第五章 第一幕 ~Bランク聖騎士カナタ誕生!~ その3
「彼方お姉さま!」
完全に不意討ちとして、ふたりの灰神楽が背後からいっぺんに飛びつきます。
ですが、そろそろ彼方も慣れたものなのでさしてよろけるでもなしに身軽なふたりを支えていました。
灰神楽たちは、両腕にとりすがったまま彼方の新たな〝装備〟を見上げます。
「鎧姿も素敵なのです!」「デス!」
「あ、ありがとう……。え? あ! 可愛い! 灰神楽さんたちは何のクラスなの?」
「カグラたちは『着ぐるみ師』なのです!」「デス!」
「これ着ぐるみなの? ぬいぐるみ好きだし、ぴったりかも!」
灰神楽たちは大きく姿を変えていました。
いずれも頭部のリボンと大きなブーツは同じままですが白メインだった灰神楽はケープを纏い、その裾がひらひらするとその中に無数の動物なり人間のストラップが下がっているのが見えました。黒メインだった灰神楽は全身を包むローブを纏い、首の周りはファーで覆われ、後ろにはぴょこぴょこと短めのしっぽが揺れる抽象的な〝動物〟になっていました。
「え~~何ができるの? 早く見たいかも」
「すぐに幻燈演舞をお目にかけるのです!」「デス!」
「めくるめく眩惑の世界をあなたに、なのです」「デス」
そうしてふたりの灰神楽はそれぞれ反対方向に、くるくる廻ってみせたのです。
「あと、灰神楽改め〝カグラ〟なのです!」「デス」
「え? えっと、あ……登録名を変えたってことか。でしたら今後はそう呼ばせていただきます」
「はいなのです!」「デス!」
飛びつくカグラを両脇に抱え込む格好のまま、彼方は視線を移します。その先にはクレアがいました。
「クレアさんは……最初からコスプレ以上でしたけど……」
「ええ」
クレアはそのままでした。
「ハンスさんも」
「わたくしは、見届け役の任を仰せつかっておりますので」
ハンスは威儀に溢れて頷きます。
「あれ? トワは?」
「わらわはここなのじゃ」
トワは少し離れて後ろに立っていました。
トワはいつの間にかゴシック様式のドレスをやめ、シックな古さを感じさせながらも気品ある、胸に赤い薔薇をあしらっただけのシンプルなノースリーブのドレスと腕全体を包む黒手袋に変っていました。そしてその背には、陽の光に煌めくかのような、あるいは陽の光を吸収するかのような、黒くも黒い、赤い裏地の漆黒のマントを羽織っていました。
その頭部には、略式の王冠めいた異様に凝ったティアラが輝いています。
さらにその手には、レストランのお品書きみたいな本状の何かがあったのです。
彼方は、少し止まって、トワを見詰めました。
そして訊ねます。
「トワは何を選んだの?」
瞬間、この世界の音は消え、しんと静まり返りました。
「わらわは『ゲームマスター』なのじゃ」
世界はじっと、そのひと言に耳を傾けていたのです。
ですが、その一瞬の静寂は気付かれる間もなく去り、彼方は世界の揺らぎをわずかに感覚しつつ、トワに訊ねます。
「ゲームマスターって?」
「水蓮兄ぃ。よろしくなのじゃ」
「よろしくされるよ。ゲームマスターとは『RPG』の司会進行と審判と、残り全部をこなす役目だよ。ゲームマスターがいないと『RPG』は立ちゆかないのさ」
「えっと……クラスではなくて?」
「プレイヤーとは別次元の存在だよ。まあ、最大のプレイヤーと呼べなくもないし、すべてのクラスを歴任している存在と呼びうるかもしれないけど、ゲームマスターはゲームマスターだよ。劇に例えると座長だな。それがさらに脚本家と脇役と代役を全部ひとりでやるみたいなものさ」
「え? でも、裏方みたいな感じもしますけど、豪華絢爛過ぎるトワがそれをするのでしょうか?」
「どう捉えるかは人それぞれさ。コンサートの指揮者でもあり、世界の支配者でもある。この世をば、我がものとする者だとしたら……ぴったりだろ?」
「……えっと……はい……」
彼方は控えめに同意しました。
無論、トワは胸を張って讃美を受けるかのように頷いていました。
「では、さっそく開幕とゆきたいのじゃが、その前に……」
トワがすっと姿勢を正すと、全員がそれに注目する気風が溢れます。
ですが、そのトワは一心に、彼方を見ていたのです。
トワのキラキラした目がこちらに向き、彼方はぎょっとします。
「な、何? トワ、怖いよ?」
「『ルールブック』を持つ者が彼方ひとりゆえ、彼方がこのパーティのリーダーなのじゃ。一同の者、異存はないな?」
全員頷きますが、彼方のみ大慌てで必死に首を振ってトワの長手袋を掴みます。
「何それ!? 私が皆さんのリーダーなんて恐れ多い……」
「キャラと本人とは区別するのが『RPG』の作法じゃぞ?そのようにあればそのようなキャラクターとして振る舞うべきなのじゃ」
「でも、だって、無理!」
「されど伝統的に『RPG』にはリーダーが必要なのじゃ。誰か率先する者がいなくば、人心は乱れ、大いなる成果など得られぬのじゃ」
「でも私、人様の上に立つタイプではないし……」
「だったら『コーラー』はどうかな?」
水蓮が助け舟を出します。
「コーラーって何でしょうか?」
「意見のまとめ役だよ。『RPG』って自分が何するかマスターに宣言しながら進行するけど、全員でバラバラに発言するとそれこそバベルごっこと変わりないし」
「あ、まとめる係でしたら私にもできるかも。トワ、そっちに変えてください」
「うむなのじゃ。それと、以降はわらわのことは『マスター』ないし『ゲームマスター』と呼ぶのじゃぞ」
「はぁい。あ、私もキャラ名を『カナタ』で登録したので、カナタでよろしくお願いします。あと、私がコーラーを仰せつかりましたので、そちらもよろしくお願いします」
「うむ! 参加者一同! カナタに声と言葉とを預けるのじゃぞ」
カナタは全員に向かい合いながら、ひとりずつにお辞儀をしてゆきました。
「おう。よろしくな」
「けけ。大したものだ」
「ああ。了解したよ」
「はい。わかったのです」「デス」
「ええ。承りました」
すっと風が吹き、世界は新しく結成された唯一無二の『パーティ』を祝福するかのように輝いていたのです。




