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【11作品】クズと吸血鬼と青い春  作者: あぱ山あぱ太朗
2章 吸血鬼・花火はどうしようもないコミュ障である
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2-4

「ほんとだ! 博多風ラーメンって書いてる!」

 オーバーサイズの黒パーカーに着替えた花火は、ダボダボの袖をぶん回しながら大騒ぎしている。飛んだり跳ねたりと忙しい。

 ちなみにこの女、下に何も着てない。さっきの服の上からパーカーを被っただけだ。

 だいぶ攻めたエロい格好だが、こうもギャーギャーうるさいと何も感じない。

「落ち着け。酔っ払い」

 今から行く店にはそれなりに顔を出す。出禁とかにはなりたくない。早稲田通り沿いでひっそり営業している外装が黄色尽くしのラーメン屋。

 ここのとんこつラーメンは『普通』に美味しい。

 決して悪い意味ではなく、その素朴さが何故か癖になってしまう。まるで伴侶のように心地よいラーメンなのだ。

 俺はこの謎の中毒性に抗えず、二週間に一回はフラッと立ち寄ってしまう。

「ここが英吉の行きつけなんだー」

「花火が気に入るかは分からないけど、俺はこの店のラーメンに取り憑かれている」

「いや、言い方! もっと味の傾向とかないの!?」

「言葉には出来ない。パッションというかマインドなんだよ」

「ラーメンの話をしてるんだよね!?」

 これはもう食べた人間同士でしか理解し合えない。あとは花火がそれを感じ取れるのか、それだけだ。

 花火を連れて店の中に入る。店内にはカウンター席とテーブル席があり、他にお客さんがいなかったこともあってテーブル席に案内された。

 そのまま店の中にある券売機に向かいメニューを選ぶ。

「あ、こっちでは『博多ラーメン』表記なんだ」

「そこはツッコんではいけない。とりあえずこれを二つ頼む感じで――」

「ちょ、待って!? 瓶ビールあるじゃん! ここって飲めるんだ! え、神なの? 英吉、瓶ビールも追加で!」

「おい、まだ飲むのかよ! 人の金でも遠慮ないな!」

 一度も触れたことない『瓶ビール』のボタンを押して計三枚の食券を出す。麺の硬さは二人とも「カタメ」にして、あとはラーメンが完成するのを待つのみ。

 先に届いたのは瓶ビールだ。グラスは当然一つです。

「うっしゃー、英吉。お酌してー」

「嫌でーす」

「今から成人女が店内で泣き騒ぐところ見してあげよーか?」

「どんな脅しだよ! ……ったくよー」

 臆面もなくやばいことを宣言する頭おか女。完全なるモンスターである。マジで何をしでかすか分かったものじゃないので、リスクヘッジとして渋々従う。

「ちょー、ラベルを上にして注ぐんだよー。あ、早い早い! 傾けるのが早いって。泡だらけになっちゃうでしょうがー」

「ドタマかち割るぞ」

 ちょうど手にビール瓶を持っている。あまりイラつかせないでほしい。

「冗談だって、ありがとー。んじゃ、かんぱーい!」

「あぁ、乾杯」

 水が入ったコップを掲げて、花火のビールグラスに軽く当てる。

「ぷっはぁー!! うまい!」

「おっさんかよ」

「ひど! こんな美少女なのにー」

 あらためて正面の女をまじまじと観察する。酒で酔っていることもあってか、表情が豊かになっており、クールな印象が抑えられて可愛らしさが増していた。

 トロッとした目、赤く染まった頬、全体的に桃色のオーラが妙にいやらしい。

「けど、肝心の中身がこれじゃあなー」

「ちょっと、どういう意味なのよ!」

 見た目に騙されないでTシャツを作成して、花火に着させてやりたい。

 そんなやり取りをしていたら、お待ちかねのラーメン二杯がテーブルに到着する。

