
「エルレイさん、治療しなくてよかったのでしょうか?」
リリーが俺が治療に行かなかったから聞いて来た。
「骨は折れているかもしれないが、大した傷では無いだろう、それにオスカルには専属がいるからな」
闘技場の方ではルーカスさんの肩を借りて下がって行くオスカルに、寄り添うようにして歩いているアンナの姿が見えた。
「そうでしたね」
リリーはその光景を見て微笑んでいた。
「女性部門第三試合!ニーナさん対オデットさん!!」
闘技場にニーナとオデットさんが入場してきた。
ニーナは恥ずかしいのか俯いていた、大丈夫だろうか・・・。
そんな心配をよそに、試合が始まるとニーナはあっさり勝利しさっさと控室に帰って行った。
会場もあまりの速さに静まりかえっていた。
「男性部門第三試合!カールハインツさん対トーマさん!!」
しかしカールハインツの名前がエルゼさんに呼ばれると一気に会場は盛り上がりを見せた。
カールハインツは旧アイロス王国軍第一軍団長だけあって人気が高い様だ。
二人が闘技場へ上がりお互い向き合っていた、さてトーマがどの様に戦うのか楽しみだな。
≪トーマ視点≫
試合前、フリストから相手であるカールハインツの事を聞いていた。
なんでも素早く、それで一撃が重いそうだ、それだけでは無く、力任せに軌道を変えて来るとの事。
フリストと似たような体系の俺では、正面から当たるのは得策では無いとフリストに言われた。
となれば足を生かして戦うしか無いな。
闘技場に上がりカールハインツを正面に見据えると、凄まじい威圧感が俺に押し寄せて来る。
「すーはー」
俺は深呼吸をし相手に飲み込まれない様気合を入れた。
「試合開始!」
シュートソードを両手に構え、カールハインツの出方を伺う・・・。
「どうした来ないのか?ならこちらから行くぞ!」
カールハインツは一気に間合いを詰めて来て剣を振りおろしてくる、俺はそれを横に飛びのけながら避け、カールハインツの懐に入ろうと試みたが、振りおろされたはずの剣が横なぎに払われてきた。
俺は後ろに下がり間合いを取る、なるほど、これがフリストが言っていた力任せに軌道を変えて来る剣か。
「ふむ、良い動きだ、だが逃げてばかりではどうにもならんぞ!」
カールハインツは再び俺に向け斬り付けて来た、俺はそれを左右に飛びながら躱して行く。
フリストから剣で受けと止めていては体力を奪われてしまうと助言を受けていた。
しかし、このまま避けていても俺の剣がカールハインツに届くことは無い。
「そらそらそら!」
カールハインツは疲れを知らないのか、剣が止まることは無かった。
「はぁ、はぁ」
剣を避けていても俺の方が先に疲れてしまうのでは無いのか?
空振りしているカールハインツの方がはるかに疲れているはずなのだが、見るからにまだまだ元気そうだ・・・。
これは勝負に出るしか無いか・・・トリステン様からどうしても勝てない相手からは逃げろと言われていた、しかしどうしても逃げられない時の為に、ある技を教わっていた。
しかしその技は失敗すると非常に危険だ・・・。
でもやるしか無いか、失敗しても死ぬ訳では無いからな。
俺は意を決してカールハインツとの間合いを詰めた。
「むっ!」
カールハインツは今まで逃げてばかりいた俺が間合いを詰めた事に少し驚いていたが、冷静に剣を振りおろして来た。
俺は右手の剣を上げ受け止めようとした、しかしカールハインツは無理やり剣の軌道を変え斬りかかって来た、
それは予想済みだ、俺は左手の剣でカールハインツの剣を受けとめ、さらに右手の剣でカールハインツの剣を挟み込んで動きを止めた。
「なんと!しかしそれではお主も手が出せまい?」
「そうでもないさ」
俺は挟み込んでいる剣を逃がさない様に力を籠め真横に回転しながら飛び去った。
挟み込まれた剣は俺のショートソードと共にねじり込まれる事となる。
「むん!」
カールハインツは剣を持って行かれまいと力を込めた。
