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公爵令嬢の婚約者  作者: よしの
第一話 アリクレット男爵家
12/27

第十一話 ルフトル王国へ

ルフトル王国へ出発する朝、使われていない謁見の間に集合していた。

「エル、旅行は初めてでとても楽しみだ」

ヘルミーネは目を輝かせて今にも走り出しそうな勢いだ、ヘルミーネをなだめるべく頭を撫でてやる。

「ヘルミーネ、旅行は馬車での移動で勝手な行動をすると危ないから、皆の言う事をよく聞くんだぞ」

「分かった、大丈夫だ大人しくしておく」

若干不安だがラウラに目配せすると頷いてくれた、ヘルミーネの事はラウラに任せておけば大丈夫か。

「私も他の国に行くのは初めてだから楽しみだわ」

「エルレイさん、私もゆっくり旅をするのは初めてなので楽しみです」

ルリアとリリーも珍しくはしゃいでいた、今回争いは無いだろうから、ゆっくり楽しんでもらいたい。

「せっかく飛べるようになったのに、馬車の旅は辛いわね」

アルティナ姉さんの気持ちはよく分かる、俺も出来る事なら飛んで行きたいが、今回は陛下の名代として他国に行くのだから魔法で行くわけにはいかない。

それに馬車の旅は一般的に乗り心地が悪く、とても疲れるのだ、しかし今回はソートマス王国が用意した馬車で、座席のクッションは柔らかいはずだから、そこまで疲れる事は無いだろう。

「アルティナ姉さん、今回の馬車は陛下が用意したものだから疲れる事は無いと思うよ」

「そうなのね、それならゆっくり出来るのかしら?」

「うむ、お父様が用意する馬車ならば座席はふかふかだぞ」

ヘルミーネが胸を果て自慢してきた、皆と話をしていると、アドルフがやってきて出発の準備が整った。

「皆様、お待たせしました」

アドルフの背後に控えた使用人たちから、沢山の贈答品を受け取り収納した。

一言に贈答品と言っても、その選別はかなり大変な作業で今朝までかかっていた様だ、ロイジェルク様の物と被らず、ロイジェルク様の物より豪華にならないよう、ヴァイスさんと連絡取り合ってこの時間になったのだ。

「アドルフ、それに皆もありがとう、今日はゆっくり休んでくれ」

「エルレイ様、お心遣いありがとうございます」

「アドルフ、後の事よろしく頼む、連絡は毎日知らせる、それと領地の事が知りたいから、主な産業や農産物を調べて置いて貰えないだろうか?」

「承知しました、お気をつけて行ってらっしゃいませ」

アドルフに別れを告げ、皆と手を繋ぎロイジェルク様の屋敷へと転移した。

ベルを鳴らすとヴァイスさんは待ち構えていたのか、すぐに鍵が開き扉を開けてくれた。

「エルレイ様、お待ちしておりました、すでに準備が整っておりますので玄関までご案内いたします」

「ヴァイスさん、お願いします」

ヴァイスさんの後を歩き玄関へ出ると、ロイジェルク夫妻が待ち構えていた。

「ロイジェルク様、お待たせしました」

「エルレイ君おはよう、準備は出来ている、早速だが出発しよう」

「分かりました」

豪華な馬車が十台ほど並んでいる、俺はルリアと共に、ロイジェルク夫妻が乗る馬車に乗せられた。

他の皆は後ろの馬車に乗り込んでいた、六人乗りだからこうなるのは仕方が無いのだが、ゆっくり寛げないよね。

ゆっくりと馬車が走り出し、ルフトル王国へ向けて長い旅が始まった。

ルリアは両親の前だからか、普段より気を抜いているようで寛いでいた。

俺は黙って過ごす訳にもいかないので、ルフトル王国の事を色々聞いて見る事にした。

「ロイジェルク様、今回の訪問の内容とルフトル王国について伺ってもいいでしょうか?」

「うむ、知っている事は答えよう」

「ルフトル王国との交渉内容はお聞きしてもよろしいのでしょうか?」

「勿論エルレイ君には知って置いて貰った方が良いだろう、今回の交渉内容は不可侵条約の締結になる、以前も何度か使者を送り打診してきたのだが断られ続けていた、しかし今回は上手くいくだろう」

「それはアイロス王国を滅ぼしたからでしょうか?」

「それもあるだろうが、エルレイ君の存在が大きいだろう」

俺の存在?この国ならともかく、よその国が気にするような物では無いと思うが。

「他国に侵略するつもりは無いですし、気にするような存在だとは思えませんが・・・」

「君の気持ちはそうかも知れないが、アイロス王国に攻め落とした事実は各国に知れ渡っている、それを脅威だと感じるのは当然だろう?」

「そうですね・・・という事は俺は自国の貴族と、他国にも命を狙われる存在な訳ですか」

「そう言う事だな」

俺の周りには敵しかいないのか・・・肩を落し項垂れてしまった。

「エルレイの事は皆で守るから、心配しなくていいわよ」

ルリアが慰めてくれた、そうだな、俺にはちゃんと家族がいたな。

「ルリア、ありがとう」

「勿論私達も味方だ、安心してくれたまえ」

ロイジェルク様は笑顔でそう言ってくれて、アベルティア様も微笑んでいた。

「ロイジェルク様、ありがとうございます、それではルフトル王国の事を教えて頂けないでしょうか?」

「うむ、以前話した様に精霊を使うという事と、他国に侵略する意思が無い、という事くらいしか分からないのが現状だ」

「ロイジェルク様でもですか?」

「ルフトル王国の王都は結界が張られていて中に入る事が出来ないのだ、それはルフトル国民も同じで、交易は王都の外にある街で行われている」

「今回私達が交渉で行くのは、外の街と言う事でしょうか?」

「多分そうなるだろう、今までもそうだったからな」

王都に入られないのは残念だが、王様と会話しなくていいなら気が楽だな。

「精霊について分かりますでしょうか?」

「いや、分からない、ただエルレイ君と同じで、精霊が使う魔法は詠唱が要らないという事くらいだな」

精霊も無詠唱か、当然だろうな、もし戦う事に成ったらかなり注意して臨まないといけないな、今回は交渉だから、その様な事に成るとは思えないが。

「精霊と戦うことは無いでしょうが、もし戦うとしたら厳しいでしょうね」

「今回はその様な事にはならないし、今後もルフトル王国に攻め込むことは無いから安心したまえ」

「はい、ルフトル王国についてはこの位でしょうかね、ロイジェルク様、ありがとうございました」

「うむ、また何か知りたい事があったら、遠慮なく聞いてくれて構わない」

「ところで、今回の旅で、ルフトル王国に攻めたがっている貴族の領地を通って行く訳じゃないですか、大丈夫なんでしょうか?」

俺を利用したい貴族達も、俺達が通る事は分かるだろうから、何か言ってこないのだろうか?

「その心配は必要あるまい、私達に何か言ってくる奴は、余程の馬鹿しかいないだろう、だがしかし、一定数の馬鹿はいるもので絶対にいないとは言えないな」

ロイジェルク様は苦笑いをしていた、確かにそうかもしれないな、言って来られてもロイジェルク様が何とかしてくれるだろう。

「分かりました」

ロイジェルク様に聞くことは無くなってしまったな、会話に困る・・・そう思っていると、アベルティア様が微笑んで声を掛けて来てくれた。

「ルリア、ちょっといいかしら?」

「お母様、何でしょう?」

「最近エルレイ君と仲良くなって、一緒の部屋で寝ているそうじゃない?」

「お母様、どうしてそれを!」

「ほほう、それは私も興味があるな」

ロイジェルク様が目を細めてこちらを見て来た、一緒の部屋どころか、一緒に寝た事がばれたらヤバい気がする・・・何か言い訳を考えなくては。

「風の噂で聞いたのよ」

アベルティア様はにこにこと、とても嬉しそうにルリアが焦っている表情を見て楽しんでいた、ルリアが焦っている表情は見ていて楽しいが、今の俺にはそれを楽しむ余裕が無い。

しかし、どこから情報が漏れたのか?一番可能性が高いのはアドルフだろうか、他の使用人かも知れないが、リゼやロゼでは無い事を願いたい。

「お母様、それはこの前エルレイが襲われて警備の強化のために、皆で一部屋に纏まっただけなのよ」

「あら、一か所に集まったら逆に危ないのではないのかしら?」

アベルティア様は楽しそうだ、俺はルリアが一緒に寝た事を言わないか冷や汗を垂らしながら二人のやり取りを聞いていた。

「普通はそうかも知れないけど、私達は魔法で部屋に誰も侵入させない様に出来るから、纏まった方が安全なのよ」

「エルレイ君、そうなのかしら?」

「は、はい、その通りです、決してやましい事はありません」

急に振られたからどもってしまった、しかも必要ない事言ってしまったな・・・。

「ふ~ん、そうなのね」

アベルティア様は疑惑の目を俺に向けて来ている、あの目は一緒に寝た事を知っている様な感じだ・・・。

「まぁ、そう言う事にしておきましょう、エルレイ君、別にルリアに手を出しても構わないのよ、むしろもっと可愛がってあげて、ただし、結婚までは子供を作らないで頂戴ね」

「お母様!!」

「はい、それは当然心得ております」

アベルティア様はやはり一緒に寝た事を知っている様だ、情報源はリゼかロゼ、もしくはラウラと言う事だろう、後で問い詰めてやる。

アベルティア様からの追求が一段落して暫くすると馬車が道の脇に止まり、昼食のため休憩すると、御者台に座っていた執事が告げてきた。

ヴァイスさんは、ロイジェルク様に代わって屋敷で仕事をしている、ネレイト様のサポートのため留守番しているそうだ。

俺は馬車を降りて魔法でテーブルでも作ろうかと思っていたら、後ろの方の馬車に乗っていたメイドが馬車の中にテーブルを乗せ、テーブルクロスを敷きあっという間に昼食の準備が整ってしまった。

メイドの仕事ぶりには驚かされるばかりだな、こういうのに慣れると普通の生活に戻れない様な気がする。

俺以外の三人はこれが普通なのだろう、普段どうり食事を始めてしまった。

俺もあわてて食事をはじめた、昼食の内容はパンと朝準備していたのだろう、肉と野菜の炒め物に果物と言った簡単なものだった。

流石に馬車で料理するわけにはいかない様だな、これならリゼに外で温かい物を準備して貰った方がよかったかな、と思ったのだが、そう言う俺も十分贅沢な暮らしに慣れていた事に気が付いてしまった・・・。

今思えば戦争の時も家を用意したり、かなり贅沢に過ごしていたな、すでに普通の生活には戻れない状態になっていた様だ。

今の地位を失わない様に頑張るしかないな、ルリア達の事もあるし当然か。

昼食が終わり、更に贅沢な物がこの馬車列の中にある事が分かった、それはトイレ専用の馬車だ。

王族や上級貴族が道端で済ます訳にもいかないか・・・。

また馬車は走り出し、夕刻前には街の宿屋へ到着した。

宿屋の部屋はロイジェルク様が気を利かせてくれたのか大部屋で、全員一緒に寝られるようになっていた。

「エル、街に出掛けては駄目か?」

ヘルミーネは街の中を見て回りたいのだろう、上目使いで俺に懇願してきた、可愛い仕草で思わず許したくなるが、我慢して貰うしか無いな。

「ヘルミーネに街の様子を見せてやりたいが、今回の旅は陛下から承った使命がある、それを優先させるためには極力災いが起こらない様にしないといけない、済まないが我慢してくれないだろうか?」

