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リアンの仮説【Sideリアン】

「ロイ、無事か」


「リアン、様……」



 咽かえるような血の臭い。ロイは身体中を包帯でグルグルに巻かれていて痛々しかった。けれど、それ以上に気がかりなのは、もう一人。本来ならばこの場にいるはずの、アイリスのことだった。



「申し訳ございません。僕のせいでアイリス様が……アイリス様が…………!」



 ロイはそう言って悔しそうに涙を流す。とてもじゃないが、まともに話が出来る状態ではない。



(くそっ)



 居ても立っても居られず、踵を返した俺を「待てよ」と誰かが呼び止める。親友の一人、麟族のニコラスだった。



「ニコラス……知らせてくれてありがとう。手当も。助かった」



 俺に事態を知らせてくれたのは、ニコラスとアクセスの二人だった。二人はアイリス達の様子を見にここへ来る道すがら、上空から突き落とされて大怪我をしたロイを見つけたらしい。

 もしも二人がここへ向かっていなかったら――――ロイは助からなかったかもしれないし、俺が事態を把握するのはもっともっと先だっただろう。そう考えると恐ろしくて堪らない。



「リアン、待てって。今、アクセスが従獣を使って情報を集めてるんだ」


「ありがたい。だが、正直待っていられない」



 アクセスの従獣ならば、アイリスたちが襲われた時の様子や連れ攫われた場所を見ているかもしれない。けれど、手がかりが集まるまで動けないというならば、俺は手がかりなんていらない。怖くて辛い思いをしているだろうアイリスを、今すぐ迎えに行きたかった。



「だけど、アイリスちゃんを襲う奴に心当たりなんてあるの? ロイの傷とか空中で襲われたことを考えると、相手は間違いなく魔族だし、アイリスちゃん自身が恨みを買っているとは考えづらいでしょ。ロイは相手の顔を見る間もなく目くらましの術を掛けられて、上空から突き落とされているし」



 ニコラスは極めて冷静に状況を整理していく。ロイから聞き出した情報も交えて、俺に落ち着くよう諭すその様は、さすがは麟族の跡取り、といったところだ。



(心当たりがないわけではない)



 職業や立場上、俺は恨みを買うことが多い方だ。だから、そういう奴らが俺に直接手を下す代わりに、アイリスを狙う可能性は十分にある。



(だが)


「――――ロイ、一つだけ聞いても良いか?」



 尋ねると、ロイはビクッと身体を震わせつつ、コクリと頷いた。アイリスを守れなかったことを気に病んでいるのだろう。表情は依然、暗いままだった。



「アイリスが襲われたとき、俺の渡したお守りを身に着けたままだったか?」



 俺の仮定が正しければ、アイリスを攫った犯人に一気に近づくことができる。

 ロイはしばらく沈黙していたが、やがて躊躇いがちに小さく頷く。俺はゴクリと唾を呑んだ。



「アイリス様はご自身の懐に、リアン様のお守りを大事に仕舞っていらっしゃいました。落とせばすぐに気づくでしょうし、攫われる時に奪われた様子はありませんでした」


「そうか」



 答えつつ、俺はそっと目を伏せた。



「え? なに? お守りって、一体なにを渡してたの?」


「俺の逆鱗」


「……うわぁお」



 俺の言葉に、ニコラスは目を丸くした。驚くのも無理はない。逆鱗なんて大事なもの、普通は誰かに渡したりしない。けれど、これでハッキリした。



「ってことは、相手はおまえと同等以上の手練れか――――」


「……そういうことだ」



 俺がアイリスに自分の逆鱗を渡している意味。それは竜の加護を与えるためだ。

 竜の逆鱗を持っていれば、力の弱い魔族はアイリスに近寄ることすら出来ない。魔族は本能的に竜人を避けるよう遺伝子に組み込まれているし、仮に少し力のある者が手を出してきても、アイリスを守れるように魔法を込めてあるからだ。

 けれど、相手が俺と同等かそれ以上の手練れだとすれば話は別だ。逆鱗に込められた魔力はあくまで限定的だし、俺と真面にやり合って勝てる自信があるからこそ、アイリスを攫おうなどと考えられたのだろう。



「それで、心当たりは?」


「――――ある」



 眉間に皺を寄せ、俺はそう答えた。

 もしも俺が想像したとおりの人物が犯人だとすれば、アイリスを取り戻すのは相当厄介だ。一筋縄ではいかないし、アイリスの安否を思えば不安で不安で仕方がない。



「アイリスを迎えに行く」



 だけど、俺の答えは最初から決まっていた。アイリスがいなければ、俺の帰る場所なんてどこにもない。もしもアイリスが無事じゃなかったら、俺の命などそれこそどうでも良くなる。迷う要素なんて一つもなかった。



「――――俺も一緒に連れてきなよ。あんまり戦闘向きじゃないけど、そこそこ強い方だよ?」



 ニコラスはそう言って自分を指さしている。俺は小さく首を横に振った。



「おまえはロイの側に居てやってくれ。それから、もしも俺に万が一のことがあったら、ロイのことを頼みたい」



 ニコラスは深いため息を吐きつつ「了解」と小さく呟く。今度こそ止められないと悟ったのだろう。眉間に皺を寄せ、真顔で俺のことを見つめている。



「ちゃんと帰って来いよ。アイリスちゃんも連れて、さ」


「あぁ」



 俺がここに帰ってくるのは、アイリスが無事な時だけだ。ニコラスにも俺の決死の覚悟が伝わっているのだろう。死ぬな、とは一言も言わなかった。



「じゃあ、行ってくる」



 今度こそ俺は、全速力で駆け出した。

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