「バキッ!!」
次の瞬間カールハインツの剣は俺のシュートソードに挟まれた位置から折れてしまった。
俺のショートソードも挟んでいた部分がへこんでいるが折れてはいない。
俺は急いで起き上がり、折れた剣を見ているカールハインツに向け斬りかかった。
「降参する!」
俺が間合いに入る前にカールハインツが降参し、俺もその場に急停止した。
「見事だ、しかしお主の剣もただではすむまい?」
「運よくこっちは折れなかったが、二、三度打ち合えば折れるだろうな」
俺はへこんだショートソードをカールハインツに見せた。
「ふははははは」
カールハインツは笑いながら闘技場を降りて行った。
≪エルレイ視点≫
「エルレイさん、勝ちましたよ!」
リリーがトーマが勝った事をとても喜んでいた。
「ふむ、しかし今のはトーマの剣も折れていても不思議では無かったな」
ロイジェルク様は冷静に判断していた。
「そうですね、多分あれは相手の武器を奪うのが目的で、折れたのはカールハインツさんが剣を手放さないだけの力があったから折れたのでしょうね」
「そうだな」
しかし本命と思われていたカールハインツが負けた事で、誰が優勝するのか分からなくなったな。
俺もトーマには賭けてはいたが勝つとは思っていなかった。
「女性部門第四試合!カリナさん対メルタさん!!」
カリナさんの登場だ、後ろに控えているアドルフの方を見ると、いつもと変わらず平然とした表情だった。
少しは心配そうな表情をしているのかと思ったが、この程度の相手、心配するほどでは無いと思っているのかもしれないな。
しかし俺の中でメイドの心象が揺らいで来ている、メイドと言えばラウラの様にいつも落ち着いていてテキパキと仕事をこなし、戦う事なんて出来ないと思っていた、出来ても護身術程度だろう。
しかしリゼ、ロゼ、カリナさん、他城にいるメイド達も多分戦えるのだろう、俺がメイド達を出場させればいいと言った時アドルフは反対しなかったからな・・・。
試合はカリナさんもあっさりと勝負を決め控室に下がって行ってしまった。
相手が弱すぎた訳では無いと思うが、剣を振った次の瞬間、ナイフが首元に当てられているからな。
でも次はニーナとカリナさんの試合だから、ここで二人がどの様な戦いになるのか楽しみだな。
「男性部門第四試合!アシュレイさん対ダニーさん!!」
控室よりアシュレイさんと、ダニーさんが出て来ていた。
「エル、アシュレイは以前見た事あるな」
「そうだな、街に行った時護衛して貰っていたな」
「ふむ、ならばアシュレイを応援してやろう」
ヘルミーネはにこやかにそう言って声援を送っていた。
アシュレイは警備隊には珍しく両手剣を持っている、トリステンが言うには魔法を使える様になって、盾を持つ者が徐々に減って来たとの事だ。
呪文を唱えるのに手は必要無いが、障壁を張れる事が出来る様になり、盾が不要になったという事だろう。
俺もルリアもそう言う理由で盾は使って無いからな。
試合は一進一退の末アシュレイさんの勝利となった、現役の方に分があった様だ。
「うむ、見事だった」
ヘルミーネは応援していたアシュレイが勝ったことで満足していた。
男女共一試合が終わった所で昼食の為休憩となり、午後から準決勝が行われた。
「女性部門準決勝第一試合!エレンさん対アンジェリカさん!!」
ルリアとアンジェリカさんが闘技場へ出て来て、ルリアはこちらに手を振っている、俺や皆も手を振り返したが、今はルリアでは無くエレンという事になっている、不味いような気もするが誰も気が付かないか。
二人とも剣を構え対峙している、二人の緊張がこちらまで伝わって来る。
「試合開始!」
試合開始が告げられても二人は動かない、やがてルリアが笑ったかと思った時二人が同時に動き出した。
≪エレン(ルリア)視点≫
アンジェリカと試合をするのは久しぶりね。
エルレイの所に行った時毎日の様に訓練を付けて貰っていたわ。
