18 ボロ儲け
結論からいえば杞憂だった。それどころか……。
『おい、俺にも売ってくれ!』
『ちょっと並びなさいよ! 私たちが先よ!』
『三倍だ! 相場の三倍出すからワシに売ってくれ!』
冒険者たちが集まっていたダンジョンのエアポケットみたいな部屋、セーフルームと呼ばれる場所で商売をはじめてみたら飛ぶように売れた。もうウハウハだ。
「うはっうはっ」
『みーくん気持ち悪いなー。笑ってないで手伝ってよー』
「無理だし。頑張れアン」
そしてあっという間に売り尽くしてもうないのかとせがまれるぐらいだ。残念閉店でーす。
『もう売り切れかよ……ついてねえぜ』
「悪いな、お客さん」
『いやこっちこそ無理言ってわりいな。それよりアンタら見たところ自分たちの分のポーションまで売っちまって大丈夫なのか?』
「んっ……と、まあ……なんとかなる……かな」
『へっちゃらー』
『たいしたもんだぜ。ソロで潜るだけのことはあるな』
「まあ……な」
目の前の冒険者を含めて何名かは俺たちの存在を知っていた。口コミ恐るべし……。
『しかもその軽装でよく下層まで辿り着けたな。そんなに強いなら運び屋なんてやめてパーティ組んで深層目指した方がいいんじゃねえの?』
「えっと……その……こ、こいつ団体行動苦手だから」
『ん? それはみーくんのことー?』
「お前そーいう目で見てたの!」
軽くショックだ。別に人付き合いが苦手とかコミュ障とかじゃないぞ!
ともかく冒険者たちの話しを聞いたところ、下層から一気にモンスターとの遭遇率があがったうえに捜索範囲が広がったことで、手持ちのアイテムがモリモリ減っていたらしい。そこに来たのが在庫を抱えた運び屋だ。売れないわけながない。
「ちなみにこの下の階層にどれぐらいの冒険者がいるかわかります?」
『おいおいまさか七層まで運ぶつもりか?』
「まあ依頼があれば……」
ていうか金払いのいい困っていらっしゃる冒険者がいれば行くつもりだ。
『そうだなあ……下がれば下がるほど数は減るが……いま深層を目指しているS級冒険者のパーティーがいるらしいから客に困ることはないだろうぜ』
「S級冒険者?」
『なんだ知らねーのか? 王都の方だと有名パーティーらしいぜ。このダンジョンも遂に攻略されるんじゃねえかって噂よ』
どうも深層と呼ばれるダンジョンの最深部を目指している凄腕のパーティーがいるらしい……まあそんなところまで潜るつもりはないので俺たちには関係ないだろう。
それはともかくまだこの下に冒険者がいるとは有り難い。ここの連中ですら相場の倍の値段売ったにも関わらず文句どころか感謝されるほどだった。つまりここより下ならもっとふっかけられる……。
「ふっふっふっ……アン、そろそろ戻るぞ」
『そうだねーいっぱい稼いだしー』
「間違えるな。俺たちは困っていた冒険者の方々にしかたなく手持ちのアイテムを譲っただけだ」
『ものは言いようだねー』
「うるさい」
ともかく仕入れだ。競合相手がいないとはいえうかうかしていられない。稼げるときに稼ぐ。機を見るに敏だ。ふっふっふっ!
そいうわけでアンの尻を叩いて急いで地上に戻らせた。
ダンジョンを出ると露店へと向かう。例の商人はまだ昼前だというのに店の片づけをしていた。
『悪いなあ。今日はもう店じまい――旦那!』
「よう。戻ったぞ」
『戻ったって……っ!』
すっかりに空になった自転車のカゴを見たおっさんが驚きの表情を浮かべる。
『この短時間であの量を売り切っただと……』
「なに驚いてんだよ? そのつもりで送り出したんだろ?」
『え?』
「え?」
『…………』
「お前まさか……」
『いやいやいやいや! もちろん信じてましたよ! 旦那たちならきっとやりきてくるって!』
「ほう……てっきり駄目もとで送り出した俺たちが完売して戻ってきたから驚いてるのかと思ったよ……片づけ手伝おうか?」
『か、勘違いしていでくれよ。片づけじゃなくて開店準備をしてるところさ! 旦那たちが戻ってくることを見越してアイテムの補充に一度戻ってただけですって……』
「へぇ……そうだったのか」
胡散臭いがまあいい。仕入れ先から足がつかないとも限らないのでこいつとは一蓮托生だ。
「じゃあさっそく補充したアイテムをもらおうか?」
『ああ……もちろんだ。だが……すまない旦那……ノーマルポーションの在庫はあまり手に入らなくて……今ここにあるのはハイポーションばかりなんだ』
「ならちょうどいい。ハイポーションをまとめくれ」
『え? ハイポーションなんて下層に潜れるような連中しかほしがらないだろ?』
「ああ、さっき潜った六層でも売れるだろうが俺たちはもっと下に潜るつもりだ」
『はあ? まさか旦那たち六層まで行って戻ってきたのか?』
『そうだよー』
アンの返事を聞いたおっさんがわなわなと震えだした。
「どうした?」
『す、すまない……旦那。俺は正直アンタたちの実力を疑っていた……あわよくば期限の短いポーションをまとめて押しつけることさえできればいいとすら思っていた』
「この野郎……」
『だがそんなこっすい商売はやめだ! 旦那たちと組めばこのダンジョンで豪商にだってなれる!』
わなわな震えていたと思ったら武者震いだったようだ。その顔に興奮の色が伺える。
『旦那……あらためて頼む――いや、頼みます! 俺っちと組んでほしい! そしてこのダンジョンの流通を牛耳ろう!』
「おい、落ち着けって――」
『これが落ち着いていられるかってんだ!』
「バカ野郎声がでかいんだよ! まわりの連中に知られたら妨害されるぞ!」
『――っ!』
「こういうのは水面下で誰にも知られずに進めるんだよ。そんでじょじょにマーケットを浸食して俺たちなしでは冒険者どもが立ち行かなくなるようにするんだ。そこまでいったらあとは他の商人から……買いたたいてやればいい」
『旦那……あんたってお方は……』
おっさんがひざをおり俺たちに頭を下げる。しかし再びあげた顔に貼りついていたのはどぎたない悪人の顔だった。
『恐ろしい……ですが頼もしい。このメリッチ、貴方様の手足となって働かさせて頂きますぞ……ぐふふふ』
「いいだろう……メリッチよ。俺たちの手足としてこき使ってやる。その見返りに巨万の富を与えてやろう……くふふふ」
『実際手足となって走り回るのってーあーしたちじゃない?』
「……水を差すな」
『あとそのスキームってア●ゾンみたいだよねー』
「滅多なこというな! 取り扱ってもらなくなるぞ!」




