魔力操作訓練
実家から慌てて帰って来たイルナは、それから数日間キルスティのハーブ園を毎日訪れていた。
エーテルを作るのは問題ないのが分かったが、キルスティのハーブ園にレッドハーブはそんなに沢山生えていない。
元々需要のある物でもなかったし、それは仕方がないだろう。
そもそもエーテルを取り扱っている商会は、王宮御用達の所が多い。何故ならやはり魔術師団や神官達に売る為だ。
普通の一般人はエーテルなんて殆ど使わない。需要があるとすれば王宮の他ではハンターギルドくらいだろう。
という訳で、エーテルを取り扱っている商会は、王宮かギルドに直接販売している。
なので、手に入れる為にはギルドへ買いに行かないといけないのだ。
イルナのようにポーションを作っている工房はあるが、エーテルは材料が特殊な為、ハンターギルドに素材の採取依頼をしている。
街でレッドハーブが売っていないのは、空気の綺麗な森の奥の澄んだ泉の側でないと成長しないからだ。
その為ギルドにレッドハーブの採取依頼が度々出される。
イルナは気付かなかったが、レッドハーブを買いたければギルドに行けば売っている、もしくは採取してきてくれるのだ。
「イルナ、もっと魔力を練って」
「は、はいっ」
キルスティに指導されながら、イルナは魔力の錬成をしている。
せっかく膨大な魔力を保持しているのに、無属性以外が使いこなせないのは勿体ないと言われたからだ。
「魔力操作の練習の為にポーション作りをしたのはいいと思う。けど、魔法水を作るだけじゃあ他の事が上手くできないよ」
「…だよね」
キルスティに指摘されるまでもなく、ポーション作りを始めてからイルナもそれには気付いていた。が、結局ポーションを作るのが楽しくなってしまった為に、他の事に目を向けなくなったのは事実だ。
「いい、イルナ。魔法はイメージ。だけどいきなり魔法で全てを出す必要はないよ」
「どういう事?」
「つまりこういう事」
「…?え、わあっ…!」
イルナに見せるようにキルスティは水の入った桶に手を入れ、中の水を掴んで引っ張り出した。まるで飴細工のように伸びる水をイルナが不思議そうに眺める。
「実際にある物をこうやってイメージ通りに動かす。そうすればより鮮明にイメージしやすくなるんだよ」
「なるほど…」
「ほら、こんな事もできるよ」
「わあ…」
摘まみだした水を今度はボールのように丸く形作る。魔力で形が壊れないようにしているので、投げたりぶつけたりしても円形を保ったままだ。
「そしてこの球体の水をすごい勢いで敵めがけて撃つと、攻撃魔法の『ウォーターボール』になるよ」
「あ、そっか」
「原理、わかった?」
「う、うん」
パシンと音を立てて水のボールが桶の中に落ちる。するともう普通の水に戻っていた。
イルナは魔法自体は使えなくもない。実際に『ウォーター』や『ファイヤー』のような、水を出したり火を出したりするだけならできる。
けれど攻撃魔法となると、途端に使えなくなるのだ。
「イルナは魔法を使う時、どこかで『怖い』と思ってる。だから基礎の魔法はできても、相手を傷付ける魔法が使えない」
「うん…」
それは何となくわかっていた。
もし自分が放った魔法で間違って味方が傷ついたりしたら、そんな事になったら嫌だと思う気持ちはとてもある。
「ねえイルナ。本当に凄い魔術師はねぇ、標的以外は魔法の影響を受けないようにできるんだよ」
「…え、ど、どういう事?」
「つまり、魔物に対して魔法を放ったら、その隣に味方がいても魔物にしか魔法が効かないようにできるって事だよ」
「…え、そ、そんな事できるの?」
驚いて目を見開きキルスティを凝視すると、キルスティは得意げになって胸を張り、イルナに向かってニコッと笑う。
「できるよぉ。その為に魔力操作と魔力錬成をしっかりしないと駄目なんだよ?」
何てことだ。魔法は誰でも使う事ができるが、むやみに攻撃魔法を放ったら周りを巻き込むから危険だと聞いていた。
けれどキルスティの話だと、熟練の技で魔法を放てば味方には影響を及ぼさないと言う。
ただし、今キルスティがやったように、実際にそこにある水や炎を使って魔法を使うのではなく、最初から全てを魔法で出現させたモノに限るそうだ。そうする事によって狙った相手だけを攻撃する事ができるとの事らしい。
(そんな事ができればすごいとは思うけど…)
果たして自分にできるだろうか?そんな考えが頭をよぎるが、反面何だかメラメラと燃えてくる。
「私頑張る!キルスティ、私絶対できるようになるわ!」
「その意気だよ!イルナならできる!」
「うん!できる!」
こうして二人で異様なくらいに盛り上がり、その後もスパルタな練習を続け、家に戻った頃にはへとへとになっていた。
「イルナ様、最近とてもお疲れみたいですが、ポーション作りってそんなに体力いるものなんですか?」
アミンがイルナの体をマッサージしながら心配そうに尋ねてくる。
それに曖昧な表情で笑ってごまかし、静かに目を閉じた。
うとうとと眠りそうになったその時、侍従が部屋をノックする。
アミンがどうしたのか聞きに行くと、どうやら来客のようだった。
「お客様?誰かしら…」
「それが、ウィル様とユリウス様のようです」
「…え!?」
二人の名前を聞いてイルナが驚く。
そう言えば探索の合間に色々話をしようと言われていた事を思い出し、イルナが慌てふためいた。
「と、とにかく客間にお通しして!すぐに行きますから!」
「かしこまりました」
ペコリと侍従の青年がお辞儀をして立ち去る。アミンとイルナは顔を見合わせ、急いで着替えを済ませた。
アミンが髪をセットしようとした時、何となくウィクトルからもらった髪飾りの事を思い出す。
そっと引き出しから取り出し、アミンに着けてもらうよう頼むと、一瞬驚いていたがすぐさまニコリと笑顔を見せ、イルナの髪につけてくれた。
「お、お待たせしましたっ」
二人が待つ部屋へイルナが訪れると、二人は出されたお茶を堪能しているようだった。
ウィクトルがイルナに気付き、フワリと優しく微笑む。
「突然すまない、イルナ嬢。元気そうで何よりだ」
「ウィル様も…」
笑顔が眩しい、なんて見惚れていると、ユリウスが隣でクスクスと笑っている。その声にハッとなって慌てて表情を引き締め、ユリウスにも令嬢らしくお辞儀をした。
「ユリウス様もお元気そうで安心しました」
「ああ、ウィルも僕もね。イルナ嬢も僕達がいない間、何事もなかった?」
「え?あ、はい。特には…」
すると少し間を開けて、ユリウスがイルナに質問した。
「あのエルフにはまた会った?」
どうやらキルスティの事を聞いているらしい。