その時より強くなった私をアンジェリカに見せてあげないとね。
エルレイとアンジェリカの三人で訓練していた時の事を思い出すと笑みが零れて来た、アンジェリカと楽しい勝負をしましょう。
以前の訓練の時の様に剣を斬り込むと、アンジェリカもそれに応えて剣を振り、暫くの間剣舞を楽しんだわ。
しかしこれは訓練では無く勝負、ここからは本気で攻め込んでいくわね。
私が剣の振る速度を上げて行くと、アンジェリカもそれに合わせて速度を上げて来た、アンジェリカも遊んでいた訳では無いようね。
アンジェリカの剣は教育係として雇われるだけあって、基本に忠実で美しい。
それ故に、エルレイの様に不意を突いてくる攻撃には打たれ弱い、しかし今回だけは私もアンジェリカと同じように打ち込み、アンジェリカを超えたいと思うわ。
さらに打ち込む速度を上げて行く、アンジェリカも必死について来ようとしていたが、一撃また一撃と徐々にアンジェリカの体に私の剣が当たって行く。
暫くして、アンジェリカは膝を突き剣で体を倒れないよう支えて肩で息をしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「アンジェリカ、もう終わりなのかしら?」
私がそう言うとアンジェリカは顔を上げ、嬉しそうな表情をしていた。
「ルリア様お強くなりましたね、まだ戦いたい気持ちはありますが、もう体が動きません、降参します」
私はアンジェリカに肩を貸し闘技場を降りて控室へ向かった、しかしアンジェリカは先程私をルリアと呼ばなかったかしら?
「アンジェリカ、私はエレンよ」
「そうでしたね、申し訳ありません」
アンジェリカは完全に私の事がルリアだと分かっている様だわね、どうしてばれたのかしら?
アンジェリカに聞く訳にもいかず、疑問を抱えたまま控室に戻って行ったわ。
≪エルレイ視点≫
「お互い素晴らしい剣舞であった」
ロイジェルク様はルリアが無傷で勝ってご機嫌だ、しかしルリアはホルフィーナさんの時と違って、真正面からアンジェリカを打倒したな。
しかし、俺もアンジェリカと戦う事になったら正々堂々と勝負するかも知れないな。
これでルリアは決勝へと進んだ、対戦相手はニーナとカリナさんのどちらかになる訳だが、どちらと戦うにしてもルリアは簡単には勝てないだろうな。
「男性部門準決勝第一試合!ラルフさん対ルーカスさん!!」
ラルフが闘技場へ姿を現すと、ラルフコールが巻き起こっていた。
「ラルフ!ラルフ!狂人ラルフ!!」
ラルフ本人は恥ずかしそうに盾で顔を隠して闘技場へ上がって来た。
ラルフの相手は今回も剣と盾を装備している、また同じような展開になるのだろうか・・・。
≪ラルフ視点≫
なんだよ狂人ラルフって・・・好きで血を流しているんじゃないんだがな・・・。
応援か罵声か分からない掛け声を掛けられ、俺はどう反応していいのか分からなかった。
しかし今回の相手はルーカスさんだ、オスカルが負けた様に俺にも勝ち目は無いように思える。
しかしエルレイ様にエレンも見ている事だし、全力で戦うしかない!
「試合開始!」
俺はルーカスさん目掛け盾を前面に構えて突進した。
「盾ってのはな、こう使うんだよ!」
ルーカスさんは盾を横に振り、俺の盾に当てて突進する方向を無理やり変えられてしまった。
頑張って踏みとどまろうとしたが、そこにルーカスさんの剣が俺の体に当たり、激しい痛みで前のめりに転倒してしまった。
俺は慌てて横にゴロゴロと転がり、ルーカスさんの追撃を免れた。
俺は起き上がって再び盾を正面に構える、再びルーカスさん目掛けて突進した。
「学ばねえ奴だな!!」
ルーカスさんは再び俺の盾を打ち払って来た、俺はそれを受け流し、その反動で回転しながらルーカスさんの首筋目がけて剣を払った。
「あっぶねーな」
ルーカスさんはそれを後ろに飛ぶ事で避けていた。
これで同じように俺の盾を払う事が出来ないはずだ!
