22 深層への招待状
「というわけだったんすよー」
『はあ……普通、下層で手に入れたポーションは貴重なんですけどね』
翌日、依頼の達成とかもろもろの報告をしたついでに宝箱騒動の顛末を伝えたのだが、エリスさんは呆れていた。そんなこと言われてもねぇ?
『そもそもダンジョンと罠は切っても切れない関係ですから当然の結果だと思いますよ』
そもそもなんで今更って顔をされてしまった。安全なルートだけを選んで潜っていた手前危機感が足りなかったわけで返す言葉もない。
『やはりパーティーを組まれた方がいいんじゃありませんか? シーフが一人いるだけでダンジョンの攻略もだいぶ違ってきますから』
「いや……攻略する気はないので」
『何を今更……既に九階層まで潜って戻ってきているFランクなんて石版さんたちぐらいのものですよ』
聞き耳を立てていたらしい冒険者たちの肯定の声が聞こえてくる。
どうも俺たちの行動はダンジョンの攻略と思われているようだ。そんなつもりはさらさらないのだが……。
「ん……?」
なんかカウンターの奥が騒がしいと思ったら職員の一人が慌ててこちらに走って来ると依頼書を叩きつけてきた。なんなの? せっかく俺がエリスさんと楽しくお喋りをしてたのに……。
『深層から配達の依頼が来ました!』
一瞬で周囲からどよめきの声があがる。
『みんなどーかしたのー?』
「どいつもこいつも騒がしいなぁ」
『当然ですよ! 深層からですよ!』
エリスさんまで乗り出してきた。なんかちょっと怖い……。
「大事なんすか?」
深層というと十階層にあたる。そのすぐ上の階層から戻ってきている手前いまいち驚きがない。
『その反応だと……ご存じないんですね?』
「そらまあ……この街に来てまだ四日目ですし」
『は? ああ……そういえばそうでしたね。なんだか随分前からこうしているような錯覚をしてました』
エリスさんは照れ隠しか一つ咳払いして説明をはじめた。
『普通ダンジョンといえば上層と下層、そして深層と区分しています。何故わけているかと言うとそれほどに違いがあるからです』
「つまり……下層と深層は別物ってこと?」
『そのとおりです。適正でいえば上層はFランクからDランク、下層がCランクからAランク、そして深層はSランクオーバーと言われています』
「へぇ……」
『ふーん』
『お二人とも……あまり理解されてませんね?』
してないな正直。そもそもランクによる強さがよくわからない。
『そうですねえ……お二人が倒したキングスライムベビーはCランク相当の強さが必要ですがAランククラスですとあれが雪崩のように襲ってきても勝てます』
「マジかよ……」
『なんでそこで驚いているんですか? ソロで九層まで攻略してるのに?』
「え? いや……その……続けて続けて!」
『ええ……それではあらためてSランククラスがどれほど強いかというと……その戦力はドラゴンと戦えるほどです!』
「――ッ!」
『なんだってー』
一応驚いてみたものの実はさっぱりわからない、アンも空気を読んで驚いてはくれたが台詞は棒だ。あとで教育しておかないとな。ともあれ一軒家みたいなでかぶつスライムが雪崩のように襲ってきたらやばいことぐらいは理解できる。それ以上となるとたしかにすごいのだろう。
『ねーねーみーくん』
「なんだ?」
『プリ●ュアで例えてー?』
「いやそれ余計にわかんねーよ」
でもガ●ダムで例えてもらえれば俺はわかるかな。
「んでその依頼は俺たちへの指名なの?」
『いえ、そういうわけでは……』
なら関係ないな。指名料がつかないなら下層の指名依頼を受けた方が儲かりそうだ。
『まさか……見捨てるんですか?』
「え? なんでそんなとんでもないって顔してんの?」
『このポイントは最深層です……つまりダンジョンの支配者と対決するところまできているんですよ!』
支配者……つまりラスボス間際ということなのだろう。それならまあ興奮する気持ちもわからなくもない。聞き耳を立てていた冒険者たちも歓声をあげはじめたのでよほどのことなのだろう。
『ついにラスボス攻略かよ!』
『おいおい何十年ぶりだ?』
『たしか二十年前に挑んだっきりじゃなかったかのう』
『攻略に至っては百年も昔のことだろ?』
『俺等の時代にダンジョン攻略?』
『すげーぜ!』
なんかすごい盛り上がってる……。
そしてカメラに映る周囲の目も俺たちに期待を寄せているようで居心地が悪い。
「ああ……運び屋なら他にもいるでしょ?」
『下層に潜れる運び屋なんてお二人以外にいませんよ!』
「ええ、でも……」
『それに時間がありません。普通なら深層から依頼なんてくるはずないんですから!』
『ええーなんでー?』
「よせ! その質問はフラグ――」
『Sクラスの冒険者でも深層まで潜るのに最低でも三日は掛かるはずです。つまりこのギルドで優秀な冒険者を集めて潜ったとしても三日以上は掛かるんです!』
危険な深層でピンチのときに三日も待てるかということだ。一応依頼してきたぐらいだから三日ぐらいは保つと思うのだが、時間をかけて疲弊していけば攻略もままならなくなるということなのだろう。つまり……。
『この依頼を成し遂げることができるのは下層まで日帰りで戻ってこられる非常識なアンさんたちだけなんですよ!』
言われてしまった。もうまわりもわいちゃってアンコールだ。もう断れる雰囲気なんてこれっぽちもなかった。
かくして俺たちの深層強行ツアーが決定した。
『みーくん、これはもうやるっきゃないよね!』
「余計なこと考えなくていいからな。お前なんて近づいただけで殺されるぞ?」
ダンジョンのラスボスとか絶対に関わりたくない案件だったのにどうしよー……。




