プロローグ
――死んじゃうの……かな。
焼けた二体の焼死体を眺め、少女は己の死期が近づいていることに気がついた。
身体に力が入らず、手から先の感覚は全く無い。
ただ、無気力で何もかもがどうでもよくなっていた。
――パパ……ママ……
周囲では、赤々とした炎が棚や商品を燃やし尽くし、徐々に火の手が少女に近づいているのがわかる。
黒煙も立ち上がり、息を吸うたびにその煙が肺に入り、咳き込む。
咳き込むたびに喉から血塊が込み上げ、声を出そうにも出せない状態だ。
――まだ、死にたくないなぁ……
零れる涙は透明ではなく、血のように赤々としていた。
いや、これは涙ではなく血だ。
身体中の水分が涸れ果てるまで泣いた。
泣いて、
哭いて、
鳴いて、
啼いて。
泣いた後に残るのは「何もできなかった」という後悔だけだ。
徐々に意識が遠のいていく中、誰かが私を呼んでいる気がした。
お迎えだろうか。先に行ったパパとママが迎えに来てくれたのだろうか。
コツン、コツン、と足音も聞こえる。
ここには私と二人の焼死体しかないはずだ。
それなのに、何故足音が聞こえるんだ?
「――うか?」
何処かで聞いたことのある声だ。
でも、何処でかは覚えていない。でも、懐かしくて、優しい声だ。
「たすけて……」
声が、出た。
が、すぐに血塊がごぼごぼと漏れ出る。
一瞬だったが、声の主には届いたのだろうか。
私の精一杯の力を振り絞って出した声だ。
届いていてほしい。
届いて。
届け。
「大丈夫、ちゃんと届いてるよ」
何もかもがぼやけた世界で、その声だけが私の心に鮮明に響いていた。