そう思い間髪入れずまたルーカスさん目掛け突進して行った。
「無駄だって言ってんだよ!」
ルーカスさんは同じ様に盾で跳ねのけ、俺も同じ様に回転して剣を払った。
ルーカスさんは今度はしゃがんで躱し剣を俺に突いて来た、俺は回ったまま盾で剣を払い、さらにしゃがんだルーカスさんに剣を払った。
ルーカスさんは後ろに転がりながらそれを避けスッと立ち上がった。
「おかしな攻撃ばかりしてきやがって!」
おかしな攻撃と言うが俺も突進を受け流され、仕方なくこの様な事になっているのだが・・・。
しかも少し目が回って来たからあまり同じことを続けたくない。
だが俺にはこの方法しか戦う術が無い、再び盾を構えてルーカスさんへ突進した。
「またかよ!!」
ルーカスさんはまた俺の盾を払おうとして来たが、俺は急制動を掛けルーカスさんの盾を空振りさせた。
そして今度こそルーカスさんの体に盾を当て弾き飛ばした!
更に体制を崩したルーカスさんに突進し盾をぶち当て、ルーカスさんを押しつぶすように倒した。
そこからは技術もくそも無く剣で殴りつけるのみ!
「ちょ、まった、いてっ!降参!降参するから!」
「そこまで!」
審判に止められ俺は攻撃を止めた。
俺とルーカスさんは起き上がり、二人共怪我はたいしてしていないが、倒れた時俺もルーカスさんも傷を負っていたのか血が流れていた。
「無茶苦茶だぜ、お前は!」
ルーカスさんは文句を言っていたが表情は笑顔だった。
≪エルレイ視点≫
「ラルフが勝ったが・・・」
ヘルミーネはラルフの戦い方を見て言葉を無くしていた。
「戦い方は美しく無いと思うが、ラルフに勝つのはなかなか難しいのでは無いだろうか・・・」
実際に俺が戦うと考えると、盾を当てられる前に足を止めるしか方法が無いな、しかも正面からは無理だから横に回りながら力の入っていない攻撃でラルフを転倒させるのは難しい様に思える。
よし、ラルフとは戦わない事にしよう!俺の中でラルフは危険と決定された。
「女性部門準決勝第二試合!ニーナさん対カリナさん!!」
ついにこの時が来たな、どちらが勝つのか俺には分からないが、ここまで二人は急所にナイフを当てて勝って来ているから、一瞬の判断の遅れが勝敗に繋がるだろう。
闘技場でニーナとカリナさんが対峙している、観客も目を離すまいと真剣な表情で二人を見ている。
「試合開始!」
「キン!」
審判の掛け声と共にナイフが当たる音が響き渡った・・・。
≪ニーナ視点≫
「すーはー」
呼吸を整え集中を高める、一瞬でも油断したら負けるのさね。
あたいは気を引き締め両手のナイフを握りしめるさね。
「試合開始!」
お互い示し合わせた様に間合いを詰め、ナイフを振り合いぶつかると同時に離れたさね。
速度は互角さね、それなら手数の多いあたいの勝ちさね!
あたいは振り向き再び間合いを詰め、目、首、心臓と急所へ両手のナイフを突き立てて行く、今度は離れないさね。
それは相手も同じであたいの急所に突きつけて来るさね。
おかしい、あたいの方が手数は多いはずなのに、あたいと同じ数だけ急所を突かれているさね。
相手がしゃがみこみあたいの足を払って来たさね、あたいは後ろに飛んでそれを躱し距離を離したさね。
「なかなかやりますね、しかしまだ動きに無駄がありますね、では本気で行かせて貰います」
相手はそう言うと目の前から消え、背後に気配を感じ、あたいは必死に躱したさね。
あたいも本気を出し速度を上げ、相手の背後へ回り込んださね。
背後から首目がけてナイフを突き出すと相手はくるりと回ってそれを躱し、逆にあたいの首を突いて来たさね。
あたいはもう一つのナイフでそれを防ぎ、突き出していたナイフをくるりと内側へと持ち替え、返す手で相手の首を薙ぎに行ったさね。
貰ったさね!そう思ったら腕を掴まれそのまま投げ飛ばされたさね、あたいは逆らわず自ら投げられ空中で回転し着地したさね。
しかしその時勝負が決まったさね、あたいの首にナイフが当てられていたさね。
「そこまで!」
負けたのさね・・・優勝してトリステンに褒めて貰おうと思っていたのが台無しさね・・・。
≪エルレイ視点≫
「エル、何が起こっていたのか全く分からなかったぞ」
「そうね、お姉ちゃんにも見えなかったわ」
「二人とも素早かったのじゃ」
「俺もよく分からなかったな・・・」
二人の戦いはここからだと見えなかった、動きは追えていたのだが手の動きまでは無理だった。
ここにいて分かったのはナイフ同士が撃ちあう音だけだな・・・。
しかしニーナも強くなっていたと思ったが、それ以上にカリナさんが強かった訳だ。
はたしてルリアはあの速度に付いて行けるのだろうか?
