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竜の飼育員、竜に襲われる  作者: 朝吹小雨
3/22

挟み撃ち

俺は助手席に座り、シオン先輩の運転する車に乗った。

緊急避難シェルターまでまだ遠い。

それまで無事にたどりつける保障は無かった。


制御を失った竜たちは、自然のまま行動し、

いつか自分たちに襲い掛かってくる可能性があった。


俺は危険な事態になっても焦らないよう、

車内にあった銃を装備し、もしものために備えた。


俺は、車内の後方の席をちらっと見る。

疲れ切った表情で、みんな怪我しているようだった。

逃げるときに、竜に襲われ、命からがら逃げてきたのだろう。


俺は無傷だが、ヘマをすれば

いずれ負傷者のようになってしまうかもしれない。

そうならないよう、警戒しなければ。

俺は、車の前方に視線を戻す。


すると突然、車の前方に、岩のような物体が現れた!


フロントガラス越しに映るそのゴツゴツした「影」は急に動いた。


動く岩なんて無い。ありえない。


シオン先輩は、「竜ね」と眉間にしわを寄せた。


急カーブでかわす。


だが、俺たちを簡単には逃がしてくれなかった。

車内が激しく揺れる。

何かが当たった。

何が当たったかわからないが、車内は騒然とした。


今までに聞いたことのない大きな音。

俺は不安を感じ、銃を構える。

シオン先輩は、車を止めると、

「私たちを逃がしてくれそうにないわね。

 ユート君。一緒に来て。撃退するわよ」

と言い、車外に飛び出した。


俺もシオン先輩に続いて、車外に恐る恐る足を伸ばす。


夜の暗闇。

うごめく巨大な影。

その姿をはっきり見なくてもわかる。


竜しかいない園内。

巨大な動く影といえば、竜しかいない。


「2体いるわね」


シオン先輩は銃を取り出した。

挟み撃ちされているようだった。


「ユート君。あっちにいる奴をお願いね」


さらっと頼まれたが、俺一人でどうしろと…。

他には負傷者しかいないから、しょうがないけれども。


「いい? 竜を倒さなくていい。『撃退』するのよ」


そう言い残し、シオン先輩は、前方の竜に対処するため、走り去った。


シオン先輩の言葉で、俺は訓練マニュアルを思い出した。

竜が襲ってきたら、必ずしも倒す必要はない。

身を守るために「撃退」すること。

それがマニュアルに書かれてあった。

つまり、ちょっと負傷させれば、竜は恐れて逃げていくということだ。


こんなこと言いたくないけど、俺たち従業員にとって、竜は大事な商品。

商品を壊しちゃ駄目よってことだ。


よし。

後方の「竜」に対処するため、俺は銃口を向ける。

暗くて、何の竜だかよくわからない。

エルミーだったら嫌だな。でもエルミーはこんなにでかくない。

大丈夫だ。我が愛しの飼育竜ではない。

大きさでわかる。


だが、竜は、巨大な分だけ、威圧感はある。

多くの人間は、象と真正面から向き合って、冷静でいられるだろうか?

こんなことなら、もっと訓練を真剣にやるんだったな……。

今更ながらそう思った。でも、もう遅い。


俺は震える腕を黙らせて、「竜」に向けて光線銃を放つ。

当てるつもりはない。威嚇射撃だ。


竜の顔の横を、青白い光線が走り、夜の闇へ消えた。

だが、竜はひるむ様子はない。

こちらをギロっとにらみつける。


まずい。怒らせたか?


俺は冷静さを失い、光線銃をスパスパと何度も放った。


威嚇射撃なのか、俺の腕前がヘタクソなのか、

どちらかわからないが、

一度たりとも命中することはなかった。


俺は焦りだす。

いつ竜が反撃してくるか、気が気でならなかった。


だが竜は突進するわけでもなく、炎を吐くわけでもなく、

奇妙な沈黙を保っている。


このままでは、竜を撃退するどころか、

竜に撃退されてしまうのではないか?

緊張感は高まっていった。


そして、緊張感のためか、足がもつれる。

体のバランスが崩れる。

盛大にこける。


やってしまった。

敵の前でこけてしまった。

光線銃も手から離れ、どこかに飛んでいてしまった。


最悪だ。

俺は死を覚悟した。


だが、竜はそれでも襲ってこなかった。


異様におとなしい奴だ。

餌でもたっぷり食べたあとなのか?

機嫌がいいのか?

俺には竜の気持ちなんてわからなかった。


ん?


竜が……去っていく。

何もしてないのに。

まるで忘れ物でも思い出したかのように、すごすごと引き返していく。

何が起きた?


「間に合ったようですね……」


人の声が聞こえた。

間に合った? 何が?

俺は声の方向を向く。


「先ほどの竜に、今、制御魔法を施しました。

 あの竜は大人しくなり……引き返すように制御したのです」


俺と同じくらいの年齢の若い女性だ。

清流のような静かな声で、説明を続ける。


「アヤノと申します。

 ケガをして逃げていたところを……。

 シオンさんに救われ、車に乗っていました。

 今あなたが危ない目にあいそうだったので、

 車から出て、駆けつけてきました」


たしかにこの女性は見たことがある。

後方の座席に座っていた。

ケガをして、少し歩きにくそうにしている。


「ありがとう……。恩に着るよ。

 俺がふがいないばかりに、ケガ人を動かしてしまった」


「いえ、みんなやられるよりはマシです」


「そうだ。シオン先輩は……」


前方の竜を撃退しに行ったシオン先輩が気になり、

俺はふと前方を見る。


「さっき終わったわよ」


シオン先輩が、誇らしげな顔で近づいてきた。

もう竜の撃退が終わったらしい。


「それにしても……思ったより深刻ね。

 この様子だと竜はまだまだこの辺をうろうろしてるわ。

 ユート君は……その様子だと、アヤノに助けてもらったみたいね」


「めんぼくないです」


「まあいいわ。とにかく車に戻って。

 避難を続けましょう」


「制御魔法なんて、初めてみました。

 竜があっさり大人しくなって、簡単に引き返していきました。

 アヤノさんはすごいですね」


「アヤノは、制御室から命からがら逃げてきたみたい。

 今回の事件のことを詳しく知っているはずよ。

 でも今は、ケガの治療と避難を優先しないとね」


たしかにそうだ。

逃げている最中では、ゆっくり話も訊くことはできない。

俺たちは、まず避難を優先することにした。



つづく

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