「そうか分かった、エル、無理を言って済まなかった」

俺は落ち込んだヘルミーネの頭を撫でてお礼を言った。

「ヘルミーネ、ありがとう、今後また機会があるだろうから、その時は一緒に街を見て回ろう」

「うむ、約束だからな」

ヘルミーネが笑顔を取り戻してくれて良かった。

「あら、二人で出かけるつもりかしら?」

ルリアが意地が悪そうにニヤニヤしながらこちらを見て来た。

「勿論皆で出かけよう」

「本当かしら、以前リゼと二人で出かけた事もあったじゃない」

まだ根に持っているのか、皆で出かける事はあっても二人でとなると中々機会が無いのが現状だ、しかしそれは国内外から命を狙われている立場としては簡単に出歩けないってのが大きい。

でも、何か買い物に行くくらいは簡単に出来る様になりたいな、リゼとロゼに贈った髪飾りは、あれ以来ずっと着けていてくれているが、若干傷付いて来ていて、新しいのを買ってあげないといけないな。

もう髪飾りが無くても、二人を間違えることは無いから付けなくても良いと言った事はあるが、俺から貰った物だからと使ってくれている。

「分かった、必ず皆と街に出掛ける機会を作ると約束するよ」

「良かったわね、ヘルミーネ」

「うむ、ルリア感謝する」

いつの間にこの二人仲良くなったのか、上手いこと俺は約束させられてしまった様だ。

馬車の旅で皆疲れていたのか、夕食の後はすぐに就寝となった。


翌日の馬車の乗員は昨日と同じだった、どうやらこの旅の間ずっと同じの様だ・・・。

まぁ、ヘルミーネはロイジェルク様と同じ馬車に乗りたがらないだろうし、リリーやアルティナ姉さんも気を使って疲れるだろうから仕方が無いのだが、俺も疲れる・・・。

会話のネタがもうあまり無いんだよな、それでも何とか話題をひねり出すしか無い・・・。

「ロイジェルク様、ルフトル王国までどれくらいかかるか分かりますでしょうか?」

「そうだな、国内を抜けるのに後六日、ルフトル王国に入ってからは四日くらいだな」

あと十日もあるのか、会話がもう持たないよ・・・。

「ルフトル王国の王都まで四日とは、ずいぶんと近いのですね、ルフトル王国の領土は狭いのでしょうか?」

「広くは無いが、王都がこちら寄りにあると言った所か、ルフトル王国と接している国は、リースレイア王国とラウニスカ王国、それと我が国だ、ルフトル王国にとって我が国は今まで脅威では無かったからな」

「そうなのですね」

「うむ、我が国が栄えたのは、ルフトル王国のお陰と言っても過言では無い、ルフトル王国に攻める気が無い以上、アイロス王国側だけ守っていれば良かったからな」

「なるほど、そのアイロス王国を攻め滅ぼした我が国が脅威となり、今回の不可侵条約の締結へと繋がる訳ですね」

「そうだ、しかしそれだけではない、ラウニスカ王国とキュロクバーラ王国の戦争に、リースレイア王国がルフトル王国に攻め込もうと準備を進めている様だ」

ルフトル王国は敵に囲まれている状況なのか、それならば交渉は上手く行きそうだな。

「それなら交渉は楽に行きそうですね」

「不可侵条約だけなら上手く行くだろうが、条件次第だな」

「条件ですか?」

「お互いが攻め込まれた際の協力と、貿易の自由化、特に後者を何とか勝ち取りたい」

俺の領土とも確か接点があったよな、自由に物の行き来が出来る様になれば嬉しいな。

「貿易の自由化は私の領土とも接していますし、嬉しいですね」

「そうだろう、その事でエルレイ君の協力をお願いする事に成るかも知れないが、よろしく頼む」

ロイジェルク様はにやりと笑い、こちらを見て来た。

なるほど、交渉材料に俺が使われる訳ですね、ルフトル王国が攻め込まれた際に、俺を派遣するとかそんな感じだろう・・・。

自分の領土の発展に繋がるのなら構わないかな。

「分かりました」

その後、何とか会話をしつつ、昼頃大きな街に通過するために入った、外を回るより早いそうだ。

昼食のために高級料理店へ立ち寄り、美味しい料理を頂いた、食後に皆で寛いでいると、料理店の表が騒がしくなっていた。

表に出てみると、この街の警備兵と料理店の店主が言い争っていた。

「何事だ?」

ロイジェルク様が声を掛けると静まり返り、警備兵は敬礼をしてロイジェルク様に話しかけた。

「はっ、ラノフェリア公爵様、私はポメラニア公爵様の兵士で、ポメラニア公爵様の命により、アリクレット侯爵様をお連れしろと仰せつかっております」

あ~、俺にルフトル王国を攻めさせたい貴族の大本なのだろうか?しかし一文字足りないが犬みたいな名前だな。

「私達は今、陛下より承った使命の最中だ、そちらの言い分に従うつもりは無い、帰ってトラウゴットにそう伝えろ」

「しかし・・・」

ロイジェルク様から言い放たれて兵士は困った様子だ、流石にこちらの方に分があり、向こうも強気には出られない様だな。

「そこをどけ、我らの邪魔をする事は陛下に楯突く事に成るぞ」

ロイジェルク様は兵士たちを睨みつけた、流石に陛下を出されては兵士は引き下がるしか無かった様だ。

俺達は馬車に乗り込み料理店を後にした。

「ロイジェルク様、ポメラニア公爵様とはどの様な方なのでしょうか?」

「どうしようもない馬鹿なのだが、金回りだけはいい、関わらない方が身のためだ」

「なるほど、分かりました」

ここは素直に従っておこう、面倒ごとは極力避けたい。

しかし向こうもすんなり引き下がってはくれず、街の出口で再び足を止めさせられて、俺達の馬車に兵士達が駆け寄って来た。

「申し訳ございません、この街を出て行く事は叶いません」

街の門は閉められており、俺達を外に出さない構えだ。

「どうやら、私が会いに行くまで出して貰えない様ですね」

「その様だな・・・」

ロイジェルク様も困った様子だ。

「あんなの私が吹き飛ばしてやるわよ!」

ルリアがそう言ったが、敵地ならともかく、自国で魔法を使って強行突破とかは不味いだろう。

「ルリア、落ち着いてくれ、ロイジェルク様話し合いに向かおうと思いますが、よろしいでしょうか?」

「仕方ないか、私も着いて行こう」

「助かります」

俺とロイジェルク様は馬車を降りて兵士たちに話しかけた。

「ポメラニア公爵の下へ伺いますので、案内お願いします」

「はっ、ありがとうございます、馬車を用意して御座いますのでお乗り下さい」

「ルリア、済まないが留守番頼む」

「分かったわ、行ってらっしゃい」

俺とロイジェルク様は用意された馬車に乗り込み、ポメラニア公爵邸へ連れていかれた。

「ロイジェルク様、何か気を付ける事はありますでしょうか?」

「うむ、特に無いな・・・あ奴の事だ、碌にエルレイ君の事を調べもしていないだろう、君が金に靡く様な事は無いだろうからな?」

「ありませんね」

「そう言う事で、適当に奴の言う事を受け流せばいい」

「分かりました」

馬車はポメラニア公爵邸へと着き、俺達は屋敷の中に案内された。

屋敷の中は何というか、成金趣味の派手な装飾に高そうな絵画や壺、その他いろいろな物が飾られていた。

応接室に着き中に入ると、部屋の中も眩いばかりの置物が飾られており、落ち着いて過ごせる空間では無かった。

暫くしてポメラニア公爵が部屋に入って来た、普通なら挨拶するべき所だが、無理やり連れてこられたので座ったまま挨拶はしない。

「アリクレット侯爵、よく参られた」

ポメラニア公爵は可愛い犬の様な感じでは無く、ブルドックの様な顔立ちで、やや太り気味の四十歳位の男性だった。

「面倒な言い回しは好きでは無いので率直に此方の意見を言わせて貰う、今、我が領土の貴族達に戦力を集めさせており、近いうちにルフトル王国に攻め込むつもりだ、その際にアリクレット侯爵の力を貸してほしい」

本当に隠さずに話したな、陛下が焦って交渉に臨むわけだ・・・。

「ポメラニア公爵様、一つお伺いしてよろしいでしょうか?」

「うむ、何なりと聞いてくれたまえ」

「私がルフトル王国との戦争に参加した場合、得られる物は何でしょうか?」

「勿論報酬は十分な金と、アリクレット侯爵が必要な女性をいくらでも提供しよう」

なるほど、金と女か、勿論俺はそんなものに興味が無い、少し俺の事を調べれば金に靡く事が無いと分かりそうなものだ、女性もそうだ、十一歳の子供に女性を与えてどうするんだよ、ロイジェルク様の言う通り馬鹿なのだろう。

「私は金も女性も必要ありません、ルフトル王国全ての土地を希望します」

「なっ、そんな事認められるはずが無いだろう!!欲張るのもいい加減にしろ!!」

俺の言葉を聞いたポメラニア公爵は、顔を真っ赤にして怒り出した。

「そうでしょうか?私がアイロス王国を攻め滅ぼした際、陛下は領土全てと爵位をお与え下さいました、ポメラニア公爵様に爵位を授ける権限が御座いませんので、領地だけで構わないと譲歩した次第ですが、いかがでしょう?」

「むぅ~・・・」

ポメラニア公爵は腕を組み唸り声をあげて考え込んでしまった、隣にいるロイジェルク様はにやにやと笑い、楽しそうだ。

「わかった、流石に領土全てとはいかない、半分、半分だけ譲ろう!!」

「そうですか、交渉は決裂ですね、それでは私はこれで失礼します」

俺は立ち上がり部屋を出て行こうとする。

「待て、待ってくれ!!」

ポメラニア公爵は必至の形相で俺を呼び止めた。

「話は終わったと思いますが?」

「勝負、私と剣で勝負しろ、私が勝ったら戦争に参加して貰う」

いきなり勝負とか意味が分からない、俺が勝負する必要全く無いよな。

「どうして私がポメラニア公爵様と勝負をする必要があるのでしょう?」

「それは私達が貴族だからだ!」

ポメラニア公爵はそう言って来たが、貴族だと勝負受けないといけないという決まりでもあるのだろうか?

「エルレイ君、貴族同士の問題は、当人同士が剣で決着をつけて解決する決まりがあるのだよ」

ロイジェルク様が説明してくれた、なるほど、それなら納得できるがどうするべきか・・・。

『マスター、面白そうじゃねぇか、勝負受けろよ、俺様の実力をマスターに見せてやるいい機会だ』

『大丈夫なのか?』

『任せろって』

別にグール使わなくても、こんな太ったおじさんに負けるとは思わないが・・・。

「分かりました、勝負をお受けしましょう、私が勝った場合この話は無かった事とさせてもらいます、それと、私が使う剣ですが、今手持ちが無く、このナイフを使わせて頂きますがよろしいでしょうか?」

俺は懐からナイフ状態のグールを取り出して見せた。

「うむ、それは構わないが、そのナイフで負けてもこちらに従ってもらうからな」

「もちろん構いません」

ポメラニア公爵はにやりと笑い、もうすでに勝負に勝ったつもりでいる様だった。

皆でポメラニア公爵邸の庭に出て、お互いに構えた。

「私が審判を引き受ける、ルールは相手が気絶、もしくは負けを認めた場合それをもって勝敗を決した物とする、そして相手を殺してはならない、双方準備はよろしいか?」

ロイジェルク様が審判を務める事になってよかった、不正は許さないだろう。

「私の準備は整っている」

ポメラニア公爵は剣を構え余裕の表情だ、俺は十一歳の子供だからな、相当なめられているのだろう。

「私も何時でも構いません」

俺はナイフ形のグールを構え、まずは相手の出方を見る事にした。

「では始め!!」

ロイジェルク様の掛け声と共に、ポメラニア公爵は太った体に似合わず素早い動きで剣を振りぬいて来た。

俺はそれを軽く躱し距離を取る、なるほど、剣で勝負を挑んでくるだけの事はあるか。

「随分と素早い様だな、それならやりようはある」

ポメラニア公爵はそう言うと距離を詰めて来て、連続で突きを放ってきた、俺は後ろに下がりながらそれを躱して行く。

『マスター気を付けろ、あれは魔剣だぞ』

グールがそう教えてくれた直後、ポメラニア公爵の剣から炎が噴き出し襲って来た、剣の勝負を受けたから魔法で切り抜けるわけにはいかない、俺は炎を躱そうと横へ転げる様に飛びだし、何とか避ける事が出来た。

