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Act.nine  作者: 夜空


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18/20

#16 「天を喰らう赤き炎」


『さあ、遂にこの時が訪れました! 月末恒例勝ち抜き戦個人の部、決勝戦! 改めて今回の対戦カードを振り返ってみましょう!』


『Aブロックを勝ち抜いたのは、フリーランス最強と噂されている二年生アクトレス。孤狼の二つ名を持つ狼屋直桜!』


『……予想はしていた。全力で叩き潰すだけだ』


『Bブロックを勝ち抜いたのは、学年一位の称号を背負う一年生アクトレス。チームナインエレメントリーダー、陽咲焔!』


『今年度初の優勝は私が貰う!』


 遂に始まった勝ち抜き戦個人の部決勝戦。映像がコマーシャルから会場の中継に戻り、改めて今回の対戦カードが紹介される。


 学年一位を背負いし一年生アクトレス、チームナインエレメントの陽咲焔。孤狼の二つ名を持つ二年生アクトレス、フリーランスの狼屋直桜。


 機体はまだ隠されており、二人のアクトレスだけが画面に映っている状態。だと言うのに、各会場の熱気は最高潮に達していた。


『まだ今年度初の勝ち抜き戦だというのに、とんでもない対戦カードとなっております! この戦い、何が起こってもおかしくありません!』


『勝ち抜き戦の決勝と言えば、お馴染みとなっている専用機も見過ごせません。今回はどんな機体が出てくるか楽しみですね』


『それではお時間となりましたのでスリーカウント参ります! 皆様ご一緒に! 3、2、1! レッツ……』


『『ブレイク!!!』』


 実況席の二人による話も遂に終わり、画面が紹介から実況席へと戻る。そして試合の開始時刻が間もなくとなり、響のスリーカウントが各会場に響き渡る。


 各会場でスリーカウントの声が上がり、スリーカウントの終了と同時にカタパルトが動き出し、二機の機体が勢いよく競技場に入場する。


「あの赤い機体は……」


「おおおお……! 戦機神威丙式天炎だよ!」


「戦機神威丙式天炎……あれが、あの機体が焔さんの専用機……」


 一番格納庫から飛び出したのは、焔の赤い戦機神威丙式。そして二番格納庫から飛び出したのは、直桜の青い戦機神威丙式。


 第三世代型装動戦機、戦機神威丙式天炎。ツインハイパーブースターによる爆発的な推進力で、縦横無尽に戦場を駆け抜ける。


 各部には最低限の武装が積まれているが、その主兵装は両手のエネルギーブレード。それぞれ刃の長さを調節することで、あらゆる接近戦を魅せる。


 そしてその天炎に対するは、戦機神威丙式牙王。マルチブースターによる動きの制御で、見た目以上に軽快な動きを見せる。


 武装はブレードとシールドのみという超接近戦特化型であり、何千何万という戦いの経験から編み出した無数の戦い方を魅せる。


 同じようで異なる戦い方をする二機の丙式。しかし接近戦が最も得意なことは同じであり、両者は早速戦場の真ん中でぶつかり合った。


「さあ、全力を出してくれ!」


「……ふん。そんな動きで!」


『さあ早速両者ぶつかっております! ブレードとブレードによる、熱い戦いが繰り広げられております!』


 間合いに入ると同時に互いに得物を構え、先に攻撃を仕掛けたのは焔だった。ブレードの長さを活かして前に構え、左右に素早く刃を振るう。


 しかし、当然だかただ斬りかかってそれが通るような相手ではなく、直桜はシールドと足さばきだけで焔の攻撃を凌いでいた。


「流石に、力任せじゃ通らないか……!」


「本気を出させたいなら、もっと本気で来い!」


 攻撃を防いでは反撃し、それをまた防いでは攻撃を返す。お互いに他の武装は全く使うことなく、ブレードのみで戦うこの状況。


 お互いにとって最も理想とする状況であり、最も忌避するべき状況。不毛な戦いを繰り広げる中、焔の心は激しく燃え上がり始めていた。


「……ははっ! この感覚、これだよこれ!」


「素晴らしい攻めだが、それだけで勝てるとでも!」


「必死に喰らいつくこの感覚……けど、まだ足りないよなぁ!」


 攻撃を続ける焔。単調な動きの中で、少しずつ変化が見え始める。空を切るばかりだった焔の刃が、気づけば防がせるほどに狙いが的確になっていた。


