第8話 「遊び方が分からない」
休み時間になると、教室の空気は急に軽くなる。
授業中は静かだった子どもたちが、一斉に動き出す。
机を寄せる音。 笑い声。 廊下を走る足音。
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みんな、何をすればいいのか最初から知っているみたいだった。
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「外行こうぜ!」
「鬼やる人ー!」
「サッカーしよう!」
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誰かが声を出せば、自然に人が集まる。
その流れが、直人には不思議だった。
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どうしてそんなに迷わないんだろう。
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直人はいつも、最初の一歩で止まる。
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校庭へ行きたい気持ちはある。
でも、誰の近くへ行けばいいのか分からない。
何を言えば自然なのか分からない。
途中から入っていいのか分からない。
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考えている間に、遊びは始まっている。
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校庭の隅で、直人はみんなを見ていた。
鬼ごっこをしている男子たち。
笑いながら逃げ回っている。
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「逃げろー!」
声が響く。
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直人はその輪へ少し近づく。
でも、足が止まる。
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今入ったら変じゃないか。
急に入ったら嫌がられないか。
鬼って足りてるのか。
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考えているうちに、またタイミングを失う。
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結局、その日も入れなかった。
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教室へ戻る。
誰もいない。
静かだった。
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窓の外から、遠くに笑い声が聞こえる。
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直人は、自分の机に座る。
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本当は、一緒に遊びたかった。
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でも、“どうやって”が分からない。
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ある日、クラスの男子が言った。
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「直人も来ればいいじゃん」
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その言葉に、胸が少しだけ明るくなる。
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でも次の瞬間、頭の中が動き始める。
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今から? 何をすれば? ルール分かる? 失敗したら? 変な動きしたら?
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身体が動かない。
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「……いい」
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結局そう答えてしまう。
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男子は少し不思議そうな顔をしたあと、すぐ走って行った。
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残された直人は、その背中を見ていた。
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“行きたくなかったわけじゃない”
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でも、その違いを説明できない。
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放課後。
教室では数人がゲームの話をしていた。
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「昨日クリアした?」
「マジで?」
「次貸して!」
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会話が速い。
次々と話題が変わる。
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直人は近くで聞いている。
でも、入るタイミングが分からない。
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一回考えている間に、もう別の話題になっている。
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笑うタイミングも少し遅れる。
気づけば、自分だけズレている。
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「直人って静かだよな」
誰かが言う。
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直人は笑う。
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本当は違う。
頭の中はずっと動いている。
考えている。
迷っている。
止まっている。
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でも外から見ると、“静かな子”だった。
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家に帰る。
ランドセルを置く。
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母が聞く。
「今日、友達と遊んだ?」
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直人は少し止まる。
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“遊んでいない”
でも、“遊びたくなかった”わけじゃない。
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「……うん」
小さく嘘をつく。
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母は安心したように笑った。
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その顔を見ると、なぜか少し苦しくなる。
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夜。
布団の中。
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今日の校庭を思い出す。
走っている子どもたち。
笑っている声。
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その輪の外側に立っていた自分。
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どうしてみんなは、あんなに自然なんだろう。
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自分だけが、“人との混ざり方”を知らない気がした。
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でも、この頃の直人はまだ知らない。
その感覚が、 成長するほど苦しくなっていくことを。
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子どもの頃は「静かな子」で済んでいたものが、
やがて、 「空気が読めない人」 「変わった人」 「付き合いづらい人」
へ変わっていくことを。
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まだ知らないまま、 直人は今日も静かに、周りを見ていた。




