無属性魔法の活用法
キルスティに聞かされて驚いたイルナは、その夜こっそり王立図書館に転移し、『無属性魔法の活用法』を探し、再びこっそり持ち帰った。
よくよく考えれば、こんな本が図書館に置いてあれば増幅術師なんて他にも沢山いて当然のはずだ。けれどキルスティの言うように、増幅術師にしか見つけられない魔法がかかっていたなら、今まで現れなかったのも頷ける。
そこでふと父親が言っていた話を思い出す。増幅術師はその能力を恐れられ、処刑されたと言っていた。後継者も作れなかったとも。
『誰も教えず、受け継がれない。知られざる魔法だからだ』
そう父が語っていたのだ。
パラパラと本を捲る。末尾までめくると、そこに呪文らしき言葉が書かれていた。
「『ヴェレディーカム』…?」
その瞬間、ぶわっと本が光出す。驚いて落としそうになり、慌てて持ち直すと、最後の頁に文字が浮かび上がった。
「これって…」
浮かび上がった文字を指で辿りながら読んでいく。そこには短い文章が書かれていた。
『親愛なる増幅術師の後継者へ捧げる。この本が君にとって価値ある物になる事を願って。
アルセニオ・ブランシャール』
ブランシャールの名は聞いた事がある。アルセニオ・ブランシャールという人物は、イルナの記憶が正しければ何代か前の王弟殿下で、臣籍降下し一代限りの公爵家だったはずだ。
「男性だったんだ…」
てっきり増幅術師は女性だとばかり思っていた。が、ここにきて父であるロドルフが言っていた事により確信が出る。
勇者であった王太子をサポートをし、闇竜の封印に一役買ったともなれば、第一王子派と第二王子派に分かれるのは目に見えている。しかも増幅術師の力無くして封印は成功しなかったと言われれば、王太子の権威に関わる。だからこそ、政治的にも抹消する必要があったのか。
歴史上ではブランシャール公爵は若くして病死したとされている。これは王家の歴史を学園で習っていたので知っていた。実際は処刑されたとロドルフが言っていたが、事実は闇の中だ。
「…でも、国の為に一緒に戦ってきた弟を、そんなに簡単に切り捨てるのかしら」
ふと、ウィクトルを思い出す。彼もアルセニオと同じく第二王子だ。幸い彼は増幅術師ではないので、危険視される事はないはず。そこまで考えてイルナはハッと気付いた。
(このまま私と結婚してしまったらウィル様もアルセニオ殿下のように、テオドール王太子に疎まれたりしない…?)
考えられない事もない。今の所イルナが増幅術師だという事は隠されているが、公になってしまった時、アルセニオと同じように迫害されないとも言い切れない。
その事実に気付いたイルナの体は、知らないうちに震え出す。どうすればいいのか分からずに、ただ戸惑っていた。
「ウィル様と話さないと…」
このまま自分がここで知らないふりをして過ごすなんてできない。いてもたってもいられなくなったイルナは、夜だという事も忘れてキルスティの部屋へ飛び込んだ。
「どうしたの?」
急な訪問にもかかわらず、キルスティは相変わらず普通だ。イルナはさっきまでの経緯を話し、今すぐウィクトルと話したい事を告げた。
「なるほどぉ、そういう事ならちょっと待ってね。コンチャ~、いる~?」
「はいにゃん!ご用ですかにゃん!?」
「わっ、ビックリした」
突然どこからともなく現れた人語を喋る猫に驚くが、多分キルスティがウィクトルにつけたあのケット・シー族だろうと気付く。どうやらこの猫は雌らしく、頭にリボンがついていた。
「あのねぇ、アーロンと連絡取りたいんだけど」
「了解ですにゃん!」
ビシッと敬礼をし、コンチャと呼ばれた猫は前足でクルリと円を描く。すると円の中がグニャリと歪み、そこだけ別の景色が浮かび上がった。
「アーロン~、応答するにゃん」
「おや、コンチャだ二ャ。どうしたか二ャ」
ひょっこりと顔を覗かすアーロンにイルナが一瞬驚く。そして思わず手を突っ込もうとしたが、スカッとすり抜けてしまった。
「イルナ、これは向こうと繋がってるようで繋がってないよ。景色と音だけが繋がってる」
「す、すごいね…」
感心したように呟くと、アーロンとコンチャが威張るように胸を張った。
「どうって事はない二ャ!それよりこんな時間にどうしたか二ャ?」
アーロンが尋ねる。よく見るとどこかの宿屋のいっしつらしく、そこにウィクトルやユリウスの姿は見えない。
「あの、ウィル様とお話をしたいんです」
「ご主人様か二ャ!ちょっと待つ二ャ、呼んで来る二ャ」
そう言うが早いか、目の前からアーロンが消える。数分待っていると、ガタガタッと慌ただしい音と共に、ウィクトルの姿が映し出された。