ロイジェルク様も今の試合を見て心配そうにしている。
「男性部門準決勝第二試合!トーマさん対アシュレイさん!!」
さて闘技場ではすでにトーマとアシュレイさんが対峙していた間もなく試合が開始されるだろう。
リリーがトーマの券を握りしめて応援している、リリーの為にトーマ頑張ってくれ・・・。
≪トーマ視点≫
ショートソードは予備と交換し万全だが、相手がアシュレイさんだ。
何度か手合わせをして貰ったが、未だに勝てたためしはない。
しかし全力で戦うのみだ。
「試合開始!」
アシュレイさんは間合いを詰めて斬りかかってきた、俺はそれを躱し懐に入り込もうとするが、今までと同じように後ろに下がられてしまい間合いを取られてしまう。
今度は俺から間合いを詰め左右交互に斬り付けて行くが、全て剣で受け流されアシュレイさんに届くことは無い。
「どうした、さっきの技は使わないのか?」
アシュレイさんは挑発する様に俺に剣を振って来る。
先程剣を折った技は、分かっていれば対処しやすいから使えない。
俺はアシュレイさんの剣を受け流しながら、どうにか間合いを詰める事が出来ないか考える。
しかしいくら考えても身長差があり、剣の長さも違うので俺の剣は届きそうにない。
そうか!俺は後ろに飛び間合いを離した。
「どうした、もう疲れてしまったのか?」
アシュレイさんは余裕の表情で俺を挑発して来る。
俺は一本のショートソードを鞘に納め、両手でもう一本のショートソードを構えた。
これでアシュレイさんの剣に押し負けることは無いはずだ。
「ほう!」
「行きます」
俺は両手に構えたショートソードでアシュレイさんの剣を弾き飛ばした、そして開いたアシュレイさんの体目掛け剣を振りおろした。
だが俺の剣はわずかに届かず空を斬り、逆にアシュレイさんの剣が俺に叩きつけられた。
「そこまで!」
「惜しかったな、もう少しお前の身長が高ければ今のは当たっていたよ」
両手で持つ事によって俺の剣の威力は上がっていたが、届く距離が短くなっていることまで頭が回らなかったな・・・。
剣が当てられた所は痛んだが、アシュレイさんが力を抜いてくれていたお陰で軽い打撲程度ですんだ。
≪エルレイ視点≫
「負けちゃいました」
リリーが肩を落として残念がっていた。
「エル、どうしてトーマは先程の様に武器を折りに行かなかったのだ?」
「あの技は知っていれば対処できるからな、剣を挟まれた時、剣から手を離して蹴ったり殴ったりすればいいんだよ、剣から手を離す事によって折れる事も無いから、後で拾えばいいからな」
「なるほど、ではもう二度と使えないのだな」
「そうでもない、わざと剣を挟んで相手が剣を離した時、力任せに斬りかかるか、後ろに下がって剣を奪ったりできる、ただトーマの様な身長ではそこまで出来ないから出せなかっただけだな」
「ふむ、面白いな」
「ヘルミーネも剣を習ってみるか?」
「いや、見ているだけで十分だな、私には魔法があるからな」
「そうだな、俺も今日の試合を見て魔法の方が良いと改めて思ったよ」
剣の訓練は続けて行くが、実際に戦う時は魔法で十分だ・・・。
「女性部門決勝戦!エレンさん対カリナさん!!」
この時が来た、ロイジェルク様、いや、皆心配そうにルリアを見ていた。
俺もルリアの事は心配だが、それ以上にこの試合が楽しみだった。
≪エレン(ルリア)視点≫
最後の戦いね。
闘技場に上るまで、私は集中力を高めて行ったわ。
カリナには普段、掃除に洗濯その他にも色々お世話になってるけど、この場に立つからにはその事は関係ないわね。
それはカリナも同じ気持ちの様ね、真剣な表情で私を見つめてきているわ。
「ふぅー」
息を吐いて剣を構えカリナを見据える、カリナはお辞儀をし両手を前で組み、ナイフを手に持っている以外は普段と変わらぬ立ち姿だわ。
「試合開始!」
私は間合いを詰めカリナに浅く、そして素早く連続で突いて行く、剣を振り回していては簡単に懐に潜り込まれてしまうでしょうからね。
