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こっそり支援は続きます

 走っていく中、途中で出会う人達にイルナはルーメン家へ避難するように言いながら移動していた。他の貴族の邸は固く門が閉じられ、助けを求める民衆の声を無視しているのが見られたからだ。



「早く、この向こうのルーメン侯爵家へ避難してください!」



 そう言いながら移動していると、ようやく戦闘現場にたどり着く。オークは聞いた通り武装していて、騎士団と剣で戦っている。その光景が異様で、思わず身震いしてしまった。



「イルナ、この家の屋根に登るよ」

「え、どうやって」

「この梯子で。それから魔法で姿を隠すから」

「わ、わかった」



 キルスティに続き、イルナは梯子を登る。ちょっと怖かったが今はそんな時ではない。屋根の上に上がるとさっきよりも戦況がよく見えた。

 オーク軍はその体格からやはり力が強い。そして統率された動きで対応してくるので、騎士団も苦戦している。魔術師団も必死にサポートしているが、どうやら少々分が悪いようにも見えた。



己の姿を隠せ(スペーシスチェラレ)!』



 キルスティが呪文を唱える。相変わらず不完全らしく、二人の姿が薄く透けるくらいに変化した。



「このくらいで大丈夫でしょ。近くに来ないと見えないし、透けてるから幽霊だと思われるかもね」

「それはそれで面白いけど…。で、これからどうするの?」

「えっとね、この屋根を伝ってもうちょっと近くまで移動して、それからイルナは騎士団の人達と魔術師団の人達にこっそり増幅の魔法を掛ける。で、逃げる」

「なるほど」



 実にシンプルな作戦だ。街の屋根は殆ど繋がるように連なっているので、渡っていくのはそれほど難しくなさそうだ。

 イルナは早速キルスティと二人で屋根を必死に渡っていく。途中転びそうになりながらも、危なげなく近くまで移動できた。



「この辺でいいんじゃない?」

「わかった」



 ふうーっと大きく息を吐く。正直これだけの人数に増幅術をかけた事がないので、ちょっと緊張していた。



「イルナ、イメージが大事だよ。覚えてる?」

「もちろん。キルスティに教わった事はちゃんと頭に入れてるから」

「うん、じゃあ大丈夫!」



 イルナの言葉にキルスティも嬉しそうに頷く。それを見てイルナも余計に失敗できないと思い、気合いを入れ直した。

 スッと手を前方に向ける。騎士団達を目印にする為に、イルナは呪文を唱えた。



魔法印(イン・カタラータ)



 指先から沢山の光が飛んでいき、イルナが騎士団達に印を付けていく。間違ってもオーク達に増幅術がかからないように、まずは人間に目印を付けることにしたのだ。

 ただ、印をつけるのも一度に10人が限度だ。とりあえず近くの10人に印を付けると、今度は増幅の魔法を唱えた。



増幅せよ(アンピリフィカティオ)!』



 ブワッと一瞬騎士団の兵士達の体が発光する。自分達の体が光ったのに驚いた兵士達は、一瞬戸惑った。



「な、なんだ!?」

「お、お前もか!?」

「…?お、治まった…?」

「バカッ!余所見すんな!!」



 一瞬ラルスの声が聞こえ、イルナが下を見る。どうやらラルスには増幅はかかっていないらしく、魔法を掛けられた兵士達に渇を入れていた。慌てて増幅された兵士達はオークと応戦する。が、自分達の体の異変にすぐに気付き、驚きながらも戦っていた。



「な、何だ…!?体が、力が…!」

「あ、ああ、これなら…!!」



 勢いを増す兵士達を見てラルスも驚く。急に動きがよくなった事に疑問を感じたが、今はそれどころではない。仲間の動きが良くなる方がこちらに都合がいいのだから、気にしている場合ではないだろう。

 そう思った矢先に、今度は自分の体が発光する。



「なっ…!?」



 驚いている間もなく、身体中から力が溢れるような感覚に、もしかしてとラルスは周囲を見渡した。



(まさか…姉さん!)



 これは多分、間違いなく姉の増幅術だ。瞬く間に周囲の仲間達の動きが良くなってくるのを見て、ラルスは確信した。



(あの人はぁ!自分が狙われてるってわかってんのか!?)



 込み上げる怒りと同時に、それよりも目の前の敵を殲滅しないといけない事とでラルスはモヤモヤするが、どうせ怒りをぶつけるならと、目の前のオークを睨み付ける。



「お前達には悪いが、今僕は機嫌が悪い。優しくしてやれないから覚悟しろ!」

『フン、小僧ガ、生意気ナ口ヲキキヤガッテ』

「…!?お、お前言葉を…!」

『我ラ魔王様ノオ陰ダ!』



 喋るオークに驚愕しそうになるが、ラルスは気を取り直す。そして姉によって増幅された力で、目の前の敵に向かって行った。





「ラルス、頑張って!」

「イルナ、騎士団達が全員終わったら、次は魔術師達だよ!」

「わ、わかってる!」



 弟が戦っているのをはじめて見るイルナは、どうも気になってしまっているようで、そっちをチラチラと見ている。そんなイルナを仕方ないなと思いつつ、キルスティがイルナの目の前で両手をパンッと叩いて見せた。



「弟を助けるのなら、魔術師達の力を増幅しよう。ね?」

「そ、そうね…」

「それに魔術師団の中にイルナのパパもいるでしょう?」

「あ、そうだ…」



 勢い良く振り返ると、確かに魔術師団の中心に父であるロドルフの姿が見える。それを見てイルナもようやく気持ちを切り替えたのか、今度は魔術師達に魔法印を付けた。



魔法印(イン・カタラータ)!』



 父親を筆頭に、周囲10人に魔法印を付ける。するとさすがは魔術師長であるロドルフだけは、妙な魔力に気付いたらしい。



「な、何だ?」

「どうかしましたか、団長?」

「…体に違和感が…」



 周囲を怪しみ出すロドルフを見て、イルナは慌てて増幅術をかける。



増幅せよ(アンピリフィカティオ)!』



 その瞬間、ロドルフ達の体が淡く光り、すぐにすうっと消えていった。すると今度は己の魔力が増大するのが感じられ、ロドルフは驚いて周囲を探る。他の魔術師達も自分の異変に気付いたらしく、驚きを隠せない様子だった。



「な、何だ、このあふれでる力は…!」

「だ、団長、これは一体…!」

「疑問はもっともだが今は目の前の軍勢を倒す事だけに集中しろ!」

「は、はい!」



 慌てて魔術師達はオーク軍に向かって攻撃を始める。ロドルフに至っては、完全にイルナの仕業だと確信したせいで、頭が痛いとばかりに額を押さえていた。



「団長、具合が悪いのでしょうか?」

「大丈夫だ、問題ない」



 思わずため息が出そうになり、ぐっと飲み込む。あの娘、帰ったら説教だな。と考えながらも、ロドルフは目の前の戦いに集中するのだった。




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