エルフの実態
「キルスティ!」
「イルナ、どうしたの?」
転移で現れたイルナが突然大きな声でキルスティに飛びつく勢いで詰め寄る。それにさして驚く様子もないキルスティは、落ち着いた所作でハーブティーを飲んでいた。
「生命の木の場所がわかったの!」
「え、本当?」
探していた生命の木がセフィロトの樹だと言う事と、砂漠の果ての枯渇した大地にあるという、炎に包まれた場所の中にあると言う事を告げると、キルスティは何かを考え込むように黙る。
「…イルナ、私と一緒にエルフの村へ来れる?」
「え?」
唐突に告げられ、イルナは驚きに目を見開いた。けれどキルスティは至って真面目な顔で続ける。
「これ以上は私一人じゃサポートできない。私の役目はアウキシリアの育成。でも、最終的にはアウキシリアにエリクサーを作ってもらう事が妖精王の願い」
「…キルスティは一体…」
何故ここにいるのか。何故アウキシリアの育成を命じられてるのか。それに、イルナがアウキシリアでなかったら、ここでアウキシリアが現れるまでずっと一人でいるつもりだったのか。色んな事を聞いてしまいそうになり、イルナは口を噤む。けれどそんなイルナの心情を察したのか、キルスティはフワリと優しい笑顔をイルナに向けた。
「イルナ。私は豊穣の精霊ヴェレス様の一族。ここのハーブ園のハーブも私が豊穣の力を持つエルフだから、年中枯れる事なく育つんだよ。そして、イルナの持つ増幅の魔法は私達にとってもとても貴重なの。相性がいいって言った方がいいのかな」
「え…」
豊穣の精霊ヴェレス様の一族。それは全く予想していなかった。何故ならキルスティは『エルフ』だ。精霊ではないはず。
「キルスティはエルフじゃないの?精霊なの?」
思わず口に出てしまった質問に、キルスティはニンマリとちょっと意地悪そうな顔で笑う。
「『エルフ』は妖精族の一つだよ。というか、『エルフ』って呼称はそもそも違う言語で『妖精』って意味だから。人間とは違う種族だけど、確かに存在するの。説明するのが面倒だから他のエルフ達も何も言わないけど、彼等も必ず何かに属する妖精なんだよ」
「そ…そうなんだ…」
知らなった。単にエルフはエルフという括りで見ていたので、そこまで彼等の事を理解していなかった事が恥ずかしい。キルスティの話を纏めると、エルフは見た目が美しく若く、そして少し耳が尖っているのが特徴なので、人間は見た目で『エルフ』だと判断するらしい。そこからエルフの種族が何だとかは詳しく知らないとか。ただ、肌の黒いエルフの事を『ダークエルフ』だと批判する人間が多いらしいが、彼等は別に『闇』のエルフではないとか。そもそも闇のエルフって何だって話だと言っていた。
「闇に生きるのは魔族。エルフはそもそも魔族じゃない。だからダークエルフなんてものはいないんだよ。肌が黒いのはその人の個性だから。人間だって肌の黒い人や白い人、色々いるでしょう?」
「そういえばそうだよね…」
「うん。住む場所によって肌の色は変わるんだよ。失礼な話だけどエルフ達にとってはどうでもいい事だから、特に説明しないんだ。それに、そもそも人間の社会に紛れて生活するエルフは少数だから、余計に人間はエルフの実態を知らないんだよ」
「そうなんだ…」
何だか人間はエルフ達に対してとても失礼だったんだなと反省する。けれどキルスティが今言った話を覆すような事実を口にした。
「とは言っても妖精族の中にはゴブリンとかトロールみたいに、魔物に属するように悪事を働く種族もいるけどねぇ」
「え、ゴブリンとかトロールって妖精なの?」
「そうだよ~」
再び知らなかったとイルナが驚く。ゴブリンなんかはただ意地悪な種族だったのが、段々とそれが増長していき、今に至っているのだとか。それを正す気もないらしいので、結局討伐される対象になってしまっているらしい。トロールも凶暴性からそうなっているようだ。
「それで、どうする?イルナは私と一緒にエルフの村に来れる?」
「あ…」
結論から言えばついて行った方がいいだろう。けれど誰にも告げずに行ってしまえば、皆に心配をかけてしまう。それに、聖竜の巫女の選定にも出ないといけない。
「キルスティ。私の用事が終わるまで一か月程待ってもらう事はできる?」
一か月後であれば時間ができるだろう。それまではコンラード軍の為のポーション作りもしないといけないし、聖竜の巫女の選定の為に魔法の特訓もしないといけない。
「いいよ~。イルナが来てくれるなら、一か月待つ」
「ありがとう」
キルスティも想定内だったらしく、意外とあっさり了承してくれた。そしてイルナは転移のオーブを取り出し、目を閉じて行きたい場所へ向かう。
「ウィル様の所へ」
今度はウィクトルの元へ転移した。




