11 異世界メシ全否定
なし崩し的に戦闘に参加するはめになった俺たちはリーダーらしい戦士に近づいた。自転車ごと近づいたのでやや驚いていたが勘弁してほしい。
囮の陣だかでスライムの注意は他の三人がひきつけてくれている今がチャンスだ。さっさとサインをもらって立ち去ろう。
『えっとー数と中身の確認を――』
『そんなのいいからポーションを早く!』
せっかちな奴だ。まあ遠目にはわからなかったが防具もボロボロだし、あちらこちら怪我も見られる。見た目よりも結構ダメージを蓄積しているようで手渡したポーションをひっつかむとぐびぐびと飲み干した。続けてもう一本は傷口にふりかける。あれよあれよと傷口が塞がっていく様子に俺とアンは感心した。すごいなこれ。こっちにもってかえれば大儲けできそう。
『助かった。しかし依頼を出してそんなに経っていないと思っていたが……俺たちはいったいどれほどの時間死闘を繰り広げていたんだろうか』
『ねぇねぇーみーくん、まだ二時間ぐらいしかたってないよねー?』
「野暮なつっこみ入れてやるなよ」
ほら、悦に浸っていた少年が恥ずかしそうにしているじゃないか。
『そ、そうだよな。でもほんとになんでこんなに早く――いや、今はそんなことよりモンスターをなんとかする方が先だ。君はソロ……あれ、今の声は? もう一人いなかった?』
『みーくんも一緒だよー』
「どうも」
『――ッ!』
アンがスマホを見せると少年は異様に驚いていた。
『それ……マジックアイテム?』
「まあそんなようなもんだ」
『すごいな……喋る石版なんて初めて見たよ』
「そのリアクションはもういいから……それより今はあのモンスターだろ?」
こんなところでだべっている間に襲われてもかなわない。さっさと諦めさせて撤収させようと俺は考えていた。
『そうだったな。すまない』
「いいよ。それより劣勢に見えたがあのスライムに勝てそうなのか?」
『かなり厳しい。なにせあれはキングスライムベビーと呼ばれる上層の支配者だ』
「名前だけ聞くと強いんだか弱いんだかわかねーモンスターだな」
『強いよ。剣なんかの物理攻撃がほとんど通じないんだ』
よくこの構成で攻めようと思ったな……。まあのっぴきならない状況だったのだろうことには同情するが……。
「魔法なら効くのか?」
『ああ、強力な火魔法あるいは致死系の闇魔法ならダメージが与えられるはずだ』
「もちろん使える奴がいないんだよな?」
『見ての通りさ……』
ほんとよく攻める気になったなぁ……。まあいいか。冷静に現状を再認識させれば撤退にも頷くだろう。帰りの食料は積んであるし引き返すことに問題はないはずだ。
『運び屋の君に頼るのは忍びないが……魔法は使えないか?』
期待の眼差しを向けられるが当然アンは首を振る。
『そうか……では何か武器になりそうな道具はもっていないか?』
「おいおいそんなのあるわけ――」
『ちょっと待ってねー』
「おおおい! 勝手なことすんな!」
鞄をあさりだすアン。あるわけないだろ。時間の無駄だ。しかし依頼人が期待しはじめちゃったのでもう今更とめられない。恥をかくだけだろうなぁ……。
『んとー……これっ! 十徳ナイフ!』
「なんでそんなもん入れてんのかは聞かないけど今は必要ないね」
『じゃあー……ドラムスティック!』
「あえて言わないけど誘ってくれた友達に返した方がいいよ」
『なら……消しゴム』
「それ俺のじゃねーか! 返せよ!」
『えっとーじゃあー……夏休みの宿題!』
「しまえ!」
もうほんと時間の無駄なのでやめさせようとしたら今度は菓子パンを出しやがった。
「おい、メシ食ってる場合じゃ――」
『とーておきの切り札だよー!』
「はぁ?」
『みーくんだって知ってるでしょー……あっちの世界の食べ物がー異世界ではすっごい力を秘めてるってことっ!』
