第七話
お店への道を歩きながら、おばあちゃんの事を思い出していた。
母によると、おばあちゃんは、若い頃から歌うのがとても好きな人だったそうだ。
そういえば、小さい頃は、おばあちゃんの歌ってくれた童謡を聞きながら、おばあちゃんに抱かれていたっけ・・・。
「ありました!」
そう言って、蝋管のケース2つを田崎さんに渡す。
エジソンの顔が描かれた円筒状のケースを開ける。
トイレットペーパーの芯のような円筒部の外側が、茶色い蝋でコーティングされている。
ユリの花を思わせる大きなラッパを抱えてこちらへ歩いてくる。
「え!?大きい!」
大きさは、ゆうに1mはある。
おばあちゃんの家にも、こんな大きなラッパ、置いてあったんだろうか。
おばあちゃんの家では、箱の部分だけしか見たことが無かった。
「蓄音機なんて、普通なかなかお目にかかれないからね。そう思うのも無理はない」
田崎さんが少し笑いながらそう言う。
「蝋管の保存状態は良いようだ。少なくとも外から見た限りでは傷はついていない。
――さあ、うまくおばあさんの歌声が聞けると良いのだけれど。
何分、昔のものだからね。CDなどと違って、上手く再生できるかどうか」
少しのノイズと共に――
―――!
おばあちゃんの声だ―――
「今日は私が“おばあちゃん”になった日。
――由紀へ。生まれてきてくれてありがとう。あなたが幸せな人生を送ってくれることを、おばあちゃんは願っています」
懐かしいおばあちゃんの歌声。
涙が頬を伝う。
良子さんがハンカチを差し出してくれる。
そして、そっと肩に手をおいてくれた。
「私、この数日間、学校に行けてなかったんです。なんかもう、全部がどうでも良くなっちゃって」
「うん。はじめて由紀ちゃんに会った時に、きっと何かあったんだろうな、と思ってた」
よく考えたら、平日の真っ昼間から、まだ10代の子供がお店にやって来ていたのだ。
「学校はどうしたの?」と聞かれて当然の状況だった。
何も言わずに、温かく接してくれていたんだな・・・と今更ながらに田崎さんと良子さんの気遣いに気づいた。
「――明日も、学校の帰りに寄らせてください」
「もちろんよ。いつでも来てね。」
良子さんは笑顔で答えてくれた。
田崎さんも、笑顔を作り、無言でうなずいてくれた。
次の日。
今日も穏やかな晴れの日だ。
「今日は学校、行くから。もう大丈夫」
母にきっぱりとそう告げた。
母はちょっと驚いたような顔をしていた。
「――そう。わかった。気を付けてね」
「うん」
家のドアを開ける。
外では、麻衣が門の前で待っていてくれていた。
彼女に心からの笑顔を見せて、私は外に一歩、足を踏み出した。
麻衣も、ほっとしたような笑顔で私に挨拶を返してくれた。
――もう大丈夫。私には居場所ができたから。
おばあちゃん。行ってくるね。




