イフリート召喚
街の中で戦っている人達にはほぼ増幅の魔法を掛けられた。さすがにイルナも疲労を隠せず、キルスティに問いかける。
「キルスティ、エーテル持ってる?」
「あるよ。はい、どうぞ」
「ありがとう」
渡されたエーテルを飲み干し、イルナはふうっと息を吐いた。周囲を見渡して見るが、さっきよりも戦況は良くなっている。その時ふとウィクトルの事を思いだし、イルナは急激に心配になった。
「キルスティ。私、ウィル様の手助けに行きたいわ」
「ウィルの?王都の外だよね。今城門は閉められてるし、行くなら空からじゃないと行けないよ?」
「そう…だよね。どうにかならないかな…」
うーんと考え込むイルナの腕にキラリと光るブレスレットが目に入る。イフリートから貰ったブレスレットだ。
「イフリート様にウィル様の事を頼んでみようかしら」
「いいんじゃない?いつでも力を貸すっていってたし、ヴェレス様と違って戦いに慣れてると思うよ」
「ヴェレス様は戦えないの?」
「戦えないと言うより、戦いをする存在じゃないからねぇ」
豊穣の精霊なのだから、戦うよりも作物の成長を促す力を持っている精霊だ。戦っている所を見た事がないと言う方が正しいだろう。
「とりあえず呼んでみたら?」
「そんな簡単に…」
サラッと言ってのけるキルスティにイルナは呆れる。が、今はそんな悠長な事を言ってる場合でもなく、イルナも腹を括る事にした。
とは言ってもどうやって呼べばいいのだろうか。何か決まった文言はあるのかと悩んでいると、キルスティは不思議そうにイルナを見る。
「呼ばないの?」
「呼びたいけど、どうやって呼べばいいのかなって」
「普通に名前を呼んで『出てきて~』でいいんじゃない?私はヴェレス様と会う時はいつもそうだし」
「…やってみる」
軽い感じのキルスティに苦笑する。確かに難しく考えすぎなのかもしれない。とりあえずこの場でイフリートが現れると、戦っている人達が驚いてしまうだろう。という事で場所をちょっと変える事にし、人気の少ない屋根の上まで移動した。ついでに姿隠しの魔法も解除する。
左腕にあるブレスレットの赤い石に向かい、イルナはイフリートを呼んでみた。
「火の精霊王イフリート様、私の声が聞こえるのなら、そのお姿をお見せください」
「イルナ、固い」
「い、いいのっ」
キルスティにダメだしされてちょっと慌てる。が、次の瞬間石が光り、炎と共にイフリートが目の前に現れた。
『イルナよ、何用だ?』
「イフリート様!」
一週間ぶりくらいのイフリートの姿は、最後に見た魔獣の姿だ。その背にはコウモリのような翼があり、頭には羊のような角が生えている。
「イフリート様にお願いがあるのですが、聞いていただけますか?」
『うむ、申してみよ』
「この王都の外に魔物の軍勢が攻めて来ているのですが、応戦している人達の手助けがしたいんです。でも、外に出るには空を飛ばないと行けないので…」
自分の代わりに外に行って助けてほしいと言葉を続けようと思ったが、それが途中で遮られる。
『よかろう。ではイルナ、こちらへ』
「え」
何故か手招きをされ、キョトンとする。とりあえず言われた通りにイフリートに近づくと、そのまま片手でひょいっと持ち上げられ、イフリートの左肩の上に座らされた。
「え、ええええ!?イ、イフリート様!?」
『エルフの少女よ、お主も来るか?』
「うーん、遠慮しとく。イルナ!頑張ってね~!」
「え、キルスティ!?ちょっ…」
『では行くぞ。しっかり私に掴まっていろ』
「え!?わ、えええええ!!!!」
驚く間もなく飛び上がり、イフリートは片手でイルナを押さえている。イルナも掴まる所がないので、イフリートの首に手を回すが、何分大きさが大きさだ。腕なんて回らない。大木にしがみつくような形でイルナはイフリートと空を飛んだ。
『心配せんでも落とさぬ。それよりも、飛竜に乗った人間達とオークの軍勢が戦っているな。ワイバーンもいるようだ』
「…!それです、イフリート様!あの、近くまで行けますか!?」
『当然だ』
軽く頷きイフリートは交戦している場所まで移動する。突然現れた巨体の魔獣に驚いた竜騎兵達は、慌ててイフリートから距離を取った。
その中にウィクトルの姿が見え、イルナが思わず叫ぶ。
「ウィル様!!!!」
「え、イ、イルナ!?」
バサッと羽音を立ててイフリートがウィクトルに近付くが、飛竜が驚く事を懸念したイルナはイフリートに止まるようお願いした。
「イフリート様、この距離で止まってください。あまり近付くと飛竜が怯えるかもしれないので」
『わかった』
一定の距離まで近づき、そのまま空に浮かんだままイフリートが止まる。それを信じられないような顔でウィクトルが眺めていた。
