忘れていた温もり
僕はなぜここまで馬鹿にされて生きていかねばいけないのだろう。ただでさえ汚れた身に砂を掛けられながら、僕は思った。
「なんで税を払ってないお前らが施しを受けようとしているんだ!」
「ここは勇者になる子どもための炊き出しだぞ!」
「儀式を受ける資格もない奴は帰れ!」
スラムの他の子が、5歳の子なら誰でも街で施しを受けられると言った。全ての5歳児の子どもに選定の儀を受けさせるために国が炊き出しをしているらしい。それを聞いた僕はすぐ街に向かった。3日ぶりの飯にありつくためだ。街はいつも賑やかだけど、今日はいつもよりも眩しくて。いつもならスラムの子と蔑まれる僕でさえ、5歳であると告げると道行く誰もが僕を歓迎してくれた。
町の中心部、教会からほど近い路地で行われている炊き出し。中には僕の見たことがない食べ物もあり、何度もお店の周りを往復してしまった。
「何食べようかな。」
ここ数日何も食べてないからまずは粥か?スープか?いや、体力をつけるために肉料理も捨てがたい。そういえば貴族が食べるというサンドウィッチ?ケーキ?はどこかにあるのだろうか。でもまずは飲み物を貰いに行こう!そう歩き出そうとした僕を反対側に引っ張った者がいた。先ほど僕に砂を掛けた子どもたちだ。
顔に被った砂を払いながら僕も反論する。
「僕は5歳だ。僕にだって儀式を受ける資格がある」
そう言うと、真ん中の一番体格の良い子が僕を見て鼻で笑った。
「はあ?こんな小さい奴が俺と同じ年なわけないだろう。」
「そうだそうだ!こいつ、俺の妹よりも背が低いぞ」
「たかだが施しを受けるために神聖な儀式を汚しやがって。身分だけじゃなく性格も卑しいんだな」
「お前なんかこうしてやる」
そう言うと先ほどの子が僕の肩をギリリと掴み、思い切り後ろへ押した。ああ、これは頭を打つだろうなと僕は覚悟した。けれど、そうはならなかった。
「これはいかがいたしましたの?」
倒れかけた僕の体を抱きとめてくれた女の子がいた。蜂蜜のように甘く、闇に差す後光のように眩しい髪の女の子だ。
「そいつが儀式を汚そうとしたから俺が罰を下してやったんだ。俺は信心深いミラ様の信者だからな」
僕を突き飛ばした子が女の子に自慢するように言った。この美しい子に少しでも褒められたいのだろう。対して、取り巻きの子たちは僕を非難していた勢いを失い、目の前の女の子に見惚れている。彼らを無視して女の子は僕に聞いた。
「あなた、お名前は?今はおいくつ?」
「年は5歳。名前は……ない」
「そう」
僕を立ち上がらせた女の子は僕と自身の服を軽く払い、彼らに向き直る。
「この子は自分の年齢が5歳と言っているわ。なら、儀式を受ける資格はあるはずだわ」
女の子の思わぬ反論に男の子たちが怯んだ。けれど、ここまできたら引っ込みがつかないのだろう。
「いいや、そいつは嘘をついてるんだ!」
俺を指差し、睨みつけながら叫んだ。
「だって、同じ年でそんな小さいやつ見たことない!」
「あなた、人を見る目がないのね。よっぽど友だちがいらっしゃらないのかしら」
「どういうことだよ!」
「人の成長はそれぞれで、あなたみたいに背の大きな子どももいれば、この子のように小さな子もいるってことよ。ましてやこの子はこんなに痩せているわ。」
女の子が優しく僕の手を握る。スラムで育った僕の手は爪には泥が入り、皮は硬くなっていて、決してこの子のように柔らかい指先に触れていいものじゃない。この子は身なりも丈夫で、きっと良い所のお嬢様だ。だから、この手はすぐにでも離さなければいけない。頭では分かっている。けれども、僕は久しぶりに感じた人の温もりに、思わずその手を握り返してしまった。




