規格外の姉は健在
転移のオーブを使ってコンラード邸に戻ってきたイルナとラルスは、待機していたアミンを連れてイルナの家に向かった。そしてそのまま工房へ行き、保管庫の中からエーテルを取り出した。
「はい、エーテル。お母様にもいくつか渡したんだけど、あまり沢山持って行くと目立つからここに保管してるの」
「こんなに…。姉さん、本当にこっちに来てからこんな事ばかりしてたんだね」
「こんな事とは何よ。それに、私にできる事なんてポーション作りくらいじゃないの」
「そう思い込んでるだけでしょ。とりあえず全部はいらないけど…数本貰っていく。必要になったら取りに来ていい?」
「いいわよ。アミン、その時はよろしくね」
「わかりました!」
イルナに言われてアミンがしっかり頷く。どうやら必要に応じてこっそり取りに来るつもりらしい。それならばと、イルナは別の保管庫からもう一種類のポーションを取り出した。
「ラルス、こっちはハイポーションが入ってるから。重症の人がいたら使っていいわよ」
「…もう驚かないから。はぁ、全くこんな物まで……」
「何よ、こんな物とか言う?それなら貴方に特別に良いものをあげるわ」
「嫌な予感しかしないんだけど…」
ニヤリと似合わない笑い方をするイルナに、ラルスはひきつった表情をする。そんなラルスに向かって鞄から取り出した小瓶をずいっと目の前に突きつけた。何となくラルスが仰け反り嫌な顔をする。イルナはフフフと笑いながら小声でそれが何かを告げた。
「スプリームポーションよ。すごいでしょう!」
「え」
「え?」
一瞬何を言われたのか理解できなかったラルスとアミンが同じような声を出す。そして言われた名前を頭の中で反復し、ようやくそれが何かを理解した。
「はあああああ!?スプリームポーションだって!?」
「ラルス、声が大きいわよ」
「ま、まさかこれも姉さんが作ったなんて言わないよね…!?」
「失礼な。作ったわよ」
バカにされてると思ったのか、イルナが唇を尖らせて膨れる。さすがのアミンも驚いていたようで、おずおずと口を開いた。
「イルナ様…、スプリームポーションはそこらの薬師では用意できない代物ですよ。そもそも材料が中々揃わないと聞いたことがありますし、それに材料が揃ってもとても高価で希少なので王族くらいしか手が出せないと…」
「それは知ってるわ、さすがに。だけど本当に私が作ったのだもの。ラルスがいらないんなら、こっそりウィクトル殿下にお渡ししてくれてもいいわよ」
「…ちょっと考える。父上に相談してからじゃないと、こんな物ホイホイ人に渡せないし」
「なら自分で殿下にプレゼントするからいいわ。それにまだいっぱいあるし…」
いっぱいあると聞いてラルスがガックリと肩を落とす。残念がってる訳ではなく、力尽きているようだ。
「あ、それとアミン。私はまた出掛けるから、しばらく留守はお願いね」
「え、またですか?」
「うん。まだやる事が残ってるの。向こうで待ってる人達もいるから戻らないと」
「そうなんですか…」
今度はアミンがしょんぼりとしている。ついていきたい素振りをしていたが、こればかりはエルフの長であるカジミールの許可がないのにエルフの村に連れていくのは憚られる。
すると、ようやく気を取り直したらしいラルスが姿勢を正し、イルナに厳しい視線を向けた。
「どうせろくなことじゃないだろうから聞かないけど、危険な事だけはしないでよ。姉さんに何かあったらうるさいのがいっぱいいるんだから」
うるさいのとはイエルハルドや両親達だろうか、とイルナは首を傾げる。それを見て「分かってないな」と呆れた顔をする弟に少々ムッとしながらも、イルナは転移のオーブを取り出した。
「じゃあ、後はよろしくね、ラルス」
「うん。姉さんも気を付けて」
「アミン、帰ったら一緒にお出掛けしましょうね」
「…!はい、待ってます!」
二人にニッコリと微笑み、イルナはオーブに向かって行き先を告げる。
「エルフの村のキルスティの所へ」
その瞬間、眩い光が辺りを包み、そしてイルナは姿を消した。
姉が消えたその場所を複雑な顔をして眺めていたラルスは、溜め息をついて呟いた。
「やっぱり姉さんは規格外だなぁ…」