剣の長さでこちらが有利ですが、カリナにはそれを感じさせない素早さがあります、現に私の突きはかすりもせず避けられてしまっているわ。
私は姿勢を下げ、カリナの足を剣で払った、カリナは慌てる事無く後ろへ飛びそれを避け、また手を前で組み立っていたわ。
それはカリナの自然体であり、どのような攻撃にも対応できるのでしょうね。
私は再び間合いを詰め、今度は緩急をつけ突きを放っていってみたけど、それもすべて躱されたわ。
ふっと目の前からカリナが消え、私は慌てて振り返り剣で払った。
「キン!」
それは先ほどのニーナとの試合で見せて貰ったわ、いくら早く動けても振り返る速度にはかなわないでしょう。
私の剣をナイフで受け止めたカリナは距離を取り、またこちらを待ち構えるかのように立っていたわ。
しかしどの様にたら攻撃が当たるのかしら、突いて行くのは間違ってはいないはず、カリナは私の懐に入り込めないでいますからね。
多少危険かもしれませんが、一歩間合いを踏み込む必要があるわね。
私は間合いをさらに詰め、カリナに剣を連続で突き出していく、流石にカリナもすべて避けることは出来ない様で、ナイフで受け流しつつ私に向けナイフを突き出してくる、間合いが縮まった事でカリナの攻撃も私に届くようになったけど、こうでもしないと私の攻撃は当たらないのよね。
暫く近距離での攻防を続けけていたけど、またカリナが目の前から消え、私は振り返り剣を払ったがそこにはカリナの姿は見えず、私は慌てて後ろへ飛んで避けたわ。
避けた直後カリナの足払いが通過して行っていたわ、エルレイに散々やられていたから今のは避けられたわね。
私はすぐさま体制を整えカリナの方へ向き直ると、今度はカリナの方から仕掛けて来たわ。
早い!連続で突き出されてくるナイフを剣で受け流し、避け、何とかしのぐが全てを躱す事が出来ず体に当たって来る、しかしナイフなので急所に当たらない限り大した痛手では無いわ。
「はっ!」
剣を振り間合いを取ろうとしたけど、カリナは剣をするりと躱し懐に入って来た、不味い!そう思い後ろに飛んで逃げようとしたけどカリナの速度の方が早く私の首筋へとナイフを当てられてしまったわ。
「そこまで!」
私が力を抜くと、カリナもナイフを首筋より離し少し離れてお辞儀をした。
「さすがね、参ったわ」
「エレン様も素晴らしい動きでした」
二人で微笑み合い闘技場を後にしたわ。
≪エルレイ視点≫
「カリナさんの優勝です!!」
エルゼさんの声で、凄まじい戦いで静まりかえっていた会場が一気に盛り上がり、退場していく二人へ声援を送っていた。
「うむ、ルリアが敗北したのは残念だったが、素晴らしい試合だった」
ロイジェルク様はルリアが負けた事で残念そうにしてると思ったが、とても満足している様だった。
「私の予想通りでしたわね」
アベルティア様は予想が当たった事で大変喜んでいる。
俺もルリアが負けた事は残念だが、カリナさんとのいい勝負が見れて満足していた。
後ろを振り向くとアドルフは笑みを浮かべていたが、俺の顔を見て真顔に戻ってしまった、素直に喜んでいても構わないのだが立場的にそう言う訳にも行かないのだろうな。
「ルリア、負けてしまいましたね」
「うむ、惜しかったな」
「ルリアの事だから、負けて良かったのかもしれないわね」
「アルティナ姉さん、どうしてそう思うんだ?」
「目標があれば頑張れるでしょう」
「それもそうだな」
明日からルリアは訓練にまた励むのだろう、勝っても訓練は続けると思うが、カリナさんと言う目標があった方がやりがいはあるな。
「男性部門決勝戦!ラルフさん対アシュレイさん!!」
二人の名前が呼ばれると会場は声援に包まれた。
闘技場へ二人が上がり対峙して武器を構える。
先程まで盛り上がっていた会場は静まりかえり、これから始まる二人の戦いを見逃すまいとしている様だった。
「試合開始!」
審判より開始が宣言されても二人は対峙したまま、しばらく動かないでいた・・・。
≪ラルフ視点≫
アシュレイさんに勝てば優勝だ!
