7
コンコン、とノックされる音が聞こえた。
いつの間にか寝ていたらしい。…まぶしい。
窓からは太陽の光がさしこみ、部屋中を照らしている。
「お嬢様、おはようございます!」
いつも通り返事を待たずに部屋に入ってきたのは、メイドのニレイ。薄茶色の髪に、青い瞳。私より3つ上の、18歳。可愛らしい容姿によく合う高い声で、今日も元気な挨拶が聞こえる。
「…おはよう、ニレイ」
さすがにその元気な挨拶を返せなくて、苦笑いしながら挨拶する。
ニレイに向き合うと、ニレイは大きく目を見開いた。
「…!お嬢様!その目は、どうされたんですか!?」
「目?」
一瞬何のことか分からなかったが、納得した。そうだった、あれだけ泣けば目も腫れるに決まっている。
すぐにホットタオルを持ってきます、と出て言ったニレイを見送り、ゆっくりと起き上がった。
一晩経てば、涙はおさまる。あれだけ考えていたのに、意外と寝れるものだ。
今日と明日は学園は休みであるが、今夜は夜会のはずだ。それも、同じ学年の皆がデピュタントとして夜会デビューする王家主催の夜会。これが今夜あるからこそ、ユフィーは断罪を昨日にしたんだろうけれども。
社交界追放を免れた私も、もちろん参加しなければならない。普通夜会はエスコート役がいるが、デピュタントの今夜だけはいらない。エスコートは婚約者だから、普通の夜会だとユーレンと行くことになっていたところだった。
ニレイが持って来てくれたホットタオルを瞼にのせて、今日が始まってしまったと感じる。
今日からは、シナリオがない日々だ。私の知らない毎日が始まる。
王太子との婚約破棄は、きっとすぐに広まるだろう。社交界を追放されなかった私は、噂の中心にいながら侯爵家令嬢としてこれから立っていかなければならない。
どうにか生き残るルートには入れたけれど、やっぱり悪役令嬢にはハッピーエンドは用意されていないらしい。
目下はとりあえず、ユーレンに謝ること。婚約破棄された私が簡単に近付けるとは思っていないけれど、何年かかってもユーレンに前世のことも話していこう。
先は長く、険しい。それでも、私はユーレンにもう一度好きだと伝えたい。
清々しい太陽の光を浴びて、立ち上がった。
これにて完結です。
ミリアリアの物語は一度終わりますが、要望あればユーレンサイドやユフィーサイド、ミリアリアの続編など書いていきたいと思います。
ここまで読んでくださった方々、本気にありがとうございました!




