魔王の力
上空で旋回するワイバーンに気付いたのは、見張り台に立っていた兵士だった。様子がおかしいと思い、イエルハルドに報告したのだ。
すぐさま見張り台に登り、目を凝らして眺めると、背に誰かが乗っているのが見えた。
「何者だかわからんが、至急警戒態勢を張れ。怪しい動きをしたら即座に攻撃を仕掛ける」
「はっ!」
ビシッと敬礼をした兵士はただちに他の兵士へと伝達し、警戒態勢を整える。するとその時、小さな地震が起こった。
「最近地震が多いな」
「ああ」
兵士達が呟いているその時、イエルハルドの目にワイバーンの上で魔法を放つ光が見えた。
「伏せろぉぉっ!!」
イエルハルドが叫ぶと同時に轟音と凄まじい地響きが起こる。一気に街は混乱状態になり、倒壊する建物や崩れる地面が視界に入った。
「第三部隊はすぐに街へ行き住民の安全を確保しろ!第一部隊は攻撃準備に入れ!第二部隊は防御魔法を展開しろ!!」
「はっ!」
「ふざけやがって…!!」
「か、閣下!何を…!?」
捲し立てるように兵士達に指示を飛ばすと、近くにいた兵士から槍を奪う。それを力一杯振りかざし、ワイバーン目掛けて投げ飛ばした。
「貴様ぁぁぁああああ!!何者だあああああ!!!?」
「っ!?」
激しい怒りを押さえられずに凄まじい威圧を放つと、ワイバーンが混乱状態になったらしく、動きがおかしくなる。その隙をついて兵士達は次々と攻撃を仕掛けた。
「閣下に続け!!」
「撃ち落とせ!!」
次々と攻撃を仕掛ける兵士達を嘲笑うかのようにワイバーンは攻撃を避ける。そして今度は背に乗っていた男が、杖をかざして魔法を放ってきた。
『火柱よ!燃やし尽くせ!』
轟音と共に炎の柱が何本も現れる。それに対抗するように、魔術部隊が防御魔法を展開し、それと同時に攻撃魔法を唱える。
『溢れ出ろ!水柱!』
『竜巻よ!敵を飛ばせ!』
合わせ技で水柱に竜巻を被せ、巨大な水流の渦を作り出し、現れた火柱にぶつける。防御魔法で国境の要塞が壊れないようにした為、国境の外側の森がぐちゃぐちゃになっていた。
魔法が相殺されるかと思いきや、ヴァルデマーが杖を振り上げると炎が推し勝つ。そして周辺の森に火が移り、魔術部隊は消火の方に回らざるを得なくなる。
第一部隊が槍を構え、攻撃を仕掛けるが、それもあっさりと回避された。
「くそっ、何なんだアイツは!」
イエルハルドが苦々しい表情で呟くと、勝ち誇った顔のヴァルデマーが、少し高度を下げて声を上げた。
「はははは!我の名はヴァルデマー・ヴィンセント!魔物を統べる魔王だ!」
「ヴァルデマーだと…!?アイツが…」
イエルハルドの顔が驚愕の色に染まる。イルナが言っていた諸悪の元凶が目の前の男だとわかり、一瞬怯んだ。
「今のはただの挨拶だ。そして貴殿はここの領主殿だな?」
「…いかにも。お前の目的は何だ!」
今にも攻撃しようと構える兵士達を抑え、イエルハルドが問う。するとヴァルデマーはニヤリと不敵に笑い、とんでもない事を言い放った。
「我の望みはただ一つ。アウキシリアの命だ!」
「なっ…!?」
ヴァルデマーの言葉にイエルハルドが動揺する。それを見逃さなかったヴァルデマーは、さらに笑みを深めた。
「ほう、貴殿はアウキシリアを知っているのだな?隠しだてせん方がいいぞ?素直に教えればこれ以上の攻撃はしないでや……って、のわあっ!?」
「死ねぇぇぇっ!!」
「ちょっ、おいっ!は、話を…ぬわっ!やめろっ!」
突如鬼気迫る勢いでイエルハルドが槍を投げまくる。その表情は鬼神の如く、投げる槍は勢いを増す。
あまりの状況にヴァルデマーが若干引き気味になり、高度を上げて回避する。
「な、何だか知らんが今日の所は引き上げてやる!だが、アウキシリアがこの国にいる事はゲアトルース様もご存知だ!隠しだてしても無駄だからな!」
そう言い放つと、ヴァルデマーはそのまま飛び立っていったのだった。
「ふざけるな!くそっ!」
ダンッ!とイエルハルドが壁を殴り付ける。イルナの命を要求され、思わず頭に血が上ったが、何故奴はアウキシリアを狙っているのか聞きそびれてしまった。そして冷静になって周囲を見渡すと、被害が広がる街が視界に入った。
「こうしていても仕方がない!第一部隊は物資を集めて街へ行き、住民達の手助けをしろ!家が完全に倒壊している場合は、この要塞のホールへ避難するよう指示を出せ!第二部隊の半分は国境の守備を固めろ!防御魔法は穴を開けるなよ!残りの半分は街の修復に向かえ!地属性魔法の得意な奴は率先して街へ向かうんだ!」
慌ただしく動き出す兵達を見送ると、今度は執務室へと足早に向かう。この事を国王陛下に伝える為だ。
だが奴は、アウキシリアの命を狙っていると言っていた。あの様子だとアウキシリアが誰なのかまでは分かっていないようだ。
「陛下とロドルフにも書状を送らないといかんな。ここにイルナがいないのは不幸中の幸いだったか…」
こんな状況では聖竜の巫女の選定に等、とてもじゃないが行ってる場合じゃない。というよりも、聖竜の巫女の選定自体やってる場合ではないだろう。
「くそっ、イルナの転移のオーブが欲しい…」
ここにない物を思い浮かべ、溜め息をつく。これからの事を考えると、頭が痛くなった。




