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鳥居の杜の  作者: WR-140
12/37

私を京都に連れてって

今日のテストは3科目…なんだけど。

2科目が終わってみれば、答案に何を書いたか、全然覚えてなかった。

問題どころか、科目すら何だっけ、ってありさまだから、赤点確定、かもね。

それはそれで頭の痛い話だけど、今はそんなの、些細な出来事としか思えないんだ。

何か大変なことが起こりそうな、不吉な予感は、時間が経てば経つほど膨れ上がってきてた。

寝不足のせいか、不安なせいか、頭まて痛くなったんだけど、誰に相談することもできないから、私はただため息をこらえてるしかない。

そんな状態なのに。

最後のテストが始まるまでの休み時間に、花梨が寄ってきた。マジ勘弁してよ。

何かめっちゃ深刻な顔してるし。

手にはケータイ。

「ナル〜。」

声が湿ってる。

いやほんと今日の私って、とっくにキャパオーバー。

花梨の相手できる状態じゃないし。

か・り・ん、あんたまさか、まだ朝の件引きずっちゃってる?

ごめん、ごめんなさいだから、あっち行けってば。

「大変だよ、ナル〜。」

せいいっぱい〝寄るな触るな〟ってオーラを出したつもりなんだけど…。

うん、わかってた。相手が花梨じゃ、最初から詰んでるわ。

この子、鈍感さもハンパないからね。

空気読むとかは、花梨にとっては異世界の話だし。

「で、何?」

「鳥羽りおが、ふ、フリンだって〜。」

ああ。何だその件か。

芸能界ネタって、好きな人はほんと好きだよね。それで食べてる人もいるんだろうけど、人のスキャンダルで儲けるとか、恥ずかしくないのかな。

「ナル〜、びっくりだよね。それでりおちゃん、ドラマ降板だって。あれ楽しみにしてたのに〜!なんかさ、いろんな男の人とかんけーしてたんだって書いてある。」

「はいはい。」

「何、その態度?ナルってまさかあのドラマ見てないの?」

花梨たら、心底不思議そうだ。

いろんな男の人と、なんて話が出てきたってことは、あのクズ男大橋修斗の思惑通りになったってことだよね。

なんか嬉しくない。

それどころか、昨夜テレビ局の廊下でほくそ笑んでた、アイツの顔が浮かぶと、更に更に気分が悪くなってきたよ。

テストじゃなきゃ早退したい。

イチハは、やらかしたのは鳥羽りお本人だろうって言う。それは正論には違いないけど。

でも、大橋修斗がクズだってのは、絶対事実だよね。

知らなかったとはいえ、何であんなのが推しだったんだろう?あー、これも既に黒歴史だよー。

どっかにいないかなあ、清廉潔白なイケメン。

「ど、どしたのナル?遠い目して?」

遠い目にもなるよね。黒歴史もテストも二連敗中なんて。

「花梨、もう次のテスト、始まるんじゃない?」

言い終わる前にチャイムが鳴った。

花梨がパタパタと席に戻って、正直ちょっとほっとした。

自分の席に座って思ったのは、テストが始まるチャイム聞いて嬉しかったのって、初めてかもってことね。

何でかなあ、と思う。

多分だけど、今はテストに集中して、余計なこと考えないでいられるのが嬉しいからかも知れない

あの黒い手。

ずっと忘れていたと、自分じゃ思ってたけど、そんなことなかったんだ。

イチハにも言った通り今更、なんだけど。

でもね、イチハはあの手に心あたりがありそうだったよね。

そう聞いたら、どうしても知りたいと思ったよ。

お父さんに何が起こったのか。

なぜ殺されなければならなかったのか。

ううん、昨日初めてそう思った訳じゃない。

ずっとずっと長いこと、私は知りたかったんだ。

だけど誰にも聞けずにいた。聞いても無駄だと知っていたから。

あの日、あの場所で何が起きたのか。

お父さんを殺したのは誰か。

知りたい。


「まだハッキリとはわからないな。」

突然、あの声がした。

虫の羽音みたいな、ブンブンいう音がまじるこれって。

イ、イチハ!?

「おう。」

どうなってんの?ここは学校、だよね?

