早坂 透は引きこもりである。
ねばねば大作戦というなんとも幼稚な作戦名に思わずツッコまずには入られなかった。
「ほんとネーミングどーにかしろよ。つか、ここまできてキノコネタかよ!ふざけんなっ!」
「我は決してふざけてなどは」
「いいや、ふざけてるねっ!大体なんだその笑い方はっ!キャラ付けのつもりか!?いちいちうっとおしいんだよ!」
シリアスな雰囲気の中突然出てきた場の空気を壊すようなキャラの強いウ゛ォルザークにツッコミを抑え切れない。
「うぅ……。我だって一生懸命頑張って考えたのに。」
透の容赦のないツッコミに耐えきれなくなり思わず泣き始めたウ゛ォルザーク。
「おーい、どうでもいいから早く助けてくんね?」
エイダが呆れ顔でキノコの粘着質を身体に纏いながら言う。
「いやまぁ、助けたいのも山々なんだけどさ。」
簡単には手を出せない。何故なら。
「ふふふ……助ける?助けるだと……?ぶははははは!!!小娘よ!自分の置かれている状況を良く考えてみろ!」
そう、助けに行こうにも床がねばねばな為行けば自分もトラップに嵌ってしまう。
「くそっ!」
シンプルな作戦こそハマればその効果は増す、今が正にそれだ。
「ぶはははははっ!!!恐れ入ったか!我がねばねば大作戦にっ!」
こちらが有利となれば一気に機嫌を良くし、再び高笑いを始めるウ゛ォルザーク。
「くそ、どうするっ!?」
一旦退却してスピカを呼んでくるか?いや、それだと時間がかかりその間に何をされるかわからない。
ならばウ゛ォルザークに攻撃をしかけるか?
透は腰に手をやり短剣えを握る。
しかし。
――できねぇ。
生まれてこのかた喧嘩など暴力とは無縁の生活を送ってきた透にとって相手を傷付ける行為を行う勇気はなかった。
もし短剣を振るってウ゛ォルザークを殺してしまったら?そんな想像が頭を過ぎり短剣を抜く事はできなかった。
「ぶははははは!!!どうやら我が策を破る術はないようだなっ!!!」
勝利を確信し高々と笑い声をあげる。それに返す言葉はなく、ただ舌打ちをするしかなかった。
「…………それにしても貴様、我を前にしての気丈っぷり、中々のものだ気に入ったぞ!どうだ?我に仕えてみないか?我はお前のような奴を好いていてな。」
「なっ?」
「どうだ?ん?褒美なら山ほどくれてやろう。」
ウ゛ォルザークの甘い誘惑に心が揺さぶられる。
この男、色々残念な所はあるがそれでも貴族だ。
彼の配下になれば安全で安心の生活が送れるかもしれない。
少なくとも盗賊なんかよりはよっぽど良い日々を暮らせるだろう。
「……本当に配下にしてくれるのか?俺を助けてくれるのか?」
「もちろんだ。我の言葉に二言はない。」
どうやら本当に配下にしてくれるらしい。
「トオル……。」
エイダが心配そうにこちらを見つめてくる。
透は今、人生において最大の決断に迫われている。
このまま盗賊になりいつ死ぬかわからない世界で永遠に過ごすのか、それとも貴族の配下として安定した平穏で平和な日々を送るのか。
「さぁっ!どうする盗賊風情よっ!!!」
選択は二つに一つ。
――それなら。
「だが断るっ!」
早坂 透は引きこもりである。
様々な社会的ストレス、馴染めない環境、自分の劣等さ、そんな理由から彼は自分の殻に閉じこもってしまった。
毎日昼過ぎに目覚め漫画やライトノベルを読んで時間を潰し小腹が減れば買い置きしてあるカップラーメンを喰らい日が落ちれば新作エロゲを日が昇るまでプレーする。
そんな自堕落な生活を平穏で平和な日常だと自分に言い聞かせ過ごしてきた。
容姿も勉強も人並み、運動に至っては並以下、コミュニケーション障害で三次元の女の子とは面と向かって話せやしない。
どうしよもなくひ弱で駄目な奴、それが早坂 透だ。
だがしかし、そんな透にも一つだけ譲れない事がある。
こんなにひ弱で駄目なクソ人間でも、たったひとつだけ、これだけは譲れない事がある。
――それは。
「女の子一人助けないで、何が男だっ!!!馬鹿野郎っ!!!!」
グルっとウ゛ォルザークに背を向け、地面に手をついた。
「なっ!?一体何をするつもりだ貴様っ!」
「なにするって?こうするんだよっ!」
四つんばいの姿勢で、ねばねば地帯をぺろぺろと舐め始める。
ウ゛ォルザークはこのねばねばは強化されたデストロイドメタルキノコを使用したと確かにいった。
そのキノコなら昨日カトレアの料理で美味しく頂いたばかりだ。
――それなら。
「こうして舐め取ればっ!」
ぺろぺろと世話しなく舌を動かす透。
「や、止めろっ!お腹を壊すぞっ!」
「うるせぇっ!」
透に圧倒されたのか何故か弱腰のウ゛ォルザークを一蹴。
「お、おいトオル止めろっ!あたしのことはいいから早く逃げろっ!」
「黙ってろっ!今助けるからなっ!」
ぺろぺろとエイダの、周りの粘着質を舌で取り除いていく。
「ちょっ!止めろって!くすぐったいからっ!」
ぺろぺろぺろぺろっ!
「本当にくすぐったいからっ!っておまっ指をしゃぶるなぁっ!」
ぺろぺろぺろぺろっ!
「んぅ、くすぐったいってぇ……。やめろよぉ……。」
ぺろぺろぺろぺろっ!
「はぁ……んん、止めろぉ……。止めろっやめって、止めろバカー!!!」
大分舐め取れたのか、ガバっとエイダが勢いよく飛び起きた。
そして。
「トオル、後で覚えとけよっ!…………それと、ありがとっ。」
「あ?なんて?」
語尾をごにょごにょとモジモジ話すから良く聞き取れなかった。
「ああもうっなんでもねーよっ!んなことより早い所聖剣持って帰ろうぜっ!」
透からプイッと顔を逸らしながら言う、その横顔はほのかに熱を帯びていた。




