パンプキン大王とサンタクロースの争(あらそ)い
昼休みである。お手洗いに寄っていた神楽能愛が教室に入って、神無月西瓜とクリスティーナ師走の姿を探す。いつも三人は教室内で、一緒にお弁当を食べているのだが。
「あれー? スイカちゃんもクリスちゃんもいなーい。どこー?」
「あ、ノアちゃん。ちょっと今、大変なことになってて。二人とも外に出てるわ」
きょろきょろと首を回しているノアの元に、クラスメートたちが集まって状況を教えてくれる。スイカやクリスと違って、ノアには奇妙な眼力などの能力も脅威もないので、いつも周囲は彼女へ優しく好意的に接してくれるのだった。
「え、大変なことってー? どーゆーことー?」
「私たちも良くは、わからないんだけど。スイカちゃんとクリスちゃんが、お互いに『果たし状』って書いた手紙を相手の机に入れてたらしくて。それを読んで二人とも、校庭に出ていったわ」
ノアがスイカとクリスの席を見ると。なるほど、それぞれの机の上には確かに、投げ捨てられたように放置された一枚の便箋がある。しかし同じタイミングで、二人が互いへ『果たし状』を送ったというのも、おかしな話ではあった。
「あれ? この字……」
首を傾げながら、ノアが便箋に近づく。二つの机の上にある果たし状を手に取って、彼女は気づいた。
「違うよ……。これ、スイカちゃんやクリスちゃんが書いたものじゃない……」
二人と文通をしていたノアにはわかる。筆跡が全く違うのだ。しかも二枚の便箋には同じ文面があって、どうやら誰かが一人で書いたものらしい。
(誰かがスイカちゃんとクリスちゃんを争わせようとして、この文章を書いて、二人の机に入れたんだ……。でも、誰がー?)
ノアが考え込んだ、そのとき、教室の窓ガラスが揺れた。地震ではない。窓や校舎は、地面よりも先に揺れていた。空中からの衝撃波が辺りを振動させているのだ。パンプキン大王とサンタクロースの御使いが今、校庭でぶつかり合っていた。
「と、とにかく二人を止めないとー! 行ってくるー!」
「ノアちゃーん!? 危ないよぉー!」
皆、自分の身を守るのが精一杯で動けない。その中で神楽能愛だけが、教室から外へと駆け出していた。