「そうだな。おまえはまた転換したみたいだ。」

改めて周りを見回す。いつもの教室。

担任の先生が机の間の通路をゆっくり歩いてるけど。

「安心しろ、先生には見えないし、聞こえない。それより。」

軽く〝引かれ〟た。

視点が移動して見えたのは、えっ?!

ワタシ…?

「そうだ。神社の神域内ならばお前が転換した場合身体は消えたように見えるが、それ以外の場所では、二重存在となる。だが、どちらかが消えたら、もう片方も消えるから注意が必要だな。」

いや、あの、生で自分の頭のてっぺん見たの、初めてだよ。

「だろうな。…え?おまえ見たことはあるのか?」

あったりまえじゃない。合わせ鏡で見えるしさ、自撮りもするでしょ?

「何のために?」

つむじのとこ、どうなってるのか見たりとかさ、編み込みのチェックとか。

小学校のとき、もう少し髪の毛長かったんだ。今は部活とかもあって、ショートだから、編んだりは出来ないけどね。

でも!

そんなことどうでもいいよ!

だ、大丈夫なの、私?

「見た通りだ。普通に動いているだろう。また転換した場合、さっきあっちと分離した時点に戻るだけだから、問題はない。」

も、問題ないって?

いやその、だって!

「うん?」

だって、なんだけどさ。どう聞いたらいいか、どっから突っ込んだらいいか全然わからない。

私の体は、普通にテスト受けてるみたい。

意識がないようには見えないし、他に変なとこもなさそうだ。

イチハは大丈夫だって言うし、まあ今は考えたって仕方ないよね。

説明されたところで、理解できる気がしないもん。

「確かに。おまえが理解できるように説明する自信はないな。」

う…。どうせ私はバカですとも。

そ、それより、何かわかったことはない?

さっき、ハッキリとはわからないって言ったじゃん?

わかったことがあったら、なんでもいいから、教えてほしい。

「了解した。まずその日、お前の祖父と父親は、親戚の誰かに会うために京都にいた。母親はマリンスポーツの大会に出るために、遠くに行っていたから、おまえは父親たちと同行したんだな。」

あ…。

そうだった。お母さんは、私を産んだ後もサーフィンを続けてたよね。

だから、その時は一緒じゃなかったのか。

でも、親戚って?

京都に親戚なんてあったの?

初めて聞いたよ。

「おまえの父親の親戚らしいな。それも遠縁だ。」

お父さん、親戚なんていたんだね。

前に、おじいちゃんに聞いたんだけど、お父さんの家族はみんなずっと前に亡くなってて、お父さんは1人で苦労して大学まで出たんだって。

でも、どうしてお父さんだけじゃなくおじいちゃんまで?

「その親戚に呼び出されたらしいな。理由は分からんが。」

ふうん…。


奇妙な話だと思った。

いくつか思い出したこともある。

お父さんは、奨学金で学費を払い、生活費はバイトで賄っていたらしい。

お母さんと知り合ったのは、マリンリゾートで夏休みの住み込みバイトしてた時のことだって。

とにかく、お父さんは自分1人だけで生活して、大学に通ったわけだよね。

親戚なんて関係なく。

だから、その遠縁だって人は、何でお父さんだけでなく、おじいちゃんまで呼び出したんだろうね?そんなに親しかったはずがないんじゃない?

「さあな。結局、お父さんはその親戚と会うことはなかったし、相手は葬式にも来なかったらしいから、親しくはなかったんだろうな。」

自分で呼び出しといて、そのために死んだ人の葬儀を無視ですか?

それ、ありえなくない?

「だから、他人よりもまだ疎遠な関係だったんだろう。」


ひどい。

じゃ、何で呼び出したの?

呼び出したりしなければ、お父さんは…。

なんか、頭の中が更にぐちゃぐちゃになりそうだ。


「行ってみないかナル、京都へ。」

うん。連れて行って。

私、知りたい。

知らないといけない気がするんだよ。

あ、でも、またウツロとかが…

「なに。どうせ、おれには何も出来ない。クロハヌシが追い払ってくれる。」

わかった。

お願いします、イチハさん。

私を京都に連れて行って下さい。


次回、2人は京都へ。

そこでは何が待ち受けているのか?

引き続きよろしくお願いします。

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