しかしそれは、ポメラニア公爵の読み通りだったのか、地面に転んでいる俺に次の炎が襲い掛かって来た、流石にこれは避けられないと思っていると、グールが俺に指示をして来た。

『俺様で炎を薙ぎ払え!』

俺はグールに言われるがままに炎を振り払った、すると炎はグールに吸い込まれるように消えて無くなった。

「なっ、貴様魔法を使ったのか!ルール違反だぞ」

魔法を使ってはいけないとロイジェルク様は言って無かった様だが、やはりだめなのだろう、しかし俺は魔法を使ってはいない。

俺は立ち上がりグールを見せつける様に構えた。

「魔法は使っていませんよ、ただ、この魔剣を使っただけの事です」

「なっ、そのナイフが魔剣だと!!」

「はい、その通りです、ポメラニア公爵様も魔剣を使っておりますので問題ないですよね?」

「問題無いな、では試合を続けよ」

ロイジェルク様はグールの事を知っていたのだろう、こちらを見てにやりと笑った。

『グール、あの魔剣、炎を出してきたが、魔剣とはあのような物なのか?』

『あれが一般的な魔剣だな、柄の部分に魔石があるだろ』

ポメラニア公爵が構える魔剣には赤く光る石と、それを取り巻くように白く輝く小さな石が何個もはめ込まれていた。

『グールとは違っていっぱい付いているな』

『あの手の魔剣は、周りの魔石に魔力を貯めて、魔剣を使用する時にあの魔石から魔力を取り出し能力を発揮するように作られている、だから魔石の魔力が切れるとそれで終わりよ』

『そうなのか、グールとは随分と違うのだな』

『俺様特別だからな、雑魚の魔剣と一緒にするんじゃねーよ』

まだ色々とこいつに聞きたい事はあるが、今は勝負を決める事が先だな。

「その様な魔剣、資料に載って無かったぞ、いや、あの血の様な赤い魔石はもしかして・・・」

何やらポメラニア公爵はこの魔剣の事を知っている様だな、でも今は何か考えているのか隙が出来ているので、こちらから攻めさせて貰おう。

俺は一気に距離を詰め、ポメラニア公爵の懐へと入り込む、ポメラニア公爵は我に返り、懐に入り込んだ俺に剣を突き刺してくる。

それを躱して後ろに回り込み、ポメラニア公爵の首に衝撃を当てて気絶させたいが、身長が足りず、届かないので足を払い転倒させた、止めにグールを突き立てようとしたが魔剣の炎が噴き出して来て、俺は下がりながらグールで炎を打ち消した。

ポメラニア公爵は立ち上がり、何か分かったのか俺に告げて来た。

「その魔剣は呪われているぞ!」

は?確かに装備したら死ぬまで外せないから、呪いの魔剣と言って間違いでは無いな・・・。

「その魔剣の使用者は次々と呪いで死んでいくのだ!」

ポメラニア公爵が不穏な事を言っているがそうなのだろうか・・・。

『おいグール、呪いの魔剣なのか?』

『ばっか!こんなに高性能な魔剣の俺様が呪いの筈がねえだろう!!』

『でも、使用者が次々と死んでいくと言っているぞ?』

『それは・・・あれだ、俺様の能力は魔力を大量に使うだろ、魔力の無い奴がマスターになって俺様を使うと、魔力の代わりに生命力を頂く事になるわけだ、それでそいつが死んだとしても俺様のせいでは無いだろう!!』

なるほど、今まで魔力が無い奴ばかり使っていたから、呪われた魔剣と言われるようになったという事か。

『所で、お前をまともに使えたやつはいたのか?』

『いたぞ、俺様を作ったクロームウェルとマスターだけだな』

・・・千五百年間で二人だけ、それはほぼいなかったという事じゃないのか、こんな馬鹿みたいに魔力を使う魔剣を使える奴なんて簡単にいる訳無いよな。

「どうやらその様ですね、この魔剣は呪われていて、もう死ぬまで手放す事が出来ません」

「やはりそうか、この勝負私の勝ちの様だな、死にたくなかったら降参するといい」

ポメラニア公爵は勝ち誇って俺にそう言って来た、能力を使うと死ぬ魔剣だから、これ以上俺が戦えば死ぬと思われた訳か。

「いえ、降参致しません、私は死ぬまで戦いますよ」

俺はにっこりとほほ笑んでグールを構えた。

「ならば死ね!!」

ポメラニア公爵は俺にグールの能力を使わせるためだろう、次々と炎を撃ち出して来た、しかし魔力を吸収するグールの能力は素晴らしく、全ての炎を打ち消した。

やがて魔剣の魔力が切れたのか、炎が出なくなった様だ、魔剣を見ると魔石の輝きが失われていた。

「はぁ、はぁ、何故貴様は生きている!」

ポメラニア公爵は息を切らしそう述べて来た。

「さて、どうしてでしょうかね、これは呪いの魔剣では無かったのかも知れませんね、助かりました」

俺は答えをはぐらかして、ポメラニア公爵に攻め込もうと構えを取った。

「では、こちらから行きます」

俺はポメラニア公爵に向け足を踏み出した。

「まっ、参った、降参だ!」

「そこまで!!」

俺が後一歩、と言う所に迫った所でポメラニア公爵は降参し、ロイジェルク様が試合を止めた。

「私の勝ちですね、では今日の話は無かった事にさせて頂きます」

俺は今度こそポメラニア公爵の下を離れ、ロイジェルク様と共に皆が待つ馬車まで戻る事となった。

皆の元へ戻る馬車の中で、ロイジェルク様がグールの事を心配そうに聞いて来た。

「その魔剣、グールだったか、使っても死ぬことは無いのか?」

「はい、私が使う分には大丈夫です、今までグールの使用者が死んでいたのは、魔力が足りなかったせいで生命力を使い、亡くなっていたそうです」

「なるほど、それならば心配は無いな、所でグールは話せるのだろう?」

「はい、会話する事は可能ですが、下品ですので必要な時以外は話さない様命令しております、声を聞いて見ますか?」

「うむ、興味があるのでな、お願いしよう」

「先に断っておきます、多分と言うか必ず失礼な事を言うと思いますので、覚悟しておいてください」

「うむ」

ロイジェルク様はやはりネレイト様の父だな、こういう事は素直に興味深いのだろう。

「グール、話していいぞ」

「ヒャッハー、久々に話せるぜ!!俺様がグールだ、ロイジェルク、よろしくな!!」

「やはりグール黙れ!!」

「・・・なるほど、よく理解できたよ」

「ロイジェルク様、すみません、このように飛びぬけておりまして・・・」

「いや、構わない、私が聞きたいと言った事だからな」

ロイジェルク様は苦笑いしている、もう二度と声を聞きたい等とは言わないだろう・・・。

ルリア達が待つ馬車へと辿り着いた、時刻はもうすぐ夕暮れとなる時間帯だった。

「ルリア、ただいま」

「遅かったわね、もう次の街へ行けないから宿を取って貰ったわ」

「ルリア、気が利くではないか」

ロイジェルク様が笑顔でルリアを褒め頭を撫でていた、ルリアも褒められたことは嬉しかったのだろう、とても喜んでいた。

宿屋へたどり着き、部屋に案内されて皆でソファーで寛ぐ。

「エルレイ、ポメラニア公爵とどんな話をしたの?」

ルリアがそう尋ねると、皆も知りたかったのだろうこちらに耳を傾けてきた。

「ルフトル王国に攻め込むから協力しろと言われたよ」

「そう、当然断ったのよね」

「あぁ、もちろん断った、そしたら剣で勝負を持ち掛けられて戦う事になり、打ち負かして来たよ」

「流石ね、それなら私が付いて行って、剣で斬ってやりたかったわね」

ルリアはポメラニア公爵に思う所があったのだろうか?