俺の緊張は最高潮に達していた、それは対峙しているアシュレイさんも同じの様で、二人して体が震えていた。
俺はアシュレイさんのその姿を見て笑い、少し緊張がほぐれて来たように思える。
「試合開始!」
審判から開始を告げられたが前に出る事が出来ない、俺は少し唇をかみ気合を入れる。
「行きます!」
「おう、突っ込んで来い!」
声を出したのが良かったのか、体が動き盾を構えてアシュレイさんに向かって突進した。
「おるぁ!」
アシュレイさんが両手剣を振りかぶり全力で俺の盾に振りかぶって当てて来た!
「グァン!!」
鈍い音と共に盾から衝撃が伝わって来て、俺は進行方向を強引に曲げられた、ルーカスさんの時は盾だったが両手剣でも同じような事をされてしまった。
すぐに向きを変えアシュレイさんの攻撃に備えたが追撃は無かった、それならば再びアシュレイさん目掛けて突進をし、また同じように軌道を変えられまたしても追撃は無かった。
どういうつもりか分からないが、盾に剣で斬り付けていれば剣の方が持たないのでは無いだろうか?
アシュレイさんが何を考えているのか分からないが、俺は同じことを繰り返すのみ!
それから四回ほど同じことを繰り返した時それは起こった。
「バキッ!」
俺の盾が上から三分の一程度折れ曲がっていた、だがまぁ盾が使えなくなった訳では無い、俺は折れ曲がった部分を力任せに剥ぎ取り盾を構えた。
上半身が盾から出ているが構わない。
「まだ突っ込んでくるのか?」
俺が盾を構えなおした所を見て、アシュレイさんが尋ねて来た。
「はい、盾はまだ残っていますからね」
「そうかよ」
俺は再びアシュレイさんへと突っ込んで行った、当然アシュレイさんはむき出しになった俺の上半身目掛け剣を振りおろしてくる。
俺は右手に持った剣を上げアシュレイさんの剣を受け流し、盾でアシュレイさんの体を吹き飛ばした。
俺は後ろに倒れ込んだアシュレイさんに追撃を仕掛けようとしたが、アシュレイさんは器用に転がって素早く起き上がった。
「そういや剣も持っていたんだったな、すっかり忘れていたぜ」
アシュレイさんはそう言って両手剣を構えなおした、俺は剣を振るうのは苦手だが、受けたり受け流したりするのは得意だ。
俺はアシュレイさん目掛け突進をする、アシュレイさんは横に逃げ構えていた剣で足払いをして来た。
俺はそれを飛んで躱し、着地と同時に盾を横なぎに払いアシュレイさんを吹き飛ばした。
アシュレイさんは横に転がりながらまた素早く起き上がってきた。
「あれも避けるのかよ」
盾を構えている以上足払いには注意しておけと、トリステン様に厳しく言われていたからな。
俺は再びアシュレイさんに突進する、俺に出来る事はこれしか無いからな・・・。
「おらぁ!」
アシュレイさんは俺の盾の下の部分を破壊するつもりなのか、両手剣を打ち付けて来た。
俺としては壊されると分かっていても同じ事を繰り返すのみ。
それから三度同じ事を繰り返した後、嫌な音が聞こえて来た。
「バキッ!」
今度は俺の盾では無く、アシュレイさんの両手剣が折れる音だった。
俺はすかさずアシュレイさんに突進したが、アシュレイさんが大きく後ろへ飛び俺から逃れた。
「降参する!俺は血塗れになりたくは無いんでね・・・」
勝ったのか・・・。
「ラルフさんの優勝です!!」