 それは明らかな動きの変化だった。陽咲焔はこの僅か数分という時間で直桜の動きに適応し、次に直桜がどう動くのか、どうすれば当てられるのかを分かり始めていた。


 だが、それでも直桜を完璧に捉えることは出来なかった。接近戦というその一点に於いて、ただ刃を振るうだけで彼女に勝ることは出来なかった。


「っ、躱した!? しまっ――」


「ふっ、まずは一撃!」


 確実に直撃すると、誰もがそう思った攻撃を躱した直桜の牙王。そのまま反転してブレードを構え、振り上げた刃が天炎の胴部を切り裂いた。


『あっと! ここで直桜選手のブレードが焔選手の胴部に直撃! 見事な反撃が決まったぁ!』


『ブレードによるダメージは八点、そして胴部耐久力は二十点。これは大きなリードですね』


 遂に一撃が決まり、戦いに動きが起きたことで実況の声が盛り上がる。各会場でも直桜の一撃を褒める声が上がり、直桜を応援する声が強まる。


 しかし、そんな中でも陽咲焔は笑っていた。向かい風が吹き始めたこの状況だからこそ、少女はこの戦いに熱い想いを激しく燃え上がらせていた。


「……ははっ……あははっ! たった一撃、すぐに返してみせるっ!」


「動きが変わった……始まったか……!」


『おおっと、ここで焔選手大きく動き出した!』


『あの動き……遂に入りましたね、マニュアルコントロールが』


 姿勢を大きく変え、まるで狩りをする獣のように全身を低く下げた焔の天炎。その姿勢は、AIによる姿勢制御を切った証だった。


 マニュアルコントロール。コアシステムの第二段階機能であり、AIによる補助を無力化することで不可能を可能にするもの。


 片手でブレードを構えた天炎は地面を蹴り、牙王を横切るように飛び込む。すれ違いざまにブレードで一撃を与え、反転しながら着地し再び蹴って飛び込む。


 まるでAIによる補正があるんじゃないかと見紛う程、荒々しくも綺麗な動きを魅せる焔。流石に対処が難しいのか、牙王の動きに乱れが現れ始めていた。


『なんという怒涛の連続攻撃だ! 着地してはすぐに地面を蹴り、再び飛び込んではブレードによる攻撃を仕掛けている!』


『無駄のない往復、素晴らしい技術ですね』


 姿勢を巧みに変えて、何とか攻撃を防ぎ続ける直桜の牙王。シールドとブレードを細かく動かし、最低限の動きで猛攻を捌き続ける。


 しかし、パイロットであるアクトレスが人間である以上、必ず限界が訪れる。徐々に攻める感覚を掴み始めた焔の動きが、遂に直桜を上回る時が来た。


「そこだぁぁぁ!」


 フェイントにフェイントを重ね、狙いを絞らせない攻撃を繰り返した焔。少しずつ本命の攻撃に向けて準備を整え、遂に繰り出した本気の一撃。


 右から来るか左から来るか、振り上げるのか振り下ろすのか。揺さぶりでシールドもブレードも避けた刃は、確かに牙王の胴部を切り裂いた。


「くっ……見事な一撃、流石は学年一位か……!」


「はははっ! 誰も知らない動きなら、経験の違いなんて関係ないよなぁ!」


 切り裂いた確かな感触を手に着地して、牙王と向かい合う天炎。お互いに痛み分けの状態となり、互いに次の一手を狙い合う。


 だが、戦況は圧倒的に焔の優勢だった。未だ打開策を見つけられない直桜は、反撃すら難しいままひたすらに耐え続けていた。


「ぐっ、流石に動きの限界があるか……!」


「そんなシールドで、防ぎ切れるとでも!」


「何とか見切ることさえ出来れば――」


「これで……二撃目ッ!」


 しかし、耐え続けるにも限界はある。打開策を見つけられないまま時が過ぎ、試行回数を重ねた果てに天炎の二撃目を許してしまった。


 ブレードによる二回目の攻撃。次ブレードの一撃を受ければ同部の耐久力が全て失われ、その瞬間に直桜の敗北が決定する。


 あと一撃で全てが決まる。当然その状況で手を緩めるつもりなど焔にはなく、再び姿勢を低くして牙王に攻撃を仕掛ける。


『さあ残すところ後四点となりましたが、まだまだ焔選手の攻撃が続いている! この調子で三撃目も決まってしまうのかぁ!?』


「はっ! このまま押し通して終わらせてやる!」


「…………ふっ、そうか。すっかり忘れていたな、こんな戦いもあるということを!」


 このまま焔が戦いを終わらせる。誰もがそう思い始めていたその時。牙王の構えが大く変わり、シールドがまるでブレードのような形に変形する。


