12 初めての報酬
無事にサインをもらった俺たちは、勝利の余韻に浸る漆黒の鼠をおいて先にダンジョンを出た。帰還ゲートを通った感想はなんかエレベーターにのったときのようなふわっとした感じなのだそうだ。
『やっと出られたねー』
「ああ、日も暮れてきたしさっさと帰るか」
ダンジョン帰りの冒険者を待ち構えていた商人たちから逃げるようにその場を後にした俺たちはギルドへと向かった。
人通りの減ってきた道を通りすぎてギルドにつく頃には日も沈みかけていた。ギルドの看板にはあかりが灯りまだ営業しているようでホッとする。
自転車を厩舎にあずけて中にはいると昼間よりも活気に満ちていた。みんな依頼を終えて戻ってきたようでその表情は明るい。食事がとれるスペースもあるようで既にグラスを片手に出来上がってる連中もいた。
『お腹減ったなー』
「もう菓子パンはないのか?」
『あれだけだよー。はぁ……もっと買っとけばよかったなー』
買ってなくてよかったよ。この先も菓子パンの添加物で無双なんてされたら俺のストレスがマッハでたまっていったことだろう。
「まあ飯が食いたきゃさっさと報告に行くぞ」
『あいあいさー!』
こういうときだけは返事がいい。ともかく受付へと向かった。
『ただいまー』
『え? あ、お帰りなさい。ああ……やはり先ほどの依頼キャンセルさせますか?』
『依頼完了したよー』
『は?』
惚けているお姉さんにサインの書かれた受領書を渡すと目が点になっていた。なんか間違えたのだろうか?
「あの――」
『はあ?』
急に顔をあげたお姉さんが時計を見る。そういえばこの世界には時計があった。一から二十四まで描かれた数字が一周すれば一日だ。理系ではないのでよくわからないが自転周期が一緒ということなのだろうか?
『はあ!?』
なんだろう。両目を見開いたお姉さんの顔が怖い……。
「どうかしました?」
『まだ三時間もたってないじゃないですか!』
「え、ああ……そうですね」
むしろおつかいに二時間以上も費やした言うべきではなかろうか?
『たった二時間弱で四階層まで降りて戻ってきたってことですか?』
「え、いや……」
『四階層じゃないよー。漆黒の鼠さんたちが五階層に落ちちゃって大変だったんだからー』
『はあ! 五階層?』
『そうそうー。おまけにボスと戦わされるし苦労したよー』
お前は菓子パンを投げただけだろうっと言ってやりたかったがややこしくなりそうなのでやめた。お姉さんの驚く意味がなんとなくわかった。
「えっと……俺たち帰還ゲート通ってきたんで早く戻れたんだと思いますよ」
『いやいやいやいやそれでも早すぎますから! 上位ランクの冒険者でももっとかかりますから! そもそも階層ボスと戦ってこの時間ってのがおかしいんですよ!』
そんなこと言われても困るが……まずったか?
正直あんまり目立ちたくない。失礼だがこんな街、路銀を稼いだらさっさとおさらばしたい――どころかゴールしてさっさとこんな異世界とは縁を切りたいのが本音だ。
なので目立って厄介ごとに巻き込まれて足止めをくらうわけにはいかない。
『――でねー。絶体絶命の鼠さんたちを救うべく一撃必殺の添加物魔法でえいって――』
「お前、俺のキモチをちょっとはくみ取れよな!」
戦士で登録してあるというのに魔法なんて言い出すもんだからお姉さんも困惑だ。そもそも添加物魔法ってなんだよ?
アンのざれごとを弁解しているとなにやらギルド内が急に騒がしくなってきた。ルーキー共が戻ってきたとかなんとか……。嫌な予感しかしないのでさっさと立ち去るとしよう。
「ほら、報酬もらってとっと飯にしようぜ。宿だってまだ決めてないんだし」
『そうだよご飯だよー! それに汗でベタベタだからお風呂入りたーい』
「風呂かぁ……」
飯はともかく風呂ってあるのか? あっても値段がはるパターンだと思う。
『もぅ……みーくんのエッチー』
「うるせー。お前のことなんてこれっぽっちも想像してないから安心しろ」
『もぅ……照れ屋さんだなぁー』
しばきたいが届かないので諦めて無視した。
「お姉さん、この辺りに風呂付きの宿ってありますか?」
『もちろんありますよ。ただ……』
やっぱりお高かった。素泊まりの宿が銀貨一枚なのに風呂がついているだけで十倍になるらしい。まあその手の宿は防犯などもしっかりしている高級な宿にあたるそうなので比べる方がおかしいようだ。
『今回の報酬って銀貨何枚だっけー?』
『七枚ですね』
『じゃあ……お風呂は?』
「無理だな」
『ガーン……』
口に出すほどショックだったようだ。ちなみに安宿では桶にお湯をもらって体をふく程度のサービスしかないそうです。
放心しているアンは放っておいて報酬をもらうと、女性でも比較的安心できそう安宿を紹介してもらう。再び飯の話しで意識を覚醒させたアンとギルドを出た。
だいぶ暗くなってきた。いつの間にか道端で見かけた露店はたたまれ、店舗をもつ店の明かりが看板を照らしている。明るい街並みしかしらずに育った俺たちからするとあまりにも暗い街並みだったが、見ていてどこか懐かしいような落ち着きのある風景だった。
『ちょっとそこいく冒険者のお兄さんがたウチの店に寄っててよー。なんと一時間で銀貨一枚ぽっきり。イイ子揃えてるよ~』
うん……台無しだな。
俺は空気の読めない客引きに心の中でツバを吐きアンを宿屋へと向かわせた。




