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竜の飼育員、竜に襲われる  作者: 朝吹小雨
10/22

竜の支配者2

【1】


森林エリアへ向かう。

そこには、俺の同僚であり、同じ飼育員仲間であるアリサがいる。


武装集団が制御室を占拠し、無秩序状態となったリューランド園内にあって、

それでもなお、アリサは、独自に竜を従え、独立した勢力であるかのように、

森林エリアを守っているという。


車窓の風景は、無味乾燥な岩場から、じょじょに木々が増え、森を映していく。


「アリサは心優しい子だし、一人で森林エリアを支配している……

 なんてことはなさそうな気がしますけどね」


俺は、森林エリアへの移動中、疑問を口にした。


「ええ。調査の結果、アリサだけでなく、

 他の人間が関与している可能性が高いわね」


シオン先輩が答える。


「他の人間? 飼育員でしょうかね?」


「それはわからないわ。でも、アリサをそそのかす飼育員がいたとして、

 目的がわからないわね。

 混乱するリューランド内で、竜を従えて独立勢力を作るようなことをして、

 何かいいことがあるのかしら?

 普通なら、まず自分の身を守るために逃げるか、

 もしくは、勇敢であるならば、制御室にいる武装集団を壊滅させると思うわ」


「それもそうですね」


「アリサの近くにいる人間が、友好的だとは限らないわ。

 竜を従えて独立した勢力を維持するということは、

 私たちに対して外敵扱いをする可能性もある。

 念のため、注意しておくことね」


そういうことか……。

シオン先輩の装備状態が尋常でないのは、そういう理由だったんだな。

竜以外も敵がいる。

正体不明の「人間」という存在をも警戒しなければならない。



【2】


「ここは森林エリア。ということはすでに敵のエリアよ。

 警戒してね、みんな」


シオン先輩は、後部座席にいる俺、アヤノ、エルマに向かって注意を促した。

なお、この車の運転手は、シオン先輩ではなく、別の人が運転している。


緊急時、メンバ全員がすぐ車内に逃げられるように、

運転手はずっと車に待機し、いつでも動かせるようにしてあるからだ。


「ここから先は車は無理ね。

 みんな降りて。徒歩で行くわ。警戒は怠らないでね」


シオン先輩は、エルマを見る。

にこやかな視線ではない。注意を促すような真面目な視線だ。

おそらくあまり連れてきたくはなかったのだろう。

戦闘要員になるかどうかわからないエルマは、

シオン先輩から見て、たしかに足手まといには違いなかった。


エルマも、その雰囲気を感じ取ったのか、無言でシオン先輩を見つめる。

緊張。


「それじゃあ行くとしますか」


俺は、わざと気楽な感じを装い、歩き出す。


俺が列の先頭を歩き、

エルマ、シオン先輩、アヤノさんが続く。


森林エリアは静かだ。

竜の気配を、まだ感じない。

どこかに潜んでいるのだろうか。


「アリサ……どこにいるんだ」


「ここは森林のまだ手前付近。

 もう少し奥の方に行かないといけないわ」


森の奥へ進む。長い道のりだ。

森林エリアは観光客のために、

平らな歩道が整備されており、

俺らもそれに沿って進んでいる。

脚への負担は低くなるように作られているが、

それでも、ずっと歩いていると、かなり疲れてくる。


うしろを見ると、エルマは楽しそうにテクテク歩いている。

シオン先輩が調達してくれた子供用の服を身にまといながら、

うれしそうにピクニック気分だ。

エルマにとっては初めての外界だし、まだまだ子供のような感じがするから、

外の世界は楽しくて仕方ないだろう。

それに比べて大人3名は、だんだん疲労の色が見え始めてきていた。

あまり体力の無さそうなアヤノさんなんか、結構青い顔をしている。

おい大丈夫か。


「だいぶ歩いたわね。休憩しましょう」


シオン先輩が言い出す。


「そうっすね。休みましょう」


俺もそろそろ疲れていたところだ。

アヤノさんは無言で座り込む。

だいぶお疲れのようだ。

あんなに疲れてて、制御魔法を発動することはできるのだろうか…

俺は少し不安になった。

アヤノさんのためにも、休憩は長めにとるか。


だが、休憩をいくら長くとっても、また長時間歩くのであれば

同じような結果になるだろう。

少し作戦を立てたほうがよさそうだ。


「シオン先輩。あとどれくらいで目的地ですかね」


「もう少し先よ」


「そうですか。

 ところで、4人でぞろぞろと行くと、警戒されませんかね?

 アリサが見知っているシオン先輩や俺はともかく、

 知らない人もいますし」


「まあ、それもそうね。

 警戒されたら、アリサは会ってくれないかもね」


「俺に考えがあるんですけど……」


「何?」


「まずエルマを一人で進ませて、俺たちはうしろからこっそり動きます」


「本気で言ってるの? エルマが危険じゃないの?」


「そう見えますけど、意外とあいつすばしっこいので大丈夫です」


すばしっこいというのは嘘だ。

いざとなれば、エルマは竜に変身できるので、危機を回避できるだろうという

目論見だ。


「それに、すぐうしろには俺たちもいるので、

 何かあればエルマをすぐ助けることができます」


「そこまで言うなら……別に構わないわ。

 でもエルマが危険な状態になったらすぐ助けにいくわよ」


「ええ、そのときは、俺が合図しますんで」


シオン先輩は、しぶしぶ従ったが、たしかに小さな女の子ひとりを

先頭に歩かせるのは危険と言われても仕方がない。


シオン先輩は知らないので仕方ないが

エルマは竜に変身できるし、危険があっても大丈夫だろう。


「じゃあ、そろそろ出発しましょうか」


休憩を終えた俺たちは、作戦どおり、エルマを先頭に歩かせる。


先頭をゆくエルマは、スキップしながら楽しそうに歩く。

その少しうしろを、茂みに隠れながら、こそこそ尾行する俺たち。

はたからみれば、俺たちは女の子のあとをつける不審者だ。


だが収穫はあった。

それは、ついに、エルマの目の前に現れた。


エルマが立ち止まる。

俺たちのいる方向に視線を向け、目くばせする。


合図だ。

何者かを発見したのだ。

俺たちは、急な事態に備え、警戒し、銃を構える。


エルマの目の前には、ちょっとした大木がある。

エルマは、大木の裏側をちらっとのぞく。


大木の裏側に何者かいるらしい。


「見て、こんなところに大きなキノコがあるよ!」


エルマはそう言って、大木の裏側にある、

結構おおきくて立派なキノコを指さした。


おい。

ただキノコを発見しただけかい!


このあと、エルマは珍しい虫や植物を発見するたびに、

俺たちに視線を送ってくるため、振り回され、苦労した。

好奇心旺盛だな、エルマは……。


そしてエルマが、またしても視線を送ってきた。

どうせまた昆虫とか植物とかだろ。

もうその手にはのらないぞ。

俺たちは無視を決め込んだ。


これで何回目だろうか。

やすやすと反応はしないぞ。


「あっ」


エルマの口が何者かの手に抑えられると、

瞬時に森の奥へと姿を消した。


しまった。ガチだった。


「エルマがさらわれたわ! 追いかけましょう!」


シオン先輩の声に続いて、俺たちは、

銃を構えて走り出す。


さいわいなことに、その不審人物は、脚が遅かった。

ろくな武装もしていなかった。


だからすぐに捕まえることができた。


「!」


そして俺は、捕まえた不審人物の顔を見て、非常に驚いた。



つづく

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