会場にラルフコールが巻き起こっていた、止めてください・・・。
「ほら、観客に手でも振ってやったらどうだ?」
アシュレイさんが寄って来てそう言ってくれた、そうだな・・・俺はエルレイ様、いや、エレンを見て手を振った。
エレンも気付いてくれて手を振り返してくれた・・・。
≪エルレイ視点≫
「ラルフが勝ったわよ!」
アルティナ姉さんはラルフに賭けていたんだったな、ものすごく喜んでいた。
「アシュレイは根性なしだな」
ヘルミーネはアシュレイが降参した事が気に入らない様だった。
「ヘルミーネ、あれは誰でも降参すると思うぞ・・・」
あの後の展開は目に見えているからな、誰でも盾と剣で撲殺されたくは無いだろう・・・。
「そうかも知れんが、見ている方としては面白くない」
「まぁそうだが、これは勝負であって殺し合いでは無いからな」
「そうであったな、エル、すまない」
「見ている方はそう思うからな、仕方が無い・・・」
落ち込んでしまったヘルミーネの頭を撫でてやった。
「予想が当たったのは、アルティナ姉さんだけか・・・」
俺がそうつぶやくとアベルティア様がにこりと笑って券を俺に見せて来た。
「エルレイ君、私も当てたのよ~」
そう言えばアベルティア様はルリアでは無くカリナさんに賭けていたのだったな、他はルリアに賭けていた様だから全員外れた訳だ。
「アベルティア様、流石ですね」
「そうでしょう、それでこの券はどうすればいいのかしら?」
「係りの者がお金と交換しに来てくれますのでお待ちください」
「そうなのね、でもこれは記念に持っておくことにするわ、お金は必要無いですからね」
「承知しました」
銀貨数枚貰ってもアベルティア様が喜ぶはずも無いからな。
「それなら私も記念に持っておくわね」
アルティナ姉さんにしても同じだな、そもそもお金を使う機会も無いしな。
街に出る時は俺と一緒で、一人で出歩く事はないし出来ないからな。
「それでは表彰に移ります!!」
表彰か、俺が渡す事になっているんだよな。
「ロイジェルク様、表彰の為席を外します、もうしばらくお待ちください」
「うむ、分かった」
俺は闘技場へ飛んで行った。
既に今日戦ってくれた男女十六名が並んでいた。
『マスター、一応教えとくぜ、ホルフィーナのねーちゃんから敵意を感じるぜ、まぁマスターの敵にはならねーけどな』
『グールありがとう、確かにルリアに軽くあしらわれる程度だったからなぁ、一応気を付けておくよ』
『その必要ねーとおもうがな』
男女それぞれ賞金が入った袋を手渡して行く。
グールに言われたホルフィーナさんにも手渡ししたが、凄く睨まれた事以外特に何もされることは無かった。
全員に賞金を渡し終え、俺が挨拶をして武闘大会は終わりだ。
「この三日間、武闘大会に参加してくれて素晴らしい戦いを見せてくれた全員と、会場で応援してくれた皆に感謝する。
今回の武闘大会は今日で終わりだが引き続き開いて行く事となる、皆剣術を鍛えて参加して欲しい。
それとは別に子供向けに読み書きを無料で教えている施設も用意している、子供がいたら出来るだけ通わせて欲しい、よろしく頼む。
最後に今日素晴らしい戦いを見せてくれた全員に拍手を送ってやってくれ」
会場から盛大な拍手が選手に贈られ、武闘大会は無事終える事が出来た・・・。




