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鳥居の杜の  作者: WR-140
14/37

親戚は選べないよね

なんか変な建物だね、イチハ。

「ああ。塀を見た時は日本家屋だと思ったが、これは和洋折衷というか、ごちゃ混ぜに近いな。」


基本、和風の2階建てなんだけど。

後から増築したらしいところは、洋風っていうか、レンガの壁だったり、出窓や小さなバルコニーがついてたり。

屋根瓦も、ある部分は和風なんだけど、別のところは、うーん、なんなの?この短いオレンジ色のパイプを半分に割ったみたいのは?

「これも瓦ではある。コロニアル様式とかいう、外国風のな。しかし、和風の屋根にいきなりこれを乗せるのは少々無理があるだろう。しかも、こっちは切妻、反対が入母屋って…。」

それ、どういうこと?

「つまり、屋根の造りも統一感ゼロってことだな。単なる悪趣味じゃなくて、あまりにチグハグで意味をなさない感じだ。それでいて、仕事は丁寧だし材料も高級だ。ここまでくると、シュールですらある。」

そうなんだ。

ドレスの上から打掛を羽織ってキャップを斜めにかぶる、みたいな?

「近いな。互いの持ち味を損ねるって意味で。」

改めて眺めてみる。

うん、やっぱヘンでしょ、これ。

私は、少なくともこんな建物に住みたいとは思わないよ。

「だが…ふむ。これはこれで、全く意味がないわけではなさそうだな。」

どういうこと?

「風水的な、又は呪術的な意味があったんだろうな、過去には。だが、増築を重ねるうちにその意味も失われて行ったように見える。」

これが?

ただの変な建物にしか見えないけどなあ。

その意味って、どんなこと?

イチハは、葉っぱの端っこをちょっと曲げて、ひらひらっと捻った。

人間だったら腕組みでもして考え込んでるみたいなことかな。

「防御だろうか。あるいは隠蔽、遮蔽かも知れない。大陸のふるい術式と、いまどきの呪師のそれが混在している。結果はカオス、だが。」

つまり役に立ってないってことだね。

何となく納得だけど。

あれ?誰か来た。


私たちがいるのは門から入ってすぐの場所、玄関がよく見えるけど、その人たちは庭の方から現れた。

白い着物を着た、長い髪の女の人と、背広姿のおじさんだ。

女の人はまだ若い。おじさんの方はどっちかというと、おじいさんに近い感じ。

テレビとかに出てくるナントカ大臣みたく、偉そうにするのが得意な人に見えるよ。あんまり好きじゃないタイプかな。

だけどそのおじさんは、今は偉そうな態度じゃなかった。

汗までかいて、なんか必死に若い女の人に訴えてるみたい。

〝どうか〟とか、〝何とか〟みたいな言葉を乱発しながら、女の人を引き止めようとしてる。

女の人は、何も喋んない。綺麗な顔立ちなんだけど、表情がなくて、ちょっと怖いかんじかも。

能面みたい、とかいうんだろうね、こういうのって。ね、イチハ?


そこで気がついたんだ。

イチハが変だってことに。

ねえ、どしたのさ、イチハ?


答えが返るまでにちょっと間があった。

「あの女。」

ん?タイプとか?

