表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/63

決戦――15.クロユリとユリ

「真澄。おもいっきりやれ」


「はい!」


 真澄は思うがままに、杖からピカピカ光る弾を放出させる。

 詠唱も知らなければ、言葉もわからない。しかし、頭に浮かぶ想像を杖を通して具現化することができた。

 マリーの発明がすごいのか、真澄の潜在能力がすごいのか――真澄が的確に出す弾をかいくぐって、巨大化した化け物の足をライラは短剣で切り裂いた。


「グオォ」


 膝から崩れ落ち、顔の位置が下がる。

 ライラは横腹を切りながら裏に周り、首に剣を立てた。

 殺す――短剣を刺そうとしたそのとき


「待ってくれ!!」


 止められた。

『ドラゴンスレイヤー』を持った人間に。


「嫌だ!」


 顔は少し腫れ、口の端から血を流し、服が汚れている。明らかに重傷だ。


「ソイツも助けたい」


「………」


 言葉が詰まる。

 助けたい――だと。ライラは知っている。化け物――いや、ユリしたことを聞いていたから、実際に見ていたから、止めれるわけではない。怒りと復讐がグツグツと腹の中で暴れている。

 ライラは、顔をしかめて、怒鳴った。


「ふざけんじゃねぇ。こいつのせいで、オレらはやべぇことになったんだぞ。わかってんのか」


「………」


 海斗は、何も言えなかった。

 それはそうだ。化け物であるクロユリがアンデッドを操り、ドラグネス王国を破滅に追い込んだ張本人だ。だから、反論されるのはわかっていた。

 それでも、助けたいのだが――言葉が詰まる。


「てか、そもそも助けるってどうするんだよ。策なんてねぇだろ」


「ある」


 その言葉に少々惹かれた。

 ただそれでも、恨みのほうが勝っている。


「だから、なんだってんだ。オレは……」


 言い終える前に、化け物が動き出した。上に乗るライラの足を握って、いとも簡単に投げる。

 真澄が浮遊を願ったことで、彼女の体はふんわりと浮いて、地面へと着地した。


「ギュオオオオオオーーン!」


 腹に響く叫び声。海斗たちの鼓膜にキーンと耳鳴りを起こす破壊力があった。

化け物は、膝から立ち上がって三人と向かい合う。腕を広げ、前傾姿勢のまま口から涎を垂らす。

記憶の中にいるユリはそこにはいない。もう化け物だ。


「………」


 海斗はじっと化け物を見る。


「おい、海斗。ぼさっとするな」


「お、おう」


 これだから戦闘経験が無い奴は、ライラは舌打ちをして化け物と戦う。


「海斗くん……」


 真澄はその言葉を漏らし、ライラの援護に優先する。


「…………」


 海斗はビビっているわけではない。聞いているのだ。化け物となったユリの言葉に、心の声に、『ドラゴンスレイヤー』を介して知ろうとしていた。


「魂を切ってもダメなのか……」


 エカルラートのようにはならないと知り、ならばとロザリオのことを考えたが、それもダメだと知る。

 エカルラートならまだしも、なぜロザリオの方法ができないのだと考えたが、すぐにわかった。ロザリオの場合、マリーの中に居たからできた奇跡であった。魔獣と生きていながら、魔獣に生かされている状態であった。

しかし、ユリは違う。ユリは、化け物と共に生きていたわけでも、化け物に生かされていたわけでもない。ただただ化け物に姿を変えられた――それだけだ。


「…………」


 つまり、救えない。もうクロユリからユリになるという救済を起こしたから、これ以上の救いは無い。

 英雄の生まれ変わりでも、救えない事がある――歯を噛みしめた。


「キュオオオオン!!」


 絶叫ではあるが、それは悲しそうだ。

 気付いたんだね――そう言っているようにも聞こえる。


「わかった」


 『ドラゴンスレイヤー』を握りしめ、ユリと向かい合う。

 理想を捨て、現実を見据える。


「………」


 悲しいけど、つらいけど、そうするしかないのか――悩みながら、化け物となった彼女の元に走った。


「オレはやると言ったらやる人間だ。止めるなよ」


 ユリだけを睨みつけたままライラはそう口にする。


「……止めねぇよ。止めちゃだめだから」


「あっそう」


 そっけなく返事をした後、ライラは激しい戦闘へとまた身を投じた。


「………」


 海斗に倒す覚悟が無い。

 頭に流れる記憶が暖かく、優しい。喜怒哀楽があって、確かにつらい事はあったようだがそれでも思い出と呼ぶに相応しい。

 本当に倒さなければならないのか、どこか諦めきれない海斗に対して誰かが呼んだ。


「海斗くん!」


と。

 声に呼び戻され、現実へと帰ってくる。

 そこには真澄が居た。口を強く結び、こわばった表情の金髪のクラスメイトがそこに立っている。


「なんで戦えないの?」


「それは………」


 言葉が濁る。

 口を開いては閉じを繰り返し、漏れるのは空気のみ。

 正面から激しい戦闘が繰り返され、ライラは防戦一方となっている。それでも、2人の男女に文句を言わず、ただただ攻撃をいなし、反撃のタイミングをうかがっているように見えた。


「こっちを見て!」


 その言葉から、今度は真澄のほうへと目を向ける。


「ごめん」


「ごめんじゃないよ」


 真澄は怒っていた。言葉の覇気がとげとげしく、どれも心の臓を貫くには十分すぎる威力である。


「海斗くん英雄の生まれ変わりなんでしょ。だったら戦うべきなんじゃない?」


「それだと……あの化け物が、ユリが死んでしまうことになるからできない」


 記憶のユリが笑顔を向けてくる。だから、ためらってしまう。もし記憶が流れなければ、彼女があのまま敵で居てくれれば、躊躇なく殺せた。例えそれが前世の仲間であっても、簡単に成し遂げられただろう。