「イルナ…その、何故…」
「ウィル様。この方は火の精霊王イフリート様です。敵ではありませんので大丈夫です」
「…ガイウス様が仰っていた火の精霊か…。本当に契約したんだな」
「成り行きですけど」
苦笑しながら答えるが、ウィクトルの表情は複雑そうだ。けれど今はそんな事に構っている暇はない。イルナは表情を引き締め、ウィクトルに進言した。
「すみません、でしゃばって申し訳ないです。でも、ウィル様に協力させてください」
「…君は本当に行動が読めないな。ま、そんな所も魅力の一つだが」
「え、ちょっ…ウィル様!何を…」
急にそんな事を言われてイルナが顔を赤くする。するとその時、ウィクトル達が戦っている方向から一匹のワイバーンが近付いてきた。
「お前!何者だ!?」
「えっ」
ひゅんっと何かが横切るが、それをイフリートが難なく避ける。驚いてワイバーンを見ると、背に人が乗っていた。
「そのような魔獣を従えるなど、只者ではないな!?」
「え…」
「待て、ヴァルデマー。アレは魔獣ではない。あれは精霊イフリートだ」
「何っ!?本当か、ギジェルモ!」
同じく別のワイバーンに乗って近付いて来た人物を見てイルナが驚く。その容姿は、いつかキルスティから聞いていた、ドラウ族の特徴と一致したからだ。
「貴方…ドラウ族ね…。じゃあ、貴方がエルフの薬師達を眠らせた張本人?」
イルナが呟くと、ギジェルモがピクリと耳を動かす。そしてゆっくりとイルナに視線を向け、面白いモノを見つけたようにニヤリと笑みを浮かべた。それを見逃さなかったウィクトルが、竜騎兵達に指示を出す。
「指揮者だ!攻撃対象をワイバーンに変更しろ!!」
「チッ、邪魔を…」
ウィクトルの指示に聖竜の守護者達は一斉にヴァルデマー達を標的にする。オーク軍の指示を出している者を討てば後は容易い。ウィクトルはイルナに向かって声を上げた。
「イルナ!君の申し出は嬉しいが、ここは戦場だ!慣れない者には危険しかない!目を付けられる前に逃げるんだ!」
「ウィル様…」
『ならば私が力を示そう』
「え?」
イフリートがウィクトルの言葉を聞いて、イルナの代わりに返答する。そしてそれを疑問に思う間もなくイフリートはイルナを肩に乗せたまま、上空へと飛び上がった。
「わっ」
『イルナよ。オーク軍を殲滅してやろう。だが、あの数だと少し私の力も足りぬ。お前の力を貸せ』
「え?」
『私の力をお前の力で増大させる事ができるであろう?』
「…!わ、わかりました!増大ですね!」
しっかりと頷くとイフリートも満足そうに口許を歪める。どうやら笑っているようだが、魔獣の姿だといまいち分かりにくい。
とにかく、イフリートの力を増大させる為に、イルナは魔法を放った。
『増大せよ!』
『煉獄の業火!』
増幅ではなく増大の魔法をイフリートに掛ける。イフリートは同時に炎の魔法をオークの軍勢に放った。
二つの魔法の効果で威力が増したイフリートの魔法は、炎の渦となってオーク軍を覆い尽くす。次々にオーク達が断末魔を上げながら、息絶えて行った。
「バカな…!」
「イフリートの力がここまでとは…」
ヴァルデマーが絶句する中、ギジェルモが驚きの声を上げる。300程いたオーク達は、その半数以上が今の魔法で使い物にならなくなっていた。
「お前達の相手はこっちだ!」
「クッ、小癪な!」
ウィクトル達の攻撃をヴァルデマーが慌てて回避し、魔法を放とうと杖をかざす。集まる魔力の大きさにイフリートが気付き、イルナに忠告する。
『あの魔力、只者ではないぞ。あのまま魔法を放たれては、あの場にいる人間達が危ない』
「え!?」
『助けるか?』
「是非お願いします!」
即答で答えるとイフリートが頷く。勢い良く下降されてめちゃくちゃ気持ち悪くなるが、そうも言ってられない。イフリートがファイアボールをヴァルデマーに向かって投げると、ヴァルデマーの気が一瞬削がれた。
『今だ、イルナ。奴の邪魔をしろ』
「じゃ、邪魔!?えっと、えっと…!」
『何でもよい。あの魔法の威力が削げれば、後は人間達が何とかするだろう』
「威力を…」
確か、あの本にそんな内容が書かれていた。威力を削ぐというよりも、威力をどうするのだったか。必死に思いだそうとすると、ヴァルデマーの怒りが混じった呟きが聞こえてくる。
「くそっ!そんなふざけた魔法で邪魔をするなイフリート!お前達全員私の魔法で切り裂いてやる!『竜巻よ、切り裂け!』」
「ダメ!!!!『半減せよ!!!!』」
唱えると同時にヴァルデマーの杖からとてつもない大きさの竜巻が発生する。そしてウィクトル達竜騎兵めがけて勢い良く放ったが、それを遮るようにイルナが魔法を放った。
まだまだ戦闘は続きます…
恋愛小説どこ行った( ; ゜Д゜)