「冗談を言ってる余裕はない。いいか、気づかれたら、全力で逃げろ。」

はっとした。

ブンブンいう虫の羽音みたいな、間が抜けた声なんだけどさ、イチハが真剣なのは私にもわかる。

イチハは、女の人だけに注目してるみたいだ。

おじさんなんか眼中にない感じ。

偉そうなおじさんは、ほんとに汗をかきながら女の人に訴えていた。

「ましろ様!せやからどうかお願い致します。ご本家さまに是非とも拙宅へお越しいただけるように、何卒お取りなしを。この久世那宗一郎、一生のお願いでございます。」

そんなことを言いながら、おじさんはその場に土下座した。

何これ。ドラマじゃないでしょ!リアル土下座初めて見たけど、結構迫力あるよね。

だが、ましろさまって呼ばれた女の人は、動じる様子がない。

門の前に立ち止まって振り向き、久世那っておじさんを見下ろす。

冷たいってより、感情のない目で。

「何と仰っても、我があるじさまがお越しになることはございません。私はそれをお伝えに参った使者に過ぎませんから。では、これで。」

ましろさまは、淡々と背を向け、門から出て行った。

後には呆然とした久世那おじさんが残されたわけだけど。

ちょっとの間、這いつくばった姿勢でいたおじさんは、なんだか不穏な顔つきでゆっくりと立ち上がった。

「えい畜生、あのど腐れ女!本家の使いやからて、どんだけ偉そうにしさらすんや!そもそもワシを誰やと思とるんじゃ?これでも与党の重鎮、あんな使用人ごときにあたま下げんなん謂れはない!大体、本家なんてモンがまんだ存在してるいうことが、まずうさん臭いやないか?そうや、それからしておかしな話やないかい!」


やっぱ嫌いだ、この人。

土下座までしといて、この変わり身の速さとて、何なの?

「まあな。政治家なんぞこんなものだろうさ。嘆かわしいのは、コイツがおまえの父親の血縁って事実だ。」

てことは、私の親戚…?

え、で、でも!

だとしてもよ、お葬式にも来なかったんだもん!

他人よ、他人!!

「正確には、おまえの父方の祖父と、この男は従兄弟だ。」

そ、そんなこと知りたいとも思わないよ!


私の動揺をよそに、久世那ナントカはまだ呪詛を吐き散らしていたが、やがて大きなため息をひとつついて、玄関から家の中に入って行った。

あんなのがお父さんの親戚だなんて!

ねえイチハ、でも、本家がどうとかって、何なの?

「さあな。だが、関わり合いにならないように注意する必要はある。あの女、ましろとか呼ばれてたが、アレは人間じゃないぞ。」

人間じゃないって言われてもなー。

なんかさあ、イチハとか、クロハヌシも人間じゃないし。

あんま危機感がないんだよね。

ウツロみたいなのには、正直もう絶対会いたくなんかないけど、人の姿をしてたら、やっぱ人間としか思えないじゃない。

イチハは葉っぱだから、怖くないし。

今の人とか、クロハヌシさんはちょっと怖い感じだったけど、でも美形でおしゃれだしさ。見てて幸せだよね。

「おまえなあ…。顔がよけりゃなんでもアリなのか?それはどうかと思うぞ。」

イチハは顔もないけどねー。あははは。

佐久間先輩とか、大橋修斗みたいなクズ野郎に比べたら、イチハの方がオトコマエだよ、絶対。


その時だった。

不意にグイッと〝引かれた〟のは。

東京への往復とか、京都に来た時と同じこの感じは、イチハなんだけど。

え?ちょっ!何なの、急に?

「見つかった。」

見つかったって?

誰に?


そのとき、もしも顔があったら、私はすっごく間抜けな表情だったんだろうけど、イチハは、きっと怖いくらい真剣な顔だったんだろうね。


「見ろ。」


最初、イチハが何を言ってるんだか全然わからなかった。

でも。

門の横、塀の一部が突然盛り上がって、人の顔みたいな形が現れた。

ほら、美術のデッサンとかに使う、白いアレみたいな感じ。

石膏像、そうだ。アレだよね。

え、この顔はさっきの、ましろさま、だっけ?

石膏像ってより、能面みたいなそれは、さらに塀から盛り上がる。

そして、目が開いた。

同時に塀から飛び出してきたもの、それは長い長い黒髪だ。

ましろさまの白い小さな顔を縁取るように、髪の毛はうわっと宙に舞う。

「逃げろ!ナル!」


イ、イチハ!!!


声があればそう叫んでいただろう。

髪の毛は生き物みたいに、一直線にイチハに殺到した。

そして、世界が暗転した。


次回も宜しくお付き合い下さいませ。

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