「ねーよ! 常識的に考えて菓子パン食って強くなるわけねーだろ!」
『ふっ……甘いねーみーくん。菓子パンだけに』
「ドヤ顔してんじゃねーよ! うまいこと言ってねーからな!」
『勘違いしないでよねー。異世界の人には効くけどあーしたちには効果がないなんて常識だよー』
ダメだな……埒が明かない。もう好きなようにやらせてから諦めさせよう。
「わかったわかった……ならこいつらに食わせるのか?」
なんのことだかさっぱりわからない少年は俺たちのやりとりを見てあたふたしていた。
『ちっちっちー……そうじゃないよー』
「いちいちむかつくな……」
『君たちはいったい何を言い争っているんだ! 状況を考えてくれよ!』
「すまん。こいつに何か考えがあるらしいからやらせてやってくれ」
その後に撤退を進言しよう。
『わかった……それでどうする気だ?』
『囮の人たちをひかせてー』
「はぁ?」
『わ、わかった』
「ちょ――ッ!」
待ってという俺の意見は届かずに囮の陣は解散した。
「どういうつもりだアン?」
『どうもーこうもー今度はこっちのターンだよー!』
豪快に袋を破ると異様にカロリーの高そうな菓子パンを取り出す。すると何を思ったのか自転車のベルを鳴らし始めた。
「おいバカやめろ! スライムがこっちに気づくだろーが!」
案の定、動きを止めていたスライムがこちらに向かって動き出した。
「何がしたいんだよお前は!」
『ふっ……まんまと誘き寄せられたねー』
もはや言葉もでない。迫りくるスライムの巨体に圧倒されているとアンが大きく振りかぶった。
『とりゃー!』
「おおおい! なんで敵に菓子パン投げてんだよ!」
間違ってパワーアップなんてしたら逃げることすら危うくなる。そんなこと俺よりもアンの方がわかっているはずなのにこの行動はいったい? まさか恐怖で狂ったのか? ありそうで俺の気が狂いそう……。
菓子パンは見事にスライムの表面に当たりズブズブと吸い込まれていく。そうだよね。そうなるよね。もう終わりだ……。
このままスライムに跳ねられると思った矢先……何故だかスライムの動きが止まった。
「え? なに? なんなのこれ?」
スライムがまるで悶えているように体の形をかえていくとピーっという悲鳴をあげてぐったりとその場に崩れた。マジでなんなのこれ?
何かの間違いかと思ってしばらく様子を見ていたのだが、スライムは一向に起き上がらないので少年たちに確認してもらったら本当に絶命していた……。
「どういことか説明してくれる?」
『ふっふーん。思った通りだねー』
「何がだよ?」
『あたしねー前から不思議に思ってたんだー』
「はぁ? もったいぶんなよ」
『つまりねー、あっちの世界の食べ物でパワーアップだけするのはおかしいんじゃないかなーって思ったのー』
「認めたくないが栄養が豊富とかそういう理由なんだろ?」
『だから余計だよー。だってこれ見てー』
アンが菓子パンの袋を見せつけてくる。
「袋がどうかしたのか?」
『この成分表を見て何も感じなーい?』
「はぁ? よくわからん添加物が記載されてるだけだろ……」
『そーっ! こんなにも体に悪そうな添加物を含んでるのにパワーアップだけするなんておかしいでしょー?』
「……」
『中には発ガン性物質なんかが――』
「おいバカ! いろんな人を敵にまわす発言やめろ!」
『だって――』
「だってもヘチマもあるか! ただでさえ最近はそういう食べ物系が流行ってんだぞ!」
『ええ……なら尚更――』
「いいから黙ってろ! みんなそういうことに目を瞑って楽しんでんだよ!」
不謹慎なバカを黙らせるのに苦労したが、勝利に沸き立つ少年たちに囲まれてどうにかうやむやにした。こいつの言動にはもっと注意を払おうと硬く決意した俺だった。