「私もあ奴は好かん、エルが倒してくれらのなら気分がいいな」

ヘルミーネも嫌いの様だ、ポメラニア公爵は二人に何をやったんだろう。

「二人はポメラニア公爵に何かされた事があるのか?」

俺がそう尋ねると、二人のも嫌な顔をして答えてくれた。

「私は妾になれと、子供のころに言われたわ」

「うむ、私も同じことを言われたぞ」

なるほど、四十過ぎのブルドック顔のおじさんにそう言われたら、見るのも嫌になるだろる、もっと徹底的に痛めつけておけばよかった。

「そうか、嫌な事を思い出させてしまった様だな、すまない」

「構わないわよ、エルレイが痛めつけてくれたんでしょ」

「うむ、エルが痛めつけてくれたのなら気分は晴れた」

「そう言えば、ポメラニア公爵は勝負の時に魔剣を使ってきたんだが、魔剣は結構出回っている物なのだろうか?」

「そんな事は無いはず、私が見た魔剣はグールが初めてよ」

やはり一般的に出回っている訳では無いのか、仕方がない、グールに聞いてみるか、懐からグールを取り出しテーブルに置いた。

「グール、話していいから魔剣について皆に説明してくれ」

「オーケーマスター、一般的に出回っている魔剣は、俺様を作り出したクロームウェルが弟子に制作方法を伝授したものが今まで伝わっている。

それは、今日見たようにコアとなる魔石の周りに魔力を貯める魔石が埋め込まれていて、魔石の魔力を使い能力を発動させる。

魔剣の能力はコアとなる魔石に一つ、今日見た奴は赤い魔石で炎を出す事が出来る。

簡単に言ってしまえば、魔石に魔法の呪文を埋め込み、周りの魔石で魔力を供給し発動させるだけの物だ」

「それは俺達が魔法を使うのと同じ原理と言う事か?」

「マスターその通りだ、ただ魔剣は魔力と詠唱を必要としない、事前に魔力を供給しておく必要はあるが、誰でも魔法を使える代物って事だ」

「なるほど、魔剣に魔力を供給するのは誰でも構わないのか?」

「構わないぜ、魔剣はマスターを決めないから誰にでも持てるはずだ」

「ちょっと待って、グールはエルレイにしか持てないのよね」

ルリアが俺と同じことを思ったようで、グールに問いかけた。

「俺様は特別なんだよ、クロームウェルが自分で使うために作った魔剣だからな、他人が使えない様にした訳だ」

なるほど、だから他人が持てず死ぬまで離れない訳か・・・以前リゼが知っていた魔剣の情報はグールの物だった様だな、呪いの魔剣だから有名だったのだろう。

「グール、ありがとう、もう喋らなくていいぞ」

「マスターそりゃないぜ、もっと話させてくれよ!!」

そうだな、ずっと黙らせているのも少し可哀そうか・・・。

「お前が大人しくしていて、知らない人の前では話さないのなら許可しよう」

「マスター恩に着るぜ」

「エルレイ、大丈夫なのかしら?」

「また騒ぎ出すようなら黙らせるだけだ」

「俺様良い子にしてるぜ」

若干不安は残るが大丈夫だろう、今日も助けられたし悪いやつでは無さそうだ。

その後夕食を取り就寝し、翌朝ポメラニア公爵に止められる事無く街を出る事が出来た。


旅は順調に続き、ルフトル王国に隣接する、レーモン男爵領へと辿り着いた。

レーモン男爵領は、旧アリクレット男爵領と同じく、畑が一面に広がる長閑な土地で、いわゆる田舎と言うやつだ。

その田舎の街に近づくにつれ騒々しくなって行った。

街に入ると、各貴族の私兵と思われる兵士で賑わっていた。

「ロイジェルク様、ポメラニア公爵は本気でルフトル王国に攻め込む様ですね」

「うむ、あ奴は馬鹿だと思っていたが、ここまでとは思わなかった」

「このまま攻め込ませては、交渉どころでは無くなりますね」

「そうだな、宿屋へ向かった後、レーモン男爵の所に行って止めさせねばなるまい」

宿屋へと急ぎ、皆を宿の部屋に入れて安全を確保してから、レーモン男爵の所へ向かうために再び馬車に乗り込んだ。

ロイジェルク様とリゼも一緒だ、リゼは皆を守っていて欲しかったのだが、どうしても着いて来ると聞かなかった。

ラウニスカ王国の暗殺者に襲われた事で、俺を守っておかないといけませんと、リゼとロゼの二人に説得されてしまった。

また襲われても対策は出来ているから、対応できると思うのだけどね。

レーモンド男爵の屋敷へ着くと、屋敷より執事が現れ室内へと案内されて、一階にある部屋へと通された。

部屋の中に入ると、数人の貴族の男性が集まって話し合いをしている様だった。

「ラノフェリア公爵様とアリクレット侯爵様、よくおいで下さいました、こちらへお掛け下さい」

俺とロイジェルク様はソファーに腰掛け、周りの貴族からは表情は笑顔だが目が笑っていない視線を向けられた、リゼは部屋の隅で待機している。

先程挨拶してくれた貴族が改めて話しかけて来た。

「私はカスパル・フォン・レーモンと申します、お二方はどの様なご用件で此方へ参られたのでしょうか?」

レーモン男爵はやや怖がっている様な表情でこちらを見て来た、俺とロイジェルク様は男爵からすれば雲の上の存在だろうから仕方が無いのだろう。

「うむ、此度の要件はルフトル王国に攻め込むのを中止して貰うために来た」

ロイジェルク様は周りの貴族を睨みつけそう言い放った。

「なっ!!」

周りの貴族は驚きの声を上げ、ロイジェルク様に反撃をした。

「いくらラノフェリア公爵様とは言え、それを受け入れる事は出来ません、私達はポメラニア公爵様の命を受け、ここに集まっております」

ポメラニア公爵、諦めていなかったのか、ロイジェルク様はどうするおつもりだろう。

「お前たちの言い分は分かった、ならば此方は実力行使でお前たちの行動を阻止するまで、明朝までに兵を連れ自領へ帰れ、さもなくばお前たちの命は保証しない」

ロイジェルク様はそう言い放ち席を立って部屋を出て行く、俺も慌ててそれに続き部屋を出る、その際貴族たちが小声で色々文句を言っていたがよく聞き取れなかった。

流石に公爵様に面と向かって文句を言う度胸は無かった様だな。

俺とロイジェルク様とリゼは馬車に乗り込み、宿屋へと向かった。

「ロイジェルク様、貴族達は帰るでしょうか?」

ロイジェルク様はどの様なつもりで、あの厳しい条件を言ったのだろうか、とても言う事を聞いて帰るとは思えない。

「帰らないだろうな、馬鹿な公爵の命令でも背けば首を切られるからな」

それはポメラニア公爵の下にいる貴族達は可哀そうだな、どちらの選択をしても破滅が待つばかり・・・しかし、こちらもルフトル王国を攻撃されては困るのだ。

「それでは明日、こちらから攻撃を仕掛けるおつもりでしょうか?」

「その必要は無い、今夜片が付くだろう」

「それは私達が今夜襲われるという事でしょうか?」

「その通りだ」

その通りだって、宿屋を襲われたら守るのは大変だ、俺達だけなら問題無いが、ロイジェルク様の使用人達と宿屋にいる他の人達を巻き込まない様にするのは難しいぞ。

兵士の数も多い上に、正規兵じゃないから服装もバラバラで、兵士か民間人か判断に困る。

「宿屋で守るのは難しいと思います」

「うむ、それに宿屋だと毒殺の可能性が高い、という事でエルレイ君には砦を築いて貰おう」

ロイジェルク様は俺を見てにこやかに笑いそう言った、確かにその方が安全だが、どうもロイジェルク様がこの状況を楽しんでいる様にしか思えないな。

「分かりました」

俺達は宿屋へ戻り皆に状況を伝え、再び馬車で街の外へ出た、田舎だけあって土地は空いている、開けた場所へ馬車を止めた。

「ロゼ、直径三十メートルほどの丸い城壁を作るから手伝ってくれ」

「承知しました」

「私も手伝いたいが、まだ出来ぬ・・・」

ヘルミーネが残念そうに肩を落としてこちらを見ていた。

「ヘルミーネも俺と一緒にいて作るのを見ていてくれ、今後役に立つだろう」

「エル、分かった」

ヘルミーネは目を輝かせて俺の所へ駆け寄って来た。

「エルレイ、先に家を出して頂戴」

「分かった、リゼ、夕食の準備を頼む」

「承知しました」

俺は家を取り出し、部屋の中に食料を収納より取り出して置いた、後はリゼが上手くやってくれるだろう。

「ロイジェルク様とアベルティア様は家の中で寛いでください、砦が出来次第、皆さんの家も作ります」

「うむ、エルレイ君頼んだ」

「エルレイ君ありがとう、助かるわ」

皆が家の中に入って行き、俺とリゼそれにヘルミーネは城壁の作成へ向かった。

「高さは五メートルほどでいいだろう」

ロゼに手本となる城壁を作った。

「では、私は反対周りに作ってまいります」

「ロゼ、頼んだ」

ロゼも慣れたもので、俺が作ったのと同じように城壁を作って行く。

「エル、これはストーンウォールでは無いのだな」

「これは土を掘りだし、圧縮して固めたものだ、ストーンウォールだと時間が経つと消えてしまうからな」

「なるほど、分かった」

「今変形の練習をしているのだったな、城壁を作るには変形、強化、圧縮の全て必要となる」

「そうなのか、早く覚えて私も作ってみたい」

「ヘルミーネなら大丈夫、すぐ出来る様になるさ、リリーはよく教えてくれるだろう?」

「うむ、リリーはとてもやさしく丁寧に教えてくれる、いい教師だ」

ヘルミーネはリリーに教えて貰えている事が嬉しい様だ、やはりリリーに任せて良かったな。

「これは秘密なのだが、リリーは他国の元王族だ、ヘルミーネの事がよく分かるのだろう」

「そうだったのか、それは大変失礼な事をした」

ヘルミーネは今までリリーに接した態度が悪かったことを気に病んでいる様だ。

「ヘルミーネ、リリーにとってはもう過去の事だ、今まで通り接してやってくれ、友達になれたんだろ?」

「うむ、リリーとはとても仲良くなれた、そうか、これが友達なのか・・・」

ヘルミーネは今まで友達がいなかったせいで、友達とは何なのか分からなかったのだろう。

「そうだぞ、リリーだけじゃない、ルリアもアルティナ姉さんもリゼもロゼもラウラだって友達だ」

「そうか、しかしエルは友達じゃないのか?」

ヘルミーネは上目遣いで俺の事を見つめて来た、その仕草は可愛すぎるので勘弁して貰いたい。

「俺とヘルミーネは婚約者、将来夫婦になる、だから、友達では無いな」

「そうだな、エルは婚約者で、ふ、夫婦なのだな」

やばい、ヘルミーネがとても愛らしく思えて来た、俺はヘルミーネの頭を撫でて何とか抱きつくのを我慢した。

何故かって?当然ラウラが遠くからこちらの事を監視しているので、下手な事は出来ない。

ラウラは抱きついても怒りはしないとは思うが、無言のプレッシャーが結構辛い。

ヘルミーネと話をしていたせいで、城壁を作るのが遅れ、ロゼに少し多めに作らせてしまった。

「ロゼ、すまない」

「いえ、それは構いませんが、門を作らなかったようですが、よろしいのでしょうか?」

「構わないんじゃないかな、どうせ出て行くときは全部壊して行かないといけないし」

「確かにそうですね、では次は家ですね」

「そうだな、もう少し頑張ろう」

ロゼに家を作って貰い、俺はその間にベッドやソファーと言った小物を制作した、ロゼに教えれば簡単に作ってくれるだろうけど、苦労して作ったものだから簡単に教えたく無かった。

ベッドやソファーを収納し、ロゼが作ってくれた家に設置して行く、一時間ほどで城壁と家を作り終え、夕暮れ時を迎えていた。

「エル、とても素晴らしかった、やはり土属性の魔法は便利でいいな」

「そうだろう」

俺はヘルミーネの頭を再び撫でてから、最初に設置した家へ戻った、皆ソファーで寛いでおり夕食の準備も整っていた。

「ロイジェルク様、城壁を作り終えました」

「ご苦労、しかし早いな」

「ロゼと二人で作りましたので、最初に城壁を作った頃に比べて随分と早くなりましたね」

「ロゼも苦労であった」

「勿体なきお言葉、誠にありがとうございます」

「夕食の準備も終わっている、皆で食べようでは無いか」

ロイジェルク様が食事を勧める、俺もソファーへ座った。

「そう言えばエルレイ君の所では使用人も一緒に食事をするそうだな、今は私達しかいない、そこのメイド達も座って一緒に食べようでは無いか」

ロイジェルク様がリゼ達を食事へ誘った、少し戸惑っている様だったので俺が目配せをし座るように仕向けた。

「ロイジェルク様、気を使って頂きありがとうございます」

「エルレイ君気にすることは無い、ここは君の家だ、それならば私も君のルールに従うのは当然だろう」

「とてもいいルールですね、しかし、我が家では難しいかしら」

ロイジェルク様は笑ってそう答えてくれたが、アベルティア様は自宅で出来ない事を悔しがっている様だった。

「アベルティア様、私は元々男爵家三男でした、普通に行けば平民となるのが当然でしたからね、ですからこのようなルールを作る事が出来た訳です」

「そうでしたわね、しかし、そう考えればエルレイ君は物語の主人公の様だわ、そこに嫁げるルリアとリリーは羨ましいですわね」

出世だけを見るとそうかも知れないけど、ルリアにはいきなり殴られるし、戦争に巻き込まれ死にかけるし、何度か暗殺者も向けられているし、物語の主人公とは少し違う気がする・・・。

