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進入っ!隣のウ゛ォルザーク邸っ!

 数匹の番犬に行く手を阻まれ立ち往生している透達。


 「完全に囲まれたな……。」


 周りを見渡せば番犬達が低く喉を鳴らし今にも飛びつきそうな勢いだ。


 だが、スピカは何処となく楽しげな表情を浮かべて。


 「ふっふっふ、どうやら『アレ』を使う時がきたようだね。」


 「そうだな、『アレ』使うか。」


 「おい、『アレ』って何だよ。」


 一人だけアレの正体を掴めていない透。


 「トオル……鼻塞いどけよっ!!」


 バッとエイダ達が取り出したのは何処かで見覚えのある水風船の様な球体。

 それを番犬達に思い切り投げつけた。


 「おらぁっ!」


 パンっと破裂音が鳴り球体が爆発する。


 すると。


 「うわっ!くせっ!」


 球体の正体……それは何時ぞやアジトを硫黄臭くさくした物だった。


 「くぅうん。」


 硫黄臭爆弾をもろに喰らい番犬達は一斉に怯む。

 犬は人間より嗅覚に優れており臭いに敏感な為これは相当堪えるはずだ。


 「おしっ!このまま突っ切るぜっ!」


 硫黄の腐卵臭に包まれる中、怯む番犬を他所(よそ)に一気に突っ切る三人。


 そして眼前には。


 「見えてきたよ!」


 スピカが指差すそれはウ゛ォルザーク邸の屋敷、その距離約二百メートルといったところか。


 「なぁ、今思ったんだけど屋敷にはどう入るんだ?」


 「ああん?……そうだな、あの窓ガラスぶち破っていくぞ!」


 エイダが示した窓ガラスとは一階の今透達と対面している大きな窓ガラスの事だろう。


 「はぁっ!?マジでいってんの!?」


漫画や映画等では良くありがちなシーンだが、リアルにやるとガラスの破片が飛び散って危ないに決まってる。


 屋敷との距離、残り百メートル。


 「無理だって!普通に行こう?な?」


 「ごちゃごちゃうるせーな。覚悟決めろ!」


 屋敷との距離、五十メートル。


 ここまできたらやるしかないのか、やるしかないよなぁ。


 ゴクッと生唾を飲み腹を(くく)る。

 もう屋敷は目の前だ。


 そして。


 「行くぜっ!」


 勢い良くガラスに猛突、ジャンプして身を丸くし腕を顔の前にクロスする形で顔を守って。


 そして。


 パリーンっ!!!


 勢い良くガラスが砕け散り、その破片が月の光に照らされキラキラと光る。


 空中で半身になり着地の瞬間華麗に受身を取り無事潜入するエイダとスピカ。


 一方透は。


 「どわしっ!」


 着地に失敗に又もや尻から落ちた。


 「痛ってて。」


 痛む尻に手を置きながら立ち上がる。運良く破片などは刺さらなかったようで無傷のまま進入する事が出来た。


 どうやら今いる場所は丁度大広間のような場所様で。ここにも幾つもの部屋があり、玄関から向かって正面には二階に続く階段がある。


 「んじゃ計画通りスピカは二階を頼む。あたしとお前は一階だ。」


 「らじゃー。」


 スピカが何時もの様に気のない返事を一つ。透はこんな時でも平常運転な彼女に呆れつつも。


 「……死ぬんじゃねーぞ。」


 そう言うと一瞬驚いた様子で目を丸くしながらもニコリと表情を変えてから。


 「うん、わかったよ。」


 そんじゃあねーっと手を振った後、二階に駆けて行くスピカ。

 その背中を見送った後で。


 「そんじゃああたし達も始めるぞ。」



 一階の部屋は全部で五部屋、地図では屋敷の外部は記載されていたが内部までは書いておらず。(しらみ)潰しに部屋を探索するしかない。


 先ず一番手前の部屋から探索開始。


 ドアを開け進入する。薄暗いそこはどうやら食事をとる場所のようで長方形型の大きなテーブルと高級そうな椅子が並べられているだけ。


 どうやら外れのようだ。


 二つ目のドアは先程の部屋と繋がっている為ここも違う。残り三部屋。


 その後二部屋もお目当ての物はなくこのフロアにあるのは後一部屋になってしまった。


 「んじゃ、いくぞ。」


 ふぅーっと呼吸を整えてからエイダがドアノブに手をかける。


 すると。


 「ん?」


 ドアノブはガチャガチャと音を立てるが扉は開かない。

 どうやら鍵が掛かっているようだ。


 他の部屋は鍵は掛かっていなかったがこの部屋だけは違う。

 これはなにか期待できようだ。


 しかし。


 「どうやって開けるん」


 ドシーンっ!


 「あ?なんかいったか?」


 どうやって開けるのか聞こうとした時、エイダが思い切りドアを蹴破った。


 盗賊ならピッキングなどして開けるのかと少し期待していたのだが。


 「……ほんと頼もしい奴だな。」


 「あん?」


 「いや、何でもないから。行こうぜ。」


 「んだよ、さっきから。」


 会話を終了させてから蹴破ったドアを踏んで部屋に入る。

 そこはこれまでの部屋とは違い、窓がなく明かりが入らない為真っ暗だ。


 床や壁に手を着き慎重に辺りを探ると。


 「ん?これは……。」


 床を這っていた透の手が何かを踏みつけた。

 楕円状の手のひらよりは小さくそれでいて冷たいこの物体は……。


 「おいエイダ!なんか見つけたぞ!」

 

 早速エイダに報告。物体を手に取りエイダに渡す。


 エイダが暗闇の中それをまじまじと眺め、ペタペタと感触を確かめる。


 すると。


 「……これ『金貨』じゃねーか!」


 「えっ?まじっ!?すげー!!!」


 透が見つけたそれは上流階級の象徴ともいえよう金貨だった。

 それも手を伸ばせばまだまだある、どうやらここは金庫だったらしく闇に慣れた目で見てみれば目の前に金貨の山がそこにはあった。


 「すげぇよ!でかしたぞ!トオル!」


 山積みになった金貨にテンションが上がったのかガバッっとトオルに飛びつくエイダ。


 「ちょ、何だよ急に!近いって。」


 「へ?っ……だああああ!!!何してんだあたしはっ!!早く離れろよ馬鹿っ!!!」


 ドカっと思い切り殴られ中を舞う透、そして壁に思い切り激突。


 シンと辺りには静寂が広がる。


 「おい、トオル?」


 エイダが透を呼ぶが反応がない。


 「おーい、聞いてんのか?」


 再び問うが返事はない。


 少しやりすぎたのか、反省しつつ金貨を回収しながら透を探すエイダ。


 一方透は。



 「…………。」



 透は目の前の光景に感動、いや余りにも神々しい光景に言葉を失っていた。


 エイダに吹き飛ばされ次に目を開くと『それ』はあった。

 部屋の中央にショーケースに厳重に保管されている『それ』。




 『聖剣』は微弱な光を帯びながら威厳のある(たたず)まいでそこにあった。

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