緊急会議
ヴァルデマーのコンラード領襲撃後、王都にイエルハルドからの手紙が届いたのはそれから4日後だった。一つは国王へ、もう一つはロドルフへ書かれた手紙だ。
勿論国王にはヴァルデマーの襲撃の一部始終を報告してあるが、イルナの事についてはロドルフの判断に任せるしかない。そのむねをロドルフの方の手紙に書いておいた。
だが、事はそんなに簡単では無くなってきた。何故ならイエルハルドの手紙が王都に届いたのと同じ頃、別の領都にヴァルデマーが現れ、そして暴れるだけ暴れてから立ち去ったらしい。こちらは比較的王都に近い場所だった為、翌日には知らせが届いた。
どちらもヴァルデマーの要求が「アウキシリアの命」だった。
「そもそも『アウキシリア』とは何ですか!?」
緊急会議の場で、第一騎士団長であるアンセム・オールコット公爵がイラつきを抑えられない様子で声を上げた。
それに同意するように他の貴族達は頷き国王を見ている。国王は肘を付いて両手を顔の前で組み、考えるように目を閉じていた。そしてそれを静観していた宰相であるアラヌス・マオーラ公爵は、静かな視線を皆に向けた。
「お静まりください。彼の男が所望する『アウキシリア』なる存在が何者なのか、そもそもそのような人物が実際いるのかどうかは分かりませんが、分かることもある」
「それは何ですか!?」
ヴァルデマーに攻撃された領地を持つ伯爵がアラヌスを睨み付ける。それを一瞥し、静かに話を続けた。
「簡単な事だ。奴も言っていただろう。自分は『魔王』で、『アウキシリア』がここにいるのは『ゲアトルース』も知っているから、隠しても無駄だと」
「それが何だと言うのです?」
「自分を『魔王』と名乗っている男は、闇竜ゲアトルースの望みを叶える為に我が国を攻撃した。それはゲアトルースの復活を意味するのではないか?」
「!!」
イルナがキルスティから聞いていたので、国王や宰相といった面々は一応知ってはいたが、やはりどこか真実味がなかったのも事実だった。
そこへこうしてヴァルデマーが奇襲を仕掛けてきた事により、ようやく事実として受け止められた。
「父上、『アウキシリア』を探すのですか?」
第一王子であるテオドールが口を開く。するとそれに同意するかのように、貴族達が口々に意見を言い出す。
「そうだ!アウキシリアを探し出すべきだ!」
「奴の狙いはアウキシリアらしい。それがいいでしょうな」
「その通りだ!そうすればこれ以上被害も広がらん」
「それがいい!」
皆が勝手に騒ぎだし、妙案だとばかりに頷きあう。それを静観していたウィクトルは、さも不愉快だと言わんばかりに表情を歪めた。
「貴殿らは口々に『アウキシリア』を探せと言うが、ならば聞こうか。その『アウキシリア』を探し、どうするつもりだ?それに『アウキシリア』が何なのかも分からないのであろう?それを無責任に探しだし、悪の手先に差し出すとでも言うつもりなのか?」
「それは…!し、しかし魔王と名乗り、無差別に魔法を放ち、すぐさま立ち去られては対策のしようもありませんし…」
「狙いがハッキリしているのであれば、それを優先するのは当然では…」
勢い付いていた貴族達は、ウィクトルの問いにばつの悪そうな表情を浮かべる。
「ではその『アウキシリア』が犠牲になったとして、それで魔王やゲアトルースが静かに過ごしてくれるという保証はどこにある?むしろ『アウキシリア』を恐れての行動なら、『アウキシリア』を保護するべきではないか?」
「それは…」
ウィクトルの言葉に貴族達は今度こそ黙り込む。それを愉快そうに眺めていたテオドールが口を挟んだ。
「まあまあウィクトル、そう怒るな。彼等も焦っているのだろう」
「しかし兄上。根本的な解決にはならない事を話していても仕方がないでしょう」
「そうだなぁ…」
テオドールが顎に手を当てて考えるポーズを取る。するとそれまで押し黙っていた国王が、静かに目を開け口を開いた。
「よかろう。このような事態が起こったのであれば、話すのが道理だ。マオーラ公爵、説明せよ」
「はっ」
「ルーメン侯爵もよいな?」
「…陛下の仰せのままに」
二人に目配せをし、再び国王は黙り込む。そして国王に指名されたマオーラ公爵は、静かに『アウキシリア』についてを語りだした。