「何度か殺されかけてますし、良い物ではありませんよ」

「それは貴族らしいのでは無いかしら?」

「うむ、そうだな」

アベルティア様とロイジェルク様はそれが普通だと言わんばかりに笑っていた。

貴族とは物騒な物だな・・・。

「では、食事が冷める前に頂きましょうか」

「うむ、頂こう」

「「頂きます」」

皆揃っての食事を終え、襲撃に備えて早めに寝る事にした。

以前より三人増えたのでベッドを二個追加し、一人は俺と一緒に寝る事となった、あれ以降ずっっと交代で寝ているのだ。

今日はヘルミーネが俺の横だ、いつもはラウラも一緒なのだが、少しこのベッドは狭いので、初めて二人での就寝となった。

「エル、このベッドぷよぷよしてて気持ちがいいな」

「そうだろう、苦労して作ったからな」

「エルレイ、このベッド、リアネ城の部屋にも作ってくれないかしら?」

「それは構わないぞ、戻ったら作って設置するよ」

「頼んだわね」

ルリアはこのウォーターベッドを気に入ってくれた様だ。

「私のも頼む」

「エルレイさん、私もお願いします」

「エルレイ、私にも作って頂戴」

ヘルミーネ、リリー、アルティナ姉さんにも頼まれてしまった、戻ったら真っ先に作らないといけないな。

「分かったよ、皆の分作るよ」

「ところでエルレイ、このベッド売ったら儲かるんじゃないかしら?」

ベッド自体の原価はゼロだから作って売れば丸儲けだが、大きな問題がある。

「確かにそうかも知れないが、このベッドには大きな欠点がある、それは非常に重いという事だ、俺は収納で運べるから問題無いのだが、人が持って運べるような物では無い」

「そうなのね、確か土を固めて水を入れているんだったかしら?」

「その通り、土も固めているからかなりの重量だ、その上中に水が入っていて、さらに重さが増している」

「いい思い付きだと思ったけど、残念ね」

「いや、そう言った思い付きは良い事だからどんどん言ってくれ、今は重くてどうしようもないが、材料を変えて軽量化すれば売れるかも知れない」

「そうね、じゃぁ、エルレイは軽量化頑張ってね」

あれ?軽量化して売る事は決定なのだろうか・・・ちょっと失言だったな、ロゼに作り方を教えて協力して貰おう。

ヘルミーネと手を繋いで目を閉じると、すぐに眠気が襲って来て意識が途切れた・・・。

『マスター起きろ、敵が来たぞ』

『グール、知らせてくれてありがとう』

真夜中グールの声で起こされる、こいつの声で起こされるのは気分が良い物では無いな。

俺はヘルミーネを起こさない様に繋いでいる手を離してベットから出る、皆を起こさない様に小声でリゼとロゼに声を掛ける。

「リゼとロゼ起きてるか?」

「「はい起きております」」

「ロゼ、まだ皆寝ているからここの守りを頼む」

「承知しました」

「リゼはついて来てくれ」

「はい」

リゼを連れてロイジェルク様が寝ている家へと向かう、家の前には執事が一人警戒をしていた。

「敵が攻めて来たようなので、ロイジェルク様を起こして来て貰えないだろうか?」

「承知しました、しばらくお待ちください」

執事は一礼をして家の中に入って行った、ロイジェルク様は意外と早く出て来てくれた、いつでも出られるよう準備して居た様だ。

「エルレイ君待たせたね、それで敵が攻めて来たのだろうか」

「はい、外に来ております、交渉はいかが致しましょう」

「エルレイ君に任せるよ、ただし、出来るだけ相手を殺さない様お願いできるかな?」

「分かりました、城壁が壊れることは無いとは思いますが、外は危険ですので家の中に待機しておいて下さい」

「分かった、エルレイ君も気を付けてくれたまえ」

「では、失礼します」

リゼを抱きかかえて空へ飛び立ち城壁の上へと立った、暗闇の中松明を持った敵兵と思われる集団が砦を囲っていた。

夜なので正確な数は分からないが、かなりの人数だと思われる。

「さて、リゼどうしようか?」

「こちらの様子を伺っている様ですし、降りて話をした方がよろしいかと思います」

「そうしよう、リゼ十分気を付けてくれ、ロイジェルク様になるべく殺さないよう言われたが、大事なのはリゼと俺の命だ、攻撃してきた場合には容赦しなくていい」

「承知しました」

リゼを抱きかかえて敵の前に降り立った・・・。


≪レーモン男爵サイド≫

「お前たちの言い分は分かった、ならば此方は実力行使でお前たちの行動を阻止するまで、明朝までに兵を連れ自領へ帰れ、さもなくばお前たちの命は保証しない」

ラノフェリア公爵様はそう言い放つと部屋を出て行かれてしまった。

「おい、どうするのだ?」

「自領に戻ればポメラニア様に粛清されるぞ」

「しかし、ラノフェリア公爵様に逆らった所で勝ち目があるのか?」

「「「・・・・・・」」」

沈黙が訪れる、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのラノフェリア公爵様に逆らっても勝ち目は無い、かと言ってポメラニア様に逆らうと確実に一家全員排除されてしまう。

ラノフェリア公爵様は下で働く貴族達を大事に育てて、ここまで勢力を伸ばして来たが、ポメラニア様はお金の力で配下の貴族を縛って来た。

世間一般ではポメラニア様は馬鹿だと言われているが、お金を集める事に関しては素晴らしい才能をお持ちで、その力で自領を豊かにして来た。

配下の貴族達もポメラニア様のお金を期待して自ら何かを成し遂げようと思う事を止めていた、それ故に誰も逆らう事が出来なくなっていたのだ。

「やはり、ポメラニア様に逆らう事は出来ない」

「そうだな、我らに残された道はただ一つ、ラノフェリア公爵様に消えて貰おう」

「それは出来るのか、一緒にアリクレット侯爵様もいたのだぞ!」

「あんな子供に何が出来る、こちらには二万の兵がいるのだぞ」

「今この街の宿に泊まっているのだろう、毒殺を試みるのが早い手だろう」

「うむ、そうしよう」

執事を通して念話で配下の兵に連絡を付け、宿屋へ毒殺を仕向けるべく向かわせた、しかし既に宿を出立しており、もぬけの殻であった。

「ラノフェリア公爵様はすでに宿屋を出立されたとの事です」

「宿屋を出立していただと!それで何処に行ったのか分かっているのか?」

「はい、街の外にて砦を作っている様だとの報告でした」

「砦を作っているだと?そんな馬鹿な話ある訳無いだろう、よく確認させろ!!」

「いや待て、確かアイロス王国が此方に攻めて来た際に、アリクレット侯爵様が城壁を作ってそれを防いだと聞いたぞ」

「確かにその話は私も聞いたな・・・」

「と言う事は本当に砦を今作っていると・・・」

「「「・・・・・・」」」

「砦を作られる前に、今から攻め込もう」

「分かった、しかし兵が集まるまでしばし時間が掛るぞ」

「出来るだけ急がせろ」

「我らも出るぞ!!」

二万の兵は街の外にキャンプを張らせており、今は兵の英気を養うため街で自由に行動させていた。

それ故に集合に時間が掛り、貴族達がキャンプしている場所に着いた時には、すでに砦が出来上がってしまっていた。

「報告します、砦はすでに完成しており、此方の兵の集合にはまだしばらく時間が掛ります」

「兵の集合はそのまま継続させろ」

「はっ」

「砦が出来てしまった以上、今から襲撃しても遅いのではないか?」

「そうだが、我らに襲撃以外の手立てがあるのか?」

「・・・無いな、遅いのならば寝静まった後夜襲を仕掛けよう」

「うむ、砦の監視を続けさせろ」

報告によると、砦は五メートルほどの高い城壁で円形に作られており、入口は無い様だった。

「入口が無いだと、朝が来るまで籠城するつもりか、それならば都合がいい、火矢を放ち燃やしてやろう、兵に準備をさせよ」

「はっ」

「準備が整い次第出るぞ」

「うむ」

二万の兵を率いた貴族達は、火矢を放つべく松明を準備させ砦を囲わせた。

「報告します、アリクレット侯爵様と思われる人物が軍勢の前に現れました、いかがなさいますか?」

「構わん殺せ!」

「いや待て、相手は子供だ、上手く交渉して此方の味方に付ける事が出来るやもしれん」

「そうだな、いくら魔法が使えても所詮子供、我らの話術でどの様にも出来よう」

「ならば皆で行くぞ!」

貴族達は子供をどの様に言いくるめてやろうかとほくそ笑み、エルレイの元へ向かった。


≪エルレイサイド≫

暫く敵兵を見ていたが、上からの命令が無いのか動きが無い、面倒だがこちらから話しかけるか無いか。

「我はエルレイ・フォン・アリクレット侯爵、この様な時間に何用だ!!」

俺は大声で出来るだけ尊大に聞こえる様に言い放った、しかし声変わりしていないので迫力は全く無いな・・・。

「アリクレット侯爵様、今此方に代表者が向かっておりますのでしばらくお待ちください」

兵の指揮官と思われる人が、一歩前に出てそう言った。

「どうやら交渉する余裕はありそうだな」

「その様ですね」

「しかし、夜襲を仕掛けて来ているのに松明を持っているのはどういう事だ?」

「恐らく、火で炙り出すつもりなのでは無いでしょうか?」

「なるほど、それなら全く脅威では無いな」

「そうですね、雨を降らせて終わりでしょう」

リゼと話をしていると、レーモン男爵邸で会った貴族達が俺の前に出て来た。

「貴様たちは何のために兵を引き連れここへやって来た、返答如何によっては容赦はしない」

俺はそう言って脅して見せたが、やはり迫力が無いのか貴族達は余裕の表情だった。

「アリクレット侯爵様、私達に敵対する意思はございません、お願いがあって馳せ参じました」

「お願いとは何だ?」

一応聞いて見たが、ポメラニア公爵と言う事はどうせ同じだろう・・・。

「はい、アリクレット侯爵様に我らと協力してルフトル王国を攻め滅ぼして頂きたいのです、勿論報酬は十分なお金をご用意させていただきます、それと若い女性をいくらでもご用意いたしましょう」

