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★思考する幸せ

 あぁ、また今日も。


 今日もまた一日が消耗されていく、多くの命が生まれ、そして去っていく。そんな一日という時間が私から剥がれて去っていく。

  一日が過ぎゆくたびに、個の存在は世界から薄まっていく、薄く薄く味気ない色に変わって、それらはやがて透明になって消えてなくなる。それに抗い色をつけることこそが生きるということ。過ぎ行く時の流れの中で、彩りを与えるのが生命という正しいカタチ。


 私は、それができない。


 ただ薄まって消えていく、明日も未来も曖昧なちっぽけなカタチ、何を喜び、何を尊ぶのか。何を学び、何を蔑み、何を捨てて、何を求めるのか。終わらない自問自答、続かない自己陶酔?


 ああ、また今日も死ねないのか、死ねなかったのか。まだ生きているのか。この命は誰の何のため、どこの世のために輝いているのだろう。


『……ならば、その身体……、我に委ねよ』


 ……誰? 私の心の中に入ってこないで、私の何物にも変えがたい思考の一時を邪魔しないで。

『なに、悪いようにはせん……、棄てたい命在れば、拾いたい命もあるものよ……、我にその命を預けよ』

 分からない、あなたが誰なのか。知らない、その声は何なのか。

 でも、だけどだからこそ、私はその提案に乗ってあげる。だってきっとあなたは私に色をくれるのだもの。赤、黒、金、なんでもいいの。一瞬だけでも、この世界に私を塗りたくってやれるのならば。流れ続いていく歴史に、私という泥をつけてやれるのなら。


『然り。何、少々借りるだけよ。必要無くなった際は返してやろう』

 ああ……、入ってくる、入ってくる。融けてゆく、満たされて、渇いて混ざって意識がぼんやりしていく……。眠るように、溺れるように、苦しくて、優しくて、私、は、わた……わ、わ……。


……。



「よし……、まずはコレで肉体を得た。どうにかして元の世界へ帰らないと……」


 目指すべき場所はただ一つ、こちらの世界へ来てるであろう女神の元だ。不服だが、今はヤツを頼るのが最も利口だろう。

 とにかく何をするにもマナが足りぬ、まずは得たこの身を活かし、この世界の住人に上手く溶け込まなくてはな。

「おや、このアイテムは……」

 クク、知っているぞ。スマホというヤツであろう? あらゆる叡智を宿す万能の魔術触媒、これさえあれば、知識を得るなどいとも容易い。


 ねえ、待って。私アナタに命を預けたわ、身体も貸したわ、言われた通りにしたのに、私ちゃんと消えてないわ。アナタは何なの? 私恥ずかしいわ、それらしい妄言を垂れて消える可哀想なヒロインじゃないのかしら? アナタは私の体で何をするつもりなの? ダメよ、えっちなことは。そういうのはだめ。私は綺麗でいたいの、体だけはせめて綺麗でいたいのよ。この恥ずかしさはえっちなそれと変わらないあれよ。知らないのでしょうアナタは、ねえ、ほら胸に手を当ててご覧なさい? 今はアナタが私なのでしょう、ほら熱い、胸も頰もあつくって段々と湿ってきて……、


 ああ、煩い煩い。わかったわかった。意外と口が達者よな小娘。先も言うた、悪いようにはせん。

 しかし小娘よ、よいか? 引きこもっていては何も始まらぬ。動かざるとも語るべし、働かざるとも戦うべし、言を述べるよりも先に行動に起こすべし、だ。

 なあに、我に身を委ねよ。不安など不要ず。そうさな……、人は見た目からだ。印象とは五感に多く左右され、特に視覚というのは最重要。虚栄を築き一瞬でも畏怖させることができれば、中身など後でどうにか合わせれば良い。

 そのためにも、スマホで得た知識とキサマの身体をフルに活用する、故に我が示した道を辿ってみせるがいい。


 はぁ、わかった。多分アナタ私のニガテなタイプだわ。分かり合えない者には黙るしかない、こうべを垂れて咽び泣き、泣き寝入りの夜に沈んで涙で喉を潤すのだわ。


 うむ、それでよい。無知とは罪であるが、同時に罪とは悔い改めれば優れた糧となる。分かり合う必要はない、口を慎め。思うだけならばそこには制約のない自由があるぞ。

 さて、ではこの身は相応しいJKとやらになって、女神への接触を試みるとするか……。あー、あー。マジぃ〜?(裏声)


 あ、わかったのだわ、アナタひょっとしてヤバい奴ね? 相当にイカれた野郎なのだわ。


 口を慎めと言ったばかりである。控えよ小娘。


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