「よし、来たな」

「やったぁ(ハート)! この豚骨の匂いが堪らないわね!」

 黒い丼の中には白濁したスープ、細い針金のような麺、中央には大きなチャーシューが一枚トッピングされ、脇を固めるのはノリと刻みネギ。見た目は非常にシンプルだ。

 肝心の味については花火の反応を待とうじゃないか。

 いただきますと呟いて、花火はスープを掬って口に含んだ。


「……っ! な、なるほど!」

「はは、そうなるよな」


 その反応を待っていた。俺も最初に食べた時はそんなリアクションだったな。

 第一声は「なるほど」なんだよ。そこから麺と一緒に二口三口と嚥下すると今度は「ん?」という感じになる。そうそう、まさしく今の花火のように。

「あれ、なんか止まらない……」

 段々と麺を啜るスピードが速くなり、止まらなくなっていく。この段階まで来たら最後のトドメである。

 これで花火も完堕ちだろう。さぁ、来い。こちら側へ。

「卓上の紅ショウガを入れてみてくれ。あとは好きな調味料で調整するだけでいい」

「りょ、了解!」

 花火はただ俺の指示に従って紅ショウガを投入する。そして一口。


「あ……っ!」

「伝わったか?」


 うんうん、と頷く花火。ここからは各々の自由だ。好きにすればいい。最初の数口と紅ショウガを入れる一連の流れ。そこに全ての答えがある。

 それは語られるものではなく、ただ示されるものなのだ。

「本当にこれはパッションね……」

「そう、パッションなんだ」

 こうして意味不明なことを言い出す人間が誕生する。

 そして、こいつらは猛烈にこのラーメンへと吸い寄せられてしまう。その原理については、現代の科学をもってしても解明することができない。

 俺たちはそんな魔性(?)のラーメンを一心不乱に啜り続けた。


「よーし、じゃあ今度はハイボールもらおー」

「どんだけ飲むんだ……。しかも、高校生の金でさ」

 ラーメンを食べ終えたタイミングで瓶ビールが空になる。これで終わりかと思いきや、花火は「お願い(ハート)」としなを作って現金を要求してきた。

 半ば強引に手にした現金を持って券売機に行き、お目当ての酒を注文していた。

「いやー、よかったね。ここのラーメン」

「だろ?」

 二人ともスープを全て飲み干している。

 博多『風』ではあるので替え玉も頼めるのだが、個人的には一杯くらいが丁度いい。それは花火も同じだったようだ。

「……なんかさ、こういうのも青春っぽくていいよね」

「なら酒を飲むなよ。青春から程遠いものだぞ」

「いや、それは無理な相談だねー」

 なんてくだらないことを言いながら笑い合う。まぁ、ちょっと青春っぽいかもな。

 青春――そのワードから、自然と話題は学校での話になる。花火の頼んだハイボールが届いた後に今日の反省会が始まった。

「周囲からは元・不登校って認識だからなー」

「うぅ、茉莉ちゃん……! もっといいバトンを受け取りたかったよー。しくしく」

 花火の意志は関係なく、どうやっても色眼鏡で見られてしまう。

「ぶっちゃけた話、しばらくは様子見が丸いとは思うけどな」

「でもでも! 今のままじゃつまんないし!」

「駄々こねんなよ。……だけど、明日は風香のやつが声を掛けるとか言ってたぞ」

 風香なら憐憫や同情ではなくて、等身大で会話に応じてくれるはずだ。

 それだけで少しは気分転換になるんじゃないだろうか。

「あー!! あの委員長ちゃん?」

「そう、巨乳の」

「神様ってほんと理不尽」

 花火は自分の胸にそっと手を当て、虚空を見つめながら呟く。戦力差は歴然だからな。何かと思うところがあるのだろう。

「胸のデカさとは対照的に態度は小さいぞ。わりと苦労人なんだよ」