・・・分かってはいたが、馬鹿の配下も同じという事か、しかもポメラニア公爵から何も聞かされていないのだな。

他の貴族達もこの報酬で俺が満足するだろうと疑ってはいない様だ・・・。

「お前たち、ポメラニア公爵から何も聞かされていないのか?」

貴族達は困惑の表情をしお互い見合わせていた、やはり誰も聞いていないのだな。

「もしかして、そちらのメイドの様な年上の女性が好みでございましたか、勿論アリクレット様のご希望の女性をご用意させて頂きます」

リゼの事は好きだが年上が好みと言う訳では無い、そもそも女性の報酬が欲しいわけでは無いからな。

「ポメラニア公爵はお前たちと同じことを言って来た、そして俺は協力する代わりに、ルフトル王国全土を寄こせと言ったのだ、お前たちはどうなのだ?」

「ふざけるな!!」

「子供だと思って下手に出てやれば調子に乗りやがって」

「そんなこと許される訳が無いだろう!!」

貴族達は怒って俺に暴言を吐いて来た、俺侯爵だし、この時点でこいつら殺しても問題無いよな・・・。

「ならばどうするのだ、俺と勝負するのか?」

ポメラニア公爵の様に剣で勝負してきてくれれば話が早くて助かるのだが。

「ふん、脅しても無駄だ、こちらには二万の兵がいる、その砦を貴様の墓標にしてやろう」

「我らに協力しなかった事を後悔するといい」

貴族達はそう言い放ちそそくさと下がって行った。

「行かせてよろしかったので?」

「構わないさ、彼らに逃げ場など無いのだから」

「そうですね」

リゼを抱きかかえ、敵兵たちの真上の上空で停滞した。

「よく聞け!!俺達に攻撃する者には容赦しない、しかしこの場を逃げる者に手を出さないと約束しよう、命が惜しく無い奴だけ掛かって来るがいい」

俺は大声で敵に向かって言い放ち、敵兵の上空に目立つようにバレーボール大の火の玉を大量に浮かべた。

「リゼ、いつでも砦に雨を降らせられるようにしていてくれ」

「承知しました」

大量の火の玉を見て兵士達に動揺が走る、指揮官らしき人が必死に抑えようとしているが、やはり貴族の私兵では一度乱れた統率を元に戻すのは難しい様だった。

しかし、やがて先程の貴族達から攻撃命令が出たのであろう、火矢が次々と砦に向かって放たれた。

リゼが砦に雨を降らせ、砦に火が付くことは無かった。

「お前らの攻撃など無駄なのだと分かったか!!まだ続ける様ならこの火の玉を落とす、今後一切容赦しない!!」

大声で最後通告をすると徐々に兵士達が逃げ始めていた、それでも貴族達に忠誠を誓っている部下たちなのだろう、攻撃を仕掛けてくるものもいた。

俺は容赦なくそいつらに向け火の玉を落として行く、火の玉が敵兵に当たると爆発して燃え上がり、周りの兵を巻き込んでいく。

その光景を目の当たりにした兵士達は我先にと逃げ始めていった。

それでも反撃してくる敵には、次々と火の玉を落として行く。

「マスターえげつねーな」

「そうか?見た目は派手だが、普通のファイヤーボールより威力を落としているから、死人は出ていないはずだが・・・」

「だからだよ、一思いに死ねなくて苦しんでいるじぇねぇか」

「彼らには生き証人になって貰わないと困るからね、俺に逆らうとどうなるか、国内向けに宣伝して貰おうと思ってね」

「俺様、酷いマスターに仕えたもんだぜ・・・」

グールはそう言うが多少苦しんでも死ぬよりかはましだと思う、ちゃんとした所で回復魔法掛けて貰えば火傷の跡も消えるだろう。

勿論俺はかけてやらないが、彼らには俺の安全のための犠牲になって貰う。

敵はほとんど敗走し、残っているのは傷付いた兵士を回収している人達のみとなった。

「終わったようですね」

「戻って寝ようか」

「はい、そう致しましょう」

俺はロイジェルク様がいる家へと降り立ち、家の前で警戒している執事に声を掛けた。

「戦闘は終了しました、もう朝まで大丈夫ですのでお休みくださいと伝えてください、私も朝まで眠ります」

「お疲れさまでした、お伝えしておきます」

家に戻るとヘルミーネ以外は起きていた。

「ただいま、戦闘は終わったよ」

「お帰り」

「エルレイさん、お帰りなさい」

「エルレイ、お帰りなさい、怪我はしてない?」

アルティナ姉さんは俺に近づき体のあちこちを触って確認してきた。

「アルティナ姉さん、かすり傷一つ負って無いよ」

「そう、良かったわ」

アルティナ姉さんは一通り俺の無事を確認して安心したのか、抱き付いて来た。

「エルレイ、戦闘に行くのだったら私も起こして連れて行きなさいよ」

「ルリアは元々連れて行くつもりは無かったよ、両親の前で戦闘に連れて行く訳にもいかないだろ?」

「確かにそうね、余計な心配かけるだけだわね」

「それより寝よう、疲れたよ」

「そうね、寝ましょう」

夜中だけあって皆まだ眠い様だ、俺もアルティナ姉さんから離れてヘルミーネが眠っているベットに潜り込んで眠った。

翌朝、まだ眠かったが起きて朝食を食べてからロイジェルク様の所へ行った。

「ロイジェルク様、おはようございます」

「エルレイ君おはよう」

「昨夜は昨日、レーモン男爵邸でお会いした貴族達と話したのですが、ポメラニア公爵から連絡は来ていなかった様で、彼らから同じようにルフトル王国へ侵攻する協力を打診されました」

「相変わらずひどい男だ、配下を見捨てるとは」

「当然交渉は決裂して兵士に攻撃を命令、それを排除しました、怪我人は多少出しましたが死人は出ていないと思います」

「うむ、ご苦労であった、ではエルレイ君、レーモン男爵邸へ出向こうか」

ロイジェルク様はこれから止めを刺しに行くのですね、確かに此方を殺そうとして来たから、当然処罰をしないと示しがつかないな。

「分かりました、では転移で向かいましょうか」

「よろしく頼む」

後ろに控えているリゼの手を取り、ロイジェルク様と三人でレーモン男爵邸の玄関前へと転移した。

扉をノックすると、執事が対応してくれて応接室へと案内された、中には昨日と同じ貴族達が死んだような目をしてソファーに座っていた。

此方に気付いた様だが、自分たちの運命が決まっていると分かっているので、挨拶もせずただそこに座っているだけだった。

そんな彼らにロイジェルク様が止めを刺す言葉を言い放つ。

「貴様たちに猶予を与えたが無駄だったな、今回の事は陛下にお伝えする、厳しい処罰が下る物と覚悟致せ」

ロイジェルク様はそれだけ言うと踵を返し部屋を出て行く、今回は俺も遅れる事無く続いた。

外へ出て転移で砦に戻って来た。

「ロイジェルク様、今日ルフトル王国に向かいますか?」

「そうだな、ここの解体にどれくらいかかるのか?」

「三十分もかからないと思います」

「それならルフトル王国に向かうとしよう」

「分かりました、では準備いたしますね」

「リゼ、すまないがロゼを呼んできてもらえないか?」

「承知しました」

ロゼが来てから城壁の解体を始め、二十分ほどで元通り何もない平地になった。

馬車の準備も終わった居り、俺、ロイジェルク様、使用人三棟の家を収納して馬車に乗り込んだ。

いよいよルフトル王国へ入る事が出来る、ここまで来るのにかなり疲れたが、精霊使いを早く見たい気持ちの前に疲れも吹き飛んでしまった。

「エルレイ、元気が出た様ね」

「ルリア、やっとルフトル王国に入れると思ったら嬉しくてな」

「そうね、私も楽しみだわ」

ルリアも笑顔だ、皆そうだが好き勝手に出歩く事が難しいのでこういう旅は楽しいのだろう。

「エルレイ君、ちょっといいかしら」

アベルティア様が俺に話しかけて来た、珍しいな大抵ルリアと話していて俺に言って来ることはあまり無いのだが。

「アベルティア様、なんでございましょう?」

「昨日作って貰ったベッドだけど、あれを家にも置いて欲しいのだけれども可能かしら?」

アベルティア様にも気に行って貰えた様で俺は嬉しくなってしまった。

「勿論構いませんが、あのベッドは非常に重く一度設置すると動かせないかも知れませんが、構わないでしょうか?」

「そうなの、まぁ大丈夫でしょう、お願いするわね」

「承知しました」

「エルレイ、お母様も気に入った様だし軽量化して売るべきよ」

ルリアが珍しく興奮して俺に迫って来た。

「分かった、この旅を終えたら研究してみるよ」

「ふむ、確かにあのベッド気持ちよく眠れたな、魔法で作った様だがどの様な構造なのだ」

ロイジェルク様は構造が気になるのか、もしかしたら職人に作らせるつもりなのだろうか、それは問題無いな、隠しておくような事でもない。

「教えちゃだめよ駄目よエルレイ、あのベッドはうちの領の特産品にするのだから」

そう言う物なのだろうか、作ったものが出回り始めたらそれを真似する人が出て来るから意味無いのでは?

特許とかこの世界に無いから真似し放題だよな。

「ルリア、私は別にその様なつもりで言った訳では無いぞ、単に興味があっただけだ」

「ルリア、隠していてもいずればれる事だし構わないよ」

「そうかも知れないけど、勿体ない気がするじゃない」

「そう言う事でロイジェルク様、あれはベッドの中に水が入っているのでぷよぷよとした感触がするのです、ただ、水ですから漏れ出ない様工夫するのが難しいかと思います」

「なるほど、確かに水が漏れ出ないようにするのは難しそうだ」

ビニールとか無いからな、やるとしたら動物の皮を使って縫い合わせて行くのだろうが、人の圧力が掛かっても漏れないようにするのはかなりの難問だろう。

ルリアは俺があっさり話した事が気に入らない様で少し不機嫌になってしまった。

「魔道具が作れたらもっと便利な物を作成できると思うのですが、ミスクール帝国は遠いですし、教えて貰えそうにも無いですね」

「うむ、そうだな、魔道具の制作方法を手に入れるのは難しいな、魔道具もなかなか手に入らないからな」

「魔道具の制作方法なら俺様知ってるぜ」

グールがとんでもないこと言いやがった。

「それは本当か?」

「マスターに嘘はつかないぜ、勿論タダで教えてやるつもりはねぇ」

ここぞとばかりにグールが俺の足元を見てきやがった、グールに屈するのは非常に癪だが仕方あるまい。

「分かった、条件を聞こう」

「話が分かるじゃねぇか、俺様の望みはただ一つ!もっと喋らせろ!!」

「・・・それだけか?」

「それだけだぞ、魔剣の俺様が他に欲しい物とかあると思うか?」

そう言われてみてば確かにそうだな。

「分かった、ただ、やはり見知らぬ人の前では混乱するから話さないで欲しい」

「オーケー、契約成立だ!」

「それで制作方法を教えてくれ」

「簡単な事だ、以前魔剣の話をしたよな、クロームウェルは魔道具の技術を基に魔剣を作り出したわけだ。

魔石に魔法を刻む、この際呪文を魔法陣に変換して魔石に刻み付ける、詳しい内容については後で話すぜ。

ただ現在、魔石の入手が非常に困難だ、そうだよなロイジェルク」

問いかけられたロイジェルク様は一瞬躊躇したが、この前の事があったせいか諦めた様子だ。

「その通りだ、ミスクール帝国で作られているらしいが詳しい事は分からない」

「つまり魔石が手に入れば俺にも魔道具は作れるのか?」

「マスターなら問題なく作れるぜ」

素晴らしい魔道具に精霊と楽しみが増えて来た。

「しかしマスターは変わってるな、魔道具作れるのがそんなに面白い物なのか?」

「そうだぞ、こんな楽しみな事他に無いだろう」

「今まで俺様を使ってきた奴らは、敵を倒す事しか興味が無かったぜ」

こう見えてグールは強力な魔剣だ、確かに手に入れたら使って敵を倒したいと思うだろう。

「それは俺がグールの事強いと思って無いからだな!」

「な・ん・だ・と・・・俺様めっちゃ強いじゃん、この前だって活躍しただろ!!」

「わっはっはっはっ」

ロイジェルク様にアベルティア様、ルリアも笑っていた。

「グールよ、お前はとても強い魔剣かも知れんが、エルレイ君の前では霞む様だな」

「マジかよ、クロームウェルでさえ俺様を最強だと認めたのに・・・」

グールは落ち込んだようで静かになった、しかしグールは感情豊かだよな、クロームウェルはどうやってグールを作り出したのだろう。

魔道具が作れるようになって、グールの様に感情を入れて話せる物が作れたら、オートマタとか作れたりしないだろうか?

夢が広がるな、俺は期待に胸膨らませながら馬車はルフトル王国へと入って行った。


国境と言う正確な物は無いらしく、ただ此方から兵を出せば、ある程度侵攻した辺りで反撃されるそうだ。

「ロイジェルク様、ルフトル王国の兵士に攻撃されたりしないのでしょうか?」

「こちらに敵意が無い限りその様な事は無いはずだ、今まで送った使者も襲われたと言う報告は無い」

普通こういった使者が来たら警戒するか、護衛を付けるとかしないのだろうか?

