第8話 【 狐の威を狩る虎 】
「そうでしょ? 妲己」
さっきまで京香の姿をしていた『妲己』と呼ばれるソレは、誰もが見惚れるほどの美貌を持ち、金色の長髪、長い手足。そして、九本の狐の尾。
「……神の成り損ないが」
「あなたも神ではないでしょ? 女狐」
妲己と小夜はお互いを睨み合う。
ドス黒い匂いが濃くなる。
「京香は……死んでない……の?」
「まだ、死んでないよ」
まだ……ということは、死に直面しているということか。
「で、成り損ないと小娘だけで何ができるんです?」
余裕な笑みを浮かべる妲己。
嫌な笑みが脳裏にこびりつく。
「力も尽きた禊魔師と、主のいない成り損ない。
その二人だけで我に勝てるとでも?」
「……主のいない、ねぇ」
にやりと笑う小夜。
その目は、水晶玉のように青く澄んでいた。
「ねぇ妲己? あなた、いつから私に主がいないって錯覚していたのかしら」
「……は?」
「私の主が京香だと、思い込んでいたのでしょう?」
「残念だけど、私の主はあの子じゃない。私の今の主は――」
バンッ!!
部屋の扉が力強く開く。
「香苗、準備は良いかしら」
「えぇ、いつでも行けるわ、小夜」
そこには先まで泣き崩れていた老婆――ではなく、十七、八の少女がいた。
小夜と同じく朱色の着物を身に着け、手には刀が握られている。
「香苗……さん?」
「命ちゃん。 ここからは私たちの番だから」
「……はぁ?」
先の余裕そうな笑みから、焦りが出ている。
予想外の出来事だったのだろう。冷や汗をかいている。
「あら、先の余裕はどこへ行ったのかしら」
「成り損ないの分際で……大体、主が居たからと言って何が――」
『一閃』
香苗が刀を振るう。
瞬間、光の斬撃が壁に深い傷をつける。
「あら、身体が訛ってるわね」
「くっ……」
妲己の周りに火の玉が複数現れる。
赤、青、白。
数多の色の火の玉が、ゆらゆらと揺らめいている。
「ここじゃ部屋がボロボロになっちゃうわねぇ」
香苗が指をパチンッと鳴らす。
瞬間、さっきまでいた部屋から何もない真っ暗な空間へと景色が変わる。
「ここは……」
「ここは『憑黄泉』。生者、死者関係なく出入りできる特別な空間」
「妲己には、懐かしい場所かしら」
「老いぼれと成り損ないがぁぁぁっ!!」
顕現させた火の玉を小夜たちに向けて、打ち放つ。
私には、何が起きているのか理解できなかった。
何故、香苗が幼い姿になっているのか。
何故、京香が死にそうになっているのか。
何故、私は今、何もせずただ呆然と座っているのか。
「あらあら、美しいお顔が醜くなってます、よっ!!」
「黙れ、老いぼれッ!!」
妲己の放つ火の玉を斬りつつ、斬撃を放ち続ける。
……凄い。これなら勝てる。
正に虎の威を狩る狐――いや、狐の威を狩る虎だ。
「さあさあ、ここからが本番ですわよっ!!」