「英吉って彼女と仲が良いよね。タイプは全然違うのに」

「どうだろうな。バイト中に昔は苦手だった、とか正面切って言われたけど」

 パッと見の印象通り、俺と風香の相性は決して良くはないんだと思う。

 だけど、不思議と今は一緒にいることが多い。もちろん士郎って共通の知り合いがいたり、職場が同じってのも大きいんだけどな。

「どうやって仲良くなったの……?」

「さぁ? 今でも果たして仲が良いと言っていいのか」

「曖昧だなー」

 ある地点から『友達』という資格が手に入るわけでもない。なんとなく一緒にいて、居心地が良くて、そういうのの積み重ねで今がある。

「とにかく試しに喋ってみろよ。いい奴なのは保証する」

「それは言われなくても分かるけど……風香ちゃんってどんな子?」

「誰にでも平等。そのせいで消耗しているって感じか」

「よく見てるんだね、意外と」

 花火がやけに驚いた顔をしている。失礼な話だ。

「気になる女子は事前にリサーチをちゃんとかけるんだよ」

「でも、風香ちゃんって彼氏いるんでしょ?」

「悔しいことにな! 志村士郎って小姑みたいなやつだ! ……けど、幼馴染ってだけはある。風香の弱さをちゃんと分かって、しっかりフォローしている」

 あいつが風香に告白した場面に訳あって遭遇してしまったのだが、なかなか漢らしいことを言っていた。同性ながらあれはカッコイイと思う。

 ま、まぁ? その数千倍、数万倍、数億倍も俺はカッケーんだけど? 

「何だかんだ認めてるんだねぇ」

「それは否定しない。あの二人は俺と違って、マジでいい奴らだからな」


「…………あーしは英吉もいい奴だと思うけどね」


 花火が何やら小さな声で言葉を発したが、俺の耳までは届かなかった。前々から思っていたが、こいつは聞こえないように呟くのが上手すぎる。

「聞こえるように言えよ」

「べっつにー? 英吉には関係ないもーん」

「あーそうかい」

 花火は「そうですよー」と憎たらしく返事をすると、ジョッキグラスを傾けてゴクゴクと酒を流し込む。豪快すぎる。

 せめて、もうちょっと可愛くは飲めないものかね。

「けど、おかげで風香ちゃんの人となりが少し分かったかも」

「そりゃ良かった。なんか彼氏がかまってくれなくて欲求不満っぽいから、その辺の愚痴を聞いてやれば喜ぶと思うぞ、たぶん」

 今日のバイトでは詳しく聞けなかったが、思うこと自体はあるっぽい。

「なんですと!? それなら安心して! 夜の世界でドロドロな恋愛を見てるから、あーしは恋愛マスターと言っても過言ではないよ!」

「うわー、ちっとも安心できねー」

 花火のそれは極めて局所的かつ限定的な世界での人間模様だろ。高校生の甘酸っぱい青春とは対岸にある。

「まぁ、かくいうあーしも恋愛経験は無いに等しいんだけど……」

「例の〈魅了〉頼りだと、駆け引きもクソもないもんなー」

「ほんとそれー。いざとなれば操れるから、恋愛的なドキドキが発生しないのよ」

「んで、処女を拗らせていると」

「う、うっさいわね! ほんと生意気!」

 まさかの生娘だった。わりと適当に言っただけなんだが。

 ド偏見だけどこの見た目にしては珍しいよな。仮に経験人数が三桁とか言われても、驚きはしないもん。

「まずは人間性を磨くのが一番だな」

「殴るわよ!」

「お淑やかさも追加で」

「ムキー!!」

 わーきゃーわーきゃー騒がしい。

 この後も酔っ払いとの生産性ない会話は一時間近く続いた。その間に三杯もハイボールを注文され、思いがけない出費に辟易としてしまう。

 さすがの花火も「今度なんか奢るから」と言っていたので、次に二人で外食する際は高級焼肉を食べに行くと心に決めた。

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