聖竜ガイウス
イルナの母、カロレッタ・ルーメンは王宮の奥深くにある神殿に訪れていた。
そこは聖竜が鎮座する、厳かな場所だ。
天井からは陽の光が降り注ぎ、聖竜が座っている場所には草花が咲き乱れている。神殿に入ると外界と遮断され、暖かで包み込まれるような安心感が広がるのだ。
『カロレッタか』
「はい、ガイウス様」
聖竜は己の巫女が現れた事に特に驚く様子もなく、ただ静かに眺めていた。
『まだお主の魔力を貰わなくても大丈夫だが、今日はそういった事でここへ足を運んだのではあるまい』
「はい…ガイウス様に少々相談がありまして…。聞いてもらえるでしょうか?」
カロレッタからの申し出にガイウスは僅かに目を細める。
『申してみよ』
「はい、実は――」
カロレッタは自身の娘であるイルナの事を、丁寧に聖竜に説明しだした。
彼女は「アウキシリア」である事を。
それを知ったのはつい最近の事で、この事を公にしてしまっては娘が危険にさらされるのではないかと危惧している事。
それでも人知れずその力を使っている娘は、いずれアウキシリアだとばれてしまうという事。
全て話した後、カロレッタは緊張から大きく息を吐いた。
『ふむ…、《アウキシリア》が今の世に存在しているとはな。妖精王が言っていた事は事実であったか。それにしてもこのように身近におるとは、これもめぐり合わせか…』
「あの、ガイウス様。娘は自分がアウキシリアだと知りません。どうすれば最善なのか、私も夫もわからなくて困っているのです」
困ったように眉を寄せてカロレッタがガイウスに告げると、ガイウスが少し間を開けてとんでもない事を口にした。
『ならばその娘、私がもらい受けよう』
「お断りします!」
やはりこの人も即答だった。
「もらい受けるとはどいう意味でしょうか!いくらガイウス様でも許しませんよ!」
『そう怒るでない。アウキシリアの力を我が力の復活に使おうと言っているのだ』
「具体的に何をさせるんですか!?」
『単純に増幅の魔法を極限までかけてもらい、私の中の竜力を高めてもらうつもりだが』
「それは一度だけですか?」
『いや、完全に復活するまでだな。復活に何日かかるかは分からぬが。だがそうすればお主の負担も消えよう』
「娘にそんな負担をかけるくらいなら、私が一生懸命魔力をお渡ししますわ!!」
『…お主、娘の事になるとそのように取り乱すのだな。意外であるぞ』
あまりの剣幕にガイウスも呆れ果てる。
そもそも今はそんな事を言ってる場合ではないのだ。
巫女の魔力を時々提供してはいるが、国を安定させるために竜が使う力は莫大だ。
だからこそ、ウィクトル達にはブラッド・オーブの作成を命じている。
あれが溜まればしばらくは力を失う事はない。
そこへアウキシリアの力が加われば、相当な竜力が復活できるのだ。
ガイウスにすれば使わない手はないのだが。
「とにかく、これは私の一存では決めかねますので、帰って主人と相談しますわ」
『お主、聖竜である私の申し出を夫と相談してから返事をするとは…』
「関係ありません。私はあの子の母親です。あの子が苦労するのは見たくありませんもの」
『子が苦労するだけで世界が救われるのだが、天秤にかけるような事か?』
「そうです!」
鼻息荒く言い切るカロレッタに、ガイウスは呆れはしたが仕方がないとも思う。
カロレッタの子煩悩っぷりは、死ぬほど聞かされていた子供の自慢話でよーく知っていたから。
『まあいい。色よい返事を待っているぞ』
それだけ言うのが精々だった。