「そうなのですね、結界で守っているから気にしていないのでしょうかね」

「そうかも知れないな」

ロイジェルク様も詳しい事は分からない様だな。

「マスター、敵意は無いが監視はされているぜ」

「グール分かるのか?」

「勿論だぜ、俺様敵意を感じ取れる能力があると言ったよな、あれは実際には魔力を感じ取り、そこから感情を読み取っている、だから敵意が無くても存在は分かるぜ」

なるほど、喋らなければグールは優秀なのだがな・・・と言う事はリリーも監視されているのは気が付いているかも知れないな。

「グール、ありがとう」

「敵意を感じ取れるのか、素晴らしい能力だな」

ロイジェルク様がグールを褒めてしまった、こいつ褒めるとつけあがるんだよな・・・。

確かにロイジェルク様が敵意を持つ存在を知る事が出来たらとても便利だろう、色々調べて判断しなくても、目の前に行くだけでいい様になるのだから。

「ロイジェルク、分かってるじゃねーか、俺様優秀なんだよ、それなのに、このマスターは俺様の事を認めやがらねぇ」

「グール、その下品な口調どうにかならないのかしら?」

ルリアが我慢できなくなったのかグールに文句を言った。

「ルリアお嬢様、この様にお話致せばよろしいでございましょうか?」

何か微妙に違うな、ルリアも嫌な顔をしている。

「なぜか気持ち悪いから、元のままでいいわ・・・」

「そうか?俺様もこの話し方が楽でいいぜ」

結局グールの話し方はそのままになってしまった。

監視はずっとされている様だが、特に問題も無くルフトル王国にある小さな街へ辿り着いた。

そこは街と言うか村に近い感じだった。

小さな宿屋へ着くと、何やら騒ぎが起きている様子だった、宿屋の主人に話を聞いて見る事にする。

「すみません、外が騒がしい様ですが、何かあったのでしょうか?」

「いらっしゃいませ、今井戸の水が出ない様になってしまい困っているのです、お客様には大変ご迷惑をおかけしますが食事以外の水を提供する事が出来ません」

水が無いのは困るだろうな、俺達は魔法で作り出せるから全然問題無いのだが。

「もしよろしければ井戸を見て見ましょうか?私は魔法使いですのでどうにか出来るかも知れません」

「それは助かりますが、よろしいのでしょうか?」

宿屋の主人は俺の服装を見て遠慮している様子だ、確かにこんな子供でも貴族の立派な服を着ているからな、ルフトル王国で貴族がどのような位置にあるのか分からないが、この様子だと近寄りがたい存在であることは間違いない様だ。

「構いませんよ、水が無いと私達も困りますからね」

俺は笑顔で宿屋の主人にそう言うと、とても喜んで井戸の場所に案内してくれるようだ。

穴を掘るだけならヘルミーネでもいいな、こんな機会滅多にないだろうから活躍させてやろう。

「ヘルミーネとラウラは俺に着いて来てくれ、井戸の様子を見に行こう」

「いいのか!勿論行くぞ」

「畏まりました」

ヘルミーネは喜び、ラウラも特に反対することは無く着いて来てくれた。

宿屋の主人に案内されて井戸の所へ着いた、井戸の水が出ないのが分かっているのだろう、人が全くいなかった。

「こちらの井戸になります」

俺は井戸を覗き込み、中に火を灯して井戸の底を確認した。

「確かに水が見えませんね、少し掘り下げて見ます」

「よろしくお願いします」

「ヘルミーネ、井戸の底を少しずつ掘り下げて行ってくれ」

「分かった」

「ラウラさんはヘルミーネが落ちない様、捕まえておいてください」

「はい、心得ております」

ヘルミーネが井戸を掘り下げていく、俺は余った土を井戸の壁が壊れない様その土で強化して行き五メートルほど掘り下げた所で水が湧き出して来た。

「エル、水が出て来たぞ」

ヘルミーネは水が出て来た事をとても喜んでいた、多分初めて自分で成し遂げ、人の役に立った事だからだろう。

「ヘルミーネ、偉いぞ、もう掘り下げなくて大丈夫だろう」

「うむ、分かった」

俺はヘルミーネの頭を撫でてやると、目を細めて気持ちよさそうにしていた。

「ありがとうございます」

宿屋の主人は頭を下げて感謝の言葉を述べた。

「困ったときはお互い様ですから、気にしないで下さい」

「もしよろしければ他の井戸もお願いしたいのですが・・・」

宿屋の主人は申し訳なさそうにそう言って来た、どうせやるなら全部やらないと意味が無いな。

「勿論構いませんよ」

「ありがとうございます、ではご案内します」

宿屋の主人に案内されまた別の井戸へ行き、ヘルミーネに水が出るまで穴を掘らせた、結局十個の井戸を掘り水を出す事となった。

その日の宿屋の食事は店主が気を利かせてくれたのだろう、豪華と言うか量が多く皆食べるのに苦労した。

翌日は山沿いの道を馬車で進んでいると、数日前の大雨で土砂崩れが起きていた様で通れなくなっていた。

ロゼと二人で土砂を取り除き、崩れた山の斜面を強化して崩れない様にしてから道を整え、馬車が通れるようにした。

また次の日は橋が流されたそうで、かなり迂回しないといけない様なので、護岸をまた流されない様強化して橋を架けなおし、道も綺麗に整備した。

迂回するより早いだろう。

次の日は立ち寄った村で家畜が檻を破って逃げ出しており、捕まえる手伝いをした。

そして、ようやくルフトル王国の王都に隣接する街テーヌへ辿り着いた。


≪ラウラ視点≫

私はソートマス王城で執事とメイドの子供として生まれ、物心付いた頃から王族に仕えるメイドとして育てられました。

読み書きに、この国の歴史、そして貴族の名前、両親や周りの使用人達に、メイドとして必要な事は全て叩き込まれました。

リゼやロゼの様に戦闘は出来ません、護身術程度は教えられたましたが、それっきり体を鍛える事はして来ませんでした、体を鍛えるために時間を使う余裕が無かったというのが正確でしょう。

十一歳の頃、五歳になったヘルミーネ様直属のメイドに指名されました、とても名誉な事ですが、悪く行ってしまえば子守りです。

当時のヘルミーネ様はそれはもう我儘し放題で手が付けられませんでした、さらに六歳時に魔法を覚えてからは所構わず魔法を使うようになり、魔法が使えない私にはさらに手が付けられない状態となりました。

ヘルミーネ様は私の言う事を聞いてはくれず、ヘルミーネ様が問題を起こすと全て私の教育のせいにされてしまいます。

それでも私なりに努力して、ヘルミーネ様に言葉遣い、礼儀作法、ダンスなど教え、表向きの事はきちんとこなせる様になって下さいました。

私と二人でいる時の言葉遣いはどうしても直す事が出来ませんでした、しかしそれはこの息苦しい王城でのヘルミーネ様の息抜きだろうと思って諦めました。

私も王城生まれの王城育ちですから、そのお気持ちはよく分かります。

私にとってヘルミーネ様との生活は最初は辛い物でしたが、日々過ごして行く中で少しずつヘルミーネ様のお心が分かる様になり、仕事を抜きにしてもとても大切で守って行かねばならない人となりました。

普通の子供でしたら外で遊んだりして、年の近い友達がいたりするのでしょうが、この王城にその様な方はございません。

ヘルミーネ様に優しくしてくださいますのは、両親とクレメンティア様だけ、皆様お忙しいのでたまにしかお話しする機会が御座いません。

その時のヘルミーネ様の表情はとてもにこやかで、私には見せてはくれない表情でしたので少し悔しく思います。

時折陛下のご機嫌を取ろうと、貴族様がご自分の子供を連れてヘルミーネ様と遊んでくださいますが、友達になる処か喧嘩して、お相手のお子様が泣いて帰ってしまう事しかありませんでした。

その中で唯一友達に近しい人が出来たのは、ヘルミーネ様にとって喜ばしい事でした。

ラノフェリア公爵様の四女ルリア様です、ルリア様は何度か遊びに来られて何時もヘルミーネ様と喧嘩をなされていますが、私から見るととても仲が良く思えました、ヘルミーネ様もルリア様が来るのを密かに楽しみにしておりました。

しかし、ルリア様がある時期から突如遊びに来られなくなりました、王城で囁かれている噂で男爵家三男の所へ婚約者として行かれたと耳にしました。

ルリア様は公爵令嬢なので最初は嘘なのかと思いましたが、ヘルミーネ様が陛下に尋ねた所本当の事だったようです。

ラノフェリア公爵様は噂で子煩悩だとお伺いしておりましたから、尚更信じがたい事でした。

ヘルミーネ様はその事で暫く落ち込んでおりましたが、また、いつもの我儘なヘルミーネ様に戻られました。

ルリア様の事があり、ヘルミーネ様の我儘は自分に構って欲しいからやっている事だと気が付きました。

それからはヘルミーネ様の我儘を私は受け入れ、周囲からのお叱りは私が全て受け止める事で、ヘルミーネ様の寂しさを紛らわせられるよう努力してまいりました。

ルリア様が来なくなってから一年後、そんな私の努力を嘲笑うかの様な出来事が起きます。

ルリア様が婚約者として向かわれた、男爵家三男の方が王城に現れました。

その人はアイロス王国からの侵攻を防ぎ、逆に敵国の男爵領を攻め落としたとの事で、男爵位を陛下より授けられたそうです。

その翌日、魔法を披露してくださるとの事で、期待に満ちた表情のヘルミーネ様に付き添い私も見学させて頂きました。

私は魔法の事は詳しくありません、精々ヘルミーネ様の訓練に付き添い横で見ている程度の物でしたが、男爵様の魔法は今まで見た事が無い素晴らしい物でした。

私も六歳の頃魔法を使えるか試した事があります、使用人にとって魔法とは、念話を使っての連絡方法としてとても重宝されます。

しかしながら私は魔法を使う事が出来ませんでした、その当時は魔法が使えない事で残念だとは思いませんでした。

今目の前で見せて頂いた魔法を見て、私が魔法を使えない事がとても残念に思えてしまいました、それは男爵様が使った飛行魔法。

私も空を飛べたならこの王城を抜け出し、自由に暮らせるのではないかと思ってしまったのです。

魔法の見学の後、ヘルミーネ様の自室に戻り、ヘルミーネ様のお相手をしていると、ラノフェリア公爵様がおいで下さいました。

ルリア様をまた連れて来て下さったのかと、ヘルミーネ様は喜びの表情を見せましたが、先程の男爵様を紹介してくださるとの事でした。

ヘルミーネ様は先程見た魔法の事を詳しく聞けると、大喜びで男爵様の元へ向かいました。

男爵様のお名前はエルレイ様と言う事でした、貴族様の名前は覚えておりますがお子様までは覚えておりません。

貴族様のお子様は十人から二十人、多い方で三十人を超える貴族様もいらっしゃいます、それをすべて覚えるのは無理なのです。

ヘルミーネ様はいつもの様にご自身の魔法を披露なされました、一応注意は致しますが私が庇いヘルミーネ様を守って来た事ですので構いません。

しかし、エルレイ様はそれはいけない事だとヘルミーネ様に順序立てて説明をし、最後にはヘルミーネ様が納得されてしまいました。

ヘルミーネ様の我儘は寂しさを紛らわす物だと思っておりましたが、それは違っていたのだとエルレイ様に教えて貰いました。

ヘルミーネ様はやっていい事といけない事が分からなかっただけなのでした。

私は大馬鹿者です、今までも注意はしてきましたが、何故いけないのかをヘルミーネ様に一切説明していなかったのです。

それでは一向にヘルミーネ様の行動が変わるはずもございません、ヘルミーネ様に大変申し訳ない事をして来たのです。

そしてヘルミーネ様がとても聡明だという事も分かりました、いかに聡明でも説明を受けなければ知識は増えて行きません。

エルレイ様は魔法の指導もとても丁寧にご説明をし、それを聞いたヘルミーネ様は、私の目から見ても魔法を上手に使える様になっておりました。

そしてエルレイ様はルリア様に続いて二人目のお友達となられたようで、ヘルミーネ様はとても気に入ったご様子でした。

ヘルミーネ様はずっと一緒にいて欲しいと懇願致しましたがそれは叶わぬ事、アリクレット男爵領はこの国の端に位置する場所にあるのです。

エルレイ様はその事をとても丁寧にご説明をし、部屋を出て行かれました。

私は肩を落として落ち込んだヘルミーネ様を抱きしめる事しか出来ませんでした。

その翌日からヘルミーネ様は変わられました、エルレイ様に教えられた通り魔法の訓練を毎日続け、勉強も努力なさいました。

私も同じように変わり、ヘルミーネ様にきちんと納得してくださるまで説明をするよう心掛けました。

その甲斐あって以前の様な我儘は無くなっていきました。

その事で陛下や他の王族からヘルミーネ様は褒められるようになっていき、以前の様な息苦しさは無くなって来たような気が致します。

そんな折、ある噂が王城に広がりました、近々アイロス王国へ攻め込むとの事でした。

そして、それにはエルレイ様が参加なされて、上手く行けば伯爵位を授けられると耳に致しました。

ヘルミーネ様はそれを聞き、陛下に直接お願いに行きました、ご自身をエルレイ様の婚約者にして欲しいと。

陛下は最初渋っておりましたが、ヘルミーネ様がエルレイ様はご家族をとても大切にするとお伝えした所、許可して下さいました。

確かにエルレイ様はヘルミーネ様のお部屋を出て行く際に、その様なお言葉を述べていらっしゃいました。

その時はなぜその事で陛下が許可なされたのか分かりませんでしたが、エルレイ様がアイロス王国を攻め滅ぼした事で理解出来ました。

王城で囁かれている噂は、エルレイ様がお一人で魔法が効かないゴーレムを打倒し、更に敵の軍勢へ乗り込み降伏させたとの事でした。

それは貴族の皆様にとって脅威でしかありません、なぜ、ラノフェリア公爵様が男爵家三男に婚約者を送ったのか、そして陛下がヘルミーネ様の婚約を許可したのかが、先のヘルミーネ様のお言葉にあった、ご家族を大切にするとの事が全て物語っております。

