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第八十五話 ラダナイヤ会戦――襲撃(レイド)

「敵、斉射来ます!」


 その斉射の閃光はこちらからでも窺えた。直後に艦を大きく揺さぶる幾度目かの衝撃がまた走る。


 がつん、と一段大きな衝撃。これは装甲板を確実に貫いた音だ。


 そう思った次の瞬間には、艦内中に反響したのではないかという轟音と共に、どこかの主装甲が弾け飛ぶ。


 被害状況知らせ、そんな言葉を言う間もなく、それは耳に入ってくる。


「右舷中央主装甲破られました! 前部ボイラー室と主装甲板前後の右舷砲郭と各居室、被害甚大!」


 戦意で満ちていた艦橋に、戸惑いと諦めが冷たい隙間風のように浸透し、その場を支配しようとする。


 ついに破られたか。


 主砲口径も装甲も格上の艦相手にこうなるまでよく持ち堪えたものだが、流石に『スカアハ』の悪運も尽きはじめたらしい。


 だが、艦を任された者が狼狽えては先程の「了解ヒー・ホウ」を無に帰す。


 俺たちは俺たちに出来る事をまずは行うだけだ。


「主砲! 残存副砲は敵一番艦を狙い続けろ! 奴も無傷じゃない!」


「この距離ならば本艦の主砲でも向こうの主要防御部バイタルパートを打ち抜けるかも知れませんよ、副長」


 犬人の砲術士官が俺にそう軽口を叩いてくる。


「どちらにせよ打たなけりゃ始まらん。打て!」


「まだ射撃盤も測距儀も主砲塔も生きてますからね。打たせて貰いますよ」


 再び主砲斉射に移っている砲術班に答えるためにも、艦を安定させねば。


「右舷竜血機関パドルを傾斜、安定姿勢を取らせろ」


了解アイ・アイ


 流石に「了解ヒー・ホゥ」とは言ってくれなかったが、その命令は機関室に伝わり、レッチュ率いる機関員は艦の出力と姿勢を細かく安定させてくれていた。


「主砲斉射、第一九射!」


 もう耳が慣れきってきた断続的な轟音と閃光が、再び艦を揺らす。


 発射炎が晴れた後、『ヴァールハイト』の艦体に大きな破孔が空いているのを俺は目にした。


 行き脚が崩れてきている。


「……これ以上戦闘を続行すれば、向こうの帰還も危うくなるでしょう」


 アルカがぽつりと呟く。


 そう、数的不利の上に不可視技術のせいで哨戒網に艦を割き、寡兵で迎え撃つ関係上傷つくしかなかったが、こちらは本土で迎撃していると言うアドバンテージを有している。


 向こうは同じく寡兵で姿を消す技術を有しているが、指揮官が片道切符と決めない限り帰投しなければならない。


 そして彼らは攻撃を受けすぎている。


「マーカス=ディレン一佐が聡く自身の戦隊の価値をわかっているか、或いは忠に厚く皇帝の予言を果たすためにもラダナイヤに一矢報いるか――それで変わってくるでしょう」


 ジャスパーの言葉に、俺は賛同するように首を振る。


 もはやディレンに残された道は撤退か、攻撃の末の沈没か。


 向こうもこちらもこれ以上時間は残されていない。ラダナイヤ市街外縁まであと一九パーム、もはや払暁戦は終わり、地平線は夜明けの光に満ちている。


 此方は『スカアハ』と第十巡洋艦戦隊の二隻が中破状態。今すぐにでも戦線離脱し応急修理を急がせた方が良いくらいだ。


 だが、ラダナイヤ防衛艦隊と第三重戦艦戦隊が無傷でラダナイヤ城壁に沿って陣を構えている。


 彼方は『ヴァールハイト』と『アウサーヴェールト』が残されたのみ。


 どちらも致命傷こそ負ってはいないが、ラダナイヤ市街に長々と居座って攻撃でもしていれば簡単に撃沈されるだろう。


 もし『ヴァールハイト』らが盾役であり、さらに第一波の爆撃艀も囮で別の方向から第二波の爆撃艀が来るならば――そうも考えたが、聴音網に引っ掛からないなどあり得ない。


『ヴァールハイト』と『アウサーヴェールト』がゆっくりと砲門の先端を『スカアハ』からラダナイヤ市街に向ける。


「まずい! 打たせるな!」


 きっと今『ヴァールハイト』らはラダナイヤの市街地が主砲射程ギリギリにある。


 有効射程外なので命中率は下がるが、相手は市街のどこかを破壊できればそれでいいのだろう。


 狙いも計算も無く、最大仰角・最大装薬で射撃し、広がったラダナイヤ市街地のどこかに砲弾を落とすつもりだ。


「主砲! あの二隻の砲撃能力を奪え!」


 無駄だと思いながらも俺はそう叫ぶ。


 あの艦の砲撃能力を奪うならば水平安定儀である竜血パドルを破壊し、砲撃不能にするしかないが、竜血パドルは強い浮遊力場と安定力場に守られている。


 バチカル級ほどの重戦艦のパドル力場を貫く程の威力は、『スカアハ』の砲撃力では限界まで接近してやっとと言ったところだ。


「副長!『スカアハ』は敵一番艦と半パームの距離まで接近するわ!」


 フィチの凜とした声が、朝焼けの滲む艦橋内に谺する。


 その言葉に多くの者が驚嘆半分、興奮半分で彼女の方を向いた。


「言ったでしょう、大物狩りと。大物狩りの最後はいつも接近戦よ」


 それは妖精族の竜猟の話だろう。と、思ってしまうが、だが俺の口はフィチの命に応えて「主砲斉射待て! 面舵一杯! 右舷機関そのまま安定、左舷全機関全速前進!」と号令を飛ばす。


「『サンフラワー』『ブロッサム』には敵二番艦の個別襲撃を指示! ラダナイヤに一発でも多く砲弾を落とさせないために、接近戦で阻止する!」


 俺たちの無茶な要求を兵たちは興奮混じりに復唱し、各所にそのいかれた要求を伝えてゆく。


 ちん、ちん、ちん、と次々テレグラフの受信機が鳴り、全速の位置に針が行く。


 舳先の向こうを航行する『サンフラワー』と『ブロッサム』は高度と速度を上げ、『スカアハ』から離れてゆく。


 咆哮する各蒸気エンジンと竜血機関の不協混じりの響きが、『スカアハ』そのものの勇壮な歌声のようにも聞こえた。


 アウストムネシアによって建造された戦乙女ワルキューレは、今や妖精王女の装いで、妖精族の戦いの歌を奏でているのだ。


 窓外でぐんぐん近づいて大きくなる『ヴァールハイト』の艦体。その白い艦体に書かれた文字がもう双眼鏡無しでも見える。


 まるで昔の艦隊戦だ。

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