「頭カチ割れ」
「さて、長話をし過ぎましたね」
セルヴィアンが拘束具の横へ回る。剣の切っ先が、一本のロープに添えられた。あれが切れた瞬間、刃が落ちるのだと、本能が理解する。
「嫌だ! 」
この10年、生き延びる術を探しながらも、それでも心のどこかで死と覚悟していた。
「死にたくない!」
けれど、いざその時が来ると理解した。あれは覚悟なんかじゃない。ただの諦めだったのだと。
「助けて」
溢れる涙を抑えることもできず、ここに来るはずのない彼の名を叫ぶ。
「助けて、アレクス!」
刃がロープに触れる――そう思った、その瞬間。
「ミコ!!!」
ドンッッッ!!!
扉が蹴破られ、轟音とともにアレクスが飛び込んできた。
「遅かったじゃない、アレクス!」
ミラがアレクスに駆け寄る。が、アレクスは彼女に剣を構えた。
「あなたでしたか、ミコの首を落したのは」
「やだ、まだ落してないわよ?」
くすり、とミラが笑った。私に近づくとそのまま顎を掴み、無理やり顔を上げさせる。
「ほら、ちゃんと繋がってるでしょう?」
無理矢理引っ張られ、肩に痛みが走る。
「でもあなたが遅すぎるから、これの首を落としてしまうところだったわ」
「ミコを解放してください」
「やーだ」
「ではあなたを殺すしかないようですね」
低く押し殺した声とともに、アレクスの剣先がミラを捉える。
「ああ、アレクス」
ミラは目を見開き、大げさに声を上げた。まるで恋人に裏切られたかのように。
「あなたの心も、体も、子どもの頃から可愛がってあげたでしょう?」
一歩、また一歩。ミラがアレクスににじり寄る。
「それなのに——どうして、わたしに逆らうの?」
「あれを“可愛がる”とは言いません」
水音ひとつで崩れそうなほど、張り詰めた空気。それでも臆せず、アレクスは言い放つ。
「あなたのそれは、愛ではない。ただの呪いだ」
ミラの瞳が見開かれ、顔に張り付いた笑みはみるみる歪んでいく。
「アレクスが私を否定する?なぜ……どうして……彼がそんなこと言うはずないわ。アレクスが私に逆らうなんて、絶対にありえない」
逡巡のあと、ミラの右手に魔力が渦巻き、赤い光が指先からほとばしる。
「そうよ……また、アレクスを選び直せばいい……。ミルヴァハトの時のように……アレクスの魂は私のもの……!」
アレクスは剣を構え、魔法の奔流を弾く。衝撃が壁を揺らし、祭壇の一部を粉砕した。
「待って、アレクス」
セルヴィアンはすでに抵抗する気を失い、ミラを助ける素振りも見せない。
私は緩んだ拘束具から体を抜き、祭壇から陶器を掴んだ。
「なるべく体は傷つけちゃ駄目!女神の本体は首から上なの!」
手あたり次第、魔法の奔流に向かって祭具を投げつける。粉砕された破片が壁に跳ね返り、ミラの足元をかすめる。でもこのままじゃ、埒が明かない。そう思って部屋を見回して——見つけた。それはギロチンよりも前に使われていた、伝統的な処刑道具。
頭をよぎるのは、ノロクビの制作者の名前。
「何百年も、同じ男に執着するなんて、気持ち悪いんだよ、オバサン」
——頭カチ割れ!私は躊躇なく、斧を振り下ろした。