その事に気が付いたヘルミーネ様はやはり聡明な方だと改めて思い、私の全力をもって支えて行こうと心に決めました。

陛下はヘルミーネ様を婚約者とするため、エルレイ様に侯爵位を授けられました。

ヘルミーネ様はさらに陛下を説得し、エルレイ様と共に行動する許可までいただきました。

その事は私にとっても嬉しい事でした、生まれてらか王城を出た事がありませんでしたから。

しかし、また住む場所が王城だったのには驚きましたが、そこは全く息苦しくも無く、自由に過ごす事が出来快適でした。

皆様もとても優しい方ばかりで、ルリア様、リリー様、アルティナ様もメイドの私に優しく接してくださいました。

リゼとロゼも優しく、最初はお二人の見分けが出来ず間違えて呼んだことがありましたが、髪飾りで見分けてくださいねと言われてからは間違えない様になりました。

その髪飾りはエルレイ様から贈られた物だそうで、お二人共とても大事にしており羨ましく思いました。

ヘルミーネ様はリリー様より、かねてより希望されていた無詠唱と言う魔法の使い方を教わる事となりました。

当然私もヘルミーネ様に付いて行き訓練の様子を拝見しておりました所、リリー様より私に魔法を教えてくれると言われました。

私は魔法が使えないのでお断りした所、誰にでも訓練すれば使える様になると教えられました。

これにはとても驚きました、今まで十人にに一人位しか魔法使いに成れないと聞かされていましたから、しかもこの事が公になると大変な事が起きてしまいます。

大勢の人がエルレイ様の元に訪れ魔法を教えて欲しいと懇願なさるでしょう。

リリー様には内緒ですと言われました、勿論そんな事口が裂けても言えません。

聞けばリリー様も最初は魔法が使えなかったとの事でした、それはリリー様だけではなくアルティナ様、リゼ、ロゼも使えなかったそうです。

とても信じられません、しかし、リリー様に教えて貰い、私も風と水の魔法が使える様になりました。

最初に魔法を使った後は気絶してしまいましたが、皆最初はそうなる様で安心致しました、そして嬉しさのあまり泣いてしまいました。

そんな私をリリー様は泣き止むまで優しく抱きしめて下さり、そして皆さんから祝福され、ヘルミーネ様もとても喜んでくださいました。

風の魔法が使えた事でヘルミーネ様に羨ましいと言われました、以前私がエルレイ様を見て望んだ飛行魔法がいずれ使える様になるのです。

しかし、リゼは風魔法が使えなかった事が良かったそうです、魔法を習った際に風魔法が使えなくて落ち込んだそうですが、使えない事でエルレイ様に常に抱きかかえられるので、結果的に良かったのだと自慢されました。

それはとても羨ましい事ですね、そして私は使える様になるのでその様な事にはならないでしょう、むしろヘルミーネ様を抱えて飛ぶ役目が来るのではないでしょうか?

それはとても困りました、ヘルミーネ様を抱えて飛ぶ事が嫌なのではなく、それはとても嬉しい事なのですが、私には体力がありません。

今のヘルミーネ様なら問題なく抱え上げる事は可能ですが、それでも長時間となると難しいでしょう。

少し体力を鍛える必要がありそうですね、以前と比べて今は時間がかなりあり体を鍛える事は可能でしょう。

ヘルミーネ様はこの一年で殆ど手が掛からなくなりました、私の仕事と言えば身の回りのお世話と紅茶を入れるくらいしかありません。

それもリゼとロゼの三人で交代でやっているため、何もしない日が出てくるほどです。

掃除、洗濯、食事の用意は他の使用人の仕事で、それを私が取る訳にはいかないのです。

リゼに指導して貰い体力作りと、リリー様に魔法の指導をして頂くのが今の私の仕事になってしまいました、以前では考えられなかった事で、それはとても楽しい事でした。

夕食時、エルレイ様は使用人と共に食べようとおっしゃったのです、私はとても驚きました、貴族様と共に食事を摂るなど今まで聞いた事がありません。

私はヘルミーネ様のお付きのメイドですから、ヘルミーネ様が食事をなさっている際に裏で急いで食べます、味わって食べている余裕などないのです。

ヘルミーネ様より遅く食事を終える事などあってはならない事ですから。

他の使用人も同じです、皆交代で急いで食べて、食事とは生きるための栄養を摂る作業でしかありません。

それを貴族様と同じテーブルで味わって食べられる等とても嬉しい事です、私はヘルミーネ様と共に食べる事がこんなに楽しい事だと知りました。

他の使用人達は最初の頃、緊張で食べたものの味が分からなかった様ですが、回数を重ねて行くうちに皆順番が来るのを楽しみにしている様になりました。

この事があってからかエルレイ様に仕える使用人達の雰囲気が良くなり、皆仲良く仕事を楽しんで行っている様でした。

そんな今までに無い平和な日々を送れる事となり、エルレイ様には感謝しかありませんが、一つだけ不満が御座います。

それは私とヘルミーネ様以外にはエルレイ様は抱き付いておいでですのに、私達にはエルレイ様が寵愛をくださいません。

私は皆さんの様に美しくも可愛くもありませんので仕方が無いのかもしれません、しかしヘルミーネ様はとても可愛らしくそれに婚約者です。

ヘルミーネ様もその事を気にしており、他の皆さんへどうすればいいのか相談しております、私達から抱き付く訳にはいかないのです。

恥ずかしさもありますし、やはりこういうのは男性の方からやって頂かないと意味がありません。

しかしチャンスは訪れました、エルレイ様が襲われた事で警備の強化として、皆で一つの部屋で寝る事となりました。

その際アルティナ様の提案で、エルレイ様と日替わりでご一緒に寝る事となったのです。

それは私も含まれていました、しかし貴族様と寝るのは気が引けますし、とても恥ずかしいのでヘルミーネ様に相談して三人で寝る事となりました。

最初の日は緊張のあまり一睡も出来ませんでした、しかしそれは一晩中まだあどけなさが残る可愛らしいエルレイ様の寝顔を見ていられたのでとても幸せな時間でした。

アルティナ様やリゼがエルレイ様をとても可愛がっているのがよく理解出来ました、私もエルレイ様を抱きしめて思いっ切り可愛がってみたいと思いますが、拒絶されたらと思うと怖くて出来ません。

せめてご一緒に寝る時だけでも可愛い寝顔を拝見できるのですから、今はそれで満足です。

皆で旅行をする事となりました、それもただの旅行ではなく、お隣のルフトル王国まで行くのだと言うのです。

旅ももちろん初めての事ですし、どんな楽しい事が待っているのか、ヘルミーネ様と共にはしゃぎたい気持ちでした。

勿論そのような事は思っていても表に出す事はしません、メイドとしてその様に教育されてきたのですから。

旅は一日、ポメラニア公爵様のせいで遅れた程度で順調に進んでいきます。

馬車の窓から見る風景はとても新鮮で、思わず声に出して喜んでしまいました。

私達が乗る馬車には、ヘルミーネ様、リリー様、アルティナ様、リゼ、ロゼの六人だけでしたから思わず気が緩んでしまったのです。

皆さんはもっと感情を表に出していいと言ってくださいますが、私には性格上難しい事かも知れません。

順調な旅でしたが、国境の街に着いた時事件は起こりました、貴族様達がルフトル王国に攻め入ろうと兵を集結させていたのです。

ルフトル王国には交渉の為に向かうと教えられておりましたから、こちらから攻撃を仕掛けては交渉どころでは無くなってしまします。

ラノフェリア公爵様とエルレイ様が貴族達と交渉に向かいましたが決裂して、私達は街を出て、エルレイ様が砦を作ると言われました。

以前城壁を作られたお話は聞き及んでいたのでエルレイ様ならと思いましたが、家を何もない所から出されて、しかも砦を作るのもあっという間の出来事でした。

皆さんの魔法は見せて頂いておりましたし、領地に戻ってから道を整備したり、畑を作ったりと話には聞いておりましたが実際に見ると驚くばかりです。

その際エルレイ様はヘルミーネ様を連れて作業を見学させ、魔法の勉強を行っておりました。

私はそれを遠くから見守り、ヘルミーネ様はアルティナ様から伝授された、エルレイ様に抱き付いて貰う技を使っておりましたが、残念な事にエルレイ様は頭を撫でるだけでした。

エルレイ様が抱き付く様な気がしたのですが勘違いの様でした。

今後もヘルミーネ様を陰ながら支えて、エルレイ様からの寵愛を受けられるよう努力していきましょう。

エルレイ様が作った家は、とても土で出来ているとは思えないほど丈夫に作られておりました。

それにソファーとベッドの感触はとても気持ちが良く、皆さんは部屋に置いて欲しいとエルレイ様にお願いしておりました。

私もお願いしたかったのですが、メイドですので贅沢は言えません、後でロゼにこっそりお願いしましょう。

夜中に襲撃があったのですが、家の中にいて何が起こっていたのかは分かりませんでした。

雨が突然降って来た事以外は何事も無かったのですから、それはやはりエルレイ様の戦力が桁違いに大きいという事なのでしょう。

街に入るときに見た兵士達の数はとても多いように見えましたから、それを無傷で追い返すエルレイ様に、貴族の皆様が恐怖を感じるのは当然の事でしょう。

しかし実際のエルレイ様はとてもお優しく可愛らしいので、恐怖を覚える事は全くありませんね。

そしてようやく国境を越えルフトル王国へ入る事が出来ました、その際何も問題は起きず皆様も安堵なされました。

しかし、リリー様はこちらを監視している人がいると、少し警戒をなされていましたが、監視しているだけで襲ってくる様子は無かったようでした。

ルフトル王国の街へ着くと、井戸が枯れて水が出ないとの事でした、エルレイ様はヘルミーネ様を連れて井戸の水をどうにか出る様にするご様子。

私には井戸の知識などありません、勿論水を汲む物だと言うのは知っております、王城では他の人が毎日井戸から水を汲み甕に貯めておりますから、私はそれを使うだけでしたから実際に井戸の中を見るのは初めてでした。

エルレイ様とご一緒にいると毎日新鮮で楽しい事ばかりです、どうやらヘルミーネ様に作業を任せるご様子。

ヘルミーネ様も張り切って魔法を使っておりました、やがて井戸から水が湧き出て来て皆で喜び、エルレイ様はヘルミーネ様の頭を撫でてくれました。

そこは出来れば抱き付いて欲しかったのですが、もう少し時間が必要でしょうか・・・。

その後の旅も色々トラブルが続き、エルレイ様が解決してルフトル王国の目的の街テーヌへと到着いたしました。

何とかこの旅の間にヘルミーネ様に抱き付いて頂くよう頑張ってみましょう、そして私もエルレイ様の寵愛を頂けたらと、淡い期待に胸を膨らませるのでした。

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