決着――17.悪魔ラモン
魂は切られ、白い化け物は砂となっていく。細かくスライスされた四肢も、アンデッドも、全てユリに関係するものが灰となって空に昇る。まるで成仏するかのように風と共に飛んで行く姿に海斗はただただ見つめていた。
「これで終わったんだね」
隣に立つ真澄は涙ぐんでいた。
「あぁそうだな」
この光景を一生忘れないように、『ドラゴンスレイヤー』と共にただただ見つめていた。
そのとき、灰が肩を優しく撫でる。まるで「ありがとう」と、記憶のユリと同じ優しい声で話しかけられてる感じがして、海斗もつい言葉を漏らす。
「どういたしまして」
隣に立つ真澄を忘れて、ついそう言ってしまい、ハッとする。見ると、真澄がこっちを見ていた。慌てて目線を逸らし、空へと向ける。
「ねぇいま、誰と話してたの」
「誰でもない。ただの独り言」
「絶対嘘。だれかと話していた!」
感動ムードから一変、今度はこの話を突っつき始める真澄。涙は吹っ切れたのか、その目に雫は溜まっていない。
「ただの独り言だから、気にしないで」
「いやいやいやいや。あれは独り言って言えないよ。確実に誰かの声に反応していた。誰なの?」
「誰でもないって」
言ったか言ってないかの水掛け論をしているさ中、ライラが2人の前に立つ。
「おいそこで見ているお前、何者だ!」
指さした方向はビルの中。そこには人間の姿が見えず、誰も居ない。ただライラにはそこに誰かが居るのだと、わかっていた。
「気味悪いぞお前。さっさと姿を表せ」
「バレちゃったか」
その言葉に反応し、シルクハットの人間がヌルッと窓ガラスから現れた。スライムをラケットでプレスしたみたいに、窓ガラスからすり抜ける。
「ユリ、お前を利用させてもらった。それによって、海斗の中に眠る英雄が目を覚ました」
瞬間、海斗の体を数本の木の釘が貫く。
どこから現れたのかわからない。まるで元々そこにあったと思わせるほど自然に現れては、海斗の体を貫通させた。
「………ッ!」
血を垂らすも、痛みが無い。慣れたのか、それとも痛みを感じないほど感覚がマヒしてしまったのか、熱が体を支配する。筋肉が破壊され体の自由を失っても、拳一個分の穴が何個も空いていたとしても、海斗は意識を途絶えることなく空に浮かぶ悪魔をじっと睨みつけることができた。
「英雄はしぶとい」
指をパッチンと鳴らす。
瞬間、地面が揺れ、波が起きる。海を連想させるその地面は突如として突起が現れ、海斗の喉元を突いた。
「………!」
喉に穴が空き、そこから空気が漏れる。ひゅーひゅーと音はなるが、そこに酸素は無い。微かにかき集めた酸素が肺を満たすが、それでは物足りない。
空気を求め喉を強く鳴らした。
「防げないだろ。見えないだろ。特別仕様の攻撃だからな」
「てめぇ」
そこでライラが短刀を片手に飛びあがった。10メートルを飛んだ彼女は、悪魔であるラモンと同じ目線となり、振り下ろす。だが、切ることはできず、にゅるっと空を切った。
「なんでだ」
ライラを手で叩き落した。
地面に撃墜され、彼女が立ち上がろうとしたときにはもう遅い。波となった地面がライラを挟み、踏みつぶそうとする。
「ァァァァァァーー!」
ライラの悲鳴が響き渡った。まだ潰されてはいないが、そうなるのも時間の問題だ。
穴が空いた体では力が逃げ、戦うことはおろか立つことすらままならない。
カルミアとマリーは気絶しているし、ロビンは魔力の使い過ぎでギブアップしている。この状態で動けるのは真澄だが、果たして彼女に勝てるのか。
真澄は、肩を震わし、涙目で後ずさった。手に握る杖に力がこもり、ミシッと音が鳴る。
「驚いたか」
海斗を見下ろすラモン。
「は、腹が……立つ……」
言葉がつまり、声に力が無い。ただただ風のようなその声量に、ラモンは眉間に皺を寄せた。
「腹が立つ? それはおれのセリフだ。ジークが人の女性を助けたいがために世界の均衡を破りやがった。その結果、全ておかしくなった。神も、悪魔も、魔族も、人間も、『意味』を失ったんだ!」
一呼吸おいて、ひとまず気持ちを落ち着かせたようだ。
鋭い目を黒い空に向ける。
「おれはただの人間だったのに、ジークのせいで悪魔にされたんだ。他のやつもそうだ。ロザリオは、ただのオークだったのにキメラの魔獣として姿を変えられ、カルラートは神だったのに魔王として堕とされたんだ」
復讐――そう全ては、900年前に起こした戦争が全ての発端だったのだ。
厄介なものを残してくれた――隣で光る『ドラゴンスレイヤー』を見てそう思った。
「ユリを化け物に変えた理由も、教えてやる! それはな……」
瞬間、ラモンの体が霧散した。1つの白い煙となり、他の空気と同化して透明となった。
「…………」
何が言いたかったのか――そう考えながら、ラモンの場所を凝視し続ける。
煙の中から現れた1人の影。白装束を身に纏い、日本刀を持つ魔人――伊佐義信だ。