 しかし、できない。ブレーキがかかって、行動しようとするも首紐をくくられた犬のようにその先へと進めない。

 覚悟があれば――否定的な思考になっていたとき、手を握られる。


「………!?」


 咄嗟のことで思考が止まる。

 それをいいことに真澄が口を開いた。


「私は、海斗くんの前世のこととかわからないし、知らない。だから、あの化け物が前世の海斗くんとどんな関りがあったのか全く予想ができないけれど、いまの海斗くんとは関係ないじゃない」


 ない……だと。

 適当なことを言いやがって、海斗が喋れないように言葉を重ねる。


「海斗くんは海斗くんでしょ。もし戦えないなら戦わなくてもいいじゃない。ボロボロになって、傷ついて……そんなに血だらけな海斗くんを私は見たくない」


 だから戦わないでほしい――その言葉に、海斗の表情が柔らかくなった。


「海斗くんは、今まで頑張ったからもう私たちに任せてよ」


 もしその言葉を数年前に聞けたらどれだけ救われたか。

 そう考えてはふと今までがあったからそう思えてるんじゃないか、と考える自分もいる。

 心が軽くなった。傷ついてもちゃんと見届け、手を貸してくれる人がいる――それが救いなのだと知った。


「…………」


 今の状況に当てはめてみると、ユリにとっての救いはクロユリから戻すだけじゃない。

 彼女は死と苦しみを叫び、逃げたいと願っている。それはつまり、死の救済だ。ユリを英雄の生まれ変わりである自分の手で仕留める事こそが、彼女にとって花束になるのではないだろうか。

 だったら、それを見届けつつ、手を貸すべきだ。記憶の中に居るユリをそのままにするならば、目の前にいる化け物のように歪めないのであれば、ここで殺すことが一番だと自信がつく。


「真澄。ありがとう。でも、これは俺が決着を付けなくちゃならない。そうしないと、ユリが報われないんだ」


 最初は戸惑いを見せたもののすぐに理解したようだ。

 すました顔のまま


「じゃあ戦わないとね」


 と言ってくれた。


 記憶の中のユリは魔法を駆使し、入念に入念を重ねた慎重な戦闘スタイルをしている。しかし、いま目の前にいる腕が四本で顔が2つの白い化け物となった彼女は豪快だ。力で勝負し、大ぶりな攻撃を繰り返し、大胆となっている。

 本当に理性を感じさせない。もう人間としての面影が見えなかった。


「………」


 ただ海斗は知っている。彼女がわざと自分を悪者にして死のうとしているのだと、『ドラゴンスレイヤー』でわかっていた。

 必死に隠すのであれば、海斗もそれに乗っかる。魔物に立ち向かう英雄の如く必死な形相のまま戦う。


「………」


 後ろから飛んでくる光の弾がユリの体にぶつかる。瞬間、爆発し煙と炎に包まれた。だが、どこに彼女が居るのか2人にはわかっていた。

 黒煙の中ユリは構うことなく右拳を振ってくる。腕は伸び、7メートル先に居る海斗まで優に届くが、交わし、反撃としてその腕を『ドラゴンスレイヤー』で切断した。

 ライラは背後から高くジャンプし、海斗を飛び越えたあと、一瞬のうちに足元まで距離を詰める。


「……フンッ」


口角の端を尖らせ、短刀で足を切りつける。

 筋を切られたユリは、膝から崩れ落ち、赤黒い液体をダラダラと垂れ流す。


「海斗。こいつは再生する」


「あぁわかってる」


 もう片方の腕を切り、右の顔を落とした。左の顔に向けて刃を立てるが、復活した左拳が目に入り、咄嗟に下がる。


「わりぃ。オレが盾になれば……」


 ライラは危機を判断したのか、すぐに離れ、海斗の元まで寄ってくる。


「問題ないだろ。それよりも次がくる」


 真澄が念じた次の魔法は雷だ。ユリの体に紫のイカヅチが直撃し、黒焦げとなる。口から煙を吐き、ジリジリと音が鳴る。体はだらんと力をなくし、動かない。

 ライラと海斗はここぞとばかりに距離を詰める。先に動いたのはライラだ。攻撃部分となり、かつ復活するには時間がかかるよう細かく切り刻んだ。顔も、腕も、足も再生しつつあった部位を全て薄いハムのようにスライスした。

 その後、遅く到着した海斗は一瞬だけためらいを見せた。そこに白い胴体だけを残し、首と四肢がない肉塊が完成していたからだ。

 ここまでやらなくても、と考えたがこれは戦いだ。戦いに情けは無用。


「…………」


 ユリも同じく黒い炎が心臓部分で燃えていた。

 海斗は意を決して、『ドラゴンスレイヤー』で貫く。確実に確かに力を入れ、念入りにねじ込んだ。


「…………」


 喋れないから叫び声が聞こえないけど、苦しみは見て取れる。剣を押し込まれるたびに体を揺らし、必死に抵抗していた。

 苦しませたくは無かったが、こうするしか彼女は死なないのだと海斗はなんとなくわかっていた。


「…………」


 目を逸らさず、胴体だけを見つめてユリが死んでいく様を見届ける。

 ここで逸らしては彼女も報われない。900年も続く前世の残し物を海斗は自身の手で破壊する。

 記憶の中に眠るユリと、化け物となったユリの2人に向けて


「やすらかに」


 と言葉を漏らしながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