 突然の変形にも億さず突撃する焔の天炎と向かい合う直桜の牙王。シールドとブレイドを正面に構え、天炎が間合いに入る瞬間を待つ。


『おおっと!? 直桜選手、ここで構えを大きく変更してきたぞ!?』


『あれは……なるほど、マニュアルコントロールにはマニュアルコントロールということですか』


「ははっ、そう来なくっちゃ面白くないよな!」


「さあ、返してみせよう……来い!」


 一体何をするつもりなのか。想像は出来てもその結果までは誰も予想がつかないまま、飛び込んだ天炎が牙王に斬りかかる。


 だが、天炎の刃が当たることは無かった。それは一瞬のことだった。フェイントも本命の一撃も、牙王は繊細な足さばきだけで躱していた。


 刃を躱した牙王は無理矢理体を捻り、常識からはありえない動きで体の向きを直し、ブレードによる一撃を天炎に返した。


「っ!? ちぃっ、あの体勢から的確に反撃を決めてくるなんて……!」


「……これで、二撃目。お互いにもう後はない」


「……ははっ! そうだ、そうこないと!」


 直桜の反撃が決まり、天炎と牙王は共に残り胴部耐久力は四点となった。お互いにもう後がない状況で、両者は刃を構えて向かい合う。


 そこからの戦いは想像を絶する激しさだった。互いに手の内を殆ど明かした状態で、勝利を掴むまで負けないために最善手を打ち続ける。


 どちらかが倒れるその時まで戦い続ける。勝利への渇望が操縦桿を握る手を焦らせ、終わりを焦る気持ちが思考と操縦を僅かに鈍らせる。


「くっ、しまっ――」


「っ、そこだ!」


 


 だが、それは隙ではなかった。一つもミスが許されないこの状況で、陽咲焔の頭は極限の集中状態を振り切るほどに冷静だった。


「……ははっ! こんな大事な場面で、ミスるわけないだろ!!!」


 確実に着地の隙が生まれると誰もがそう思った次の瞬間、天炎が全身から赤い輝きを放ち、それまで出していた最高速を上回る速さを魅せる。


 天炎の動きに合わせて、赤い輝きは光のラインを宙に描く。誰もがその一瞬の輝きに目を奪われ、そして一閃が放たれた。


 胴部を斬り裂く一閃。牙王が防御を構えるよりも早く、その刃は確かに届いていた。天炎は刃を仕舞いながら姿勢を正し、牙王は崩れ落ちるように膝をつく。


 膝をついた牙王をその場に置き去り、勝者である天炎が歩き出す。競技場の中央に立った戦機は、その証を示すかのようにブレードを掲げた。


『……な、な、なんという動きを魅せてくれたんだ陽咲焔!?!? 今日に至るまで、まだあんな物を隠し持っていたというのか!?』


『システムの限界を超えるオーバードライブ、コアシステムの第三段階解放……まさかもう使えるようになっているとは、彼女には驚かされてばかりです』


『勝ち抜き戦個人の部、今年度最初となる四月の優勝者は……学年一位、一年生の陽咲焔だぁぁぁ!!!』


 まさかの展開を迎えた最終局面に、誰もが驚きで言葉を失った。実況席すらそれは例外ではなく、興奮と驚きのあまり一段と大きな声が辺りに響き渡る。


 オーバードライブ。それはコアシステムの第三段階機能であり、一時的に機体の限界を超えて真の限界まで性能を引き出す力。


 通常、一年生での習得はまずありえない技術を見せつけた陽咲焔。学年一位たる所以を見せつけられ、少女たちは改めて彼女の強さを知った。


 こうして、月末恒例勝ち抜き戦個人の部はその幕を閉じた。

――とあるアクトレスのちょっとした話#1


「今回は孤狼こと狼屋直桜先輩についてのお話だよ! 茜ちゃんは直桜先輩についてどのぐらい知ってるかな?」


「噂は聞いています。とある公式戦にて一人だけ全戦全勝を成し遂げたフリーランスの二年生アクトレスがいると」


「おお、ちゃんと知ってたんだね! 去年開催された神威重工刀剣コンテストで、全戦全勝で一位を手にした近接戦最強アクトレス、それが直桜先輩なんだ!」


「エネルギー武装との勝手の違いが勝敗を分けた、というだけではないですよね」


「そうだね! 理解や適応が早かったのはもちろんのこと、近距離での読み合いや動きに関してもかなりの実力者だからね」


「……一筋縄ではいかない相手、ですよね」


「そうだね、でも焔ちゃんを超えるならそうも思ってられないよ! それじゃあ今回はここまで! 次回も涼凪ちゃんの後書きコーナーをよろしくね!」

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